劇場版リブロマンサー・ファイアスターター ~東の果ての儚き御巫~   作:火ノ鷹

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御巫神楽

 エージェントの予告から二日が経った。情報通りであれば今日が御巫神楽の当日であり、最も重要な儀式の日となるはずだ。

 

 どうやってエージェントがその情報を得られたのかは知らない。リブロマンスした姿がブローカーだから誰かと交渉したとかそんなところだろう。

 

 けれど──情報が正しかったのは目の前の光景が示していた。

 

「明らかに様子がおかしいわね」

「剣呑なんてレベルじゃない。迷い込んだ扱いで入ろうとしたけど無理だねこれ、様子見るのがギリギリ」

 

 エージェントの情報を信じ、二人はフゥリと出会った場所を経由して御巫が舞を練習すると呼ばれる場所に近づいていた。マジガールはリブロマンスし周囲に見えないよう霧をかけた上という念の入れようだ。

 

 それでも様子を見るのが精一杯だった。御巫は神秘そのもの、五感がとんでもなく優れているどころか第六感染みたものさえ持っているのだ。気づかれないのが幸いだった。

 

「よーう、あれが巫女か?」

「ファイア!?どこにいたのさ!」

 

 隠れている霧の中、唐突にファイアが現れる。ファイアを呼び出しているのはG・ボーイである以上、G・ボーイの居場所をファイアが知らない訳がないのだ。

 あまり干渉すべきでないとG・ボーイから離れていたのだが、事が起きようとしているとファイアも見ていた。かつてのフィクサーとの戦いの時のように、力を貸すべきときが近いのだと。

 

「温泉。あれ気持ち良くてなー……滾るのが治まんねぇんだ」

「そんなこと言ってる場合じゃなくて、御巫神楽がもう始まっちゃうんだ!」

 

 ファイアの表情が真面目なものに変わる。予想が合っていたこと、そしてコミックの出来事を知っており、どれだけ苦労したのかよく知っているからこそファイアは普段とは全く違う様子になっていた。

 

「……巫女の儀式か?」

「御巫神楽!オリジナルの名前はそう言うの!」

 

 声が大きくなりかけるも御巫達にはギリギリ聞こえない声。

 ファイアは到着がギリギリだったがために情報が共有できていなかった。

 

「早過ぎるだろ!」

「昨日言ってたじゃん!もうすぐだって!……あ、いなかったっけ」

 

 二日前にエージェントから聞き、昨日マジガールとは共有していた。「あの人信じれるの?」という至極真っ当な言葉をG・ボーイは頂いていたが、目の前の光景が信じるに足るものだったことを示している。

 

 臨戦態勢をとるG(ギーグ)・ボーイ。継線能力が高い形態なら常に維持しておける。バーストなどさせなくてもいい、まずはスタートを切っておくだけだ。

 

「リブロマンス──ファイアスターター!」

 

 何かを仕掛けてくるはずだ。そのためには常に警戒しておかなければならない。

 

 そんな考えだから気づいてなかった──とっくに、珠の派閥の仕掛けは終わった後なのだと。仕掛ける必要など、もうどこにも無いのだと。

 

 ■■■

 

 天御巫(あまつみかんこ)(とびら)。神託と共に現れる扉であり、天より落ちてくる螺旋状の光がその中心に舞台を作り出す。光の中心が見えるよう舞台のような櫓が立てられ誰もが見える場所になり、そこに御巫以外が入ることは許されれない。入ろうとしても弾かれるのみ。

 

 舞台に上がった御巫は一人ずつ舞っていく。遠くから見ているG・ボーイ達でも分かる、紹介で見た時のものなど比較にもならない別物なのだと。

 

 御巫達の霊獣は御巫の舞に連なり、加わり、重なり、舞を神に捧げるものへと変えている。本来ならこれが正しい姿なのだと主張し、神秘的に見えていたものが神秘そのものへ変貌する。

 

 

 一人ずつ舞い……そして筆頭の舞が始まった。

 

 

 ハレの舞──御巫の火叢舞・祓舞。

 火鼠の耳を髪に纏い、さらに烈火の如く燃える炎を身に纏う。手にしていた剣は御巫の踊りに合わせて舞い、大きささえも変えダイナミックな動きから繊細さまで兼ね備える。大から小まで全てをその身に写し出す姿は言葉では表現などできない。正しく神に秘されたものだ。

 

 

 ニニの舞──御巫の水舞踏・誘い輪舞。

 猫又の耳を髪に生やし、流れる水の如く流麗な動きを纏う。纏う水は鏡へその姿を変え、彼女を照らすのは天から降る光だけではないとその身に証明する。あらゆる方向から見られようとその姿を移しだす姿は目に移す者全てに同じ言葉を抱かせる。しかしそんな真似は神に秘された現象にも等しい。

 

 

 最後の一人……フゥリの舞──御巫舞踊-迷わし鳥。唯一舞踊と呼ぶフゥリの舞。

 妖狐の耳が髪に在り、九本の尾をその身に宿す。しかしてその舞に見える霊獣は狐ではなく鳥──初代御巫の霊獣、常世長鳴鳥。狐が写し出すのは彼女自身の舞などではない、あるのはただ初代のオオヒメが示す者だけ。しかし──だからこそそれは神秘としか呼ぶ他無い。既に消え去った舞を完全にこの世界に召喚しきったと言えるのだから。

 

 

 

 どれもが神秘そのもの。そのどれもが日ノ神を召喚しても問題ない領域に達する舞。しかして神が選ぶのは最も優れた舞。

 だからこそ……神はその御巫を選んだ。最も優れた舞が()()()()という矛盾。それを示してしまったが為に。

 

 

 

「オオヒメ、さま」

 

 

 召喚された日ノ神はフゥリの背後に抱きしめるように立つ、女性の姿として現れた。視認できる力の塊、初代オオヒメの御巫が──否、初代オオヒメの御巫の姿をして召喚された日ノ神が、そこにいた。

 

 

「──────」

 

 

 日ノ神が何かを呟く。フゥリは表情を何一つ変えず、瞬きを一つだけした。

 

 今代において最も優れていると認められた御巫、フゥリ。御巫にとってはそれだけで伝承に記される程の偉業。しかしそのフゥリの表情は……今にも消えそうな儚さを持っていた。

 

 誰にも見られなくていい。誰もフゥリの感情を知ることは無い。それだけで、フゥリには十分だった。

 

 諦め、満足感、達成感、自己否定、混ざりに混ざった表情……だからこそ誰にも伝わらない──

 

 

 

 

「……フゥ……リ……?」

 

 

 

 

 ──はずだった。

 

 

 

 脱力しきったフゥリの視界に入ったのはここにいるはずのないたった一人の男の子。G(ギーグ)・ボーイにしてファイアスターター。炎のように燃やす拳だろうと、その瞳の色は変わらない。

 抱く感情も、変わらない。言葉にするのなら

 

 

「なんで、そんな顔を、するんだ。僕はフゥリを、見てるのに」

 

 

 感情はもはや届かない。言葉も、何も、届くことは無い。

 

「フゥ、リ」

 

 G(ギーグ)・ボーイの呟きを瞳に映しながらフゥリはただほんの少しだけ微笑み……依り代になり日ノ神が現界していく。

 

「我の名はアラヒメ。オオヒメは成った」

 

 そこにいたのは新たな『オオヒメ』。風のように笑う御巫はどこにもいなかった。

 

 ■■■

 

 闖入者。G・ボーイ達を表現するならそれ以外の表現はあり得ない。御巫達は御巫神楽で舞ったために体力は全て尽きており、もし悪意があれば御巫達は皆覚悟を決めなければならない事態だ。

 

 ただ闖入者達が見ていたのは新たな『オオヒメ』。ならばとハレやニニ含め御巫達は皆心配などしない。

 

 何故なら彼女は、『オオヒメ』なのだから。

 

「君は、誰?」

 

 舞台へと降り立ち、アラヒメへと問いかけるリブロマンサー・ファイアスターター。ゴーグルで見えないが、瞳は燃え上がり心は今すぐにでも爆発しそうになっていた。

 

「フゥリはどこ?」

 

 ファイアスターターの声にアラヒメは顔を向けるだけ。アラヒメは興味深そうに見るだけだが……それだけでファイアスターターの心境や技能・能力まで全てを丸裸にする。

 リブロマンスは希少な力だ。希少……すなわち、一年に全世界に数人は確実に見かけられるということだ。

 

 『オオヒメ』は違う。数年から数十年に一度出るかどうかというものであり、現人神へと変わってしまう程の力の塊。扱える者が扱えば国一つすら豊穣にできる力。

 

 力の塊、故に戦う必要などない……否、戦いと言えるものは行わない。

 

「ほぅ……異な力を」

「っ!マズイ!力を合わせろ!」

 

 飛び掛かるファイアスターターの手にファイアが合わさることでファイアバーストとなってアラヒメに迫る。無力化を目的とした掌であり、その力はフゥリが持っていた扇が変化した剣と鏡に向けられていた。

 ただファイアの意図はそこに無い。ファイアバーストは決戦仕様に近く……全身体能力が、防御能力が上がるからだった。

 

「降霊の少年、力を向けられては困る」

「っ!」

 

 フゥリの顔と身体。服装は白無垢のような姿に変われどそれらに変わりはない。

 迷っていたところを助けてくれた少女。笑った姿が好きな少女。G・ボーイの躊躇いが拳の勢いを弱らせる。

 

 結果的には、それが幸運だった。

 

 

 

 

「──返さなくてはならんではないか」

 

 

 

 

 鏡となっている扇を振るい口を隠すだけ。動作としてはたったそれだけだった。

 

 

 

「が──っ!」

 

 

 

 大きな力が振るわれる時、小さな力はそれに沿うように動く。大地が揺れる……地震が起きれば大地だけでなく大地の上に立つものにも影響を与えるように、自然界にはよくある現象だ。アラヒメの力はそれと同じ。

 口を隠すように腕を動かした。たったそれだけの現象はG・ボーイの身体を吹き飛ばす力と変わり、リブロマンサー・ファイアバーストという力も同じ方向に向けられた。

 

 身も蓋もなく言えば、アラヒメが身じろぎしただけで力が跳ね返されたのだ。

 

「……?」

 

 何が起きたのか、Gボーイには分からなった。

 

 たった一撃、リブロマンスしたG・ボーイはそれだけで体がまともに動かせなくなる程の衝撃を受け吹き飛ばされた。さらにバーストは解け、ファイアスターターの姿になっていた。

 躊躇った拳だからこそ意識を保てるレベルの威力になっていたのだ。

 

 万全の身体で喰らい……だからこそ力の差が分かる。エージェントと誤解して最初にぶつかった時、黒幕(フィクサー)と戦った時、黒幕(フィクサー)が召喚した化け物と戦った時、その全てを軽く凌駕する力の差だ。

 

 ファイアバーストしても届かない。数段階上どころじゃない、まるで力の次元が別にあるとすら言える力だ。彼女が指先一つ動かすどころか身じろぎしただけで起きる現象がこれなのだ、敵意を向けられるなど考えたくも無い。

 

 グググと無理やり立ち上がりアラヒメの方へ顔を向ける。身体はズタボロだが闘志はむしろ燃え上がり爆発しようとさえしていた。

 

 ふよふよと浮きながらG・ボーイの方へ少しずつ近づいてくるアラヒメ。再び同じ攻撃を喰らえば命を落としかねない現実。コミックの世界で希望を宿すファイアスターターと言えど、現状は絶望と呼ぶしかなかった。

 

 

「──そこまでにしてもらいたいなって」

 

 

 絶望に待ったをかけたのは、霧で見えない少女(リブロマンサー・ミスティガール)だった。

 マジガールがリブロマンスした姿。妖精の力を借りる彼女は、隠すといった能力に長けている。

 

「姿が無いが……仲間か。向かおうなら相対しよう。そうでないなら去るがよい」

「そうね、そうさせてもらうわ」

 

 だが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「ただ姿は見させてもらおうかの」

「な」

 

 アラヒメの周囲に付随して浮いていた、中心に珠を据えた扇──鏡が光る。それだけでミスティガールのリブロマンスが解け、隠れていた霧さえも消し飛ぶ。

 

「そちらの姿の方が好ましいぞ?」

 

 アラヒメが視線を向ける。フゥリの扇が変化し周囲に浮いていたもう片方、剣が動こうとした瞬間──動けなくなっていたG・ボーイとマジガールの姿は一瞬にして消えた。

 周囲には何もなく、ただ一瞬で透明になって消えたかのような現象。しかしてアラヒメは何の感情も抱かない。

 

 

 アラヒメには見えていた。黒い服を着た姿、夜を纏い暗闇に潜む工作員の姿を。

 

 

 地の利はあれど日が落ちるのも近づいている時間。神楽の成功という目出度い時であるがゆえに、力を持っているがゆえに、放っておくことに決める。

 

「……黒色……それに夜、か。まぁよい、豊穣の時を始めようぞ」

 

 アラヒメにとって大事なのはこの土地、国、人、そして御巫だ。神様とはそういうものなのだから。

 

 

 御巫神楽は終わる。御巫達は天より現れた新たな『オオヒメ』の姿を希望と抱いて。

 

 

 その裏に隠された、かみかくしに気づかずに。

 

 

 

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