テンプレラノベみたいな世界に生きている   作:赤雑魚

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装備

 

 

 現実との位相をわずかにずらし、戦闘中の負傷や消耗を無かったことにする仮想結界というものがある。

 学園都市内の試合場の大半にはこの便利結界が展開されており、戦闘狂達が己の必殺技を相手に遠慮なく叩きつける事が可能となっているのだ。

 

 この結界のお陰でメテオラは戦場を焼き払えるし、御影ユイは刀剣で相手を真っ二つにできるし、俺は毒を撒ける。

 

 とまあ、そこまで言ったのだが、メテオラの逆鱗だけは少し特殊だ。

 

 砕かれると仮想現実であれど、かなりのバッドステータスが発生するのだ。

 もちろん負傷は治るが全身に激痛や倦怠感が残る、しばらくは魔術の精度は著しく低下する等の結構な影響がある。

 

 それだけ重要な部分なのだろう。

 

 まあつまりは、逆鱗を砕かれたメテオラは状態最悪。

 

 彼女は敗北宣言をした瞬間に、即気絶して医務室送りとなって俺達の戦いは終了した。

 

「というわけなんだ」

「い、意味わかんない………」

 

 オイル臭い部屋で金属を叩く音が響く。

 よくわからない何かを製造している機械がガチャガチャと唸りを上げる。

 

「この斬撃痕とか銃弾はなに? 五寸釘とかも刺さってる………」

「これは登校途中に襲われたんだ」

「………相変わらず、嫌われ者」

 

 誰が言ったか「生きることは戦いだ」という名言がある。

 もはや何千回と使い回されて一周回って古臭いまであるその名言は、まあ案外的を射ているのだろうと俺は思っている。

 

 少なくとも学園都市【天地】では有効だ。

 

 生きるために戦うどころか、戦うために生きてる奴らが多すぎる。

 むしろ人は戦うために生まれてきたんだよ、なんて嘯く輩もいるのは恐ろしいの一言に尽きる。

 

 頭戦闘民族かよ。

 

 しかし、そんなイカレた連中も逆らえない存在がある。

 

「も、もっと丁寧に使え。新技あるなら相談、しろ」

「ウス」

 

 だれか。

 

 それは生産系の人間である。

 

 特に武装周りに携わる装備師(スミス)あたりは頭が上がらないのだ。

 

 日々のメンテナンスはもちろん、場合によっては武器をオーダーメイドをすることも珍しくない。

 学園外で魔獣狩りやらダンジョン探索する奴らもいるし、前線職にとって武器は己の生命線だ。自分の命綱のメンテナンスを依頼するのだから、当然敬意を払われている。

 

 盾とはいえ、武器を使う以上は俺自身も例外ではないので、結構な頻度で鍛冶師の工房に向かう。

 

 依頼する相手は様々だ。

 

 一般的にはプロに頼む場合が多いが、俺の場合は学園生の人間に頼んでいる。

 

 基本的にプロに比べて金額が非常にお手頃なのだ。

 というか普通に安い。それは商売ではなく彼らが武器制作のノウハウを得たいから、低めの金額で仕事を請け負う。その代わりに俺達は装備師の武器を使うし、継続してメンテナンスを依頼する。

 

 まあお互い無名同士で成立しやすい話。

 

 いわゆる持ちつ持たれつみたいな関係だ。

 

 そんな感じで、俺は学園都市の隅で活動をする偏屈鍛冶師のクウリ・ドゥエルガルに盾を見てもらっている。

 

 ちなみに彼女はドワーフである。

 

「直るかな、これ」

「………ひどいのは留め具が壊れただけ、全体劣化もあるけど、基本鞄に見える外装を取り換えればそれで済む」

「よかったぁ、今月厳しかったんだよ!」

 

 そんなにお金は掛からなさそうだ。

 

 転生者レンジロウ。

 絶賛一人暮らし、基本的に家計はギリギリである。

 

「少し待って。直す」

「天才ドワーフ! 女神!」

「ちゃ、茶化すな」

 

 それだけ言うと小柄な女鍛冶師は折畳み式鞄型盾を工具で直しだした。

 

「すげー、どんどん直ってくなぁ」

 

 パーツの取り換えをしてくのだが、とにかく早い。

 非常に手際がいいというのが素人目でもわかる。見ていて気持ちがいいレベルだ。

 

「このくらい、誰でもできる」

「いや無理だろ」

 

 何言ってんだコイツ。

 

 俺が同じ事やろうとすれば絶対に手を怪我する自信があるわ。

 

 実力とくらべて自己評価が低いのがクウリという少女だ。

 

「そ、それより。新技について教えて」

「あー、いいよ」

 

 防盾展開について話す。

 

 まあ魔力をぶち込んで展開するだけだが。

 

「ば、馬鹿すぎる」

「酷くない?」

 

 スマホAIのイデアも言ってたけどそんなにおかしいことしてる?

 

「防護の魔術とか、属性変換とか、攻撃防ぐにしてもやりようは色々ある。魔力の無駄使い」

「まあそうなんだけどさ………」

 

 考え方としては「自転車があるのになぜかダッシュで並走する」とか「ハサミがあるのに手で紙を綺麗に千切ろうとする」に近いとか。

 

 発想が文明人じゃないってか。

 

 悲しすぎるだろ。

 

 前世は魔術やら超常やらとは縁のない世界出身である。

 基本的に転生能力を使わない以上、余剰魔力を雑にどうこうするくらいしか俺にはできないのだ。 

 

「………それがレンジの個性ともいえる、かな」

「あんまり褒められた気がしない」

「純粋な魔力だからこその利点も一応ある。効率は悪いけど」

 

 ちょっと傷付いていると、クウリが手を止めてじっとこちらを見る。

 

「そ、それで、どうなの?」

「どうなのって、何が?」

「こ、後輩。できたんでしょ」

 

 ああ、御影ユイの事か。

 

 連盟の剣、おそらく目付け役の少女。

 一年前の戦場で出会っている。生真面目な性格、必要と判断すれば龍人種に立ち向かう行動力。そして絶技である魔術斬りの使い手。

 

 連盟には思うところはあるが、御影ユイは悪い奴ではなさそうだ。

 

「まあ、可愛い後輩だよな」

「か、かわいい!?」

 

 ガタッとクウリが立ち上がる。

 

 なんでそんなに驚くんだ。

 

「レンジが女を褒めた? ありえない!」

「お前、俺の事なんだと思ってんの………?」

「す、スマホの中の女しか興味ないみたいな顔してたくせに!」

 

 言葉のナイフを振りかざすのを止めろ。

 

 かなり胸を抉られたわ。

 

 違うんだよ二次元以外にも興味あるけど、スマホの中にいる女以外は俺に基本辛辣だから二次元に心が戻っちゃうんだよ。 

 

「いや、マジで可愛いよ。なんというか、見た目が整ってる? って感じ」

「ぐうぅぅううう」

「なんで唸るんだよ!」

 

 さっきからクウリの情緒がおかしい。

 自分の顔をべたべた触りだしたり、雑に二つに縛っていた髪留めをほどいてくくり直したりしている。

 

 これは発作だ。

 

 普段から感情が高まると可笑しくなる奴だが、このレベルは3徹したあとに栄養剤決めて武器制作をしていた時以来だ。

 

 ふらふらと視線を彷徨わせると、俺の服をがしりと掴む。

 

「で、でも私なら! ビームが! ビームが撃てる! 私の勝ち!」

 

 ちなみにクウリの主武装は魔力変換型重光砲。

 

 いわゆるビームライフルである。

 

 

 クウリ・ドゥエルガル。

 

 

 こいつは腕利きの鍛治師でありながら、単純な火力ならメテオラの防御も突破できる、超のつく火力特化型の後衛なのだ。

 

 やや、ナイーブなところはあるが。

 

「でも御影は魔術斬りできるしな………、相性不利寄りじゃないか?」

「ぎぃー!?」

 

 天才ドワーフは死にかけのセミのようにひっくり返った。

 

 

 

 

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