絶対UFZに入りたくないバルタンVS絶対加入させたいゼロ   作:スターク(元:はぎほぎ)

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後編

「重力制御システム、修復中の致命的エラー発生により完全停止!星の引力に抗えません!!」

「大気摩擦によりステルス装甲剥離、艦は現在可視光線を放ちながら急降下っ」

「予備回路に切り替えて手動操縦ON、ステルス機能は一旦停止し視界を確保しろ!」

 

急転直下、船は寸での処(すんでのところ)で墜落を免れた。しかしそれに払った代償は大きく、原住民達の目に数秒間ほどその姿を晒してしまったのだ。

更に運の無い事に、静止出来た場所が……どうやら原住民が宇宙へ向けて何かしらの観測を行っていた施設の直上だったらしく。すぐさまステルス装甲を張り直した我々を補足し、警戒信号を周囲へ発しようとしていた。

 

止めた。一隊を率いて乗り込み、施設内の原住民を制圧した。

 

「なんて事をしたんだ!!」

 

駆け付けた息子(バレット)の第一声は、それだった。

 

「用いたのは凍結光線だ。解除すればまた動ける」

「未知の化学現象で赤く発光しながら活動停止した同族を見て、現住民側がそれを理解できるとでも?これは“攻撃”と見做される……!」

「……しかし、他に手段は無かった」

 

宇宙船墜落未遂の折、スリープ中の民達のストレス値は限界を超えた。それを抑える為には、艦長(トップ)である私自らによる「事態を収拾した」という提示が必要だったのである。

しかしそれを皮切りに、刺激された原住民たちが動きを始めたのもまた事実。もう後戻りは出来ない。

 

「私は艦長の選択に賛成します」

「ツバイ!」

「バレットさん、この程度の衝突は十分予想できた事です。幸い原住民側にも他の宇宙人と接触・交渉してきた歴史がある、即座に事を構えるような浅慮は無いでしょう。延いてはこの施設を我々の()()()とし、相手方が対話の姿勢を見せるまで耐久するが吉かと」

「同感だ。実を言えば似た意見を束ねた嘆願が集合知性に提出されていてな、ジョーが現在代表として取り纏めている……とは言っても、彼らは些かその先の()()も辞さないつもりのようだが」

「……!!」

 

副官の意見に触発され、バレットの目が私を咎めた。交渉という建前でこそあるが実際は侵略を見据えた姿勢、それを躊躇わないつもりかと。

私の意見は、こうだ。

 

「……覚醒中の者を含め、意見は未だ割れている。夜明けまでに会議を執り行い、それで今後の方針を決定する所存だ」

「!──分かった、艦長。失礼する」

 

異論があるならば反対意見を束ねて対抗しろ。聡い我が子はすぐに意を汲み、駆けだしていったのだった。

 

 

……さて、どうなるか。どうするか。

 

 


 

 

何故分からない。

 

「既に火蓋は切られてしまったんだぞ!!やられる前にやるべきだッ」

「いやまだだ!確保した侵入者は交渉のカードに使える、今戦火を始めればそれこそ取り返しがつかんっ」

 

どうして分かってくれない。

 

「BT条約、平和憲章第二項。“価値観の共有を怠るべからず”。これに違反してしまえば、我々がこれまで培ってきた平和倫理が崩れ去ってしまいます」

「しかし…既に我々には時間が無いのです。例外として看過する他は無いかと」

「例外があってはいけない前提項目ですよ?!」

「ならば相手に受け入れてもらうまで待つか?一度拒否されれば残る身は滅びだけだぞ!!」

 

もう限界なんだ。我々に寛容でいられる要素など、時の流れの中に消え失せたんだ。

お前ともあろうものが……どうしてそれを分からない!!

 

「バレット!艦の状況を分かっているのか!!」

「そのつもりだ」

 

冷徹なまでに返してくる兄に歯噛み。現在、侵攻派が10億で講和派が7億、お互いが数名の代表者を覚醒させて議論を交わしている状況だ。その中で俺は前者に、兄は後者に与していた。

既に猶予は無い。原住民側が本格的に動き始めるのがいつかすら分からないのに、こんな事をしている暇は正直無いのだ。

 

「我々には大地が必要なんだ!もはや先に居ついていた者達など考慮してはいられない、そうでなければバルタンという種は潰えてしまう!」

「ならこれまで我々が我々である事を証明してきた平和規範を(なげう)つか?それは絶滅と何の違いがあると言うんだ」

「違う!自己保全のために総力を尽くすのは物質存在の権利だ!!」

「その為に他者を犠牲にしては、いつか同じ目に遭った時に何の反論も許されなくなる。この宇宙にバルタンより強い種族がどれほどいると思っている!?」

「バルタンの化学力は宇宙一だ、力の差はそれで埋めれば良いだろう!もう母星があった時代の価値観を引きずっていられる時代じゃないんだよ、()()()!!」

 

言って、ハッと口を止めた。行き過ぎた感情がふと飛び出させた呼び方に、兄も呆気にとられたのか黙ってしまう。やってしまった。

 

「……ああ。分かっているんだ」

 

再開したのは兄の方から。疲れ果てた様子で頭を抱えて。

 

「互いに厳戒態勢が敷かれつつある現状、もう平和的解決はほぼ不可能。さっき言った“理解しているつもり”というのは、本当なんだ」

「じゃあ何故……」

「だがそれで投げ捨てて良い物じゃないだろう、対話というものは」

 

それは……俺達だって分かっている。相互理解もしないまま始まる闘争ほど無価値な物は無く、残る禍根は大きくなるからだ。兄達はそれを懸念し、俺達は看過も止む無しとした。たったそれだけの違い。

ならばしかし、ここからどう詰める?この議論に妥協点はあるのか……?

 

 

「私が()()を担おう」

 

 

……艦長(父上)

 

「私だけが降り、最前線基地(宇宙科学センター)にて原住民からのアプローチに対処する。艦は上空に浮上し待機、私の出方を見て臨機応変に対応せよ──()()()()()も、私が預かる」

「待って下さい!艦長自らが尖兵になると言うのですか!?」

「それだけではない。対話が申し込まれた際、トップとして即座に対応するのだ」

「しかしそれでは父さんの安全が…!」

「ツバイ達が収集したデータから、原住民に巨大化した我々を傷付けられる兵器など無い。例え“カク”が飛んできたとしても脱皮で無効化できる。安心しろ」

 

声を上げた部下への返答、それが示すは“全責任を負う”という事だった。部下も民も即座に退避可能な艦に留め、危険地帯で独り総てを決める、と。

 

「それでももし……もしも私の身に何かあったとなれば、それが確認でき次第この星の衛星(つき)の裏側へ避難。巨大化装置を再建し、後は二次侵攻を模索するなり和解を図るなり好きにせよ。しかしそれまでの間、この一次侵攻の是非は現地の私に委ねて貰う」

「……艦長がそう仰るなら、我々に反論はございません」

「右に同じく。貴方の判断ならば喜んで従おう」

 

部下達が次々と賛同していく中、俺の内心も複雑ながら同様だった。父上なら多分なんとかなるから。

 

もし戦闘になれば、実際、巨大化した父上を殺せる存在などM240惑星どころか宇宙中を探しても居まい。彼は艦長であると同時に現バルタン最強の戦士、真っ向から打ち勝てるとするなら伝説上のエンペラ星人くらい*1な物だ。発展途上の原住民共など、1日と経たずに滅亡させられるだろう。

 

もし交渉となれば、これもまた父上以外に適任者はいない。彼は我々の代表者であるため手続きはスムーズに進むだろうし、宇宙に出るのも苦労する程度の文明相手に舌戦で引けを取るなどあり得ない。ただもし、我々が忌み嫌う“アレ”に関して言及されれば……その限りではないが。

 

……そして考えたくもないし考える必要も感じないが、もし父上が戦いの末負けたとしても。全人員の収容が終わっている我が艦は即座に逃げ果せる。指令権限を副官であるツバイに移し、命令通りに衛星へ撤退する。そこからならまだ再起が利く、充分巻き返せる。原住民も気軽には追って来れまい。

 

 

……本当に?

 

 

()()()()()を使われたら?」

 

こういう時。

良くも悪くも冷や水を掛けてくるのが、兄だ。

 

「その名を出すなバレット!たとえ艦内としても、我々の弱点が漏れる可能性は徹底的に規制せねば──」

「“刃物で刺されたら痛い”程度の事実を今隠して何になる?この船に忍び込まれて聞かれてるとしたら、その情報も既にスッパ抜かれているだろうさ」

「しかし……!」

「今一番重要なのは、相手がそれを使ってくるか否かだ。M241惑星、仮称“カセイ”に大量の埋蔵スペシウムがある事を原住民側は既に把握している……調査の折に持ち帰ったそれを、父さんが使われない保証がどこに在る!!」

「……バレットよ。もしそうだとするなら、私が使われるか否かも今後の方針を決める重要なファクターになるのではないか?」

「俺は父さんの命が大事なんだよッ!!」

「……命、か。お前が度々口にするその概念はよく分からんが……」

 

スペシウム。それを原住民が持っているか否か、使えるか否かで確かに前提はひっくり返るだろう。敗戦の確率は否応なく高まり、我々には更なる絶滅の恐怖が付き纏う。

けれど、もう。

 

「やめるんだ、バレット」

「ジョー…!」

 

もう、恐れている場合ではない。

 

「地球人のカセイ探索は進んでおらず、スペシウム使用の危険も少ない──そう調べ上げたのはお前じゃないか。後は艦長に任せよう、だから落ち着いてくれ」

「……なら、俺も行く。父さんの補助くらいは出来る筈だ、幸い跡継ぎはお前がいるから心配無いしな」

「あ、すみませんがそれは私が反対させていただきます」

 

更にバレットを止めるのはツバイだった。

 

「潜伏の折、貴方の様子も観察させて貰いましたが……貴方はこの星への思い入れが強過ぎます」

「……まさか、俺が裏切ると?」

「それこそまさかです。もし侵略方向に舵を切る事となった場合、予想されるそのストレス値を懸念しているのです。貴方に壊れられては困りますので」

「っ……!」

 

その意見に同意し、背後で頷いた。きっとバレットも気配で分かっただろう。

その後、圧倒的多数票により会議は閉幕。艦長が発案した計画の実行と、それに対するバレットの不参加が決定された。

艦の維持を託された俺達は配置に就き、艦長の下船と同時に上昇できるよう準備に取り掛かったところで……見かけた二人の姿。

 

 

「……父さん」

「皆まで言うな。覚悟は出来ている、皆もしている……お前もそう在れ」

 

装備を整えに行く父上を呼び止めたのだろうバレットへ、父上は労うように語りかけていた。その声音に期待を乗せて。

俺はと言えば、この期に及んでその光景に嫉妬混じりの羨望を抱く始末。こんな精神、迂闊に集合知性に記録出来やしない。すぐに振り払わねば………と悶々としていたのを感じ取られたのか、父上の視線がこちらを捉えた。

 

「ジョー。お前も来い」

「っ……はい。何ですか」

「特に用がある訳ではない。ただ、お前達と3人だけで話すのも久しぶりだと思ってな」

 

並ぶ兄弟(われわれ)を視界に収め、改まったような嘆息してから彼は告げる。俺達に残す言葉を。

 

「バレット。ジョー。お前達はこれからの未来を生きる、()()()バルタンの民だ」

「……?」

「そりゃ、世代が新しいんだから当たり前でしょう」

「そういう意味ではない。母星という従来の環境を失った事で、種としてのバルタンは変革を迫られている。お前達はそれに適応していく者達なのだ」

 

生まれた“年代”ではなく“時代”が大事なのだと。それを切り開く役目が、俺達にはあるのだと。

 

「バレットの個人主義はある意味、それを遺伝子が予期して発現した傾向なのかも知れん。弟であるジョーもその影響を強く受けている……きっとこの先、ただ(ひと)しく群れるだけでは乗り越えられない危難に見舞われると、そう予言するかのように」

「…滅多な事を言わないでくれ。父さん、まるでそれじゃ遺言だ」

「可能性は言及しておくに越した事もあるまい。スペシウムが議題に上がった折、お前(バレット)も同じように定義したろう」

 

そう言うと同時に、肩に乗せられる手。兄さんにも。父上は今俺たちを抱き、ああ、これは───

 

「だから、頼む。これからバルタンが見舞われる新たな時代を、2人で協力し、導いてくれ」

 

期待だ。ずっと欲しかった物。兄上と分け隔てなく、贈られる応援だ。

どうして、奮い立たずにいられようか?

 

「任せて下さい、父上……!」

 

兄と視線を交わしてから、強く父の言葉に頷いてみせた。これから最前線へ向かう戦士が、後顧の悩みに見舞われぬよう。

大丈夫だ。兄がいれば、そして俺が指導者としての才を発揮し彼を導けば、きっと不可能ではない。そう信じられるから。

 

 

………俺は俺の事で精一杯だった。兄と視線を交わした時、通じ合えたと完全に錯覚してしまうほどに。

 

その瞳に浮かぶ憂いが晴れていない事に、もっと踏み込めていれば。

 

 


 

 

熱い。

 

灼熱に巻かれて落ちる。

 

熱い。

 

種族の未来と共に、墜ちる。

 

思考がまとまらない。

集合知性に接続出来ない。

 

光の巨人。

 

スペシウム。

 

……もっと、話を聞いていれば……!

 

「にげろ!!」 

 

ジョー。バレット。

 

同胞達と共に、どうか。

 

 

 


 

 

嘘だ。

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!!

 

「艦長から最後の知性アクセスを確認!内容は………」

「言ってる場合か!?ステルス装甲はもうあの巨人に剥がされちまったんだぞ!!!」

「何だアレは、透視光線だとでも言うのかッ!」

「手からスペシウムを放つとか生物兵器でもやらねぇよ!!?」

 

父上がやられた?死んだ?そんなバカな!

愚かな原住民なら相手にもならない筈だった!一体何なんだ、あの銀色の巨影は!!

 

「ふざけっ───!!」

「総員落ち着きなさい!!重力制御装置がまた壊れても構いません、すぐに大気圏外へ退避──ッ?!」

 

一際大きな揺れ。それは一瞬で接近してきた光の巨人が、我らが宇宙船に手を掛け押し始めた事による物だ。

抵抗できないまま運ばれていく。こんな化け物がいるだなんて有り得ない…!

 

「全砲台展開!撃て撃て撃てぇ!!」

「本気ですかジョー!?下手に抵抗意思を示せばどうなるかっ」

「既に戦端は開いてしまったんだ!今スペシウムを撃ち込まれない保証がどこにある?それに接触されたままはワープも出来ないだろう!!」

「っ……ワープと並行して迎撃用意!急げー!!!」

 

命令より先んじて一瞬。言われるまでもなく準備していたのだろう独断で──命令違反だがこの際置いておく──砲火が放たれた。

………効果あり!奴の身体が離れた!!

 

「高度36021。この数秒で一気に宇宙まで運ばれるとは……」

「それよりワープは!」

「エネルギーチャージまで1分ッ」

(長過ぎる!!)

 

喜んだのも束の間、次いで突き付けられた現実は“溜め無し遠距離即死攻撃持ちから60秒間逃げ回れ”という絶望的な物で。

 

嘆きを振り払い、なんとか打開策を考えたその時───声が響いた。

 

 

『最終通牒だ』

 

誰も話していない。なのにその声は、()()()()集合知性にアクセスしてきた。

誰からの言葉かなど明らかだった。

 

『バルタン星人よ。この星から手を引け』

 

青の星を眼下に、光の巨人はそう言った。

皆呆気にとられ、硬直していた。

 

『また彷徨え…などとは言わない。我々宇宙警備隊が、君達に適した星を探そう』

「……」

『それまで今回のような侵略(こうい)は行わないと、ここに約束するのだ。さもなくばこのまま君達を拘束し、宇宙墓場まで連行させてもらう事となる』

「………は?」

 

……端的に言えばそれは破格の提案だった。ただでさえ劣勢な状況下で、こちらが破棄した交渉を再開させてくれているのだから。更に新天地の捜索にも協力してくれるとさえ。

だが巨人側にメリットは?なぜ我々を助ける?何の意図があるというんだ?

 

そしてそれを……俺達に量り取れるだけの余地が、あるのか?

 

「ァ…ぁあ…ッ」

 

 

───集合知性で、この艦に乗る総てのバルタン星人が見た。当代最強の戦闘力を誇った(艦長)と、この巨人の戦いを。

 

空を飛ぶ彼に余裕で追い付き、置き去りにする飛行力を見た。バルタン星人には到底辿り着けない速度だった。

 

手刀の一振りで、ただそれだけで堅牢極まる鋏がへし折られるのを見た。バルタン星人では抵抗しようが無い膂力だった。

 

スペシウムを自在に打ち放つ様を、見た。

 

 

「ぅぁあっ」

 

勝てない。どう足掻いても。もはや()()()()じゃないか。

俺達を殺す為に生まれたかのような絶対強者だ。そう、誰かが怯えた。その認識は、集合知性を介して周囲に伝播。

 

遭難で積み重ねられてきた精神負荷(ストレス)に作用し、反響していく。共鳴を繰り返して増幅する。

 

全てにおいて我々を上回る死の化身。そんな存在に、どうして我々の新天地(生殺与奪)を明け渡せるだろう。

 

 

……言い訳になるが。既に我々は、()()だったのだ。

 

 

「消えろォォォォ!!!」

 

先走って、砲手の誰かが引き金を引いた。責めはしない。濃縮されたパニックで汚染された集合知性、それに押されては、彼がやらずとも誰かがやらかしていただろう。

それが発端となって他の砲塔も火を噴く。次々に巨人へ着弾、その姿を爆煙の中へ包んでいく。

 

「ワープ!!早く!!」

「やってまぁす!」

 

半狂乱になりながら、エネルギーチャージを待たずに起動を試みた。消された火を再度点けてしまった以上、もはや猶予は無い!!

 

「駄目だァ、主砲が効かない!」

「だったらM240星に向けろ!原住民の都市を人質にするんだッ!!」

「了解!照準……!!巨人に動きが!?」

「敵の両手に高エネルギー感知、スペシウムが来ます!!」

「腕を十字に…発射体勢のようですッ」

「撃たれる前に撃てェ!!」

「余計な事をするな!ワープだ!ワァァァプ!!!」

 

まだか。無理だ。間に合わない。

最後の最後で最悪手を引いてしまった。星に砲を向けた事で、巨人に“悠長さを要する拘束”の択を捨てさせてしまった。集合知性の暴走と指揮系統の崩壊が、混ざり混ざって即時撃滅(最悪の事態)を招いた。

 

その時。背後で、ドアの開く音。

 

「……これ、は」

「バレット!!」

 

コールドスリープの処置下にあった筈の兄。最も頼りになる存在が、しかしもう彼でもどうにもならない末期になって、来てしまった。一番最初にスペシウムの直撃を貰うであろう位置に!

 

 

「ここは駄目だ、兄さ───!!!」

 

 

慌てて隔壁の向こうへ突飛ばそうとした刹那、閃光。窓を、モニターを覆い尽くす破滅の光。

 

 

……終わった。

 

 

「───ウルトラマン?」

 

 

薄青い滅びに視界を包まれる中。

兄さんは最期に、そう呟いた。

 

 

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── 

 ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

─ ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ─

 ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ──

── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── ── 

 

 

目が覚めた。

 

吐いた。

 

「お゛ゴぶゥう゛うう゛ぅ゛ッ」

 

軽度のスペシウム被曝、その特有症状。体感的にはこれでもまだ軽度だが、それでも全身火傷のオマケ付きだ。寧ろこれだけで済んだのが奇跡だと言える。

だが、艦は。

 

「そんな……」

 

顔を上げた先、最初に目に映ったのは同胞の骸だった。夥しい数の“滅び”だった。

皆、灼けていた。致死量の毒性エネルギーを食らい、起きていた者もコールドスリープ化に在った者も混ざり合い、酷い場合ではドロドロにその五体を溶かして、他の動かぬ同胞や地面と混ざり合っていた。

 

その更に向こうには全壊した宇宙船。各所から煙と火花を上げて沈黙している。割れた外装からは、逃れようとしたのだろう同胞達の遺体が、今も流出して続けている。

 

集合知性へのアクセスは1件。自分のみ。

 

「…誰かっ」

 

いないのか。

皆斃れてしまったのか。

 

「誰か、いないのか!!」

 

血を吐くように、否、実際吐き散らしながら叫んだ。縋り、祈り、そしてここで幸運が応えた。

崩壊した瓦礫の後ろから、見知った顔が出てきてくれたのだ。

 

「ツバイッ!」

「ジョーさん、ご無事ですか!!」

「お前こそだ。他に生存者は?!」

「着弾の0.005秒後にワープに成功したことにより、奇跡的に影響を免れた区画が一つ。そこでの入眠者は1億8000万人程です」

「…!」

 

愕然。唯一という事は、そこ以外に希望は無いという事。

操舵室にいた人員も、俺とツバイ以外の生存者は無いらしく──即ち18.5億の同胞が、あの一瞬で消えたのだ。バルタンという種族の最後の希望が、一挙にその9割以上を減じられたという悍ましい事実に、思わず卒倒しそうになる。

そして、

 

「兄さんは……?」

 

返答は無かった。それが応えで、今度こそ俺は崩れ落ちた。

……最後の一瞬。兄を突飛ばそうとした俺は、逆にツバイと共に彼に庇われた。その結果がこれなのだと、突き付けられて。

 

兄さんは正しかった。してはいけない戦争だったのだ、これは。

なのに止めようとした兄さんは死んで、推し進めたオレが生き残っている。これは……なんと滑稽で、惨めな光景だろうか。

 

「衝撃により生存者達のストレス値はオーバーフローを起こしています、誰も集合知性にアクセスしていないのはそれが原因です。もしこのまま再覚醒してしまえば、統率も利かない混乱に陥り、再起の目途が立たなくなるでしょう」

「………」

「何か、生存者達が思惑を一つと出来る物……“象徴”が必要です。彼らを即座に束ねられる指針が無ければ、このR惑星で我々の命運は「……トラ…ン」え?」

 

だからこれは、傍から見れば逆恨みなのかもしれない。意味のない怨嗟なのかもしれない。

しかし脳に直接恐怖を刻みつけられた我々を、これは紛れもなく統一できる思想であり……残された寄る辺にして、最後の希望(のろい)だったのだから。

 

「ウルトラマン……ッ!!!」

 

兄が遺したその名へ報復を。散っていった同胞の復讐を。

 

例え彼らがそれを望んでいなくとも、だからこそ、この道を選んだ責を貫き果たす。

もう俺に、それ以外の道など無いのだ。

 

 


 




 


 

 

「───痛い」

 

バレットは目を覚ました。漂う小惑星にたった1人、焼け爛れた身を横たえて。

骨の髄から身を蝕む激痛は絶え間無く、彼の精神さえ苛む。

 

「痛いな。嗚呼、痛い」

 

ただの地球人なら発狂していただろう。ただのバルタン星人ならば、集合知性で周囲に苦痛を伝播し集団でのたうち回っていたかも知れない。

だが彼は、双方に当て嵌まらない存在だった。

 

「痛いから……生きてる」

 

いや、正確には──今ここに()()()()()のである。

 

「糞っ。父さんの声で目を醒ましたは良いが、そこから先の記憶が吹っ飛んでる。“初代”に船ごと吹っ飛ばされた影響か。父さんは……駄目だろうな。それより早くジョー達と合流しないと」

 

地球人として生まれ変わり。バルタン星人として生まれ直した。ここにいるのは最早元のバレットではない………のかも知れない。

彼を彼足らしめる物が何であるか、それは本人にさえ分からないのだから。

 

ただ、同胞を想う心は変わらなかったようだ。幸か、それとも不幸か。

 

「もっと早く記憶を取り戻してれば変えられたのに。そもそもなんで今更思い出したんだ、まさか衝撃で脳が……それより未来だ。R惑星を探して、ツバイが“2代目”になる前に……!!」

 

これ以上死なせるものかと歩き出す。傷付いた身体で一歩ずつ。

 

 

その歩みが報われない事を、彼はすぐ知る事となるだろう。

 

何故ならR惑星は()()()()()。それどころか地球さえ見つからない。

ここはM78ワールドとは別の宇宙。ウルトラマンもバルタン星人も本来はいないアナザースペースへ、ワープ以上の影響で飛ばされてしまっていたのだ。どれだけ彷徨おうと、懐かしき同胞や憧れの光と出逢う事は叶わないのである。

 

 

だが決して無駄な歩みでは決してない。それだけはあり得ない。

 

その一歩こそが、バルタン星人バレットの永い旅路、その本当の始まりであったのだから。

*1
ジョーは身内を過大解釈している




次回はウォルナ編に戻ります
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