劇場版リブロマンサー・ファイアスターター ~東の果ての儚き御巫~   作:火ノ鷹

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風のような少女 フゥリ

「誰!?」

 

 フゥリは珍しく大きく声を上げる、そうすれば誰かが気づくと教えられているから。

 ただここは秘密の場所。ハレやニニすら気づかない、人里側に近いながらも誰にも気づきにくい絶妙の位置にあった。

 

「あっ!あの!」

「落ち着いて」

 

 フゥリの視界に入ったのは二人の男女の姿。この国にはめったに見ない姿をした、異国の人達。

 こんなところに来る外国人、フゥリが考えつくのは一つだけだ。

 

「……観光客?そんな場所じゃないけど」

 

 少し距離をとっていたものの、観光客特有の距離の詰め方で少しずつ二人はフゥリに近づいていく。

 警戒度を上げようとしたフゥリに、マジガールがSorryと眉をひそめながら声をかける。

 

「ごめんなさい。ついつい見惚れてしまって」

「その服装!御巫(みかんこ)ってやつだよね!?」

 

 マジガールの配慮を無視し勢いよく距離を詰めていくG(ギーグ)・ボーイ。二人の配慮の有り無しのせいでギクシャクしながらもフゥリは答えてしまう。

 

「え、ええ。確かに御巫(みかんこ)だけど」

「ファイアスターターでやってた通りだ!」

 

 盛り上がるG(ギーグ)・ボーイにフゥリは訳が分からなかった。御巫(みかんこ)はニニを筆頭とする派閥はこの国の代表にも該当する。ゆえに御巫(みかんこ)を知っているのはおかしくない。

 理解できないのは目の前の二人と言動だ。女の子の方は少しずつ歩み寄って話せるかもと思わせる雰囲気なのだが、男の子の方は明らかに異常だ。会話したいのかしたくないのかすら分からない。

 

「ふぁいあすた……?」

「ちょっと待ってて」

 

 オウム返しの疑問をぶつけようとしたが、女の子が手のひらをフゥリに向けて静止してほしいと声をかける。

 そして、男の子の襟を引っ張ってフゥリから引き剝がし、背中を向けて隠して話をし始める。

 

「落ち着いてって言ってるでしょ!」

「でもでも!あの子が」

「時間もないでしょ!もう日が落ちつつあるの」

「でもあの子は」

 

 会話が続いていく二人。ただ、フゥリの耳は非常に優れているのを二人は知らない。

 今のフゥリは頭に霊獣妖狐の耳がついている。力のある霊獣なら獣特有の五感を共有できることもあり、二人の会話は筒抜けだった。

 

「ふふっ、仲がいいんですね」

 

 警戒していたが肩透かしもいいところ。ただの仲の良い友達同士としか見れない姿にフゥリは微笑んでいた。

 背中を向け話している二人にひょこひょこと近づくフゥリ。空気の動きを察したのかマジガールが振り返り、G(ギーグ)・ボーイと二人とも体をフゥリの方へと向ける。

 

「あー……その、ごめんなさい。私たちは観光で来てて、そろそろ帰るから大丈夫」

「さっきのは舞踊と呼べないものだったから見られても問題ないですよ」

「あれで!?」

 

 G(ギーグ)・ボーイが声を荒げる。誰の心にも風のように入ってくる踊り、その微笑みは偽物でも似せた物なんでもなく、ただちょっと蠱惑的で純朴な女の子の顔。G(ギーグ)・ボーイが感じったものはそういったものだった。

 

「え、ええ。あれはただ踊ってただけで」

「あんなに綺麗だったのに!?笑ってたのに!?」

「え」

 

 フゥリは踊るときに笑わない。フゥリの踊りはオオヒメの舞踊であり、そこにあるのは狐の如く自らさえも騙そうする微笑み。言わば意識した微笑み方だ。

 だが二人が来る前に踊っていたのは自棄そのもの。意識などまともにしておらず、ただただ感情のままに体を動かしていただけなのだ。

 

「私……笑って……?」

 

 知らない間にフゥリは唇に指をあてていた。分からない、理解できない、腑に落ちない、そういった感情が渦巻いて思考が停止寸前まで走る。

 

 そんなフゥリの考えを覚ますかのようにカァカァと鳥の声が鳴く。鳥の声、フゥリにとってそれは何かしら重要なことがあったと目を覚まさせる合図だ。

 

 例えば、時刻が迫っていること。日が暮れたら、行かなければならない場所があること。

 

「はっ、もう日暮れ!?急がないと」

「忙しいのね、ありがと」

 

 マジガールがお礼に頭を下げる。異国の文化だというのに配慮してくれる彼女に、フゥリは指先をくるくると回し珠を作り出す。

 

 最上位に位置する御巫は自らの霊力……いずれ神力となる力を形にすることができる。ニニならバトンのような棒をくるくると回せば鏡になるように、フゥリも同様に珠の形をかたどることができる。

 そしてその玉は、自由自在に操れる。

 

「麓までは送ったげる!それ目印にして!」

 

 ひょいっと二人の目の前に球を投げる。フワフワと浮いた珠は、二人の視線でふよふよと動きを変える。

 

「何これ!?」

「すごっ」

 

 二人の声に反応し、珠は少しずつ動き始める。背後の森の方へ動いていき、早く行こうと言わんばかりに二人の動きを待っていた。

 

「行こう」

 

 G(ギーグ)・ボーイにマジガールも反応し、フゥリに手を振って珠の方へ走っていく。日が落ちるまで時間が無い、急がなければ宿が無いなんてことになるのだ。

 ただ二人共、今来ている島では礼はきちんと言うべきと事前知識として持っていた。

 

「「ありがとうー!」」

 

 二人の言葉にフゥリも手を振って微笑み応える。二人が数瞬で姿を消したのを見届け、自身も振り返り走り出す。

 

「急がないと」

 

 時間はかなり推しておりそれなりの速度を出さなければ間に合わない。本来ならなりふり構わず全力疾走するのだが、何故だか今は違っていた。

 

 確実に間に合うが急いだりはしない。心にどこか余裕ができていた。

 

「あの子……。……私、笑ってた、のかな」

 

 走りながらフゥリは口に指を当てる。そしてその表情は微笑んでいたが、フゥリ自身が気づくことはなかった。

 

 

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