理の守護者と呼ばれる
たった7人しかいない龍の中でも、自分は一番弱い存在なのだと、メテオラ・F・ドラゴニアはそう自身を理解している。
単純に新しすぎるのだ。
数百、数千年の時すらも超え得る龍の中で、ただひとり20年にも満たない歳月。
他龍に比べて稚拙な権能行使。
大人と幼子のような力の隔絶だ。
先代の赤龍が死んで以降、
弱すぎる、と雷霆は嘲笑する。
いや悍ましい、と大地は嫌悪する。
口にこそ出さないが、他の龍も似たようなものだろう。
ある日、世界に望まれたように肉体を得ることを「生まれる」と表現する自分たちにとって、同族としての繋がりの意識はあまりにも薄い。
だが、それでいい。
せいぜい、上から眺めていろ。
いずれ全てを越える。あらゆる障害を捻じ伏せ、龍の王として最強に至り、自分を見下した龍人種共に自分を認めさせてやる。
舐められたままなど、龍のプライドが許さない。
だから、それだけのために生きた。
魔力操作による魔術の精度、強化した肉体の運用。
そして闘争による研鑽。
天地にきたのも、糧になる存在が多いと踏んだからだ。
戦うことが日常のあの学園都市には、自身が強くなるための土壌は十分にある。
交友関係はいらない。
他者に求めるのは自身を研ぎ澄ます経験だけだ。
故に闘争で相手を踏み潰し、蹂躙し、目につくものを片っ端から薙ぎ払う。
何をおいても戦って。
戦って、戦って、戦い抜いた。
そして出会ったのだ。
「―――え、対戦? まあいいけど。ていうか誰?」
奇妙な男だった。
持っているのは盾だけで、おおよそ闘争には向かなさそうな性格の学生だ。
「―――げっドラゴニアさん。え、また決闘? 今お腹痛くてさ、また今度でいいかな? え、ダメ? はい」
特徴といえば人間にしては魔力が多いくらいか、魔力操作のセンスも格闘の才覚もない。
だが、生き残ることに関していえばメテオラですら手を焼く。魔力に任せて走り回り、盾で守り、隙あらば毒を投げるような戦術は、時間制限があればほぼ確実に逃げ切られるほどだ。
「―――おいメテオラ、俺は静かに本を読みたいんだ。だから頭決闘なドラゴン女と話してる暇はあごめん殴らないでいたいたいたい!!!」
噂を聞けば、この男は戦いが酷過ぎて嫌われているのだという。
臆病者、カス、排泄物野郎、毒タンク、逃げるな卑怯者、Gの擬人化、そして序列0位。
あげ始めればキリがないが、メテオラからすれば信じられない話だ。少なくとも今のあだ名を自分が言われれば、全員を血祭りに挙げている。
気になって聞いた。
言われっぱなしで気にならないのだろうか。
「ははは、気にならないね」
「どうしてですの?」
「だって相手の言動に左右されるのは雑魚っぽいだろ? 真の強者はどっしり構えているもんさ」
「それは――――――確かにそうかもしれませんわね」
するりと胸にしみる様な言葉だった。
見返すのではなく、ただ在るべくして認めさせればそれでいい。自分の強さは誰よりも自分が知っているのだから。
何かを証明したくて、がむしゃらに戦ってきた。
だが少なくとも、一つの強さの答えを持つ目の前の男の前では、肩肘を張らずともいいのかもしれない。
「ふふ、その答え、気に入りましたわ」
「だろ? ところで俺の悪口言ってた奴の名前ってわかる?」
あのあと、何故か噂の出所を気にしていたが、もはやどうでも良かった。
目に映るのは少年だけだ。
黄金でも宝石でもない。
ただ自分の中の何かを変えた、変えるだけの力を持った宝があった。
あの日浮かんだ、言葉にならない淡い感情の味を。
小さな龍は今も覚えている。
□□□
あらすじ。
新技で太陽を防壁で抑えるも、頑張り虚しく1分持たずに破壊。
これは詰んだと思ってたら、なぜか後輩が太陽を真っ二つにして、そのまま勢いでメテオラをぶっ倒した。
「………何が起こったんだ?」
ユイが何かしたんだろう、というのはわかるが。
首を傾げていると、懐に入れていたスマホが話し出す。
『魔力感知の応用でしょう』
「感知ィ?」
『魔術とは魔力の制御があって成り立つもの。術を構成する核心を斬ることで強制的に無力化したものと思われます。核心を視抜く魔力感知とソレを斬る高精度な技術の賜物ですね』
「………わかりやすく言うと?」
『剣の技量だけで魔術を斬りました』
ヤバすぎるだろ。
やっぱこの学園にいていい人材じゃないんじゃないの? ていうか普通に俺殺すための動員じゃないだろうな。
『まあ仕組みは単純ですし、この戦いを見た学生でも対策可能な程度のものです。マスターであればさほど問題はないでしょう』
「だと良いけどな」
『そう思うなら魔術の一つも覚えてください。なんですかさっきのアレ、魔力を盾にぶち込んだだけって。エネルギー効率悪すぎです』
「あーもう、悪かったよ! センス無くて」
そこら辺の才能はからっきしなのだ。
できないとは言わないが、魔術行使はめっちゃ入念に準備をしてやっと成功するくらいには才能無いのだ。
『まったく、久しぶりに呼ぶから何かと思えば』
「どうせ暇だろ」
『はぁ~!? めちゃくちゃ忙しいですけど? 今もわざわざ配信切り上げてきたんですけど!? 新進気鋭のAI系Vtuberオールイデアちゃんをよろしくお願いします!』
もーしりませんっ、なんて言われて切られてしまった。
楽しそうにしてんな。
なんなら俺より異世界ライフをエンジョイしていそうだ。
しかし、まさかここまで戦えるとは思わなかった。
メテオラとは、いつもは時間制限いっぱいまで粘っての引き分けが大半だ。ここまで善戦できるのはすごいことだ。
何にしても御影ユイが強すぎる。
なので、あともう少しだ。
「おつかれ、御影」
「先輩、お疲れ様です」
「いや、俺何もしてねーよ。さっさと終わらせようぜ」
「いえ? もう戦いは――――――っ!?」
倒れるメテオラから火が爆ぜる。
すかさず盾をかざして前へ。
飛び散る火焔からユイを庇う。
「あ、ああぁぁあああああ!!」
メテオラがふらふらと立ち上がる。
全身に力が入らない、魔力が上手く制御できず、火の権能なんてもってのほかだ。
だが、彼女はまだ立っている。
「まだやる気かよ」
「逆鱗って砕かれて動けるもんなの?」
「んなわけねーだろ、異常だよ異常!」
龍の逆鱗の破壊は生ぬるいものではない。
試合終了後は負傷が無かった事になる仮想結界内でも、しばらくは魔術の精度が極端に落ちる。全身に激痛が走るし、倦怠感もしばらく取れない。あらゆる方面で最悪だと言っていた。
と、本人が言っていた。
あそこで立てているのは根性で意識を保っているからだろう。
流石はメテオラ・F・ドラゴニアである。
本当にすごい奴だ。
ただ、今回に関してはほぼ決着だ。
ここからまだまだ粘れるのが龍姫さまだが、授業もあるのでさっさと終わらせよう。
「一応聞くけど、降参する気ある?」
「愚問ですわね。ありませんわ!」
おお、と観客がざわめく。
「じゃあ、言わせるか」
「………奥の手、というやつですわね」
「まあな」
あまり気乗りしないが仕方ない。
メテオラに近づく。
これは禁じ手中の禁じ手だ。
下手をすれば厳罰もの、だがあらゆる戦場で有効な一手。
公式試合では流石の俺も控えるし、せいぜいが私的な突発試合でギリ許される必殺技だ。
「最終通告だ。覚悟はいいな」
「………きなさい」
警告は無駄に終わった。
ならばこれにて決着だ。
メテオラに肉薄する。
お互いの体温を感じるほどの、顔と顔が接触しかねない危険な距離。
やや身をこわばらせる彼女の耳に、俺はぼそりと呟いた。
「………降参したら、下僕になること以外なら言う事聞くんだけど」
「すみません、やっぱ私の負けでしたわ」
俺たちは勝った。