呪術師全員「ふざけるな!ふざけるな!!馬鹿野郎!!!」
「ここが太宰府天満宮…」
虎杖悠仁が吉野純平と接触している頃。
青々とした梅の木に囲まれた花御は、太宰府天満宮の境内を見渡す。
神社らしく、聖なる気に満ちている。
呪いである自分が踏み入っていい場所ではない。そんな気さえする。
味方であるはずの自然も花御を敵視しているようで、その耳に聞こえてくるのは非難と罵声ばかり。
少しばかりの疎外感を感じながらも、花御は目的である飛梅へと目を向ける。
「あれが、飛梅…」
本殿に寄り添うように聳える梅に、花御は感嘆の声を漏らす。
千年を超える時を生きた木。
自然への恐れから生まれた呪霊である自身が惹き寄せられるのも無理はない。
そんなことを思いながらも、花御はそちらへと歩みを進める。
「それ以上近づくな、不浄の者よ。
道真公が愛したこの身にお前の穢れがうつったらどう詫びるつもりだ?」
「とっとと帰れ、呪い。
ここはお前が踏み入っていい場所じゃない」
怒気を強めた声が飛梅から響く。
花御が飛梅を見上げると、鬼の形相でこちらを睨め付ける双子と目が合った。
あれが飛梅の化身。
それを悟った花御が取った行動は、謝罪だった。
「…土足で踏み入ったことは詫びます。
ですが、今一度私の話を聞いてはいただけないでしょうか?」
「聞いていたか、呪い。
私は『か・え・れ』と言ったんだ」
「お前、自分が『私たちと対等に話ができる立場』だと思ってるのか?
だとしたら酷い思い上がりだ。
人類に仇為すしか能のない呪いめ。
道真公の逆鱗に触れる前に去れ」
取りつく島もないとはこのことか。
怒気を強める彼女らに、花御は少しばかりため息を吐く。
できればこの手を使いたくはなかった。
花御の術式は植物を操る。
つまるところ、植物を自身の支配下に置く術式なのだ。
その気になれば、神木と謳われる木すらも支配できる。
花御が飛梅を支配せんと術式を展開した、まさにその時だった。
「「おい。なにしてんだ?」」
冷め切った声が響いたのは。
気づかれた。だが、もう遅い。
花御は内心ほくそ笑みながら、術式に流す呪力を強める。
「あまりこの手は使いたくありませんでしたが、仕方ありません。
これも人間を滅するためのふせ…」
言い終えようとして、ふと違和感に気づく。
支配できない。
いつものように、植物が自分の手足になったような感覚がいつまで経ってもこない。
その違和感に顔を顰めるより前に、濃密な呪力がその身を撫でた。
「聞こえなかったか?
なにしてんだって聞いたんだよ、木偶」
「道真公が愛したこの身に、小便にも劣る穢れた術式をひっかけやがって。
よほど死に急いでるらしいな、精霊のなり損ない」
その手は、すでに印を結んでいる。
まずい。呪霊故に生まれながらにして呪術を知る花御は、咄嗟に布に包まれた左腕を解放する。
同時に、2人の唇が小さく動いた。
「「挨拶代わりだ。領域展開」」
「領域展開!!」
──── 『朶頤光海』!!
花御を中心に、色とりどりの美しい花畑が広がっていく。
領域展開。呪術における極致。
これを駆使する術師は、現代では最早数えるほども存在しない。
必中必殺の、まさに絶技。
波のように迫り来るソレを前に、2人はひどく冷め切った目で呟いた。
────『屍鬼祈々』
瞬間。花畑を白が覆い尽くした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
花御の脳裏に浮かぶのは、いつかの会談。
夏油含む仲間たちとボードゲームを囲んでいた時のことだった。
「参考までに聞いておきたいんだけどさ、飛梅の術式ってなんなの?」
人から生まれた呪いである「真人」が、何気なしに夏油に問いかける。
花御としても興味深い話題である。
朽ちた桜と力尽きた松、そして主人たる菅原道真の力を譲渡されたとはいうが、それは果たして呪力のみの話なのだろうか。
そんな好奇を向けられた夏油は、苦虫を噛み潰した顔で首を横に振った。
「彼女らが持つ術式は大きく分けて四つ。
自らの術式に加え、朽ちた桜、力尽きた松、そして死した菅原道真の術式を有している」
「五条悟とどちらが強い?」
火山のような頭に、顔の中心に大きく目玉が鎮座する呪霊…漏瑚がその瞳をギラつかせ、問いかける。
夏油はソレに対し、悩むそぶりもなく答えた。
「比べるまでもなく飛梅だ。
そもそも、菅原道真の術式が無下限以上になんでもアリだからね」
「魂を創る…だっけ?」
「そう。その気になれば、君たちのように凶悪な術式を持つ兵隊をいくらでも生み出せる。
ざっくり言うと、呪霊操術の上位互換だね」
そもそもの話、桜、松、梅も菅原道真の術式により強大な術式を得たのだ。
菅原道真がやってのけたことを、その術式と呪力を受け継いだ彼女らが出来ないわけがない。
ただ、生み出した兵隊の管理が死ぬほど面倒くさいからやらないだけで。
かつて勧誘を跳ね除けられた際に返された言葉を思い返しながら、夏油は続ける。
「しかも、厄介なことに生み出す術式の方向性をある程度は定められるようでね。
無下限に対応した術式が欲しいと願えば、無下限を中和する、もしくは無効化する術式を持った魂が生み出される」
「うははっ!マジになんでもアリじゃん!」
「三大怨霊の名に恥じぬ術式…。
流石は菅原道真と言ったところか…」
呪霊操術のように、狙いの術式を持つ呪霊を虱潰しに探し回る必要がないのも大きなメリットだろう。
願わくば手中に収めたかったが、もう二度と「勝てる」と思い込むような莫迦はしない。
夏油は腹の中でそんなことを思いつつ、話を続ける。
「次に、松の術式。任意の対象の時間だけを加速させるという、まあシンプルなものだよ。
ただ、その加速度が尋常じゃない。
呪力を纏うことである程度の抵抗は出来るが、並の人間なら一瞬で腐る」
「我々には関係のない話では?」
「術式反転を使われたら、存在する前に巻き戻されておしまいだ。
彼女らは呪いに近いだけで、呪力の反転が使えない呪霊というわけではないからね」
飛梅の凶悪さはそこにもある。
呪いに近い性質を持つ反面、呪いの身では決して扱えぬ「呪力の反転」を扱えるというのは大きなアドバンテージである。
無限に近い呪力量に、自分を対象にしても発動する巻き戻し。
正直、これだけでほぼ反則である。
菅原道真は時の無情に思いを馳せ、松を見上げていたのだろう。
────まだ生きてたら、7部のアニメ化とかされてたかなぁ。
…実際はぼんやりと松を見つめながら、前世で読んだ漫画に思いを馳せていただけなのだが。
そのことを知る由もない夏油は話を続けた。
「次に、桜の術式。こちらも単純で、触れたものに生命を吹き込む。
これ単体なら反転術式となんら変わりない効力だが、厄介なことに呪霊も対象になり得てね。
要するに、呪霊の大きなアドバンテージである『呪力による回復』と、『人間以上のタフネス』が封じられる」
「んなっ…!?」
これもまた菅原道真が前世の漫画に思いを馳せていたから生み出された術式なのだが、それを知らぬ彼らは術式の効果を前に戦慄く。
桜が自ら朽ちた理由は、この術式にあった。
この術式では、道真公を守ることができない。
平安の世は、呪いの全盛期。
ただ呪いに命を与えたところで、簡単に殺せるようになるわけではない。
本能的にそのことを察していた桜は、自ら朽ちることにより梅と松に術式と呪力を託したのである。
喋り続けて喉が渇いたのか、夏油はストローからジュースを啜る。
そして、覚悟を決めたように口を開いた。
「最後に、飛梅自身の術式。
これは術式を複数持つ彼女たちが有することに意味がある術式だね」
「それは…?」
────所有する術式の『進化と合成による拡張』だよ。
夏油の声は、ひどく震えていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ぐ、ぅ…っ!な、なんと、いう…」
時は戻り、現在。
花御は既に満身創痍だった。
体はところどころ朽ち、左腕、両足が削り取られたかのように欠けている。
怒りすらも戯れだったのか、それとも処理が面倒だったのか。
命からがら逃げおおせた花御は、夏油の忠告を無視したことをひどく後悔した。
「さ、幸い…なのは…、こちらが藪を突くことがなければ手を出さないということ…。
来たる10月31日…。
この場から、わざわざ遠く離れた渋谷に出向くこともないでしょう…。
今は、身を潜め、傷を癒さねば…」
花御は息も絶え絶えに得た情報を整理し、ふらふらと拠点へと向かう。
「……へーぇ?ハロウィン、渋谷、ねぇ?」
「ねぇ、ミコト。今年のハロウィンは仮装しなくていいかな?」
「…いや、せっかくだからしてこうか。
道真公の文官朝服は僕が着るけど」
「えー!?ヒメちゃんも着たい!!」
「ヒメは十二単衣でも着たら?」
「やーっ!!私も朝服ーっ!!」
その独り言が、決定的に歯車を壊してしまったことに気づかず。
鳴花ヒメ・鳴花ミコト…要するに持ってる他の術式に無理やりスキルツリーを展開する術式。スキルは統合可能で、別の術式との合わせ技も簡単に出来る。スキルの習得には莫大な呪力が必要になるが、菅原道真パワーで簡単に習得できる。菅原道真すごい。
転生菅原道真…普段からぼんやりと前世の漫画やゲームに思いを馳せていた結果、無自覚にバケモノを生み出してしまっていた人。術式が大当たりどころの騒ぎじゃないことに気づいたのは左遷されてから。
花御…大戦犯。お前のせいで渋谷事変の難易度爆上がりしました。ふざけんなこのヤロウ。(by脳みそ野郎)