宇佐見「くりすますってなに。さんたってだれよ」
↑当作品内ではこれぐらいの知名度のイベントということにします。
あとクリア後の世界です。
ぼくの知らない国の君へ
お元気でしたか?
届くかどうかも分からない手紙だとしてもやはり書くときはちょっと緊張します。
ところで──
星の川!
一面の雪景色!
良い子と赤いナイトキャップの老人の探偵的な記録!
ぼくの先日の体験がちょっとでも伝わったでしょうか?世界には知らないことがまだまだ沢山あるんだなと痛感させられる出来事でした。
もしかすると、ぼく達の知らないことを知っているあなたなら今回の出来事についても何か知っているのかもしれませんね。
いつか再会したら、今回の出来事についてもお話ししたいと思います。
*****
とある冬の日。寒さが一段と増し、冬の国でもないのに雪さえ降り始める中、俺たち3人は今となっては懐かしさを感じる鉄の国へと帰ってきていた。この島のどんな場所でも雪が降るという不思議なこの日この場所にやってきたのには当然理由がある。
「さて、諸君。久しぶりにちゃんとした探偵的なお困りの依頼が舞い込んできたぜ!」
「まー、焼きそばに入ってるのが青のりじゃなくてバジルだったとか探偵的かと言われると怪しかったよねー」
「探偵局に来るのも久しぶりだね。でもここって確か家賃未払いで追い出されたんじゃなかったの」
「今回の依頼に必要だってことで依頼主が1日だけ借り戻してきてくれたんだよ」
「なるほどね」
「ねぇテツロー、結局今回はどんな依頼なの?」
「端的に言えば不審者の調査だな」
「はぁ?不審者?」
怪訝な顔をするマナみと依頼内容が気になるピー子の2人に今回の内容を説明してやる。
依頼者曰く、『──ウフフフフフ!あの忘却王の正体さえも見事に解き明かしてみせた貴方の素晴らしいィ観察眼を見込んで頼みがありましてェ……。実は最近ラジオで発信する情報探しの中でこんな噂話を耳にしたんですゥ〜。冬の特定の日、鍵をかけたはずの家にすらいつの間にか侵入してしまう怪しい老人がいる。そしてまるで血に染まったかのような真っ赤な服を着ているそうなんです!うあーーーーーーこええーーーーーーー超こえええええええええーーよーーーーー!!!!!って感じですよねェ!正体は果たして何者か!忘却の軍勢の再来か或いは星を守るものに連なる誰かなのか!このままじゃ夜しか眠れないという方々が続出大パニックゥ!ということで出来れば正体を、せめて危険な存在かどうかだけでも確かめて頂ければ幸いですゥ〜』……との事だった。相変わらずあの人の喋り方は分かりづらい。流石に原文ママで話しても伝わるか怪しいので要約しつつ2人に説明する。つまりは特定の日、密室に侵入してしまえる不審者が現れるそうなのだ。
そして、今日がその日だ。
「まぁ内容は分かったよ。でも、他にも具体的な特徴とかないの。服装以外にも目立つ点とか習性とかあれば共有しとくべきだ」
「えーと、聞いた話だと白い髭を長ーく伸ばしたお爺さんで……」
「ほーん」
「優しそうな見た目なんだね。不審者なのに」
「主に良い子のいる家にやってくるらしい……」
「どんな子が住んでるかも把握してるのか……」
「もしかして普段から何処かで子どもを観察してるような人なのかな……」
「あと、数少ない目撃情報では子供の寝顔をただ、笑顔で見ていたとか」
「……こっそり家に忍び込んで、か。なんというか……」
「本物……って感じだよね」
「いつの間にかとんでもないことしてるって意味ではマキ割りジャックとか私と同じ顔のアイツにも負けてないかもね」
……その2人を同列に語るのはなんか後者が可哀想だからやめてやれよと思いつつも下手に擁護すると脱いでる繋がりで俺が半裸男の師匠扱いされてる件まで蒸し返されそうな気がしたので黙っておくことにした。そもそもシリアスなシーンで突然脱ぎ始めるやつを擁護するための言葉を俺は知らない。
そんなことよりもこの調査で必要な準備を進める必要があるんだ。
「で、今説明した中で一番重要なのは『良い子』の元に現れるって事だな。逆に言えばこの中に悪い子がいたら姿を現しちゃくれないだろう」
「それはそうだね。でもまぁ、そんな悪い子なんてこの中には……あっ」
ふと、ピー子が視線を向けたその先にいたのは。
とんがり帽子にチャームポイントの八重歯が光る、邪眼を思いっきり輝かせる完璧で無敵な悪い子、ヘクサメトロスだった。
「……WC使いは世間の評価には囚われないのだ」
*****
という訳でマンホール経由でブランクヴァースの礼拝所までひとっ走りして用意したのがこの免罪符である。あくまで邪眼が罪を帯びていてアウトなのであってマナみ本人は悪人ではないので……素直じゃない部分はあるが……とにかくこれを身につけておけば多分大丈夫だろう。
そうして元探偵局前まで戻ってきたが、自分以外の2人の足跡はもう埋もれてしまっている。しかし、買い物で往復した自分の足跡は殆ど埋もれていないのでそれなりの早さで帰って来れたようである。……それにしたって足跡が新しすぎるような気もするが、それだけ速く走れたということだろう。
「ただいまー、買ってきたぜ」
「おかえりー。ねぇねぇテツロー、後はどうするの?」
「件の不審者が来るまで待つ。張り込みなんていかにも探偵的だぜ!」
「……待つ間に寝落ちしそう」
「それじゃさ!みんなでお話しようよ!久しぶりにみんなで夜更かししてお話したいなぁー」
「普通の張り込みならお喋りなんてもっての外なんだけどな……」
「まーいいんじゃない?相手は子ども狙う変態なんだし、むしろ子どもみたいにキャッキャと騒いでた方が寄ってくるかもしれないよ」
……まぁ一理ある。それにマナみはともかくピー子がじっと黙り続けてられるとも思えないしそれが一番ベターか。そういうわけで2人の意見に同意を示す。
「やったぁ!それじゃあお話大会の始まりだね!」
*****
「この前久しぶりに狐塚のやつに会ったよ。宇佐見に合わせる顔がないってしょげてたよ」
「いいからさっさと顔見せに行ってやればいいのにな。まったく難しい年頃で参っちゃうぜ!」
「怪我は治ってたみたいでよかったー。ぼく実は結構心配してたんだからね!」
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「ここで一つ、不思議な不思議なお話の時間だ。──むかし、むかしのおはなしです……」
「わーい!テツローのお話ってなんだかとってもワクワクするからぼく大好きなんだよね!」
「……これだけ不思議な話をこんな堂に入った話し方で出来るなんて、案外魔法使いの才能もあるのかもね」
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「こうしてみんなでお話してるとあの冒険の時のことを思い出すよねー」
「そうだね。そんなに昔でもないのになんだか懐かしくなってしまうよ。あいつ元気にしてるかな」
「懐かしい、本当に懐かしいね……。
──なんだかさ。ぼく、ひとりになると時々あの冒険のことが懐かしくて堪らなくなることがあるんだ。ああ、あの頃は良かったなぁ……って。今も充分楽しいのに不思議だよね……」
「ピー子」
「ピー子じゃなくてイツキ。……どうしたの、テツロー」
「お前ってさ、多分お祭りが終わった後の喪失感をいつまでも引き摺っちゃってしばらく落ち込むタイプだろ?それはさ、たぶんもったいないぜ!思い出を宝石にみたいにいつまでも眺めているだけじゃ冒険は始まらない。思い出は新たな旅への道標なんだぜ!」
「……そうだね、『旅は続く、世界の謎そのすべてを解き明かすまで』だもんね!」
「ま、既に通った後ろを振り向くだけじゃ見つかる探し人も見つからない。探しに行くならやっぱり前を見なきゃ。ピも胸に刻むように」
「わかった……ってピって何?!ピじゃなくてピー子です……じゃなくてっ!イツキだってばぁっっっ!!!」
*****
件の不審者はまだ姿を見せない。夜も更け、もう時計の針が12で再会を果たしてしまっている。ピー子とマナみは船を漕ぎ始めてるし、俺も正直だいぶ眠い……。正直俺は今回の依頼はもうダメか……と半ば諦め始めていた。それこそ朝まで張り込んでやるぜと意気込んでいたんだが、人間である以上睡眠欲求には抗い難く……
──ガタンッ!
玄関の方から物音、ついに現れたな、2人を起こすか?いや、起こす時間も惜しい、静かに、それでいて迅速に現場へ向かう、障害物の多い室内だと走るに走れず焦燥に駆られる、物音を立てるな、向こうに気づかれる、だが急げ、逃げられるぞ、よし、そこの角を曲がれば玄関だ、さぁ観念しろついにお前の姿を拝める──
しかし、玄関に辿り着いた俺が目にしたのは鍵が掛かったままの玄関扉だけだった……。
取り逃してしまった。そう落ち込みながらもう完全に寝落ちした2人のいる部屋に戻った俺は思わず膝から崩れ落ちてしまった。
何故かって?3人分のプレゼントの箱が置かれていたからだ。誰が、一体、いつの間に?
……どうやら俺達が追っていた相手は相当に格上の相手だったみたいだ。そして、そのまま睡眠欲の限界を迎えた俺は2人を追って夢の世界へ旅立った……。
*****
あれから次の朝。私もテツローもピー子もすっかり寝落ちしてしまい探偵的なお困りは解決ならず大失敗。だけど全員気分は上々だ。何故かって?3人それぞれ欲しかったものをプレゼントされたからだ。
……物で釣られた様でアレだけど、多分件の相手はそう悪い輩ではないだろうな、と思う。そういえば冒険の途中、あいつが幾つか語っていた話の中にプレゼントを配る爺さんの話があったような。きっと、そういう生態の不審者なんだろう。だったらまぁ、放置でもいいんじゃない?無害どころか有益だし。
実際、後日テツローが依頼主に報告したところ、後から分かった情報で無害なことが分かったからこれ以上の調査は必要ないとのことだった。消化不良ではあるけど、誰も損してないしめでたしめでたし、ということで。
*****
3人が元探偵局から帰っていった後、そこに隠されていた地下室にて、ライターの火に照らされたいい歳こいて赤い帽子に赤い服で仮装した男と普段の格好にトナカイの角のカチューシャをつけただけのなんちゃって仮装な女が話していた。
「……なんとか上手くいったねイトマキ君!協力者に依頼を出してもらって3人を呼び寄せこっそりクリスマスプレゼント作戦は大成功だ!」
確かにテツロー君達はしっかり鍵をかけていた。だけど元住人たる私はしっかり(返し忘れた)合鍵を持っていたという訳だ!あとはテツロー君の足跡の上を通る様にして気づかれずに侵入、そのまま地下に隠れる。みんなが寝るまで待ち、寝ない子はちょっとした小細工で注目を逸らしている隙にプレゼントを置いたらもう一度この地下室に隠れるだけ!いやぁ我ながら綺麗に決まったな!
「よかったですね。……でもこんな面倒なことしなくで直接その、くりすます?プレゼントとやらを渡せばよかったんじゃないですか?」
「それは違うよイトマキ君。クリスマスプレゼントはこっそりサンタさんが渡した事にするからこそ価値があるのだよ」
「たしか、良い子の元にやってきてプレゼントをくれるって話でしたっけ」
「その通り!でも昔、マツリヤの爺さんが言ってたよ。サンタは良い子でいるだけじゃやってこない。良い大人がいる家にしかやってこれないのだとね。……自分が子どもの頃は一度も来てくれなかったとも言っていたよ」
「……それで、今回の作戦を実行したわけですか」
「どうか彼らには良い大人がいることを忘れないでいてほしかったからね。それぞれ理由はどうあれ、良い大人達と別れてしまった子達だ。そんな悲しい良い子達に少しでも良いことが起きてほしい、誰だって抱く当然の願いだよ」
「でも、わざわざこっそり渡した理由はそれだけじゃないんでしょう?」
「……ハハハ、気づかれてしまうか。そうだね、直接会って渡してしまうと、また別れるのが辛くなると思ったのも理由のひとつだよ。『さよなら』はまだ慣れない」
「良い大人、の割には随分寂しがり屋ですね。これはさっさとテツロー君達に見つけてもらわなきゃいけませんね」
「そうだね。……あぁ、実は今まさに、切実に見つけてもらわないといけないかもしれない」
「なんでですか?」
「ほら、ここ借り戻したのって一晩だけだっただろう?その期限が過ぎたから電気がまた止められたらしくてね」
「……えっと、それはつまり」
「この地下室に出入りする隠し階段、電気がないと開閉できないのだよ。ハハハハ、どうしようねコレ!いやぁ本当にどうしよう!」
「……アマシロさん、あなたが普段から願っていた探偵的なお困りがついに舞い込んできましたよ!内容は行方不明の成人男性と成人女性の捜索ですって!そして私達は行方不明者側です!」
「ちょ、ちょっとイトマキ君落ち着いて!こういう時こそ冷静になって対処の術を探すべき……」
「やっぱダメだこの人」
「私が悪かったから!諦めモードに入らないでくれたまえイトマキ君!イトマキくーん!」
※最終的に星屑の暗黒剣で床ぶち抜いて脱出したそうです。