書いてるうちに話の方向性が見えてきました。
結局、めぐみんは目を覚まさなかった。私には何の能力もなかった。ダクネスに嘘つき扱いされるのも当然だろう。
もう小説を書くのもやめてしまった。書いた所でどうせ小説家にはなれない。それくらい、自分でもわかっていた。
今の私は無職。窓から外の景色を眺めるだけで、一日が終わる。カズマの屋敷でそんな生活を1週間も続けていた。
「あるえ、いるか? めぐみんの看病を手伝って欲しいんだ」
ベッドで微睡んでいると、声をかけられる。部屋から出ると、カズマが立っていた。その手にはバケツとタオル。今日もめぐみんの体を拭くのだろう。
「……アクアやダクネスには、声をかけないのかい?」
「あいつらはあまり屋敷に帰ってこないんだよ。忙しいらしいからな」
ここ1週間でダクネスを見たのは2、3回だけ。アクアに至っては、一度も会ってない。2人はめぐみんの看病をずっとカズマに任せきりなのだ。
「めぐみん、入るぞ」
カズマはノックしてめぐみんの部屋へ入る。どうせめぐみんは寝ているのに。いつもカズマは入る前に声をかけていた。
「……今日も寝てるのか」
もちろんめぐみんは寝てる。
「めぐみんの爪、伸び始めてるな。そろそろ切ってやらないと」
「……うん、そうだね」
めぐみんを生き返らせることができなかったのに、カズマは私のことを一切責めなかった。今だって、めぐみんを看病させてくれる。その優しさが、私にはむしろ辛かった。
「最近、執筆は順調か?」
「うん。……あ、いや、今は書いてないよ」
「へえ、珍しいな。あるえのことだから、ずっと小説を書いてるんだと思ってたよ」
カズマはめぐみんの服を脱がせて、肌をタオルで優しく洗っていく。
「……昔の私なら、何があっても小説を書いてたんだろうけどね」
「……なんで書かなくなったんだ?」
書いてもどうせ小説家になれないから、という言葉は言えなかった。きっとこの気持ちは、カズマには分からないだろう。
「……カズマ、一つ意地悪な質問をしてもいいかい?」
「おう、いいぞ」
カズマはめぐみんの体を拭きながら、耳だけこちらに傾ける。
「カズマはなんでこんな事をしてるんだい?」
カズマの手が止まる。
「カズマがどんなにめぐみんの看病をしたって、めぐみんは目を覚まさないよ。だって、半年間ずっと寝てるんだろう? もう無理だって思わないのかい?」
カズマは、チラッとこちらに目を向けて。
「それだけ、めぐみんのことが好きなんだ」
その答えは、私には充分過ぎるものだった。
+
更に1週間後。
私の部屋の机には、編集者に見せた原稿が置いてある。私はそれを手に取って読む。
勇者が魔王を倒す冒険譚。大好きな王道ストーリー。私が読みたかった作品をそのまま書き起こしたものだ。
編集者やカズマからは、面白いとは言われなかったけど、私はこの話が好きだ。今読み返しても、心が湧き上がってくる。
「あるえ」
ノックもせずにカズマが部屋に入ってくる。時間帯からしてめぐみんのことだろう。私は原稿を置いて、立ち上がる。
「めぐみんのことかい? 手伝うよ」
「いや、違うんだ。めぐみんのことじゃない」
カズマの手には、巾着袋。それを受け取り中身を見ると、エリス硬貨が3枚あった。銀貨1枚と銅貨2枚が入っている。
「これは……?」
「これを持って、近いうちに屋敷から出ていって欲しい」
「…………」
引きこもりニートの私を、屋敷から追い出すつもりだ。これだけのお金では、1週間も生活できない。つまり、私に働けと言っているのだろう。
「……嫌だ」
「あるえの為を思って言ってるんだ。一生このまま部屋に引きこもっている人生でいいのか? まぁ、気持ちはわかるけど……」
私だってこんな人生は嫌だ。でも、私は小説家になれない。これは仕方ないことだ、と心の中で呟く。
「カズマみたいに、魔王を倒してしまう人には私の気持ちはわからないよ」
「どんな気持ちだ?」
「惨めな気持ち」
「……それは、小説を書かなくなったことと関係してるのか?」
「…………」
鋭い指摘。私は黙る。
「そんなに小説家になりたいのか?」
「……もうその話はいいよ」
「別に小説家以外の道だってあるだろう?」
「……これ以上、話すなら怒るよ。私だって、カズマに酷いことを言おうと思えば、言えるんだからね」
カズマを
「ほーん。言ってみたらどうだ?」
カズマが挑発する。私はエリス硬貨をベッドに放り投げた。
「カズマだって、めぐみんのことを諦めてないじゃないか! ダクネスやアクアがなぜ、めぐみんの看病をしないかわかるかい? みんな、無理だってわかってるんだよ。カズマの方が私より、ずっと諦めが悪いじゃないか!」
「…………」
全て言い切り、肩で息をする。私にはわかる。これがカズマが1番傷つく言葉だ。
「それで満足か?」
「はぁ、何を言っているんだい?」
「俺に怒りをぶつけて満足か?」
「……っ! 満足なわけないだろう! もう出ていってくれ!」
私はカズマを部屋から押し出す。
「1つ言っておくけどな。俺はめぐみんの為に看病してるんだ。あるえみたいに、自分の為にしてる訳じゃない」
「うるっさい!」
私はバタンと扉を閉めた。私は絶対にこの部屋から出ていかない。
+
翌日。私は小説を書いていた。
だが、全然面白くない。当然だ。私には才能がないのだから。
「…………」
私はこれからどうすればいいのだろう。一生無職のまま生きていくのだろうか。最後まで小説家になれなかったことを引きずるのだろうか。
ベッドの上には、昨日投げ捨てたお金がまだ転がっている。カズマが私にくれたものだ。
私の手元には白紙の原稿の束。私が何をすべきかじっと考えていた。
あと1話か2話で終わりそうです。頑張りまっする