嘘つき   作:てね

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前回の話を少し変えました。投稿が遅くなってしまいましたね。何を書くべきか迷っていました。

今回は約2000字あります。


約束

 

 

 

もう時間がない。今日のめぐみんと、お別れの挨拶をしなければならない。

 

 

「……めぐみん、大丈夫だから。俺達が傍についてるから」

 

 

めぐみんの手を握って彼女に声をかける。めぐみんは虚ろな目を薄ら開けており、もう声が聞こえてるのかも分からない。

 

 

「…………はい」

 

 

ゆっくりと返事が返ってくる。良かった、まだ起きていた。

 

 

「明日は、爆裂散歩に行こう。俺がおぶって連れていくから」

 

「…………」

 

 

めぐみんから返事がない。

 

 

「……カズマ、まだ明日がある。もうめぐみんは寝かせてやろう」

 

 

ダクネスが俺の肩に手を置いて言う。

 

 

「……そう、だな」

 

 

俺はそっとめぐみんの手を離す。めぐみんはすぅ、すぅと寝息を立てていた。

 

 

「ここで騒いだら、めぐみんが安眠できないかもしれない。居間で今後のことについて話さないか?」

 

 

俺はまだここに居たかった。ひょっとしたらめぐみんが目を覚ますかもしれないから。

 

 

「行こう」

 

 

ダクネスは無理に俺の手を引いて、出て行こうとする。去り際に見ためぐみんは、前よりやせ細っていた。

 

 

 

 

 

「アクアも言っていた事だが……、恐らくめぐみんはもう長くない。起きていられるのもあと数日だろう」

 

 

まだ正午も過ぎてない時間帯。屋敷の居間でダクネスと向かい合って話していた。

 

 

「……そうか、……そうだよな」

 

 

ダクネスに嘘をつくなと釘を刺されてから、元の生活に戻ってしまった。めぐみんに嘘をついた一ヶ月間は、まるでなかったことのようになっている。

 

 

「ダクネスは……、もうめぐみんの病気を治そうとはしないのか?」

 

「……そうだな。手は尽くしたが、無理だった」

 

 

めぐみんの病気を治そうと頑張っていたのに。今となっては、それも無駄なことだったのかもしれない。

 

 

「めぐみんは本当に何もかも忘れてしまうのだな」

 

「……そういう病気だからな」

 

 

俺が嘘をついていた事も何も覚えてない。結局、あの幸せだった時間も、めぐみんは全部忘れている。

 

 

その事を思うと虚しかった。

 

 

 

 

翌日。アクアも天界での仕事が一段落し、一緒にめぐみんの看病をすることになった。

 

 

「めぐみーん、わかるー? アクアよー」

 

「ふぁい……、わかりますよ……」

 

 

既にめぐみんは寝ぼけていて、受け答えも怪しい。起きて三十分程しか経っていないのにこの調子だ。

 

 

「めぐみん、昨日言ってた爆裂散歩のことだけど……」

 

「……はい、……昨日……?」

 

 

ベッドの上で横になっているめぐみんは、目をこすりながら答える。

 

 

(カズマ……? めぐみんは昨日のことを覚えてないだろう。病気のことは、カズマもよく知っているじゃないか)

 

 

ダクネスが、めぐみんに聞こえないように、こっそり俺に耳打ちする。

 

 

「……そ、そうだよな」

 

 

ダクネスが俺のことを心配そうに見つめる。俺は出来るだけ平静を取り繕って答えた。

 

 

「めぐみん、何かやり残したことがあったら、言ってね? 今なら何でも聞くから」

 

 

アクアの言葉を聞いためぐみんは、目を開けて、

 

 

「……カズマ」

 

 

俺の方を見る。俺に話したい事があるのかもしれない。めぐみんの口元へ耳を寄せた。

 

 

「約束を覚えていますか?」

 

「約束……?」

 

「ええ、約束です。アクアを連れ戻したら、その日の夜に二人で()()()をしましょうと、言っていたのを覚えてないですか?」

 

 

そんな約束をしたかもしれない。でも、もう半年以上前の約束だ。俺はあまり覚えていなかった。

 

 

「……あ、ああ。約束したな」

 

「……やっぱり忘れてますよね。だって、半年も経ってるのですから、仕方ないですよね……」

 

 

めぐみんは、ほうと息を吐いて目を閉じる。

 

 

「めぐみん……?」

 

「…………」

 

 

めぐみんからはもう返事がなかった。眠りについたのかもしれない。

 

 

「めぐみん!」

 

 

ダクネスが俺を押しのけて、めぐみんの肩を揺らす。だが、めぐみんは何も答えない。

 

 

「カズマもダクネスも落ち着いて。この様子なら、めぐみんは明日も目を覚ますはずよ。話したい事があるなら明日にしなさい」

 

 

めぐみんに残された時間が、本当に短いことを実感する。めぐみんが本当の眠りについたら、俺はどうなるか分からない。

 

 

「めぐみんが……、めぐみんが……!」

 

 

ダクネスが、めぐみんの手を握り声を震わせる。俺も数日後には、泣いてるかもしれない。それでも、めぐみんの前だけでは、涙を流さないようにしなければいけない。

 

 

「カズマさん、大丈夫?」

 

 

アクアが俺の顔を心配そうに覗き込む。

 

 

「……大丈夫じゃないかもな」

 

「そう……。せめて後悔のないようにね。めぐみんはもう、あと少ししかないから」

 

 

泣いてるダクネスを見ながら、アクアは呟く。もう数日しか残されてないのに、できることなんて……。

 

 

「あの約束……」

 

 

めぐみんが眠る前に言っていた約束の話。それは魔王城に行く前にした約束だ。めぐみんはずっとあの日の約束を覚えていた。

 

 

「…………」

 

 

めぐみんの寝顔を見る。残されたわずかな時間で、俺が何をすべきか考えていた。

 

 

 

 





ちょっと短いですが、書くべきことは書いてるからここで区切っておきます。

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