転生菅原道真「うちの梅から女の子が!!」   作:鳩胸な鴨

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先人のやらかしがでかいタイプの話が好き。


本編
偉人に転生したオタク、やらかす


2018年七月。

ある事情から呪術師になって日が浅い少年…虎杖悠仁は、今日も今日とてキモ可愛い人形を抱え、クソみたいな出来の映画を見ていた。

別に遊んでいるだとか、だらけているというわけではなく、呪力操作の修行をしているのである。

この鼻提灯を出して寝ている人形に一定数の呪力を注がなければ、顎にキツい一撃を喰らってしまう。

故に、彼は心を無にするために好きでもないクソ映画を鑑賞しているのである。

 

「………」

 

コーラに手を伸ばしかけたが、やめた。

前にそれでアッパーをかまされ、気管支がとんでもないことになった。

そんな苦い記憶を想起していると。

 

「や、悠仁」

「ぬぉわっ!?」

 

背後から軽薄な声が響いた。

それに驚き、びくっ、と肩を震わせる悠仁。

だが、ある程度は慣れてきたのか、呪力の出力は一定に抑えられており、人形は起きることなくいびきをかいている。

青年…現代最強の呪術師たる五条悟も、その成長の早さに目を見張った。

しかし、彼は褒めることはせず、親しい近所の子供に話しかけるように笑みを浮かべる。

 

「今からおでかけしない?」

「おでかけ?えっと、映画は…」

「今日はもういいから」

「わかった」

 

悠仁は眠りこける人形から手を離し、悟の元へと歩み寄る。

悟は彼をそのまま担ぎ上げると、己が術式によって隠れ家から転移した。

転移した先は、青々とした葉をつけた梅の木が聳え立つ神社の中。

既に実がもぎ取られ、少し寂しい様相になったそれを前に、悠仁はきょろきょろとあたりを見渡した。

 

「どこ、ここ?

なんか見たことある気がするんだけど…」

「太宰府天満宮。聞いたことない?」

「ん…、んー…?あるよーな、ないよーな…?」

「ヒント。僕のご先祖さま」

「ごめんわかんない」

「じゃあ、学問の神様」

「菅原道真!思い出した!!

受験前に来たわ!!」

 

悠仁は納得したように叫び、「懐かしーなー」とあたりを見渡す。

記憶はほとんどぼやけているが、以前に来た覚えはある。

悠仁がそんな浅い懐かしさに浸っていると。

 

「浅ましい信仰心だ。

道真公のことを成績を上げてくれる夢の装置か何かだと思っているのかい?」

「信仰心があるのはいいことだね!

その調子で薄っぺらい信仰をガンガン道真公に捧げるのだ!」

 

その頭上から、そこはかとなく馬鹿にした少女の声が響いた。

悠仁が視線を向けると、2人の少女と目が合う。

双子だろうか。

容姿の似た2人を前に訝しげな表情を浮かべていると、悟が彼女らに笑みを向けた。

 

「や。こないだぶり」

「生意気な口ぶりは治ってないね、悟坊や。

ボクたちは五条家に忠誠を誓ってるんじゃなくて、道真公に忠誠を誓ってると言ったのを忘れたのかい?」

「なぬっ!?そりゃあ大変だ!!

あのいけすかない脳みそ野郎の如く、脳みそを取り出して洗浄してやらねば!!」

「相変わらず切れ味の鋭い口だね」

「……えっと、お知り合い?」

 

悠仁の問いに、悟は笑みの軽薄さを六割増しにして答えた。

 

「これ、飛梅の精霊。1000年生きてる…まあ式神みたいなものだよ」

「鳴花ヒメだよ!

よろしくな、目ん玉四つ男の器!」

「鳴花ミコトだ。

よろしくね、ガキがそのまま大人になったみたいな自己中の器」

「うっわすっげぇ口悪い」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「推しが生きて動いているところを見てみたい」。

 

サブカルチャーが発展した現代、誰しもがそんな欲望を一度は抱いたことがあるだろう。

男もまた、そんな願望を抱く変態もといオタクであった。

彼が推していたのは、ガイノイドTALKと呼ばれる音声ソフトウェアのイメージキャラクターである双子。

名を「鳴花ヒメ」、「鳴花ミコト」。

そのキャラクター性は殆どが使用者に委ねられ、「梅の精霊」という公式設定を抜きにすれば無限の可能性で溢れている。

男はそのカスタマイズ性に魅入られた1人であった。

 

仕事の傍ら、たいして金にもならないソフトウェアを使用した動画作りに励む日々。

そんな日々を過ごしていた男はある日、日頃の不摂生が祟りこの世を去った。

その命尽きる最後の時まで、彼はソフトウェアを開き、音声の調整を行っていた。

 

ここまでならよくある急死事例である。

だが、彼の生にはまだ続きがあった。

 

「道真様、どうかされましたか?」

「………ぅえ?」

 

あろうことか、彼は歴史上の偉人たる菅原道真に転生してしまったのである。

 

前世は確かに学者ではあったが、流石に学問の神として祀られるほどではない。

そんな謙遜も束の間、彼は無視できない事態に直面することとなる。

 

「ぅじゅじゅじゅじゅ!!」

「呪霊やん。………呪霊やん!?」

 

同じくサブカルチャーの産物であるはずの人類に仇為す存在…「呪霊」との遭遇である。

そう。彼が転生した世界は、現代日本において社会現象レベルの流行を見せる少年漫画…「呪術廻戦」の世界だった。

この世界を一言で表現するなれば、「凝縮された地獄」である。

どう足掻いても主人公側の勝利が見えない。

人よりも遥かに強大な魑魅魍魎が、そこらのペンペン草顔負けの勢いでポップするクソ難易度。

ダメな方向に努力するクソ野郎に、自分勝手を押し通せる絶対強者たるクソ自己中。

少年漫画と聞いて思い描く理想的なハッピーエンドなど、あろうはずもない。

 

それに加え、菅原道真となった彼が生まれた時代は、致命的なまでに詰んでると言わざるを得なかった。

 

呪いの王と呼ばれる怪物…クソ自己中こと「両面宿儺」をはじめとした人外共が好き勝手に暴れ。

頼りにすべき呪術師たちもまた、唯我独尊が極まった自己中集団。

極めつけに、周囲には実力主義という考え方を理解する脳みそを持たないクソ無能。

政に携わっていた彼の胃は、完膚なきまでに破壊されていた。

 

そんなクソの謀略とも呼べない嫌がらせによって太宰府に飛ばされる未来を知っていた彼だが、なんの抵抗も見せなかった。

いや、しなかったのである。

彼は疲れていた。

「もう知らん!もう知らんから!勝手にやってろボケ共!死ね!小指を柱にぶつけまくって化膿して死ね!!」と流刑に処され、いの一番に叫ぶ程度には疲れていた。

自己中共が跋扈しない辺境で余生を過ごしたいと思っていた彼にとって、流刑という名目は都合が良かったのである。

ボロ小屋での生活ではあったが、あんな地獄よりはマシだ。

あと2年の命だが、有意義に過ごそう。

そんなことを思っていた彼だったが、二度目の誤算が生じることとなる。

 

飛梅伝説が虐殺神話に変わってしまったのである。

 

彼の中に渦巻いていたフラストレーションによる世界滅亡クラスの呪力と、そこに込められた愛情を一身に受けた梅、桜、松。

彼女らは彼の術式により、強固な自我…もとい魂を得ていたのである。

桜は憎悪により自ら朽ち、呪いとしての力を梅と松に託した。

その憎悪を受け取った梅と松は、一直線に太宰府へと行進。

彼女らは進路に存在するすべての命を等しく殺し、己の糧とした。

が、その途中で両面宿儺と交戦。

このままでは道真と会えないと悟った松がその力を梅に託し、これを撃退。

 

簡潔にいうと、彼のストレスがとんでもなくやべぇ梅の木を生み出してしまったのである。

 

だが、彼にとってこれは朗報でもあった。

何故なら…。

 

「「道真様!お会いしとうございました!」」

「………はぇ???」

 

彼の前に降り立った梅の木から、前世で推していた「鳴花ヒメ」、「鳴花ミコト」が顕現したのだから。

 

その後の彼は、残り2年という寿命を最愛の彼女らと過ごした。

途中、お偉方がごちゃごちゃ言ってきたが、生まれ持っての呪いの才で叩き伏せた。

そして迎えた最期の時。

彼は身に宿る膨大な呪力をまる渡しすることで2人の存在を固定すると同時に、ある「縛り」を課した。

 

「出来る限り人を殺すな。

気が向いたらでいいから、人を助けろ。

人の世を、これからを楽しめ」

 

あってないような縛りであったが、彼女らはその縛りを律儀に守った。

平安の世で起こした大虐殺が嘘だったように、彼女らは人々の守護者であり続けた。

最初こそは祓うべき呪いとして見ていた呪術界も、江戸に入る頃には守護者として崇めるものの方が圧倒的に多くなった。

 

緩やかに、しかし激しく動く時代の荒波に揉まれること1000年。

彼女らが呪いをめぐる物語に巻き込まれるまで、あと少し。




転生菅原道真…植物に魂を与える術式持ち。五条悟でもドン引きするレベルの呪力持ちだったが、そのことに気づいたのは晩年。それまではストレスの多い都暮らしで疲れ切っていた。このやらかしが許容されるレベルの苦労人。

鳴花ヒメ・鳴花ミコト…有名な飛梅の精霊。進路にあるもの全部潰しながら太宰府へと向かうくらいには一途。自前のものに加え、朽ちた桜、力尽きた松の術式も持ってるため手に負えない。ストッパーの道真公が最後に縛りを設けなかったらヤベェことになってた。

両面宿儺…飛梅と道真公にガチで嫌われてる勢その1。全盛期で撤退を余儀なくされてから梅の木が嫌いになった。

脳みそ野郎…飛梅と道真公にガチで嫌われてる勢その2。余計なことしかしねぇからという至極真っ当な理由で飛梅と道真公にボコボコにされた。梅の木にトラウマ持ち。
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