学園都市【天地】は日本最大の教育機関である。
古今東西、異能超常を問わず、才能の原石を招き入れるそのスタンスによって、現在は万単位で生徒が在籍している。
そんなに人数を集めて何をするのか?
答えは闘争である。
『戦え、強さを求めろ』
学園都市が創設されて以来、変わることのない指針が全てを語っている。
一人ひとりが強さを求めて競い合わせ、磨き抜かれた個を生み出す修羅の土壌。それが学園都市である。
そして、学園都市において明確に
それが序列持ちだ。
数万の中でも特に実力があるとされる100人。
学園内での苛烈極まる闘争を肯定し、その上で他者を捻じ伏せてきた実力者たち。性質や能力に違いはあれど、その強さは生半可なものではない。
油断すれば一瞬で持って行かれる。
というか、はっきり言おう。
俺が学園内でも、特に戦うことを避けているバケモノたちである。
「うお!?」
「避けんじゃねェ!」
「無茶言うな!」
グレネードを盾で防ぎ、冗談みたいなサイズの戦斧を潜り抜けるようにして躱す。
一歩間違えれば、すぐに真っ二つになって終了である事実に肝を冷やしながら、静かにため息を吐く。
四辻・伍堂ペアと交戦開始して10分。
状況は拮抗している。
というかやや圧され気味だ。
斧使いの四辻は俺が引き受けているが、相棒のユイが攻めあぐねている。
「御影だったか、悪ぃが近付かせねぇよ」
「………くっ!」
伍堂が拳銃を撃ちまくり、御影ユイが躱す。
銃火器使いの伍堂が上手い。
拳銃で射線を通してユイの行動を制限し、グレネードによる爆撃で近づかせないように立ち回っている。なんなら隙を見てこっちに爆撃してくる始末だ。
少し思案する。
困った点、その一。
ユイは魔力が無い以上、耐久力は一般人だ。銃弾なんて一発貰えば即アウト、爆撃なんて論外。
変態技術の魔術斬りは明らかに脅威だが、実弾武器なら関係ないし。明らかに得手不得手が分かっている立ち回りだ。
おそらく空間収納の魔道具か何かを仕込んでいるのだろう、銃器も時折切り換えてくるし、弾切れも期待できなさそうだ。
恐らくユイの方からは相手を崩せないだろう。
「はっ、よそ見かよ! 余裕だな!」
「集中力が無いってよく言われるわ」
困った点、その二。
四辻が強い。
小柄な体格で振り回してくる大斧の威力がおかしい。
精度が雑だが魔力をつぎ込んだ俺の盾をザクザク刻んでくる。正直、盾がもう半分も残っていない。
一応メテオラがドついて来ても耐えれる強度はあるはずなんだけどな。
あとはグレネード爆撃の中を何度も突っ込んできているのに無傷なのも妙だ。
「ッチ、面倒臭ェ。
「んぐっ」
そして時折、
その瞬間を逃さず振るわれる斧。
「危ねェェェエエエ!!」
魔力を全身に回し、強引に振りほどいて回避する。
明らかに何かされているが、手段がよくわからない。
これだから序列持ちと戦うのは嫌なのだ。使い方次第では格上を殺し得る手札を何枚も隠し持っている。
迂闊に攻めたくない。
「………おい、なんだ? お前」
「え、なに?」
唐突に四辻が斧を振るう手を止める。
なんというか、腑に落ちないとでも言いたげな表情だ。
「さっきから防御一辺倒、本当に戦う気あんのか?」
「まあ、一応は。戦う以上、勝つつもりはあるぞ」
「………期待外れだな。オマエ程度があの龍人種と渡り合ってただと? じゃれられてただけだろ」
そうです、じゃれられているだけです。
ただしこっちは毎回死ぬ思いで対応しているが。
「メテオラが気になるのか?」
「そのうち倒す相手ってだけだ。踏ん反り返った赤いトカゲも、そろそろ目障りだ」
「マジで? 相手は序列3位だぜ?」
「知るかよ。邪魔だから引き摺り下ろす。そんだけだろ」
下の番号なんているかよ、と四つ辻が嗤う。
この男にとって序列は、実力の番付けではなく、自分が超えるための単なる数字でしかないようだった。
野心の塊みたいなやつだ。
ただのアホと笑うには、ちょっとカッコ良すぎる感じの男だった。
「とりあえず、まずはテメーだ。さっさとくたばりやがれ」
「わかった。もうちょっと頑張ってみて、無理そうだったら降参していい?」
「いいわけねーだろうが! 死ね!!」
□□□
同刻、観客席。
振り回される斧に悲鳴を上げながら、試合を転げまわる盾使いを少女は眺めていた。
鮮やか赤髪、整った顔立ち。
磨き上げた紅玉のような美しい大角、天上の衣装と錯覚するような背の鱗翼、そしてゆらりと揺れる長い尾。
メテオラ・F・ドラゴニアが、試合場を見つめていた。
「キミが観戦にくるのは珍しいな」
「あら、学園長。お久しぶりですわね。面白い催しがあると聞いたので」
「それはそれは、お気に召す内容だといいが」
雑賀マガネがメテオラの隣に腰掛ける。
「ところで体調はどうだね?」
「控えめに言って最悪ですわね。しばらくは全力で戦えません」
「それは残念だ。ぜひとも春蒼杯に参加してもらいたかったのだがね」
「『春』の杯には興味ありませんわ。『冬』は出るつもりですが」
そうかとマガネも頷く。
国内大会は全部で4つある。
四季になぞらえて開催される、冬は純粋な実力が問われる
メテオラらしい選択と言える。
「では、観戦でもしようか 片や学園上位の序列ペアだ、片や龍を下した剣士と害悪使い。対戦カードとしてはなかなかだと思うが」
「特に、面白味はありませんわね」
「そうかね? 相手は上位序列だ。『龍殺し』ペアと言えど、旗色が悪そうだがね」
序列というのは飾りではない。
噓偽りなく学園における最上の実力者だ。数万の上に立つ才能は、メテオラですら梃子摺りかねない。その序列持ち二人を相手にする以上、非常に厳しい戦いになるだろう。
「まあ御影君はそのうち序列入りしそうではあるが」
「………ええ、癪ですが実力はあるでしょう」
「おや、思ったよりも素直な反応だ」
「自分を負かした相手を認めないほど、器は小さくないつもりですわ」
渋い顔で頷くメテオラを見て、マガネが苦笑する。
「というより、意外なのは学園の方でしょう。大会条件の足切りラインがあの二人と同等以上? ハードルを上げ過ぎじゃありませんの?」
「他校の選手と戦うなら、最低限必要な実力だよ。序列者ペアでもないんだから、出場候補者には頑張って欲しいね」
「物は言いようですわね………」
メテオラが呆れた表情を浮かべる。
だが、学園の長がそう判断せざるをえないほど、今年の他校は粒ぞろいという事なのか。
「しかし、敗ける前提で戦わせるなんて酷い師匠ですわね」
「これも弟子の為に泣く泣くさ。だが見たまえ、お陰で合格ペアが出そうじゃないか」
「………さっきから心にもない事を」
「教師は中立で物事を見ないといけなくてね」
「では私が代わりに言いましょう」
戦場を眺める、変わらず攻撃を躱し続けるレンジを、メテオラの赤い瞳が捉える。
彼は序列者ではない。
臆病者、カス、排泄物野郎、害悪タンク、逃げる卑怯者、Gの擬人化。
数々の罵倒を受けながらも、戦場においてほぼ負けることがないと言われる実力は本物だ。
序列に数えられない
あらゆる相手と渡り合うと言われる『
「――――――詠坂レンジは、あの程度の相手に負けませんわ」
□□□
相手強すぎ問題。
伍堂ショウゲンは明確な
近代武器を主力に、高い火力で戦場を制圧するのが得意。戦場を動かす能力に長けていて、最初の爆撃からこの男が試合を動かしていると言っていい。魔力強化も上手く、強化した肉体で御影の間合いからもうまく逃げている。
俺が伍堂と戦えていればもう少し楽に戦えていたと思うが、そこも含めてこの男に分断されたのだろう。
四辻ヨキトキは生粋の戦士だ。
魔力強化が上手く、巨大な戦斧を軽々扱ってくる。
雑とはいえ俺の魔力で強化した盾を切り落とす攻撃力を活かして、絶え間なく攻め続けてくる。俺の投擲は斧の腹で受けたり弾いたりと手堅い立ち回りも出来るし、伍堂の援護射撃もうまく利用してくるセンスもある。
そして一瞬だが相手の動きを止める干渉技を持っている。
全身を掴まれるというか、固定される感覚というか、どっかで受けたことがある気もするんだが思い出せない。
まあ気性の荒さも含めて、優秀な近接型といったところだろうか。
うーん、キツイ。
盾を斬られる実質防御無視の斧を必死に逃げ回っている状況である。
苦し紛れに石ころを投げつけているが、躱されるか斧で防がれるやらで効果が薄い。
俺の得意なガン盾引き撃ちは通じないようだ。
仕方ない。
あまり評判はよろしくないのだが、奥の手を使うしかないだろう。
たぶん師匠的には俺がアレを使う事込みで、候補者選定をさせている気がするし。
まあ別段特別な技でもないが、基本初見では防げない害悪である。
許せ四辻・伍堂ペア。
お前らが強すぎるのが良くないんだ。
俺を恨まず勝手に沈め。
――――――俺は『毒』を解禁することにした。
回避+ガン盾+投擲で相手を削り倒し、効かない相手は毒で沈める。