嘘つき   作:てね

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約2600字あります。


アクア

 

それからもめぐみんに嘘をつく日々が続いた。めぐみんが喜ぶのも落ち込むのも、全て俺の言葉にかかっている。めぐみんが現状を知る(すべ)は、俺の言葉しかないからだ。

 

幸い、ダクネスもアクアも屋敷に居ることは殆どなかった。ダクネスは領主代行の仕事で忙しいらしく、屋敷に帰ってくるのは週に一度。アクアも天界での仕事が忙しいのか、屋敷には全く帰ってきてない。俺達の虚構の幸せを壊す人は誰もいなかった。

 

だが、めぐみんが起きていられる時間は、徐々に短くなっている。最近では、めぐみんが起きている時間は一日に一時間程しかなかった。

 

そして、俺がめぐみんに嘘をつき始めてから一ヶ月後。

 

 

 

 

 

 

「ただまー!」

 

 

屋敷に懐かしい声が響いた。明るい声だ。どたどたと足音が近づいてくる。そして俺のいる居間のドアが開き、

 

 

「おかえりを言って欲しいんですけどー!」

 

 

アクアが顔を出した。

 

 

「久しぶりだな、アクア。心配してたんだぞ」

 

「なーにカズマさん、私が居なくて寂しかったのかしら? 全く私がいないとダメなんだから」

 

 

その鼻につく言葉も今では懐かしい。

 

 

「ちょーっと天界での仕事が忙しくてね。魔王を討伐してから、こっちに帰ってくる暇もないくらい大変だったのよ」

 

「そのまま帰ってこなくても良かったけどな」

 

 

アクアは俺をキッと睨みつける。が、すぐにいつもの調子を取り戻して。

 

 

「……私の寛大な心でカズマの冗談は許してあげるわ。それでね、今日帰ってきたのは、カズマにお願いがあるからなんだけど……」

 

 

何か面倒なことでも持ってきたのかと思いつつ、アクアの話に耳を傾ける。だが、アクアのお願いは俺の想像とは全く別のものだった。

 

 

「もうめぐみんに嘘をつくのは、やめてあげて」

 

 

そう告げるアクアの顔は少し哀しそうだった。

 

 

 

 

めぐみんに嘘をついていたことが、アクアにバレていた……? いつからバレていた? バニルから聞いたのか? それともダクネスが勘づいて……?

 

ドクドクと鼓動が早まる。アクアの言葉で一気に目が覚める。アクアの次の言葉を緊張して待った。

 

 

「……ねぇ、カズマさん。めぐみんが起きていられる時間が短くなっているのは知ってるわよね。その理由も知ってる?」

 

 

アクアは俺を叱ることはせずに、優しく諭すように語る。そのおかげで動転していた俺は、辛うじて質問に答えられた。

 

 

「……めぐみんの脳に負荷がかかっているからだろう?」

 

「ええ、その原因に心当たりは、ないかしら?」

 

 

めぐみんの脳に負荷がかかる原因……?

 

 

「あのへんてこ悪魔から、何か買わされなかった?」

 

「…………あっ」

 

 

一ヵ月前、俺はバニルから嘘をつく魔道具を買った。その時、バニルはこう言っていた。

 

『この魔道具は、相手の脳に負荷をかけて、嘘を信じやすくさせる』と。

 

「……あの……魔道具……?」

 

「ヘンテコ悪魔が売りつけたあの魔道具は、めぐみんの脳に負荷をかけるものなの。気安く悪魔と商談なんかしちゃダメよ」

 

 

あの魔道具が、めぐみんの脳に負荷をかけていた……?

 

 

「日常生活を送るだけでも、勿論脳に負荷はかかるわ。でもこの一ヵ月で、めぐみんが起きていられる時間は、急速に短くなっているの。その原因は、あの悪魔が売りつけたスクロールのせいでしょうね」

 

「……お、俺は……そんなつもりはなくて……」

 

「分かってるわ。カズマさんは何も悪くないの。これは全部あの悪魔のせいよ」

 

 

アクアは俺が座っているソファに歩み寄り、そっと俺を抱きしめる。俺の心の罪悪感を和らげようとしてくれた。

 

 

「……でも、このままだとめぐみんは、脳にかかる負荷が大きくなり過ぎて、永遠に眠り続ける事になるかもしれないの」

 

 

アクアの胸に抱かれたまま、俺は聞いていた。アクアの言ってる事は、現実のこととは思えなくて。俺はまだ何も考えられなかった。

 

 

「だから、カズマさん……」

 

 

アクアは俺の肩に手を置いて見据える。その顔からは女神の慈悲のようなものを感じた。

 

 

「もうめぐみんに嘘をつかないって約束して」

 

 

俺は何も答えられなかった。

 

 

 

 

めぐみんが起きている時間が短くなる理由は、彼女の脳に負荷がかかっているから。脳に負荷がかかる要因は二つある。一つは日常生活を送ることによる脳疲労。そして、もう一つが魔道具で嘘をつくことだ。

 

あの魔道具は、脳に負荷をかけることで、相手に嘘を信じやすくさせる。だから、俺が嘘をつく度にめぐみんの脳には負荷がかかり、その結果、長く起きていられなくなったのだ。

 

 

「どういう事だカズマ、なぜめぐみんに嘘なんかついたのだ?」

 

 

その日の晩、俺はダクネスとアクアに、今までの事を全部白状しなくてはいけなかった。

 

 

「俺はただめぐみんを喜ばせたかっただけで……」

 

「嘘をついてめぐみんが喜ぶ訳がないだろう!」

 

 

ダクネスがピシャリと、俺に叱る。

 

 

「……アクアはなぜカズマが嘘をついてた事に気づいたのだ?」

 

「たまたま天界から、めぐみんを見たのよ。めぐみんと一緒に過ごすカズマさんもね。その時にカズマさんが、悪魔臭のする魔道具を使っているのも見たわ」

 

 

アクアは、天界から下界の様子を見る事ができる。俺の嘘も見られていたということだ。俺達の虚構の幸せはあっさりと壊れてしまった。

 

 

「……もうめぐみんに残された時間は短いの。このままだと、めぐみんが永遠に眠り続ける事になってもおかしくないわ」

 

「どういう事だ、アクア……? めぐみんが永遠に眠るだと……?」

 

 

ダクネスが怪訝な様子でアクアに迫る。

 

 

「脳に負荷がかかってるからよ。めぐみんはもう長くないわ……」

 

 

めぐみんに残された時間は短い。例え俺がこれから嘘をつかなくても、既にめぐみんの脳には大きな負荷が蓄積している。このまま行けば、めぐみんは二度と目を覚まさないかもしれない。

 

 

「…………」

 

「……カズマ、何か言ったらどうだ?」

 

 

ダクネスが俺を睨んでいた。俺は俯いて返事をしない。

 

 

「めぐみんにしてしまったことの罪の重さがわからないのか? 取り返しのつかないことをしたのだぞ」

 

「ごめん……」

 

 

ダクネスの顔を見ることが出来ない。

 

 

「アクアの代わりに言ってやる。カズマはめぐみんの余命を縮めたのだ。めぐみんがこの事を知ったらどう思うか、考えてみろ」

 

「…………」

 

 

何も言えない。

 

 

「もういいわダクネス。カズマさんも辛いと思うから」

 

「……そうか。すまない、少し言い過ぎた」

 

 

涙目になってる俺を見て、ダクネスはそれ以上俺を責めなかった。

 

 

「とにかくこれからは嘘をついたらダメだ。私が言いたいのはそれだけだ。わかったな?」

 

「……はい」

 

 

俺は俯いたまま返事をした。

 

 

 

 





次話は三週間以内に投稿します。
(追記:次話の都合で展開を変えました)
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