劇場版リブロマンサー・ファイアスターター ~東の果ての儚き御巫~ 作:火ノ鷹
丑三つ時。ハレとニニの協力によってアラヒメと──否、フゥリと会えるタイミングはそこだと予想された。
丑三つ時とは鬼門と方角を同じにし、更には日が落ちている夜中であるため、『
なら、そこにいるのはフゥリしかいない。
「フゥリ!」
……というのは、希望的予測。『オオヒメ』ならともかく、かみかくしによって強化された『
返って来た言葉はどちらも間違いではないものだった。
「誰……ぞ……」
口調は変わらず、だがどこか軽い雰囲気が残ったもの。
間違いなく、フゥリはそこにいた。
「君を迎えに来た!」
「降霊の少年……生きていたか。何度私に向かおうと同じことぞ」
声が届いてるのは分かる。声色が御巫神楽の時と明らかに違う。
「フゥリ!いるんだろ!」
「……我が愛し子よ。応えたいならば任せようぞ」
アラヒメは『オオヒメ』がフゥリを離さない姿。なれば当然フゥリを尊重する。
アラヒメの言葉は明確にそう告げていた。
「……嫌われたようだの。ならば私が相対しよ」
「フゥリ!君のことを聞いた!派閥がどうとか、ハレやニニのことも」
「……。……ふむ?」
アラヒメが動く前にフゥリへ声を届ける。この戦いは……正しくは戦いではなく説得。
『オオヒメ』とフゥリを説得する、それがこの場で起きる目的の全てだ。
そして僕の役目はたった一つ。
「ふぅん……?」
──その声が、ずっと聞きたかった。
フゥリがそこにいる、それだけのことなのにたまらない感情に襲われる。
これでいい。これも……いや、これだけが僕の役目だ。
「だから聞かせてくれ!君のことを!
フゥリ自身のことをだ!」
ずっとフゥリを見てて、想いを伝えて。
それがニニとマジガールから示された作戦だった……作戦?なのかなこれ?
ただ分かりやすいし元々僕がしたかったに違いはない。
「なら分かるでしょ。私は
まるで風みたいに、そこには何もないんだよ」
「んなこと誰だって知ってる!けど聞きたいのはそんなことじゃない!」
返って来た言葉は自虐と諦念が込められた悲痛。それもフゥリで、どれだけの感情があるのか僕にはきっと理解出来ないものだろう。
ただ──聞きたいのはそんなことじゃない!
「僕は知ってる!君が躍った舞を!君自身の舞を!」
「……え?」
フゥリの顔が驚きに戸惑う。フゥリ自身、身に覚えはほぼ無い……けれど心に覚えがある。
「君が自分の意志で君のために舞った踊りを知ってる!」
「な、なにを」
大きく声を、もっと大きく、顔を赤くしたフゥリに想いを届けるために。
「何より──失いたくない君の笑顔を知ってる!ここにいる理由なんてそれだけで十分だ!」
一瞬で雰囲気が変わった。フゥリがいない、これ以上なく分かりやすい変化。
フゥリを『オオヒメ』が隠したのだ。籠に入れるように、傷つけさせたくないからと。
「愛しい子を惑わさないで貰おうかの。傷つくのが目に見えておる、辛い目に合わせたくないのは……分かろう?」
『アラヒメ』となった姿。分かってる、フゥリの覚悟を踏み躙ってることくらい。
だからこそ僕は僕の好きエゴを通す為に─
「ええ。でもちゃんと話さないといけないから……オオヒメ様、フゥリを一度離してもらいます。
リブロマンス──ファイアスターター!」
─心に炎を着火した。
■■■
夜に潜みアラヒメの説得を行う。しかしアラヒメは厳重な警戒体制の下にいた。
しかしてここにいるリブロマンサーは
何せ、ハレとニニに警備を全滅させたことにさえ気づかせない程だ。
「これ本当にフゥリちゃんに気づかれてないんですか?」
「多分、が付くけどこっちは全力でやってるから……これでバレてるならどうやっても無理かな」
「私達だけだと足音で一発だから十分です」
アラヒメは超常現象に近い存在、しかして神秘という意味ならマジガールの妖精も負けてはいなかった。
事実、既にG・ボーイを送り出したがアラヒメには一切気づかれていなかったのだから。
「私は周囲の警戒に行く。時間は夜明けまで、早くケリをつけてこい」
「ありがとうございます。あのバカの無理を通してくれて」
「それが私の仕事だからな」
デスブローカーが暗闇に溶け、消えていく。行動が早いのがエージェントらしく、マジガールもクスリと笑っていた。
ニニも微笑み……そんな様子を見ていたハレだけは不安な表情になっていた。
理由は簡単、こんな作戦で大丈夫なのかという一点だけだ。
「ところで本当に大丈夫なんですか?あの人とアラヒメを一対一って」
「ダメでしょ」
「ちょっ…んぅ!?」
マジガールに即否定され声をあげかけるハレ。ギリギリでニニが口を抑えたために声は響かなかったが、言いたいことは二人共分かっていた。
「ファイアがいないなら昔戦ってたファイアバーストができない。っていうか多分ファイアを見かけてないから多分……アラヒメに吹き飛ばされて帰ってこれない状態にされてる。
ただまぁ今回は好都合かな」
「えっと?」
「要するに私たちはこのままで戦わないといけない。となると勝ち目はまず無い」
「それは知ってます」
アラヒメの戦力は最低でも一つの国と同等かそれ以上だ。ハレとニニはよく理解しているためにそこに疑問を持つことは無い。
例え戦力が現状低下している事実も、岩が石になったところで天変地異にはどうしようもないのと同じこと。
一つだけニニが疑問に思ったのは、
「ただ勝ちってのをどう受け取るかよね。叩きのめせば終わりって訳じゃない」
「……え?もしかしてあの人」
「え?どういうこと?」
ポカンとしているハレと、何かを察したニニ。
「あのバカがちゃんとあの
見た感じどっちも気づいてないっぽいけど」
当たり前のことだがマジガールはアメリカのスクールに通っている。色恋沙汰など日常茶飯事もいいところだ。
こんな、甘ったるいくらいに初々しいものなど見たことは無かったが、見て二度と見たくないと悟っていた。相手が御巫であるため動くことは無いが、もしもアメリカだったらこう言ったことだろう。
──さっさと進展しやがれ。
今もそう言って蹴り飛ばしたくて仕方ないのだから。
「……ちなみにフゥリちゃんと面識は?」
「あるわよ。多分あれ……どっちも一目ぼれ」
ニニも気づいたらしい。同時に呆れたのかフゥと息を吐いていた。
フゥリも気づいてないこと、G・ボーイも気づいていないこと。にもかかわらず想いは通じ合ってるのは凡そ間違いない。
マジガールはちょっとカッコイイ時もあるとG・ボーイを見ていたのにこれだ。悪態の一つもつきたくなる。
「ちょっと!?どういうことなのー!?」
小声で二人に叫ぶハレ。何も分かっていないのは、