テンプレラノベみたいな世界に生きている   作:赤雑魚

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VS龍人少女

 

 

 

 極東の地。

 

 開かれた天の空と、地に満ちる水の狭間。

 

 

 学園都市『天地』は、日本の大湖に浮かぶ人工島(メガフロート)上にある特異な存在だ。

 

 

 魔術と科学の粋によって生み出されたとの触れ込みであり、当たり前だが前世の日本では存在しなかった場所である。

 「あらゆる才能が集う」とまで言われるこの都市は、世界的にも注目されている最新鋭の教育機関であり、ビル群が立ち並ぶほどのその発展は目覚ましいの一言に尽きる。

 

 聞けば国内最新鋭の技術の大半が、この学園都市で生み出されているとか。 

 

 だが、そんなものは些細なことに過ぎない。

 

 この学園の本質、最大の特色はもっと単純だ。

 

 

 『戦え、強さを求めろ』

 

 

 ここは学術兼戦闘技能養成学園「天地」。

 古今東西、科学魔術、異常超常を問わず才能の原石を集めて競い合わせる、武闘派かつ超実戦派のイカした育成機関である。

 

 

 そして現在、転生者の俺が通っている学園でもある。

 

 

 

***

 

 

 

 

 この学園において、生徒同士が戦うことは珍しくない。

 というか日常茶飯事である。なんなら修練・研鑽の一部として推奨までされているし、手順さえ踏めば決闘さえも認められている始末だ。

 

 前世日本の倫理も道徳も形無しである。

 

 プライベートすらそんな調子なのだから、当たり前のように授業も戦闘関連のものがある。

 

 

 

 例えば月に一度、生徒の成績に反映される『多人数演習(バトルロイヤル)』もその一つだ。

 

 

 

 銃が火を噴く、魔術の詠唱が響く、魔剣が振るわれる。

 撃ちだされた鉄の礫が、炎の槍が、風の刃が試合場(コロシアム)を駆ける。

 

 生半可な威力の攻撃はない。

 一つ一つが「敵を討つ」という意志のもとに、吐き出された殺意の形だ。

 

 

 ______そして、敵というのは俺の事である。

 

 

「うぉぉぉおおおお!?」

 

 自前の(シールド)を傘替わりに、弾丸と魔術の雨を凌ぎきる。

 

 ゴリゴリと盾が削れる恐ろしい音が鳴っているのに気付いて、背中に冷や汗が流れる。

 

 魔力を通して盾を補強をしているのにこの威力。

 撃ちだされた攻撃そのものが、この学園の生徒の実力の高さを証明している。

 

 常人なら細切れ案件の攻撃を防いだ俺に、試合場の観客席が湧くが当事者はそれどころではない。

 

 穴だらけになった地面を見ながら、俺を狙った生徒十数人に抗議の声を上げる。

 

 いま全員で俺を狙ったよね?

 

「............おい! 一人狙いはズルくないか!? 折角の大乱闘だ! フェアに行こうぜ!」

 

 一般論で攻めるが、どうやら相手方は話し合いをする気がないらしい。

 

「害悪戦法使いがフェア精神を語るんじゃねぇ!」

「テメェ最後に残すと面倒臭いんだよ!」

「ガン盾決め込みやがって! 亀かテメーは!?」

「毒まで投げてきやがって!」

「逃げ足もはえーしよォ!」

「その硬さで引き撃ちしてる奴を生かす理由なんざねェ!!」

「死ねェェエエエエエエ!」

 

 酷い言われようだった。 

 

 いや確かに盾で身を守り、タゲが外れた瞬間に投石とか道具とかを投げたりしてチクチク攻撃し、狙われ始めたら逃げ回るのが俺の戦法だが。

 

 この一年間で、幾度となく俺に沈められてきた奴らだろう。

 揃って中指を立ててきている辺り面構えどころか、メンタルも完全に俺アンチ仕様なようだ。

 

 同士討ちは期待できなさそうだ。

 

 まあ俺自身ちょっとどうかと思う戦術ではある。 

 ただ一年前の戦争を経験したら身を守る盾くらいは持ちたくもなる。あと防御と回避と安全圏からの攻撃を突き詰めたらこの戦法になっちゃったのだ。仕方ないと思う反面、対戦相手には少し申し訳ないとは思っている。

 

「非モテ!」

「陰キャ!」

「根暗!」

「童貞!」

 

「よーし戦争だお前ら! 全員床ペロさせてやる!」

 

 ビックリした。

 

 今ので良心の呵責とか罪悪感とか、全部吹っ飛んだわ。

 

「詠坂レンジ! テメーを叩いて学園の秩序を取り戻すぜ!」

「復讐するは我にありィィぃイイイイイイイ!!」

 

 相手の攻撃に備え盾を構える。

 お互いに戦意は十分、あとは仁義なき戦いがあるだけだ。

 

「うるせぇうるせぇ! 勝ちたかったら嫌な行動ばっかとれってママに教わらなかったか!? 来いよ優等生共! 道徳なんか捨ててかかってこい!!」

 

「「「野郎ぶっ殺してやらァァァアアアアアアアアア!!」」」

 

 魔力がうねる。

 

 一方が追い、一方が逃げ回る。

 

 ガン盾引き撃ちVS袋叩きの見苦しすぎる戦火が切って落とされる_______その瞬間だった。

 

 

『______瞬き 紅蓮 この世の終始 真なる祝言は我らのもとに』

 

 

 

 莫大な魔力の脈動と共に、宙から太陽が墜ちてきた。

 

 

 

***

 

 

 

「.........流石に死んだかしら? いや、うーん?」

 

 粉塵と黒煙を放つ焦土化した大地に、空から一人の生徒が舞い降りる。

 

 鮮やか赤髪、整った顔立ち。

 磨き上げた紅玉のような美しい大角、天上の衣装と錯覚するような背の鱗翼、そしてゆらりと揺れる長い尾。

 

 いわゆる『龍』の特徴を持った容姿。

 

 世界的に有名な『龍人種(ドラゴニア)』と呼ばれる種族の少女が首を傾げる。

 

 彼女が試合場で行ったことは単純だ。

 

 自分の魔力を練り、火炎を上空から地上に落としただけ。

 たったそれだけで試合場は更地となった。

 

「Bランクの実力はあった学生を纏めて一撃かよ」

「流石は『龍の姫』メテオラ F ドラゴニアってところか.........!」

「なんかアイツらめっちゃ言い争いしてなかった?」

 

 最上位の幻想と呼ばれる龍の力の片鱗を目撃した観戦席からは感嘆の声が上がる。

 

 この威力の攻撃を人間が出すならば、熟練の魔術師でもそれなりの準備が必要だ。

 だというのに目の前の竜少女は息切れすら起こしていない。

 

「すげーけど、なんか変だぞ?」

 

 今回の戦闘形式は『多人数演習(バトルロイヤル)』だ。

 先ほど放たれた最上級の火炎魔術の一撃が決まっているのならば勝負は決着している。メテオラと呼ばれた生徒を除く全員の戦闘不能、つまり彼女の一人勝ちという事になる。

 

 だが、メテオラは未だに何かを待つように試合場に立っている。

 

「そろそろ出てこないと、もう一度撃ち込みますわよ」

「.........止めてください」

 

 どうやら死んだフリは通用しなかったようだ。

 

 もこもこと焼けた地面を隆起させ、地面から這い出すことにする。

 

 ゾンビみたいな光景に観戦席から悲鳴が上がる。

 

「詠坂レンジの奴、生きてたのか」

「すげー、あの一瞬で地面に潜ったのか」

「ゾンビかよ............」

「蝉の幼虫だろ」

「生き汚い」

「さすが序列0位」

「さすゼロ」

 

 言いすぎじゃない?

 

 立ち上がって汚れを払い、盾を構える俺を見て、メテオラが頬を綻ばせる。

 

「相変わらず、丈夫ですわね」

「滅茶苦茶に不本意だけど、頑丈なのが取り柄だからな」

「さすがは学園トップの魔力量ですわね?」

 

 世界を壊滅に追い込んだ七つの転生特典。

 

 その力の一つが『魔力量(リソース)』である。

 

 このチートの特性はきわめて単純。

 

 人の枠組みを遥かに超える膨大なエネルギーを保持すること。つまり尋常じゃない魔力量そのもの。

 

 なんか地味だと侮るなかれ。

 

 あらゆるファンタジーにおいて魔法魔術の源泉と目されるエネルギー。それを後先考えなく使い放題というのだから、常識的に考えて弱いわけがない。

 

 溢れ続ける潤沢な魔力によって肉体は常に強化され続け、常人を遥かに超える耐久力と膂力を得られる。多少の傷は秒で治るし、隕石が直撃しても致命傷にならない。

 ほぼ不眠不休で活動できるうえに、泥水啜ってもお腹を壊さないで栄養に変えられる。

 

 世界連盟との戦いでも一役買ってくれたのがこのスキルだ。

 

 戦闘と生存においてこれほど心強い転生特典は存在しないと思っている。

 

 あと普通に使ってる分には、魔力が多いだけにしか見えないので転生者だとわからないのも高得点だ。

 

「平地では攻撃範囲外へ逃げきれないと判断、即座に地面に潜行、あとは盾と魔力で防御を固める。結果、ダメージは最小限に抑え込む______流石ですわね」

「お嬢様にはビックリの荒業だろ?」

「初見とは思えない回避方法ではありましたわ」

「昔似たような攻撃を受けたことがあったんだな、これが」

 

 あの時は隕石だったけど、と話す少年を見て龍少女が笑みを浮かべる。

 値段の付けられない宝物を見つけた時のような、あるいは獲物を定めた捕食者のような獰猛な笑みだ。

 

「やはり貴方は私の物になるべきですわね」

「.........その話は前にも断った気がするんだけど」

「その大量の魔力! 逆境でなお足掻く生への執着! 龍人種の誘いを断る不遜! 不敬! 高慢!! 全てが好みですわ!」

「ねえ! 話を聞いて!?」

 

 メテオラが頬を紅潮させ、身を震わせる。

 

 学園に入学して以来、目の前のドラゴン女に言い寄られているのだ。

 

 

 自分の下僕にならないか、と。

 

 

 なんでも魔力の質と量が好みなのだとか。

 人間ではありえないレベルの魔力量らしく、メテオラからすれば道端に宝石が転がっていたような感覚なのだろう。

 

 事あるごとに金と権力と暴力でモノにしてこようとするので困っている。

 

 クルクルと喉を鳴らし、尾を撓らせる相手に距離を取る。

 

 このまま逃げたいのだが、相手は最強の龍人種。

 

 あと授業中でもあるので、基本的に逃げるのは不可能だ。

 

 敵前逃亡は成績が落ちる。

 

「______まずは躾けからですわね?」

 

 瞬時に距離を詰めたメテオラに、地面に引き倒される。

 

「ぐおっ!?」

 

 叩きつけられた地面が砕けて大地が揺れる。

 

 龍という人を超越した種の力が振るわれたことを理解する。

 倒される瞬間、ギリギリで盾を間に挟み込むことに成功するが、盾ごと地面に組み伏せられる。

 

 メリメリと掛けられる圧力に盾が軋む。

 

 動けないのをいいことに、竜尾が別個の生き物のようにしゅるりと足に巻き付く。

 

 ヤバい。

 

 頬を上気させ、赤い竜は妖しく舌なめずりをした。

 

 

「全力で足掻いてくださいな? その方が燃えますもの」

 

 

 そもそも龍とは、世界の意志を代行する者。

 この世で最も完成された生物の一つであり、その攻撃力は天災と同格であり、「種として最強」とまで称される存在である。

 

 そんな相手に______人間が勝てるだろうか。

 

「せ、先生! 勝負ありました! 俺以外皆全滅しています! メテオラさんの一人勝ちですよ!! 早く終了の合図してください!」

 

 外野で観戦している戦術科教師に助けを求める。

 

 明らかに勝負はついている。

 俺も龍人とはガチバトルをしたくない。

 

 つかれた、たすけて。

 

 俺の救いを求める声が通じたのか、真剣な表情で教師がゆっくりと頷く。 

 

「続行で」

「ざけんなや!!」

「いや、龍とタイマンバトルできる人のデータは貴重なので、もっとやってください」

 

 この学園都市は教師も生徒も頭おかしいことを忘れていた。

 

 助けはない。

 

「う、おぉぉおおおおおお!!」

 

 全力で魔力で自分を強化し、メテオラを押し返す。

 蹴り飛ばして距離を取る。 

 

「時間いっぱい、踊りましょうか」

「ヤダぁ!!」

 

 

 結局、時間いっぱいまでメテオラと取っ組み合いをした。

 

 

 

 俺は泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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