「……ずんだ餅先輩強ぇー…」
「格下にしか効かない呪具ですけどね。
一級までなら効きますけど、流石に特級は無理です」
「それだけでも十分だよ。
ここまで消耗なく来れたのは大きい。
カラスもまだ減ってないしね」
五条封印から数分。渋谷駅地下3階にて。
ずんだ餅になって崩れ落ちる呪霊を前に、悠仁が複雑な表情を浮かべる。
どう考えても一級程度の実力はあった。
恐らくは術式も有していたのだろうが、悲しきかな。
少し動いただけで射抜かれ、皿に載ったずんだ餅になってしまった。
純子はそのずんだ餅を頬張ると、手に持った弓を手放す。
と。その弓は煙を立て、少女の姿を取った。
「ふぅー…。流石に疲れてきたのだ」
「ずんだもん、はいあーん」
「僕はいつまでこれを食べればいいのだ…」
「ずんだもんって名前なのにずんだ餅本気で嫌がってる…」
「術式に沿った名前の方がいいかなって…」
無理矢理に口に押し込むようにして、ずんだ餅を頬張る少女…ずんだもん。
悠仁がそれになんとも言えない表情を浮かべたその時。
こつ、こつ、と、人気のない駅内に足音が響いた。
足音の質からして、かなり小柄。
迷子だろうか。それとも、敵なのか。
皆が警戒心を強めていると、曲がり角の奥から声が響いた。
「いーたーどーりーゆーうーじー!!
おーとーどーけーもーのーでーす!!」
舌足らずな童女の声。
悠仁はその声に間の抜けた顔を浮かべ、「え、俺?」と漏らす。
何故、童女が自分の名を知っているのか。
そんな疑問を浮かべながら、悠仁は曲がり角へと歩み寄る。
少し歩くと、曲がり角から袖の長い園児服に身を包んだ童女が駆けてくるのが見えた。
「いーたーどーりーゆーうーじー!!」
「はーあーいっ!!」
「わっ。…あ、いた」
声を張り上げる童女に負けないくらいの大声を出し、返事する悠仁。
童女はそれに驚いたそぶりを見せるも、すぐに平静を取り戻し、彼へと駆け寄った。
「はい、お届けもの」
「あ、あんがと。……ん?メカ丸?」
差し出されたのは、手のひらサイズに収まる円盤となったメカ丸。
だいたい耳くらいの大きさだろうか。
よくよく見ると、耳にかけるための部分もある。
こんな感じのイヤホンを電気屋かどこかで見たな、と思っていると、メカ丸の口が開いた。
『ようやく着いたカ。
正直、もう少し遅いと思っていタ』
「えっと、ホントに俺宛?」
「君が術師側で一番裏切ってる可能性が低いからね。秘匿死刑対象だし」
「裏切ってる…って、メカ丸もじゃ…」
十日ほど前、歌姫に聞かされた「内通者」。
その容疑者として名が挙げられたのが、このメカ丸…与幸吉であった。
捕縛のために彼が居る場所へと向かったものの、既にもぬけのからだったことを想起し、悠仁は首を捻る。
と。困惑する悠仁に、純子が口を開いた。
「その相手も裏切ってこっち側についたんですよ、メカ丸くんは。
それで真人ってのに殺されかけてたところを私らが保護したんです」
「それって、術師側ってことっすか?」
「ええ」
『俺の状況説明はいイ。
まずはこの情報を共有することが先決ダ。
いいか、虎杖。一回で聞き分けロ。
地下五階で五条悟が封印されタ。
今はまだ封印した場から動かせない状況ではあるが、それも時間の問題ダ』
その情報に、悠仁と冥冥、憂憂に多少の差はあれど、確かな戦慄が走る。
情報の信憑性は、五条悟封印を企んでいた勢力と敵対する『声』が悠仁に端末を渡した時点で確定している。
敵の中で一、二を争う障害が消えた。
そうなれば最後、呪霊及び呪詛師たちが悪意を振り撒き始めることだろう。
悠仁は怒りが走る脳を抑え、メカ丸に問いかける。
「わかった。なにをしたらいい?」
『まずは信頼できる人間に情報を伝えロ。
五条悟救出にこの戦力は、ハッキリ言って心許なイ。
一騎当千の実力を誇る「声」の戦力も、面倒そうな相手や改造人間たちを排除するのに手一杯ダ』
「私らは『善意のボランティア』にすぎないので、フリーになってる戦力はいないと思ってくださいね」
お前らみたいなボランティアが居てたまるか。
メカ丸はそう叫ぼうとして、そんな場合ではないと言葉を飲み込んだ。
「っし、わかった」
「伝えるのはいいけど、帳はどうするんだい?
地下五階にも、術師の侵入を拒む帳があったはずだ」
『そちらは問題なイ。
既にミコト様が砕いていル』
「了解。私もそちらに向かえばいいのかな?」
『今はやめロ。敵の首魁とミコト様が本気で殺し合っていル。
今の一級が行ったところで死ぬだけダ』
「ミコト様と渡り合う相手…?」
はて。そんな存在がこの世にいるのか。
少なくとも一級上位。下手をすれば、歴史上存在していた特級術師の中でも上澄だ。
そして、メカ丸の「ミコト様」という発言。
確実に、ヒメとミコトが別れて行動している。
彼女らには、「2人揃わなければ領域展開は使用できない」という縛りが存在する。
切り札を無くした状態での戦闘に加え、未知の戦力。
胸中に一抹の不安が滲む。
が。冥冥はそれを隠すように微笑み、得物を手に取った。
「では、私は地下鉄の線路を確保しておこう。
ここまで周到に用意してきた相手だ。
ミコト様に勝てずとも、逃げる術くらいは持ってるんだろう。
足止めくらいはしておくよ」
『話が早くて助かル。
悪いが時間がなイ。すぐに取り掛かってくレ』
「いいけど…、報酬は?」
『俺の口座の金全部でどうダ?』
「まいどあり」
「アイちゃん、こんな状況でも金を優先するような守銭奴になっちゃダメですよー」
「ならんならん」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「地上の改造人間はこれで全部ですか。
…これ、私以外が担当してたら渋谷ごと更地でしたよ」
その頃、地上の渋谷にて。
ゆかりはその場に倒れた首のない改造人間の死体を下敷きにして、そこらのコンビニで買ったホットスナックを頬張る。
その周囲には、夥しい数の改造人間の死体が転がっており、鉄の匂いが立ち込めていた。
常人なら、この光景の凄惨さに吐き気を催したことだろう。
しかし、ゆかりは特に気にすることなく、湯気が上るチキンを口に入れた。
「……宿儺が暴れ出すまで暇ですねぇ。
あんなんと戦わなくて済むならそれがいいんですけど…」
包み紙を丸め、そこらのゴミ箱に放る。
回収が来るかどうか怪しいが、捨てないよりかはマシだろう。
そんなことを思いつつ、ゆかりは視線をある一角へと向ける。
「どうです?スーツの人間を好きなだけ殺せましたか?」
「………えぇ…、バレてる…?」
視線の先。その物陰から出てきたのは、ズタボロになったサイドテールの男。
満身創痍だと言うのに、諛うようにへらへらと軽薄な笑みを浮かべている。
ゆかりはそれに眉を顰め、ため息を吐いた。
「よく逃げられましたね。
あの子たちならこんな木っ端、逃すはずがないんですが…」
「……す、すごいでしょ?」
「すごいですね。それは認めます。
ただ、逃げた先が悪かったですね。
運が無かったとでも思ってください」
その瞳が男…重面春太を見据える。
肝の小さい彼は短く悲鳴を漏らすと、手に持った刀を盾にした。
「ま、まって…!まって…!
もう、悪いことしないから…!」
「『うんざりする履歴閲覧』」
男に指を向け、呟く。
と。彼女の目の前にウィンドウのようなものが現れ、文字列を形成していく。
彼女はそれをスクロールさせ、露骨に顔を顰めた。
「………あー、こりゃダメですね。
殺したほうが世のためです」
「い、いやいやっ、もうやらない…!
もうやらないから…っ!!」
「あなた、そうやって良心につけ込んで、何度か見逃されているんでしょう?
だから、そんなに命乞いの無様っぷりが様になってるわけですか」
「………っ!?」
どうしてそのことを知ってる。
迫る死の予感に震える重面に、ゆかりは淡々と続けた。
「『何気ない概要閲覧』」
「ひゃっ…!?」
殺される。そう思い、刀を捨てて身を守る。
そのまま数秒が過ぎる。
いつまで経ってもこない衝撃に重面が疑問を浮かべ、視線をゆかりに向ける。
と。先ほどと同じように、ウィンドウに並ぶ文字列を目で追う姿が目に入った。
「なるほど…。幸運を溜め込む術式…。
生存と逃走に長けた術式ですね。
…目元の印…、まだ半分残ってる…と」
(……まさか、術式の解析…?
なんの術式なんだ、あいつ…?)
重面が疑問を抱いたその時だった。
なんでもないように、ゆかりが指を向けたのは。
「『納得するためのデリート』」
「はぇ?」
次の瞬間。重面春太という人間が、世界から消えた。
「閻魔の元に行くまでもなく地獄行きですし、存在ごと消しました。
アンタみたいなのを裁く閻魔様も可哀想ですし…って、もういないし、聞いてませんか」
結月ゆかり。「対両面宿儺」を目的として産み落とされた、飛梅に次ぐ菅原道真の最高傑作。
その力の全容を知るものは、「声」の中でも極一部。
鳴花ミコト・鳴花ヒメ…思ったより苦戦中。2人揃えば勝てるけど、片方ずつだと領域展開が縛られるのが悪い。それでも脳みそ相手に善戦してるあたりバケモノ。
結月ゆかり…ニューテクが組み込まれた術式なので、呪術界に入ったらまずおじいちゃんたちと大揉めする。「両面宿儺と1人でタメを張れる戦力が欲しい」という道真の意向で術式が作られたため、役割の重さにうんざりしてる。デリートは格下のみにしか通じない。
全攻撃黒閃マン…なんか拙者と似たやつがおるって聞いたぞ?拙者のおにぎり食わしたら強なるやろなぁ…。せや!(羂索憤死案件追加)