気付いたら転生していた。そう。気付いたら。
いつ気がついたかと言ったら、【白騎士事件】を古ぼけた電気屋のテレビでやっていたニュースで見た時だ。ニュースに白騎士、その後【IS】の名が出た瞬間、形容し難い頭痛と共に『あ、俺これ【IS】の世界に転生してるわ』と気がついた。
【IS】……【インフィニット・ストラトス】の世界に転生できたというのは、確かに嬉しい。純粋に好きな作品だし、少なからず俺の趣味趣向に影響を与えてくれた作品だから……確かに嬉しいが、それでもいくつか許容し難い問題点があるッ!
まず一個目、俺が女になっていること。こういう表現をすればわかると思うが、俺は前世ではお○ん○んがついた健全な男子であったはずなのだ。なのに、ないッ!なにがとは言わないが、ナニがないッ!これは由々しき事態であると言わざるを得ない。
ま、まぁ、男として産まれて、ISに乗れないとか、『二人目』になるよりかはマシかもしれないが……まさか自分の物語に性転換のタグが付くことになるとは思わなかった。
そして二個目。俺の戸籍が存在しないという事だ。特に後ろ暗い理由(クローンだとか改造人間だとか)がある訳ではなく、単純に孤児なのだ。しかも、何らかの孤児院に入っている訳でもなく、純粋なストリートチルドレン。……日本だよッ!?ここ、日本!!日本でストリートチルドレンってなに?!意味不明……
これらの問題に関しては諦めている。まぁ、どうしようもないし。取り敢えずは前世の知識を生かして山菜を採ったりして今日まで生き延びてきた。
だが、そんなことよりも重大な問題は目の前のこれ──────
黄金の装甲に、背面に接続された同色の装甲板とそこから伸びる尻尾の様なユニット。そしてその隙間から漏れ出す冷ややかな青い光。
『えっと、こんにちは?』
そう。ガンダムNTの幼馴染系ヒロインの、ユニコーンガンダム3号機フェネクスが落とし込まれた様なISが、いきなり俺の目の前に現れた。
その機体のスペックをアニメ映画を見て知ってしまっている俺は、心の中で毒吐く。
転生した時と同じように気付いたらここに居て、そしてこの機体が目の前に居た。
さっきまでの山と村との境目みたいな風景から一変。周りを見渡すと、星空の中に浮かんでいるみたいな景色が広がっていて、少し目を凝らせばデブリの先にスペースコロニーの様なものもあった。
何となく、織斑一夏が見た白式の中に似た世界であることを直感で悟った。目の前のフェネクスがリタ・ベルナルとは違う声だが少女の声で話しているのも含めて、恐らく、ここはフェネクスの中の世界なのだろうと。
非現実的な光景に少し見惚れていると、目の前のフェネクスが、俺を抱きしめる様に両碗を広げながら近づいてくる。
俺はその抱擁に、アニメで機体の中に囚われていた魂のことを思い出し、拒む事をせず戸惑いながらも取り敢えず受け入れることにした。
自分の明確な年齢はわからないが同世代の女子に比べて小柄な俺の背丈に、人より一回りも二回りも大きいISが抱きついてくるので、当然俺の体は機体の
『私に乗るの、嫌?』
そんなことない……とは断言できない。
確かに某オンラインチームバトルゲームで一番よく使っていたから、他のどんなロボットよりもフェネクスは馴染み深いし、機体としても好きだ。だけど、フェネクスが先の許容し難い問題となる理由2つある。
まずはそもそもなぜ、ISの世界にガンダムに似た機体があるのか。ISは篠ノ之束が造った467機のみ。その全てが【IS】原作に登場していないとはいえ、目の前にあるこの機体は明らかに異質な存在だ。たとえコア以外のパーツが全て篠ノ之束に製作された訳じゃないとしても、これは些か世界観から乖離し過ぎている様に思う。
そして、この子に搭載されたシステムである2つ。
1つ目のシステムは【NT-D】。『
【n_i_t_r_o】。正式名称を【nEWTYPE iNJECTION tRACE rEFOMED oLDTYPE】、言ってしまえば『機体に乗った
んんッ……思わずゾルタン節が出たが、つまるところ、創作上のロボットなら確かに好きだが、自分で乗りたいとは思えない危険なシロモノ。それが目の前のこの子に対する俺の見解だ。
『そっか……』
そんな俺の考えが伝わってしまったのか、悲しそうな少女の声と共に流れてきた哀しげなイメージに罪悪感が湧くが、それでも流石にフェネクスは──────
『っ───?!』
「なんだ?!」
俺の事を抱きしめて悲しそうに見下ろしていたフェネクスがいきなり目線を俺の後ろにやった瞬間、俺たちの横を掠めるようにビームが飛んできた。
フェネクスの咄嗟の回避によって事なきを得たが、続けて2、3と飛んでくる薄い水色の熱線に、自分達が何者かに襲撃されていることを悟った。
依然として俺の事を抱き締めたままのフェネクスの腕の中で身を捩ってビームが飛んできた方向を見ると、その先に紺色のIS4機の姿を確認した。
「シェザール隊って言ったところか……?」
『いつも私の事追ってくるの』
ウンザリしていますと言った声音のフェネクスに「そうか」と簡単に返事しながら、まるで【ガンダムNT】に登場したシェザール隊みたいなIS小隊を観察する。
小隊の内の1番早い、先頭を飛んでくるアイツは恐らくエース。それに続く形で2機が随伴していて、最後の1機は近くのデブリに大型のランチャーを設置してこちらを狙ってきている。おそらく最後のがさっきのビームの射手だろう。
650二機に600二機。対してこちらは700。数的不利だが、戦い方さえ考えればなんとかやれなくもない範囲だと、いつの日かのゲーム脳がどんぶり勘定をはじき出す。
「フェネクス」
ISの戦いの中に生身でいるのはリスクが高すぎるし、正直嫌だが、ここを切り抜けるためにも、今だけでもフェネクスの力が必要だ。
今この瞬間だけは相棒になってやる、と思いを込めながら機体の名前を呼んだ。
『うん、分かった』
さっきまでとは違う、少し嬉しさを滲ませるような声音で同意をしてきたフェネクスに身を委ねると、実体があり抱きしめることができた彼女の胴体がかすかなノイズと共に消えていく。
胴体が消えて出来た隙間に身体を滑り込ませれば、抱きしめられていた時とは違う温かさと共に様々な情報が一気に頭の中に流れ込んでくる。その情報を顔をしかめながら受け止めれば、次の瞬間に感じたのは彼女と俺が一心同体になったような感覚。
鮮明な視界、伸びた手足、生えた翼。
──────接続完了。
パッケージの中から、さっきの情報の中にあったビーム兵器を呼び出す。ビームマグナムだ。
ビームマグナムを片手で構え、一番最後方にいるスナイパーに向けて発射する。反動はフェネクスが勝手に軽減してくれた。
発射されたビームの塊は、そのまま真っ直ぐスナイパーが陣取っていたデブリの方へと飛んでいき、着弾。寸前でスナイパーはランチャーを捨てて離脱したようだが、その場に残っていたランチャーはデブリごと爆発して消滅した。
スナイパーを無力化できたことをハイパーセンサーで確認しつつ、次の敵へ意識を向ける。
突出して速いヤツは恐らく武装からして近接型。サーベルを抜いてこちらに単身突撃してきている。
残りの2機は恐らく援護要員。グレネードランチャーの様な武装を携行しているが、あれは恐らくネットガンだろうと予測する。
先に倒すべきは後ろの2機だ。そう考えると、フェネクスから『任せて』という声が聞こえてくる。
任せるという返事をする前に、背中から一対のアームドアーマーDEが飛んでいく。
飛び立ったアームドアーマーDEは、そのまま随伴していた2機に突撃して戦場から遠ざけていく。……あの様子なら任せてもいいだろう。
また意識を切り替え、近づいてきた近接型のサーベルに、ビームマグナム片手に腕から取り外した左手で構えたビームサーベルで合わせる。
鍔迫り合いをしながら、目の前のISのことを観察するが、何かしらのプロテクトでもかかっているのか、その表情を伺い知ることはできない。
まぁ、別に顔なんて見たところで
私の周りを飛ぶDEを一瞥すると、先端のキャノンが近接型の方に射撃を行った。
近接型のISはそれを綺麗に宙返りするように避けると、さっきの蹴りが何でもなかったかのようにまたこちらに一気に詰めてきた。それに呼応するかの如く、DEが近接型と私の間に割り込むようにして守ってくれる。
その陰に隠れるようにサーベルを格納して、再度ビームマグナムを構える。
敵のISがDEから離れた瞬間、俺はその隙間を縫うように、その先にいるISに向かってビームの塊を放った。
咄嗟に防御しようとしたのか、サーベルで身を守ろうとするISのサーベルごと腹部にビームが命中した近接型のISは、そのまま高度を下げるように私の足元に堕ちていく……
私はそれに追撃しようと、もう一度ビームマグナムを構える──────
『もう、大丈夫』
「ッ、あ……?」
激痛。激痛。激痛。痛い痛い痛い痛い、は?
頭に走った激痛に思わずその場で頭を押さえていると、次第に視界がクリアになってきて、さっき俺が何をしようとしたのかが次第にハッキリしてきた。
「こ、これは……」
それと同時に、自分が今いる場所も変わっていく。
宇宙の真ん中に見えていた周りの風景は、水平線まで広がる大海原とそれに反射する星空に。スペースデブリだと思っていた隕石群は、ミサイルやら何やらが不自然にくっついた物が浮いて形を成しており。遠くに見えていたスペースコロニーは、かろうじて見える距離にある何処かの島だった。
認識が、歪められていた。
それに意識が書き換えられたかのように、襲ってきていたIS小隊に対して殺気を放ってしまっていた。
【n_i_t_r_o】──────脳を弄る過程で、弄られたパイロットが凶暴化してしまう危険なシステム。十中八九、コイツの仕業だろう。
未だフェネクスを着たままの俺は、装甲の隙間から漏れ出ていた青の光が無いことを確認した。さっきまで世界を誤認していた時はサイコフレームの光が漏れ出ていたことから、おそらく今は特に何のシステムも動いていないということなんだろうか。確かめる手段はないが。
兎に角、今は自分の認識が歪められていないと信じるしかない。それよりも──────
「さっきまで襲ってきてた奴らは───」
「やっと隙を見せたな、不死鳥」
「ッ?!───あッ……」
急接近してきたその声が背後から聞こえてきた瞬間、首元に走った鋭い痛みと共に、俺の意識は沈んでいった。