劇場版リブロマンサー・ファイアスターター ~東の果ての儚き御巫~ 作:火ノ鷹
フゥリのおかげで無事下山できた二人。宿泊も問題なく進み、体力も限界だったため即座に就寝していた。
翌日になり朝風呂に行こうと二人が部屋を出たところ、宿の客が騒がしく起きだす。
たった一つの情報を掴んだからだ。この地域でなければ得られない情報が口コミで。
「御巫紹介イベがあるってよ」
「それも筆頭だろ?中々見れない人たちだぞ」
「絶世の美女って聞いたことあるぜ」
「少女だから美少女だろ」
「最高か?」
騒がしくドタドタと宿泊客が駆け出していく。
「……あれ、ホントかな?」
「何?フェイクニュース?」
マジガールは聞き取れなかったらしく、
「御巫の筆頭を紹介するイベントがあるみたい」
「そもそも筆頭って何」
「御巫には派閥と序列があるんだ。剣とか鏡とかっていう派閥があって」
「アメリカのスポーツで例えて」
マジガールは御巫そのものには興味ないのだ。どれだけ凄いのかが分かれば理解しようとはしても、そこまでしかしない。
「んー……ボクシングのWBAとWBCのトップみたいな感じ」
「筆頭はチャンピオンってこと?」
「そう。ただチャンピオンって言っても身体能力じゃなくて芸術的な能力なんだ。一言で言えば『一番魅了させる踊りを踊れる』のが筆頭なんだよ」
御巫の使命は『優れている踊りを踊る』のだが、G・ボーイ達は知る由もない。それも当然であり、外交からの
あくまで『優れている』のは『オオヒメ』となるため。例え『誰でも魅了できる踊り』が踊れるようになれると言われても御巫は求めないのだ。なぜならそれは『優れていない』のだから。何より踊りは捧げるものだから。
「チアとは違うのね」
「別物だね。こっちはどんな人でも目を奪う魅了性があるんだ。宇宙から地球を見て感動した、みたいなレベルらしいよ」
「比較できないって訳」
マジガールの理解は進み……
リブロマンサーのテンションが上がれば何が起きるか、二人とも知っているが今は意識の外だった。
「そう!御巫は比較なんてできないんだ!そんな比較できない筆頭の紹介だよ!?行くしかないよね!」
「そうだよな!流石、分かってるな!」
「嫌ではないけど……っ!?」
「──ファイア!?」
突如として現れた赤髪の青年──ファイア。
マジガールの困惑を他所に
そんな性格だが、今は貴重な情報源だった。何せファイアはファイアスターターという作品の主人公、つまり──ストーリーを知っている。
「きな臭い気配を感じてな、出てきた」
「ここがどこか分かってるの!?」
もちろんファイアスターターというストーリーはあくまでモデルがあって参考にしただけ。しかし参考にした、ということは原型を知っているということだ。
「巫女のいる場所だろ。しかもそのオリジナルだ」
「ファイアスターターで何が起きたか知ってるよね?」
「当たり前だろ。
巫女を犠牲に儀式を行う。その先に召喚された神話生物がこの国を繁栄させるってやつだ。巫女の犠牲で恵みの雨が降り国は救われ、神話生物もそれをキーにしてため込んでいた力を振るい国を豊かにして万々歳ってやつだな。
俺の時は既に神話生物が死んでて、俺の炎と巫女の力で甦らせるって話だったろ」
ファイアスターターのストーリーは現実と同じではない。ダーク寄りにすることもあれば、ギャグ寄りにすることもある。
しかし劇場版はだいたいダーク寄りだ。言い換えると現実で起こっていることをモチーフにした場合、現実側はそれほど悪質にはならない。ダーク寄りの逆、ライト寄りになると言えるはずだ。
G・ボーイも分かってはいる。けれどもっと邪悪である可能性が0である確証は無く、儀式が従来通りであるのなら儀式は止めるべきでもない。
「そのオリジナル。何があるか分かる?」
「知らん。ただ共通してることはあるだろ。巫女と御巫ってな。
キーはそこで、それ以上じゃない」
御巫の儀式。そこに何かがあるのは分かる。となればやらなければならないのは御巫を知ることだ。紹介なんてイベントは喜ばしいこと以外の何物でもない。
「俺がここにいても
「あ、ちょっ!」
ファイアは二人を置いて小走りで駆けていく。これがファイアなりの気遣いなのはG・ボーイにも分かった。
何せファイアが知っているのはファイアスターターの世界であって現実じゃない。現実の御巫とファイアスターターの巫女が同じ扱いだとしても、行うことまで同じではないのだ。それを教えるために離れたのだ。
「行っちゃった」
「紹介、行かなくていいの?」
G・ボーイが振り返るとマジガールはコンコンと腕時計を指先で叩いていた。
いつからイベントが始まるのか分からないのなら、先んじて行動した方がいいのは事実。
「急がないと!」
そしてギーグというのはイベントがあれば一早く動く体質だ。指摘されて動かないギーグなんてものはいないのだった。
■■■
筆頭の紹介は山頂にある神社の本殿で開催されたイベントだった。しかも先着順。
昨日フゥリに出会った場所が裏道だったため、道を覚えていた二人は他の参加者より早く到達できていた。迷ったのは一度も来たことが無かったからであり、さらに言えば登る道に印象も残ってなかったからだ。
今回は「ただ登る道」ではなく「フゥリと出会った場所への道」なのだ。G・ボーイはギーグ魂全開で一度で全部を覚えていた。さらにそこから裏道を見つけるのも簡単だった。何せフゥリがいた背後がそれだったのだから。
「それでは始めます」
進行役の女性が静かに告げる。一人ずつ、紹介が始まった。
明るく活発な少女ハレ、冷静で落ち着いた少女ニニが紹介されていく。彼らの舞は燃え滾る中に強さを感じる舞、バレエにあるアラベスクを参考にしつつ流れる川を思い起こさせる舞だった。
本来であれば霊獣が参加することで舞踊が完成するのはファイアスターターで知っている。しかし力が強大過ぎるために今回は霊獣はいなかった。
しかし筆頭とは国のトップではないが国宝級の人物紹介とでもいうべきものなのだ。警備のための霊獣は見えない状態でちらほら現れていた。
最後に出てきたのは、緑髪の少女。狐の耳をした彼女は、
「あれ、昨日の、筆頭だったんだ」
「儚い、っていうんだっけ?あの雰囲気」
厳かな場所であるのは二人も分かっている。ひそひそと超が付く程の小声で話す。
『珠の御巫、フゥリと申します』
一言だけという、無味極まりない紹介。ただ紹介した人物はそれだけで十分と自信たっぷりの顔をしていた。
それだけの舞踊が、彼女にはあった。
「──!」
フゥリが舞う。踊るのではない、舞っている。
国が違うG・ボーイたちにも分かる。ただの踊りなどではない、神秘そのもの。地平線へと飛ぶ鳥のような、どこまでも続く海のような、自然と一体化したかのような神秘の舞。
二人から零れる言葉は、表現などできないが故に簡素なものにしかならなかった。
「凄い綺麗……」
「わ……ぁ……」
フゥリの舞も終わり、イベントも終わりだと司会役の人が進めていく。御巫が退出していき、見学人もぞろぞろと退出していく。
G・ボーイとマジガールも退出していく。ただG・ボーイは余りにも記憶に残ったことがあり、一度だけ舞台へ振り返る。
「何で……あんな顔してたのかな」
「顔?」
踊っていたのはフゥリだ。舞そのものに魅せられ、フゥリが舞っていた時間そのものが記憶に焼き付けられたとすら思えた。
ただたった一つだけ、昨日見た踊りとは全く別であると主張していたことがあったのだ。
「──踊ったのはフゥリなのに、まるでフゥリじゃない人の顔だった」
その人の顔を知るのは、もう少し後になってからのことだった。
■■■
夜、二人は再び宿泊していた。観光する期間は二週間以上とってあり、数日程度なら留まってもいいかと考えたからだ。
ついでにファイアが行方不明であることもある。近くの温泉にでもいるのだろうが、二人は目にしていなかった。
温泉からは上がり、マジガールが就寝し……G・ボーイは広縁から外を見上げていたときだった。
「聞こえてるか」
「誰?」
G・ボーイにしか聞こえない声。外からか中からか分からないが、闇の中から聞こえてきていた。
「静かに聞け。お前が頼りな面も大きいんだ」
「……エージェントだね。来てたんだ」
G・ボーイの知り合いでこういった動きができる人は一人しかいない。かつて戦ったフィクサーとの闘いでも情報を集め、戦力を集中させたりとサポートしてくれていた。
「バレたなら姿を隠す必要もないか。話は簡単なことだ」
窓の外に影が映る。リブロマンスした姿、デスブローカーの姿ではなく素の姿だった。話す最初の言葉は簡潔に、内容は重要に、そんな癖のある言葉は変わっていなかった。
「御巫
「──!まさか、それって」
マジガールが起きないよう、驚愕を飲み込みながら声にする。
G・ボーイはこの島国に来る前、ファイアスターターのストーリーを知っているが故に言葉の意味を調べていた。カグラがどういう意味を持つのか、知らないわけがなかった。
カグラ──神楽、すなわち儀式。ファイアスターターのストーリーで言えば、絶望の始まりとすら言える重大な話だ。
ただそれは……ファイアスターターという漫画の話だ。ここにいる
「知っているな、話が早い。あれは危険だ、止めなければならん」
「驚きたい気持ちが凄いけど、あなたがいると落ち着かないといけないのは辛いかな。
一応聞くよ、何で危険?」
神楽は現実の儀式であってファイアスターターの呪われたようなものではない。聞いた話にもオオヒメという昔の御巫を呼び出すらしく、危険などどこにもない。それに御巫が力を持っているのは分かるが、どれだけ強力であってもリブロマンスできる自分たちが太刀打ちできないということはないはずだ。
G・ボーイの考えに、エージェントは眉間にしわを寄せる。
「分かっている事実だけ告げておく。御巫神楽はオオヒメの御巫という……まぁ一言でいえば神様だ。それを降霊する儀式なんだが、強大過ぎる可能性がある。我が国を脅かす脅威は排除せねばならん。ただそれはおまけに近い。先代のオオヒメの御巫を我が国は警戒してなかったしな。
……危険なのは、裏で知ったことにある」
「……裏?」
エージェントもオオヒメの御巫は知っていた。知っていて放置していた。問題はないと判断したからだ。
しかしエージェントは自らの技能によって、今現代における御巫神楽の裏に秘められた物事を知ってしまった。それがどれだけ強大なことなのかも……判断が間違っている可能性が十分以上にあることも。
「珠の派閥が、秘め事を行っている。御巫神楽に何かを仕掛けてくるつもりだ」
珠の御巫。G・ボーイの脳裏に浮かぶのは狐耳をした少女の姿。迷っていた自分たちを助けてくれた、風のように踊る御巫。
「珠、まさか」
G・ボーイの頭で悪いイメージが繋がっていく。ファイアスターターのストーリー、神話生物、オオヒメの御巫、隠された儀式、フゥリのフゥリじゃない人のような笑顔。
エージェントは、G・ボーイの悪いイメージを助長させるように口を開いた。
「やつらは、フゥリを使って何かをしようとしている。ファイアスターターのストーリーは知っているだろう?」
G・ボーイはファイアスターターのリブロマンサーだ。知らない訳がない。否、知っていなければファイアスターターのリブロマンサーになどなれないのだ。
「巫女の……犠牲……」
ファイアスターターのストーリーにある伝承の通りだというのなら巫女は自ら供物となって神話生物の復活を果たす。供物とは即ち、死を意味する。
つまりこのまま御巫神楽が進めば──フゥリは、死ぬ。
「二日後の夕方、それが御巫神楽の始まりだ。覚悟だけはしておくことだ」
エージェントはそう告げて暗闇の中に姿を消していく。残されたのは、呆然としているG・ボーイだけだった。