テンプレラノベみたいな世界に生きている   作:赤雑魚

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無才の剣VS龍人少女①

 

 

 

 たった一本の剣を振る。

 

 

 重心の移動、肉の収縮、骨の軋み、関節の旋回。

 自身の身体の躍動に合わせ、冷めきった刃で虚空を薙ぐ。

 

 1度の素振りで静止し、残心を取る。

 

 それを繰り返すのが御影ユイの日々のルーティーンだ。

 

「………………まだ」

 

 そして剣を振るうたびに理解する。

 

 ダメだ。

 

 理想には程遠い。

 

 星斬りの剣士、大森林の剣聖、超常の魔剣群――――――あるいは隠された秘剣使い。

 

 あの英雄達とは比べるべくもない。

 

 ただ、ひたすらに凡庸な一振り。

 

「まだ」

 

 姿勢を修正して、再度剣を振るう。

 

 己が弱いことは解っている。

 

 剣の才覚はなく、卓越した身体もなく、魔力すらも持ちえない。

 

 一年前の戦争から何も変わっていない。

 

 自分は弱いままだ。

 

「まだ………」

 

 自分は救われたのだ。

 

 使い捨ての命。

 

 閉ざしていた感情。

 

 なにより同様に死ぬはずだった仲間の命。

 

 貰ったものが多すぎる。

 なのに返せる見込みもない。

 

 せめて、あの少年に救われるに値する生き方をしなければ。

 

「まだ!」

 

 だから剣を振り、修正を繰り返す。

 

 いつか理想に辿り着くために。

 

 いつか彼に何かを返せるように。

 

 

 

□□□

 

 

 

 突き抜ける様な蒼い空、吹き抜ける春風。

 円を描くように形成された試合場(コロシアム)に実況の声が鳴り響く。

 

『さあ! いよいよ決闘が始まります! それは種の頂点! 火の究極! その実力はAランクオーバー! 序列第3位のメテオラ・F・ドラゴニアァァアアアア!!』

 

「「「ウォォオオオオオオオオオオオ!!!」」」

 

 湧きたつ会場。

 

 コロシアムに立っている自分に頭を抱える。

 

「何でこんな事になったんだっけ………」

 

 三十分ほど前のいきさつを思い返す。

 

 襲い狂う非青春テロリスト達との激闘を繰り広げ、満身創痍で学園に到着したまでは良い。

 だが、何故か笑顔で待ち構えていた暴君ドラゴン娘のメテオラが決闘を申し込んできたのだ。

 

 俺と御影ユイ、その両方に。

 

『相対するのは、特徴が狡い、素早い、死ににくい! 人呼んでGの擬人化、実力あるのに序列戦をしないから序列ゼロ! お前こないだ毒使ったの許さねぇからな!! 詠坂レンジ!!! ――――――そしてペアの新入生の御影ユイさんでーす!』

 

「御影ちゃんがんばれー! レンジは負けろ」

「ユイちゃん肩の力抜いてけー。レンジは負けろ」

「詠坂ァ! これで終わったと思うなよォ! 協会は必ずや貴様を討つ!!!」

 

 相変わらずのブーイングの嵐。

 

 突発試合の筈だが、想像以上に人が集まっていた。

 いつの間にか実況部の人間まで来てるし。

 

「なんでこんなことするんだよ? 昨日戦ったばっかじゃん」

 

 今までは月に1回程度の襲撃だったはずだ。

 向かいで腕を組んで待機するメテオラに抗議すると、彼女が不機嫌そうにバシンと尾を打ち付ける。

 

「レンジ、本当に分かりませんの?」

「話し合おうぜ、なんか悪い事したなら謝るからさ」

 

 まともに殴りあったら勝てないので対話で済ませたい。

 

 龍人種との戦いなんて、基本一方的な蹂躙にしかならないのだ。

 

「大したことではありませんのよ? 下僕とその取り巻きに、誰が所有者であるかを身体に教え込もうとしただけですわ」

「………原因の方を、もうちょっと具体的に言ってくれないか?」

「貴方とそこのニンゲンが一緒に登校したと聞いたのですが」

 

 お前もか。

 

 それ秩序協会と同レベルだからな。

 

 ドラゴニアと言えば世界でも有数の発言力を持つ非常に高貴な存在だ。

 そりゃ身分的にも実力的にも、なかなか見合う相手はなかなかいないのだろうが、だからといって人間に八つ当たりをするのはどうなんだ。

 

「誤解してると思うけど、別に俺らは色恋の関係じゃないからな」

「あら、そうですの?」 

 

 メテオラが目を見開く。

 

「なんか話が大きくなってるかもしれないけど、たまたま顔見知りだったから、同じ道で登校したくらいのもんだ」

「てっきり、断りもなしに()()()でも見つけてきたのかと思いましたわ」

「つが……って、別におまえに断る必要ないだろ」

「では、これからは私が貴方と登校しましょう。下僕の管理も主人の務めです」

「聞いてないなコレ」

 

 どう断ろうか考えていると、今まで静かだったユイが声を上げる。

 

「そろそろ始めましょう、先輩」

「え?」

 

 ユイが竹刀袋から剣を取り出す。

 

 小柄な彼女に合わせて作られた、何の変哲もない鉄の西洋剣だ。

 

「先ほどから、先輩に対して礼を欠いた言動が目立ちます。無暗に調子に乗るとどうなるか、一度分からせる必要があるかと」

「御影さん?」

「先輩の気が進まなければ、代わりに私がやっておきますが」

「あの、ユイさん?」

「躾け、というやつですね」

 

 ユイが微笑む。

 

 怖い。

 

 なんかめっちゃ怒ってる。

 

 理由はわからないが、メテオラが地雷を踏んだっぽい。

 

 だが相手はメテオラ・F・ドラゴニア。

 キレる速さなら負けていない。

 

「躾ける? どうやら相手が見当たらないようですが」

「言わなければわかりませんか? ああ、礼儀も学べない頭では無理からぬことかもしれませんね」

「よく鳴く玩具は好みでしてよ。戦いでもすぐに壊れないと嬉しいのですが」

 

 バッチバチである。

 

 観客もやや引き気味だ。

 怒気が伝わっているのか、場が完全に静まり返っている。

 

『さ、さあ両者暖まったところで試合開始の合図を!』

 

 メテオラが獰猛に笑み、ユイは剣を構える。

 

 え、この戦いに俺も混じるの?

 

 

戦闘開始(エンゲージ)!!!】

 

 

 大気が爆ぜた。

 

 魔術ではない。

 

 ただ、メテオラが移動しただけのこと。

 ただそれだけで、龍人種(ドラゴニア)の規格外の身体は、尋常ならざる速度を発揮する。

 

 彼女の戦術は極めてシンプル。

 

 相手を最短最速で叩き潰す。

 城塞すら砕き得る自身の拳を以て、ただの一撃で粉砕する。

 

 一度懐に踏み込めば、防御は出来ず、回避も許さない。

 

 誇張なく必殺。

 

 いつも通りの蹂躙だ。

 

 故に、拳を繰り出して――――――

  

 

「――――――芸のない一撃ですね」

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 コンッ、と拳に刃を乗せる様な振り下ろし。

 ただそれだけで、メテオラがつんのめるように大きく体勢を崩す。

 

「な、あ!?」

 

 踏ん張って身体を支えるが、連盟の剣士にとってそれは大きすぎる隙だ。

 

「首を差し出すとは、殊勝な心掛けです」

 

 振り返る刹那。

 

 視界の端にメテオラが捕えたのは、剣を振り下ろす御影ユイの姿だった。

 

 

 

 

 

 

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