便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第一夜 運命……?

 

「~♪」

 ご機嫌な鼻歌と共に髪が揺れる。

 紅より淡く桃よりも濃い、それに付き従うのは白、白黒、濃紺紫のカラーリング。

「ねぇ~アルちゃん、随分ご機嫌だけどソレそんなに欲しかったの?」

 尋ねる彼女もご機嫌そうに、先頭を往く彼女に感化されたのか足取りまで軽やかだ。

 

「ふふ、分からないかしらムツキ?こんなに怪しそうな本、そうそうお目に掛かれないわよ!」

 その手に持っているのは華美な装飾が成された一冊の本。

 見る人が見れば「その手を放せ」と忠告する本に頬擦りする彼女に忠告は無為に終わるかもしれない。

 彼女の言う怪しさで評価するならば確かに満点、何せ書いてある文字がロクに読めないのだから正しさが分からない。

 

「何が書いてあるかも読めないのに?」

「そこは重要じゃ無いわ!重要なのは、この本が私の所に来たのが正しく運命という所よ!」

「ゴミ捨て場に落ちてる運命ってどうなのよ……」

「流石ですアル様っ!!」

 満ち足りた様子に愉悦の様子、呆れの様子に尊敬の様子。

 四者四通りの反応を見せながら夜の道を進んで行く。

 

 四人を見守る月明りに陰が差した事に、気が付く人も居ないまま。

 

 

 

 

 

 ゲヘナ郊外 便利屋68 事務所(賃貸)

 

「……えっと、此処がこうで」

 時間は過ぎて丑三つ時、陸八魔アルはただ一人本を片手に筆を走らせていた。

「こっちが……こうで」

 大きな布の上に正確に、何処からどうみても魔法陣としか言いようのない紋様を描いていく。

「ふふふ、明日の朝が楽しみだわ……便利屋のロゴマーク、誰にも真似されない特別な物よ」

 それがロゴマークと呼ぶには複雑怪奇で、真似をするどころか自分達でもう一度描くとしても難易度が高い事に気が付かないまま、筆はスラスラと紋様を描いていく。

 

「ふぅ、後は乾かすだけね……そうだわ!この前オークション会場で手に入れたのが確か……」

 布を広げたまま、その四隅に重しとなるものを置いていく。

「よいしょっと……この金色の杯も何処かで売りたいけれど、オークションが終わってからまだ一週間、あと三週間は待たないと危険よね」

 盗品も重しの役目には就ける。

 万物無駄なし用途次第。

 

 『彼』にとって不幸だったのは、それが何の因果か聖杯と呼ばれた代物の模造品だったこと。

 

 そして、模造品にも関わらず実物と寸分違わぬ材料で、重さで、寸法で作られていたことだ。

 

 本来ならば宿す神秘すら無いその代物は、よりにもよって神秘の多い土地で作られてしまい、条件の合致から神秘を宿した代物はよりにもよって魔術的な意味を持つ紋様の上に置かれてしまい、

 思いもよらずその紋様は例え未来や並行世界、縦のラインの可能性ですら掬い上げる効果を持つ物であり、触媒も無いその状況でその部屋の中に存在する概念は『贋作』『聖杯』『便利屋』。

 あるいはアルの精神性にこそ触媒となり得る鍵があったのかもしれないが、誰も知る所ではない。

 

 『伝説』における『聖杯』の贋作に『神秘』が宿るのは、必然。

 形式をなぞらえていれば、条件さえ揃っていれば成立する契約と同じ。

 コーラのペットボトルだろうとも、メロンソーダを注げるのと同じ。

 贋作であろうとも符合さえ合致してしまえば、そこに神秘は宿る。

 

 気が付かないままに、淡く光を帯び始める。

 

『ちょっと待て何だこの召喚は……!道が……細すぎる……!』

 不意に聞こえてきた声に、アルは周囲を見回した。

 気が付いたのは僅かに周囲が揺れている事、そして何故か四つの金杯が光を放っている事。

 

 微細な振動であってもカヨコなら気が付けば起きてくる筈だと考え、

 つまりこの部屋だけが揺れているのだと理解する。

 

『私に連なる触媒無しでの召喚か、それとも……いや、まさか概念が触媒に?待て、だとしたらこのままでは危険だ……!えぇい!私の声が聞こえる者が居たら周辺の光る物か剣を破壊しろ!』

「ヒュッ」

 深みはあれど余裕の無さそうな怒声が虚空から聞こえてきたことで、アルは意図せずに体液を排出しそうになった。

 動く余裕など無かった。

 漏れたのが息で良かったと内心で涙ながらに安堵する。

 

 シンプルに怖かった。怖くて逃げだしたいし叫びたかったが……叫べば便利屋の仲間達が起きて問題に巻き込まれてしまうかもしれない、そうなれば……皆もこの怖さを味わう事になってしまう。

 

愛銃を手に取り、覚悟を胸に言葉を放つ。

冷静に、声を張り上げるのではなく静けさに乗せる様に凛として。

「で、『出てきなさいよ』」

 だからといって、出現を求める最後のピースを埋める台詞をしっかりと嵌めに行くのはなかなかできる事ではない。

 

『馬鹿者ッ……!それでは貴様がッ……!』

 止める言葉も時既に遅し、既に知識の流入は始まり、

「『いいからさっさと出てきなさいよ!私がたお、倒してあげるから、その姿をこの場に現しなさい!』」

 霊体ですら無く。

 戦う事が出来る肉を、倒す事が叶う。

 例え魔力の供給が無くとも戦える受肉を経て召喚が行われた。

 それは敵対者としての召喚、既に言葉は交わされた。

 互いの声に応えるという儀は成立した。

 

 不意に差し込んできた七色の光はガラスが割れる様な音と共に掻き消えて、舞い降りるとは言い難い重たいドサリという音と共に男は尻から着地した。

 

 もしも疑似聖杯が無ければ、もしも描いた紋様が正確であれば、もしも此処がキヴォトスでなければ、このような珍妙かつ奇天烈な召喚は有り得なかっただろう。

 だがここは奇跡が存在する場所。

 

 あの書物を見つけたことが正しく運命だというのであれば、

 

 ともすればこの出会いも――

「サーヴァント、アーチャー……召喚に応じ……はぁ」

「あ、あわ、ゆ、幽霊が……!」

 

 ――運命なのかもしれない?

 

「「どうしてこうなった(の)――――!!!?」」

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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