喧嘩は売ったが道筋は出来た。我ながら命知らずな真似をしたとは思うが。あの時に引き止めなければ毘沙門天は自分に興味を示す事はなかっただろう。なので結果的には良かった。まあそう考えるしかない。その代わり毘沙門天を倒すのが目標入りしてしまったが、何れは死の概念そのものみたいな奴をどうにかしなければいけないかもしれなかったと考えると、まあまだマシ…?なのかもしれない。
「勝てるかねぇ…」
一昨日切った啖呵は何処へやら。ミタマの心中は不安に包まれていた。軽く威圧されただけでも立っている事すらままならなかったのだ。今の自分では到底敵わない相手。鍛えれば少しはマシになるのだろうが、あの肉体に傷が付けられるイメージが沸かない。故に少々弱気ではあったが。
「まあやるしかないよな」
一度吐いた唾は飲み込めないのだ。それに今更逃げる気もない。不安があるのはその通りだが。その心を何とか抑え込み、勇気を振り絞る。そうして自分の心を落ち着けると、毘沙門天より授かった◆の刻印を目にいれる。よく分からない刻印。当初はこのような入れ墨等どう説明したものかと悩んだが。
「あ、消えた」
スーッと色を失くしていく刻印。どうやら己が念じれば、刻印を隠す事は可能なようだ。これならば安心だなと思いつつも、変な所で気が利くんだな……と少しばかり何とも言えない気持ちになった。しかし日常生活に支障が出ないならば構うまい。なのでこの刻印の話は一旦保留だ。
「葛葉神社…葛葉ねぇ…」
自分を導く存在が居るらしい場所。昨日は精神的に疲れまくったせいで、調べ物をする余裕はなかった。夢の中とはいえ、四天王の一角と会ったのはかなり精神力を削られた。しかも四天王の中では上の方の毘沙門天である。目には見えないが│実力《レベル》差も半端ないだろう。…そう考えると良くもまあ自分は正気を保てていたものだ。矢張りペルソナに目覚めていたお陰だろうか?
「おっと話がズレてるズレてる…」
今は毘沙門天の事を考えるよりも、協力者になり得るかもしれない葛葉神社の事が重要だ。タイムリミットはまぁまぁある方だが、それでも余り時間を掛け過ぎるのは良くないだろう。仮に毘沙門天の協力を取り付けても、時間が足りませんでしたとなれば何の意味もない。ミタマはそう判断すると、少し疲れが残っている体を無理矢理起こした。まだ怠さはあるが、今は行動していないと何か落ち着かない。なので前は急げ。ミタマは調べた葛葉神社の場所を頭で反覆すると、家の中から出て行ったのだ。
「意外と其処までだったな」
家を出てから徒歩で何分か。調べた時も驚いたが自分の家からかなり近い所に葛葉神社はあった。灯台下暗し。有名な神社ばかりを昔は探していた為か、このような場所が徒歩圏内にあるとは思わなかった。早く見つけていれば、葛葉という文字に引っかかりを覚えて突撃していたであろうに。まあ過ぎた事を後悔しても仕方ない。ミタマは思考を切り替えると、長くそびえ立つ階段を一歩一歩進んでいくのだった。
「ふぅ…」
階段を登り終えると一息。疲れが残っているのもあるが、単純に階段の数が多い。息を荒げる程ではないが少し疲れた。神社の中に入る前に深呼吸を行う。体を正常に戻す為に、そしてこれから会うであろう人への緊張を解す為に。そうして深呼吸を何回かした後、ミタマは覚悟を決めて境内へと足を踏み入れた。
「おや?貴方は…」
朝っぱらから子供が来たのが珍しいのか。初老の男性は少し驚いた様子。しかしミタマの顔をよく見ると、目を見開き、境内の掃除の手を止めた。刻印をされた手を見る男性。恐らくは神主さんか。まじまじと己を見た後。神主さんは口を開いた。
「赤口ミタマ殿。で間違いありませんかな?」
「はい。そうです」
「では立ち話もなんです。どうぞ中へ」
「失礼します」
挨拶を交わすと、神主さんの後をついていく。途中軽く自己紹介された神主さんの名前は、護というらしい。名字は勿論葛葉。歩いている最中、軽く探りを入れたがあの葛葉で間違いないようだ。そうして暫く歩いた後、居間の中へと案内された。用意された座布団の上に座ると、出されたお茶へと口をつけた。
「それにしても、混じり者とはいえ、幼子が相手とは少々不思議な気持ちですな…」
「其処は自分も何とも…」
「そのような状態に困惑されているのは、ミタマ殿が一番でしたな。これは失礼」
ちゃぶ台越しにある座布団に座ると護さんもお茶を啜る。少しの間軽いトークを交わす。葛葉という事でかなり厳格な人なのかと思っていたが、意外と話しやすいタイプであった。そうして暫し会話を続けた後。護さんから切り出した。
「…夢現の中。毘沙門天様より大体の事情はお聞きしました。悪魔の出現が少なくなり、この世にも平和が訪れたと思っていたのですがなぁ…」
「………」
「人の欲。それは何時の時代も、変わらぬのですな……」
寂し気な瞳をしながら護さんは外を眺める。どのような事がこの世界で起こったのかは知らない。それでも護さんは確かに戦っていたのだろう。憂う横顔からは、老いぼれた戦士の哀愁が感じられた。
「儂も葛葉一族の端くれ。帝都に危機あるならばその対抗策であるミタマ殿に手を貸すのは吝かではありません」
「はい…」
「ですが、ひとつだけ質問をしても宜しいですかな?」
真剣な瞳が自分を見つめる。言葉はなく、自分は縦に首を振るだけだった。
「貴方は何の為に戦うのですか?」
「抗いたいからです」
自分の心の中にあるのは今も変わらない反逆心だ。頭の中にある決められた道筋。それをただ指を加えて見ているのがどうにも気に食わない。故に無駄かもしれないけれど、抗いたいのだ。この道が正解なのか間違いなのかは後で決める。今はただ、自分が思うように前に進みたい。そう思っている。
「そうですか…」
自分の目から瞳を離すと、護さんは目を閉じ、黙り込む。少しではあっただろうが、体感では物凄く長く感じられた。そうして目を開いた護さんは、自分に対してこう言ったのだ。
「よろしくお願いいたします。赤口ミタマ殿」
「!…はい、此方こそ宜しくお願いします!護さん!」
どうやら護さんの納得がいく答えを出せたようだ。差し出された嗄れた手に自分の手を合わせる。年齢は違えども、今まで一人だった自分に協力者が出来た事がとても嬉しかった。
「此処が異界への入口ですな」
「祠…?」
「ええ、資格ない者には祠としか認識出できませぬ。しかし─」
「おおっ!?」
護さんに案内されたのは神社の裏側。其処にはポツンと小さな祠が置かれていた。一見すれば少し豪華なだけの祠だが、言われた通りに刻印が刻まれた手を近づけると、其処には亀裂のような物が現れた。
「この先に毘沙門天様達の異界が存在します」
「へえー…」
流石に今すぐ突入する事はしないが、中を少しだけ覗いてみる。しかし中に入らないと異界の中身は見れないのか、ただただ空間の歪みがあるだけだった。異界への入口は分かった。未だ挑戦するにはまだ早いが、これから自分が乗り越える試練の一つだ。それを胸に刻みなからその場を後にする護さんの後ろをついて行った。
「此処は倉庫ですな」
次に案内されたのは、書物や一見すると分からない道具のような物ばかりが置かれている倉庫。無知な自分には訳が分からない物ばかりであったが、一つだけ見覚えがある物があった。それは細い管のような道具。もしかしたらと思い護さんに尋ねると、
「ああ、それは封魔管ですな。よくご存知で」
「記憶にあったものなので!」
少しテンションが上がる。悪魔を封じる葛葉一族が使う封魔の道具。COMPに近い役割のそれだが、実際に見ると何とも言えない魅力があるのもだ。しかし…
「残念ながら使える封魔管はそれだけのようですな…」
何個か保管されていた封魔管であるが、自分が持っている物しか実用出来ないらしい。まあ悪魔が出現しなくなったのならば、それに対抗する術も廃れると云うものだろう。勿論中に悪魔が封じられているとかもなかった。御しきれない悪魔が放たれた場合の危険性を考慮して後世に残さなかったのだろう。理屈は分かるが少々残念である。
「これは…?」
「葛葉一族の技術や知識が書き記された書物です」
葛葉一族の秘伝とも言える記述が事細かに記されている。何個か見覚えがある技術も書いてあり、とても興味深い。
「秘伝ゆえ、くれぐれも他言は無きように…」
「あっはい」
家に持ち帰ってじっくりと読みたかったが。そんな事は許されないらしい。まあ部外者の自分に此処まで技術を教えてくれるだけでも有り難いのだ。これ以上は高望みというもの。
「さて、最後は武道場ですな」
葛葉神社の一角には護身術を教える武道場がある。護さんは年の為か直接教える事はないが、息子の吾助さんという人が師範をしているとの事。表向きは無難な道場。しかし裏では葛葉の武術が途絶えぬ為にと利用される場所であるらしい。
「基礎からじっくりとやりますからな」
「あっはい…」
強くなるには本体である自身も強くならねばならない。それは分かっているのだが、ニッコリと微笑む護さんからは何処か寒気を感じた。やれる事は増えたが…自分の体と精神は保つのだろうか…?そんな新たな不安が自分の心の内に芽生えたのであった。
真面目な方のペルソナオリ主モノ。他のやつと同じく独自解釈マシマシ。久しぶりだからキャラが違くかも。