劇場版リブロマンサー・ファイアスターター ~東の果ての儚き御巫~   作:火ノ鷹

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御巫サイド


ガール・ミーツ・ボーイ

 御巫(みかんこ)。極東の島国において神事を取り仕切る女性であり、重大な伝統と使命を持つ者達の名前である。

 数年から数十年に一度、神託と共に現れる『天御巫(あまつみかんこ)(とびら)』。伝統と使命はそこで行われる儀式『天戸(あまと)開き』に集約される。最も優れた舞を踊り、身体を依り代として神を現界する。神に選ばれ依り代となった御巫は『オオヒメ』と奉られ、神力を以て豊穣を約束した。

 

 『天戸(あまと)開き』とは、うら若き御巫たちが天地の狭間に住まう霊獣を通し天に舞を届け、日ノ神を召喚し神力を授かる儀式。故に少女に優れた舞を躍らせる伝統は彼女たちにとって使命そのものとなった。

 

 受け継がれてきた伝統。神力を授かることが出来れば御巫(みかんこ)に現界され、約束された豊穣と安寧を得る。そうしてこの国は豊かに過ごせてきた。もちろん誰にも現界されない時代もあった。豊穣とまでは言えないが餓死する程に死者が出た時代でもなかったが、現界されていた時代に比べれば比較すべくもない。

 

 だが、だからこそ神にと願う者は多い。数多くいる御巫(みかんこ)でも熾烈な争いが起きる程であり、御巫(みかんこ)本人を道具扱いし『オオヒメ』になればいいと思う者さえいる。

 

 そして「最も優れた舞を踊る」という都合上、「優れる」方向性はいくつかに分けられた。

「自分らしい舞こそが最も優れている」という(つるぎ)と呼ばれる派閥。分家が最も多く当代のオオヒメの御巫(みかんこ)も所属しており、方向性も分かりやすいため人数が多い。

「より美しき舞こそが最も優れている」という(かがみ)と呼ばれる派閥。派閥には外交といった分野も行っている者もおり、今だけに留まらない視野の広さが強みだ。故に異色と呼ばれながらも実力のある御巫(みかんこ)が多い。

「初代が踊った舞こそが最も優れている」という(たま)と呼ばれる派閥。最も御巫(みかんこ)の争いが激しく、落ちぶれた分家の存在やエリートであるという自負があったりと格差が大きいが、それだけに最上位に位置する御巫(みかんこ)の実力は計り知れない。

 

 当代のオオヒメの御巫(みかんこ)(つるぎ)であり、その先代はまた別の派閥であったりと派閥に優劣はない。あるのは御巫(みかんこ)の実力だけだった。

 

■■■

 

「いーだ!フゥリちゃんの意地悪!」

「からかってるだけだよ、ハレちゃん」

「ハレ先輩なら知ってるかなって聞いただけですよー」

 

 三人の御巫(みかんこ)が姦しく話す。剣、鏡、球の筆頭……最も優れた御巫である、剣の御巫(みかんこ)ハレと鏡の御巫(みかんこ)ニニ、そして球の御巫(みかんこ)フゥリの三人だ。そして三人の肩にはそれぞれ霊獣の火鼠、猫又、妖狐が乗っていた。

 

 御巫(みかんこ)は一定以上の実力を持つと霊獣と呼ばれる存在と契約する。相性もあるが、潜在能力の高さといった彼女らが認識していない能力も霊獣は見ている。ただ、御巫(みかんこ)からすれば運任せに近いものと扱われている。

 

 火鼠、猫又、妖狐、どれも並大抵の霊獣ではない。それだけでも筆頭と呼ばれるに値する。

 

 ただそれはそれとして、御巫(みかんこ)は少女なのだ。話題が尽きない会話っぷりも必然のことだった。

 

「初恋ってどんなものなんですか?なんて知る訳ないじゃん!私たちは御巫(みかんこ)なんだよ!?」

「……私はお父さんに付き添って外交に行ったりするから」

「ニニちゃん!?」

 

 御巫(みかんこ)は住んでいる場所が島国なこともあって閉鎖社会に近い。さらに使命の重さもあり恋愛事に現を抜かすわけにはいかない。そのため御巫(みかんこ)の近くに父親以外の男性はいない……が、鏡の派閥だけは違う。

 国の外交といった面もあるのだ。外国へ視察に行くこともあり、歳の近い男子と話すこともあった。筆頭のニニであれば猶更だ。

 

「裏切り者ー!」

「気になる人いなかったから大丈夫だよ」

「あ、そうなの?じゃあいっか」

 

 天然気味のハレはニニやフゥリのいった言葉をそのまま素直に受け取る。騙されやすかったり、フゥリが遊び半分で催眠術をかけたら本当に引っかかったりと純朴な性格なのだ。ニニの言葉をそのまま受け取り裏など考えもしない。

 フゥリに対しても、まったく同じ感覚で接していた。

 

「あ、そろそろ呼ばれてるから行くね」

「うん!じゃあねフゥリ!」

「また明日ね」

 

 時間だと断り、フゥリは手を振って二人と別れる。歩いていく足は快活だが、二人から見えなくなった表情は暗かった。

 

「フゥリ……」

 

 ニニの心配そうな声が、聞こえないほどに。

 

 ■■■

 

 フゥリは珠の派閥、熾烈なエリート争いを行う派閥だ。自身の時間も何もかも厳格に定められた世界に生きている。

 

「ごめんね、ハレ先輩、ニニ先輩」

 

 呼ばれてるなんて嘘……ではないけど今すぐじゃない。

 

 本家のお屋敷に呼ばれてはいる。けれど呼ばれてるのはもう少し日が落ちてから。だから、実際には少しだけ時間が空く。

 

 私には時間がない。厳格極まりない球の派閥は舞踊の踊り方や仕草、儀礼や態度といった細かなことまで教えられる。そこに自分自身という存在はいらない、必要なのは初代の舞踊を初代らしく踊ることだけ。

 

 それだけでもものすごく時間がかかる。御巫(みかんこ)が天戸開きで踊る舞踊は最も優れたものでなければならない。ハレ先輩の火叢舞(ほむらまい)とか、ニニ先輩の水舞踏(アラベスク)とか……だから、初代の舞踊を踊れるようになるだけで時間がかかり過ぎるのは当たり前。

 

 それでも(フゥリ)は完遂できてる。誰よりも初代の御巫(みかんこ)舞踊を再現できてる。私を含めて、誰の目にも初代の舞踊だと誤認させられる程に。けど……それは私であって私じゃない。

 

 最も優れてるのは初代の舞踊でいい。でも私の舞踊が無い理由にはならない。でも天戸開きで踊る舞踊は最も優れたものを踊らなければならない……だから、こんなことは慰めでしかない。

 

 考えながら目的地まで走る。伝統と使命から外れた自分自身だけの舞踊を求めるなんて馬鹿な真似をするならどうやってでも時間を作るしかない。例え尊敬するハレ先輩やニニ先輩に嘘を吐いてでも。

 

「はぁっ!」

 

 秘密の練習場所。ニニ先輩やハレ先輩、本家の人すら知らない場所で心のままに踊る。

 初代の御巫(みかんこ)舞踊を学んできている以上、どうしても自分自身のオリジナルを舞おうとしても混じってしまう。そこから抜け出さずに舞えば初代の舞踊に成ってしまう。

 

 じゃあ抜け出せば?抜け出したらその先の舞は……どうやって舞えばいいの?子供の頃から踊りたい舞踊を、風のような舞を舞いたいのに。

 

「今はもう、分からない……なぁ」

 

 自棄だった。踊りも舞踊の形になってすらいないものだった。頭の中を空っぽにしたかった。

 

 初代の舞踊が身体に染み付いて離れない。それでも今吹いている風のように身を任せて、感情のままにフゥリは舞う。

 

 頭も体も空っぽになって、身体が風になったかのような感覚に身を任せて、このまま風になれたなら悩みも何もかも無くなるのかな──

 

「「きれい……」」

「え?」

 

 ──瞳に情熱を秘めたヒーローが、そこにいた。

 

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