嘘つき   作:てね

11 / 11
エピローグ

 

 

 

半年ぶりに屋敷のドアをノックする。

 

 

「久しぶりだな、あるえ」

 

 

カズマが私を出迎える。以前見た時よりも少し体が太ったような。家で食べては寝る生活を送っているのだろう。

 

 

「久しぶりだね。我が同胞の顔を見に来たんだ」

 

「おう、まあ入れよ」

 

 

私はカズマの後をついていく。

 

 

「最近、調子はどうだ?」

 

「紅魔の里で冒険者として頑張ってるよ」

 

「小説は?」

 

「趣味で書く程度、かな」

 

 

私はあれから紅魔の里に戻った。小説家になれなかった自分を(おとし)める人は誰もいなかった。全て私の杞憂だったのだろう。

 

やがて、居間のドアの前に着く。

 

 

「さて、あの子は元気にしてるかな?」

 

 

きっと彼女は目を覚ましてるだろう。私は逸る気持ちを抑えてドアを開ける。

 

 

「おや。久しぶりですね、あるえ」

 

「ああ、本当に久しぶりだね、めぐみん」

 

 

そこには、目を覚ましためぐみんの姿があった。

 

 

 

 

 

 

めぐみんは半年以上、寝たきりだった。寝ている間は体の筋肉を殆ど使わない。起きたばかりの頃は、口を開けて話すことさえ大変だったそうだ。

 

だが、カズマがこまめに関節を折ったり、体勢を変えて血流を改善したり、体を清潔に保ったおかげか、体の回復は早かった。数ヶ月のリハビリで日常生活を送れる程度になったらしい。

 

 

「カズマ。筋肉痛で手が使えないので、代わりにご飯を食べさせてください」

 

「はいよ。あーん」

 

「…………」

 

 

目の前で恋人同士がイチャイチャしてるのを、私は見ている。めぐみんも私に見せつけるために、わざとやっているのではないだろうか。筋肉痛くらい頑張れば食べられるだろう。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「……別に。ダクネスやアクアはいないのかと思ってね」

 

「いませんね。できれば、2人にもこの光景を見せたかったのですが」

 

 

確信犯だ。一時はめぐみんの事で大騒ぎだったというのに。

 

 

「そういえば、カズマに渡したいものがあるんだ」

 

「俺に?」

 

 

私は今日のために(したた)めた原稿を取り出す。以前、カズマに見せたプロットを小説にしたものだ。

 

 

「ずっとカズマに見せたかったんだ。感想はなくてもいいから、読んでくれないか?」

 

 

カズマに原稿を渡す。こんな小説を書いてもプロの小説家になれる訳ではない。それでも、私を突き動かす何かは、この話を書け、としきりに私に訴えかけた。

 

 

「……ありがとう、大切にするよ」

 

 

カズマは私の原稿をすぐに読み始める。私が数ヶ月かけて書いた作品をどんどん読み進める。それだけで、私の心の一部が浄化されていくようにさえ思えた。

 

 

「……。カズマと何かあったのですか?」

 

 

めぐみんが私に目配せして尋ねてくる。

 

 

「カズマは私を信じてくれたんだよ」

 

 

私達の関係を語るには、これで充分だった。

 

 

 

 

 

 

数時間後。もう帰らなければいけない時間だ。めぐみんとカズマに別れの言葉を伝えて、私は屋敷を出る。

 

 

「そういえばあるえは女神になったのですか?」

 

 

めぐみんが私を見送るついでに聞いてくる。

 

 

「いや、私は人間のままだよ。女神になれば不老不死の体になるらしいからね。老いや死について考えないと、いい小説は書けないと思ったんだ」

 

「小説家らしいな」

 

 

小説家の道を諦めた訳ではない。今でも、いい小説は書きたいと思ってる。もし、書けなくても今ならその事実も受け入れられるだろう。

 

 

「じゃあ、私は行くよ。明日も冒険者としての仕事があるからね」

 

「あるえ!」

 

 

テレポートの魔法を詠唱しようとすると、カズマが私の名前を呼ぶ。

 

 

「あるえの話、感動したよ。また見せてくれ」

 

 

カズマの手元には、私が渡した原稿がある。私にはカズマという読者が1人いるのだ。もう私の小説家になるという願いは叶えられたのかもしれない。

 

 

「ふふっ」

 

 

くつくつと笑い声が漏れる。私はずっと小説に人生を捧げてきた。今なら胸を張って言える。

 

 

「当然だよ。私は小説家だからね」

 

 

私はそう言い残して二人に別れを告げた。

 

 

 

【天才小説家 あるえ・完】






感想など書いてもらえたらありがたいです〜
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。