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「私なら、めぐみんを生き返らせられるよ」
私の言葉を聞いて、カズマは目を見開く。
「もちろん、生き返らせるかどうかは私次第だけどね」
私は天才小説家になるという願いを叶えなければならない。そのために必要なのは信者だ。カズマを私の最初の信者として使おう。
「まず、私をこの屋敷に住まわせてくれるかい? お金が底を尽きたからね。それと、信者を増やすために、私の名を他の人に知らせて欲しい。君は顔が広い方だろう。王女様と懇意にしてるとも聞くし。他には───」
私はカズマに要望を次々述べる。私の言葉を聞いたカズマはずんずんと私の方に歩み寄り、
「帰れ、この厨二病があああ!」
大声で怒鳴った。
「なっ、なんだい!? 私は厨二病なんかじゃないよ! 女神に会って、我が才能が目覚めたのに、なぜ信じないんだい!」
「完全に厨二病じゃねえか! そんな話、信じるわけないだろ!」
話のわからない人だ。私がせっかくいい話を持ってきたというのに。
「いいかい、私を普通の人と考えてもらっては困るよ。私は天才なんだからね。小説家としても、女神としても」
「へえ。あるえが書いた小説なんて見たことがないけどな」
「…………っ! それは、今書いているところなんだよ! まだ人に見せる段階じゃないからね」
私が最近、書いた小説と言えば、編集者に全否定されたあの原稿。私はエリス様に蘇生させてもらって、その足でこの屋敷に来た。つまり、原稿は丁度、私の手元の封筒の中にあるわけで。
「その封筒は?」
「これは、違うっ! 絶対に人に見せられないものだからっ!」
私は原稿を腹に抱えて、防御の姿勢を見せる。これだけは見せるわけにはいかない。だが、カズマは手をわきわきと動かして、
「スティール!」
眩い光と共に、私の懐から封筒が消える。カズマの手には原稿があった。それを片手にすぐさま逃げ去る。
「だ、ダメぇぇぇえ!」
絶対に見られてはいけない。あの原稿を見られたら、私の全てがバレてしまう。それだけは何としても避けなければならなかった。
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「どういうことだカズマ。年端もいかない少女を泣かせるなんて」
カズマに原稿を見られた私は、不覚にも号泣してしまった。私の才能のなさをありのまま見られたのが、耐えられなかった。
「ち、違うんです、まさか泣くとは思わなくて……」
「うぐっ……、ひぐっ……」
「も、申し訳ありませんでしたぁ!」
カズマがダクネスに詰められて、私に土下座する。私は泣いたせいか、上手く声が出ない。くぐもった声で返事した。
「あるえ。カズマも反省している。私の顔に免じて許してもらえないだろうか」
「……うん、私も情けない所を見せたね。
「…………」
ダクネスは、私の顔をじっと見る。一瞬だけ彼女の眉間にシワが寄ったのを、私は見逃さなかった。
「カズマ、席を少し外してもらえるか? あるえと2人で話がしたい」
「は、はいっ!」
カズマは、足をもたつかせながら部屋から出ていく。ダクネスに叱責されて怯えたようだ。部屋には、私とダクネスの2人きりになった。
「部屋に2人きりなんて、私に愛の告白でもするつもりかい?」
「いや、そんなことではない。カズマが弁明で話してたことだ。あるえ。カズマにめぐみんを生き返らせることができると話したのだな?」
確かに話した。私はコクコクと頷く。
「その話は本当か?」
ダクネスの目が私を睨んでるように見えた。私は、怒りを買わないために正直に話す。
「ああ、本当だよ」
「どうやって生き返らせるのだ?」
「ダクネスたちが、私を女神として信じ
そこまで言うと、ダクネスは私の肩を掴む。私の言葉に感極まったのだろうか、と思っていると。
「この馬鹿者がっ!!」
思いっきりビンタされた。鼓膜が破れたのではと思うほど、強い衝撃だ。私はヒリヒリ痛む頬を押さえてダクネスを見つめる。
「カズマがめぐみんの一件でどれだけ傷ついたと思っているのだ! あれから、半年経ってようやく立ち直ってきたというのに……、そんな嘘をついてカズマの為になるとでも思っているのかっ!」
ダクネスは、私を嘘つき扱いする。私は、急に頬を叩かれた衝撃で言葉が出なかった。
「この屋敷に泊まりたいと言っていたな。それならば、今日中にカズマにきちんと謝れ。それがこの屋敷に寝泊まりする条件だ」
ダクネスは、それだけ言い残して部屋から出ていく。舌で頬の内側を触ると、血が出ていた。先程のビンタが原因だろう。
「はぁ……、バカみたいだ」
誰も、私の話を信じてくれない。私には、女神としての才能もないようだった。
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その日の晩。
「カズマ、いるかい?」
私はカズマの部屋をノックする。だが、返事がない。私はドアノブを回して、ゆっくりとドアを開けるが、そこにカズマはいなかった。
「めぐみん……?」
めぐみんがベッドに横たわっている。意識はないようだ。腕には点滴が打たれていて、鼻には透明な管が通されている。
めぐみんの容態は風の噂で聞いていた。記憶がなくなり、起きていられる時間が短くなるとか。実際に彼女の姿を見るのは初めてだった。
「ここで何してるんだ?」
突然の声にバッと振り返る。後ろにはカズマがいた。その手にはタオルと水の入ったバケツが握られている。
「べ、別に変なことはしてないよ。ただ見てただけで」
「そうか」
カズマは私の横を素通りし、めぐみんのそばに腰を下ろす。タオルを水で濡らし、めぐみんの体を拭く。
「……いつもめぐみんの面倒を見てるのかい?」
「ああ。体を清潔にしておかないと困るからな。関節もこまめに折ってやらないと」
「…………」
私は突っ立ったまま、カズマの手馴れた様子を見る。カズマがこんなことをしていたなんて知らなかった。
「さっきは、ごめんな。あの原稿、人に見せたくなかったんだろう?」
「え……、うん。あ……、そんなに気にしないでくれ。見たものはしょうがないから」
カズマは私の原稿を全部見たのだろうか。もし、そうなら……。
「ね、ねえ。カズマはどう思ったんだい? 私の小説……、面白かったかい?」
あくまで世間話のように。自然な会話の流れを装って、私はカズマに聞いた。カズマは、めぐみんの足の関節を曲げながら話す。
「うーん、まあまあだな。可もなく不可もなくって感じの話だった」
「ふ、ふーん……」
可もなく不可もなく。私に面白い小説が書ける日は来るのだろうか。
「……よし、そろそろ寝るか。ダクネスの隣の部屋が空いてるから、あるえはそこを使っていいぞ」
「あ、ありがとう……。あ、待ってくれ。一つだけ伝えないといけないことがある」
ダクネスに言われている。カズマにきちんと謝ることが今日、寝泊まりする条件だと。
「カズマがめぐみんのことを大事に思っていたのに、私はその気持ちを
めぐみんを生き返らせると
「あの話。めぐみんを生き返らせることができるという話は結局、嘘だったのか?」
チラリと、カズマの顔を見る。真剣な顔だ。今、嘘をついたらダメだ。
「嘘じゃないよ。本当の話だ」
「本当にめぐみんを生き返らせられるのか?」
カズマの目に少しだけ希望の光が宿る。叶えられる願いは一つだけ。カズマの願いを叶えてしまったら、私の願いは叶えられなくなる。
「…………」
沈黙が場を支配する。私が蘇生してもらいたかったのは、小説家になるためだ。
「……カズマは、私が小説家になれると思うかい?」
カズマの返答をじっと待つ。
『あるえなら、できると思うぞ』
多分、本心じゃない。私にはわかる。カズマもダクネスも編集者も、誰も私を認めてくれてない。
「そうかい……」
もう小説家じゃなくていい。せめて女神として特別な存在になろう。
「いいよ。今、めぐみんを生き返らせよう。カズマ、私の最初の信者になってくれるかい?」
「……? あるえにお祈りすればいいのか?」
カズマは私に手を合わせて、祈りのポーズをとる。私を信じてくれるなら、何でもいいだろう。私はめぐみんの額に手を置き、力を込める。
「…………」
だが、何も起きない。めぐみんは目をつぶったまま動かなかった。
「あるえ?」
「ち、違うんだ。エリス様が言うには、信者の願いを何でも実現できるって……」
めぐみんに手をかざして、意味ありげに声を出すが、何も起きない。結局、めぐみんが目を覚ますことはなかった。
書くのが楽しくなってきました。曇らせ大好き