劇場版リブロマンサー・ファイアスターター ~東の果ての儚き御巫~ 作:火ノ鷹
珠の派閥が有する本家の屋敷の奥──神社の本殿。かつて神社を隠すように動いた時代があり、増築によって隠された場所。そこに明かりは無く、月の明かりが少しだけ入り込み暗がりが広がる。中には、日ノ神のご神体が祀られていた。
そこに立てるのは、珠の派閥の御巫だけ。珠の派閥の最高権力者であり、オオヒメの舞を継いできた者だけ。
現代でいえば、珠の派閥最高権力者の老齢の女性と、フゥリだけ。今、ご神体の前にいるように。
「ギリギリじゃ、フゥリ」
「申し訳ございません」
「余裕を持った時間のギリギリ、意味は?」
「心に余裕がない証拠かと」
フゥリを見下す、それだけでフゥリは膝をついて頭を下げる。身に沁みついた行為であり、フゥリもまた何の感情も持たずに機械的に反応する。
嫌ではない。反抗したい訳でもない。ただそれがあるがままの正しい姿であると認識しているだけなのだ。そうしなければならないからフゥリはそうしている。ただそれだけだ。
「分かっているならよい。時間は一刻一刻と近づいてきておる。明確になった今、お主の心境は一つにしなければならん」
「はい」
今ここにいるフゥリに迷いは無い。そうなるようにしてきたから、そうしなければならないから。自由の風などここには要らず、必要なのは狐の如く自らをも騙す風だけ。
「御巫舞踊ー預けられた言の葉ー、珠の派閥に伝わる舞踊の一つ。分家の一つが司る舞踊……天戸開きの日時を知るためだけの舞踊。オオヒメの力を継ぐに値しない舞踊じゃが、有用な面は一応ある」
「霊獣の力すら借りれぬ者が躍る舞。分かっております」
フゥリの顔は変わらない。女性の言葉がフゥリへ自らの意味を持たせてようとしていても。
「
「そんなことはございません」
フゥリの顔は変わらない。女性の言葉がフゥリへ自らの意志を持たせてようとしていても。
「
「あり得ません」
フゥリの顔は変わらない。女性の言葉がフゥリへ自らの意思を持たせてようとしていても。
「
「初代オオヒメの舞踊こそが私の全てです」
フゥリの顔は変わらない。女性の言葉がフゥリへ血筋の意志を持たせてようとしていても。
「ならばよい。御巫神楽まで残り三日程とまで分かっていれば、為すべきことは分かっておろう……
そうじゃろう?フゥリ」
「オオヒメを、必ず」
フゥリの顔は変わらない。フゥリ自らが持つ意味も、意志も、何もかもはたった一つだけのためだけ。
「既に完成に至っている御巫舞踊を、御巫舞踊ー迷わし鳥ーを、踊るがよい」
立ち上がり、フゥリは自らの意志で
御巫舞踊ー迷わし鳥ー。御巫の中でも最高位・筆頭と呼ばれる中でもさらに頭一つ抜けた御巫フゥリが踊る舞踊。その本質は初代オオヒメの舞踊を模することにある。
妖狐は鳥のように、初代オオヒメの霊獣である常世長鳴鳥のように。フゥリは初代オオヒメのように、力を似せた力へ魅せるように。
そこにいるのがフゥリではなく初代オオヒメであるかと錯覚させる舞踊。老齢の女性はその舞踊を幻視する。伝わりし初代の舞踊と瓜二つ、伝承に残る神秘そのものであると。
「……完璧じゃ。これならハレもニニも超えておる。必ず『オオヒメ』は我らの下に」
御巫舞踊ー迷わし鳥ーを踊るフゥリに言葉は届かない。届くのは日ノ神の声だけ。初代オオヒメはそうして『オオヒメ』と成ったのだから。
届かないなら時間が過ぎてフゥリが踊り終わるのを待つ以外にない。
踊り続けるフゥリを背に、老齢の女性はその場を離れていく。小言を漏らしながら。
「トンビが鷹を生むとは正にこのこと。ふふふ……御巫神楽が待ち遠しいわ」
そこにあるのは珠の派閥から次代のオオヒメを出すことだけ。そのためなら何でもし、仮にフゥリでなくても同じことをしただろう。
分家でも素晴らしい舞踊を踊るフゥリを宗家へ連れることも辞さない。そのために人質をとり、フゥリ自身のあらゆる全てをオオヒメに捧げることにしたとしても。