そういえば呪具って使用者の術式が染み込むことがあるんだな
って思って書いた思い付き作品です。
もしかしたらこんな術式を持った術師がいたかも…
2018年10月31日、渋谷。状況は混迷を極めていた。
五条悟、封印。その後、五条が封印された獄門彊を巡り、多くの術師と呪霊が戦い、死んでいった。そして一時的に虎杖悠仁から肉体の主導権を奪取した両面宿儺と、魔虚羅との戦闘によって渋谷はもはや完全な壊滅状態だった。そして──
「みんなに伝えて。『悪くなかった』!!」
虎杖悠仁と真人、そしてその分身体と戦う釘崎野薔薇。一瞬の入れ替わりにより釘崎は真人に触れられてしまった。そして無為転変が発動し──
「いやぁ?例え悪くなかったとしても、僕は最後まで抗った方が良いと思うぜ。より良い結果を求めるのが人間だからな。」
─なかった。気づいたら高専の制服を着た男が釘崎の後ろに立っており、肩をつかんでいた。
「「…誰!?」
「あれ?これでも君たちの先輩なんだぜ?噂ぐらい聞いたことあるだろ?」
「「いや、全然」」
「…え、マジで?」
男は割とショックを受けていた。それなりの実力を持っているし、呪術の界隈では比較的常識人なので頼りになる先輩だと、自分では思いこんでいたのだ。
「ま、まぁ?今から知ればいいし?
僕の名前は、天野 鉾(きさき)。現役の1級呪術…へっくし!…1級呪術師さ!」
自己紹介の最中にくしゃみとか、締まらない人だなと、虎杖と釘崎は感じていた。だが、真人は──
「(こいつ…!無為転変を解除しやがった!)」
この男が只者ではないことを察していた。一瞬、無為転変が上手く入っていなかったのかと真人は自分を疑ったが、否定した。確実に、一瞬とはいえ釘崎の顔にしっかりと触れた。そして、虎杖の心を折るため、目の前で発動しようとしたのだ。だが、その瞬間、天野という男が釘崎の肩に触れ、術式は発動しなかった。だが、
「(だが、確かに一瞬発動した感覚はあった。一体なんなんだ、こいつ)」
「ブラザー、無事か!」
そこに東堂と新田がやってくる。数では、真人は完全に不利だ。
「うぅ…さっきの女(?)呪詛師のせいで体が冷えっぱなしだよ。…さて、おしゃべりはここまでにして…こいつ、祓おうか。」
先ほどまでのテンションとは反対の冷え切った声で真人に天野は声をかける。
「釘崎さんと、新田君かな。後ろに下がっておいて。」
「…私はまだ戦えます。」
釘崎は不服そうな顔だ。暗に、戦力外だ、と言われているようなものだ。
「気づいてないだろうけど、それなりに消耗しているでしょ。それに、今度はさっきみたいに、上手くはいかない。せっかく助けた命が、また目の前で無くなるとか僕も見たくないし。」
虎杖はその身体の特異性により、東堂は術式による攪乱により、天野は術式による防御により、真人の攻撃をいなせるが、釘崎はそういかない。攻撃能力は十分だが、それ以外が追い付いていないのだ。
釘崎は渋々といった感じで新田と一緒に下がっていった。
それと同時に四者四様に構える。
「東堂君、虎杖君。思う存分動いてくれ。僕が君たちに合わせる。」
東堂と虎杖が同時に動く。真人はそれに無為転変を使った変化自在の攻撃に対応してくるが、その隙間を縫うように天野が攻撃を仕掛ける。真人とはいえ、流石に3対1は分が悪い。だから分断し、各個撃破を企んだ。
「『多重魂 撥体』!」
「させるかよ」
分断を目的とした質量攻撃、多重魂撥体。しかし一瞬掌の改造人間が大きくなるがそこで止まってしまい、不発に終わる。気づくと真人の腕を天野が掴んでいた。そこに東堂と虎杖が畳みかける。打撃を受け、真人が大きく吹き飛ばされた。
「今ので理解したよ…。お前、俺の術式を強制的に解除してるな。だから、一瞬だけ術式は発動するが、その後に解除されて不発に終わる。」
天野は否定も肯定もしない。自分の術式、『天魔反戈』、はその効果が目に見えて分かるため推測されやすく、バレることも何度かあった。だが、天野が注目したのは、真人の様子だ。この状況は真人にとっては良くない状況のはず。だが彼はどこか不敵な笑みを浮かべていた。
「(あいつ、天野とか言ってたか。表面上は大したことはないが、俺には分かる。奴の魂は消耗している。ここに来るまで、改造人間か、それ以外の何かを相手にしてきたな?あそこまで消耗していればワンタッチで殺せる可能性は高い…。)」
ならばとるべき策は決まっている。真人は距離を取りながら口から多数の改造人間を吐き出した。そしていくつか幾魂異性体を混ぜる。これなら時間は稼げるはずだ。
「あのチョンマゲゴリラと、虎杖を殺れ!」
何体もの改造人間が虎杖と東堂に目掛けて飛び掛かる。その間に真人は天野へと肉薄した。
「天野さん!」
「改造人間への対処を優先!」
虎杖が助けようと向かうが、天野はそれを止めた。虎杖と東堂の実力ならば、改造人間に対処するのに30秒ほどあれば十分だ。その間、真人をいなし続ければいい。だが、相手は特級。そして何より、可能性の塊だった。
「(こいつ、一瞬で分身しやがった!)」
真人は瞬時に分身をし、2対1の状況に持ち込む。こうなると格闘戦でも厳しくなる。真人の分身は他者への無為転変ができなくなるが、自身に対してはいまだ有効であり、変化自在の戦法は失われていない。分身にからめとられ身動きが取れなくなったその瞬間、黒い火花が空間を覆った。真人が黒閃を決めたのだ。
「(格闘で仕留めに来るとは考えていたが、まさか黒閃まで出すとはな…)」
天野は血を口から吐き出し態勢を整える。真人の分身はすでに祓った。
天野の術式を警戒して術式を用いない攻撃をしてくるのは予測の範疇だったが、まさか黒閃まで決めてくるとは予想ができなかった。
あの真人と呼ばれる呪霊の能力は驚異的だったがそれ以上に、問題なのは自身の消耗だった。
ここに来るまでに多数の改造人間の殺害と、生き残った呪詛師の確保、そして氷に関する術式を持った女(?)呪詛師との戦闘が、想定以上に自身を損耗させていた。
最後の氷の奴に関しては、途中で黒閃を決めたが、それでも倒し切れず、横から来た呪霊に邪魔をされて倒し損ねた。
「大丈夫か、ミスター天野」
「大丈夫と言いたいが、流石にきついな、これは。」
東堂と虎杖が、改造人間への対処を終えこちらに合流する。
真人の理性と本能はせめぎ合っていた。理性は、改造人間を用いた分断作戦が失敗に終わったことによる警鐘を。本能は黒閃を決めたこと高揚感を訴えている。
真人はある種の全能感に包まれていた。今ならあらゆることに手が届きそうな、そんな感覚だ。今こそ、この戦況を傾けるときだ。
問題はこの東堂と虎杖の連携をメインに、それを補助する天野の行動だ。誰かに無為転変を仕掛けようとすると誰かが妨害をしてくる。ならば、この状況を打破する策は一つ。答えは示されている。あの地下鉄の駅で、五条悟が行った0.2秒間の領域展開。虎杖の中にある宿儺の魂に触れず、他二人を排除するにはこれしか方法がない。再び改造人間を展開する。
鋭い、一瞬にすべてを賭けるかのような呪力のおこりを、天野は見逃さなかった。天野は術式を強制解除するという自身の術式を活かすために、呪力感知を鍛えていた。相手の術式発動のタイミングをより理解するための訓練で鍛えたものであり、これに気付けたのはその賜物だった。
『領域展開 自閉円頓裹』
0.2秒というほんの一瞬、領域が展開される。黒閃を決めたことによるゾーン状態もあってか発動が早く、東堂の簡易領域も間に合わなかった。
真人は東堂の元へと全力疾走し、改造人間たちは他二人を妨害する。東堂さえ排除してしまえばあとは死に体二人だからだ。東堂の左手が変形し始める。
勝った──。真人はそう思った。
しかし──東堂の左手は少々爛れた程度で止まった。
一体何が。そんな困惑が真人の頭を埋める。答えを探すため周囲を思わず見渡した。そこに映っていたのは、動作が停止した改造人間と、そして、掌印を結んだ天野だった。
『領域展開 天地開闢』
「悪いな。同じことをさせてもらったよ。」
真人の0.2秒の領域展開を術式で防御した後、真人の狙いを察した天野はすぐさま掌印を結んだ。東堂が真人に対処するためには術式が必要だが、真人の無為転変は止めなければいけない。この二つを両立させるために天野は真人と同じ0.2秒間の領域展開を行った。黒閃を既に決めていたことと、真人が自身の策を成功させるために没頭して周囲を観察しなかったこと、そして天野が領域を使えるという想定が頭から抜け落ちていたこと、が成功の要因だった。
パンッ、と手を叩く音がする。先ほどまで真人の目の前にいた東堂はすでにおらず、代わりに拳を振りかぶる虎杖がいた。黒い火花が炸裂する。真人に渾身の一撃を打ち込み、勝負は決した。
■────■
その後、逃げる真人を追う虎杖を東堂と天野が追いかけると、死んだはずの夏油傑がいた。彼は真人を取り込み、新しい儀式の開催を宣言した後どこかへと行ってしまった。
その後日本各地にコロニーが出現。死滅回遊が開催され、日本中が混乱に陥る。この事態を収拾するために、今度は天元様の元へと集められたのだが…。
「これが獄門疆「裏」だ。天野鉾、君に任せよう。」
「えっ、任せるって…」
「獄門疆を解除するには天逆鉾か、黒縄が必要だ。そして天逆鉾は元々天野家が所有していた呪具。天野の初代が使用した鉾に呪力と術式が染み込み出来たものだろう。」
「いや、解除しますけど…なんかあっさりしてない…?」
そして術式で獄門疆を解除したら、次の日ボコボコにされた夏油傑(?)が、五条悟に拘束されてたことで事態は収束を迎えた。ちなみに一緒に裏で糸を引いていた上層部も殺された。
天野 鉾(きさき)
発動中の術式を解除する術式を持った術師。五条悟に攻撃を当てられる逸材だが本人はそこまでやる気がない。自分の術式のことを「強いんだろうけど地味」と考えている。天野家自体は昔に没落していたので彼は民間人の出である。
天逆鉾は元々天野家の所有の呪具、という独自設定。天野家の初代が愛用した鉾に呪力と術式が染みついてあんな凶悪な性能になった。
ちなみに五条先生に返して♡とお願いしたが、滅茶苦茶適当な返事ではぐらかされた。