便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第十二.五夜 最終日の朝

 

 

『便利屋68、庶務エミヤ様のお電話でお間違いないですか?留守番電話にて失礼致します。私、連邦生徒会防衛室長のカヤと申します。先日のブラックマーケットの一件で連邦生徒会長からお呼びが掛かっているかと思うのですが、毎日の様に会長が私の所に来て、まだ例の事件の人は来ていないの?カヤちゃんに任せてた筈だけど私の気のせいだったかな?カヤちゃんの座っている椅子って、似合わないのかな?椅子、変える?と直接的な言葉は使わずに私の胃に対するダメージを蓄積させに来ているので、是非ともお早めにお越し下さいますと幸いです』

 

 留守番に入っていたメッセージを聞いて、エミヤは天を仰いだ。

 

「……いつでも行ってよかったのか」

 

 一方的に連絡を入れられていたのでその後の流れが分からずに放置していた。

 まさか再度の連絡がこういった内容だとは思ってもみなかったが、申し訳ない事をしたなと反省。

 眠気覚ましに淹れた覚えのない珈琲を飲み、掛けた覚えのないアイロンが掛かったシャツを着て、作った覚えのない朝食を口に運ぶ。

 

「それで、何で今日はこんなに至れり尽くせりなんだ?」

 

 問いかけてみるが返答は無く。

 ここまでの手厚い朝の奉仕を誰がしてくれたのかは既に分かっていた。

「聞いているんだが、答えは無しかイロハ?」

「はぁ~、おはようエミヤさん」

 隠れる気は無かったのか、それとも隠れているつもりだったのか、ソファーに寝転がったイロハが起き上がる。

「あぁおはよう、それで、どうして突然?」

「ん~、多分エミヤさんがここ一週間でゲヘナをかなり変えたからじゃないかな」

「……つまりは、私を引き込む為という訳か?」

「まぁ簡単に言えばその通り、風紀委員全体の質の向上に、食堂の問題解決、温泉開発部が自粛したり、次回投票率が見込みだけで十五パーセント上昇、学園内を生徒達が美化活動なんか始めてるし、働きすぎだよエミヤさん」

「ぐ……それは、そうかもしれんが」

 目に見えた問題に首を突っ込み過ぎたと言われれば否定しづらい、というよりも否定できる材料が無い。

 

 温泉開発部に対しては元日本人として「所構わず温泉発掘だと……?温泉を無礼(なめ)るなァッ!」と喝を入れ、

投票率に関しては五日目の昼に校内放送に呼ばれ、『どの様にすれば過ごしやすい学園になるか?』と聞かれたので『この学園にも生徒会、万魔殿があり生徒会長がいるのだから、選挙があるのだろう?面倒だと見てみぬ振りをしていたら訳の分からぬルールを追加されて誰かにとって住みやすくなるだけだ。もっと目を向けてみると良い、案外、住みやすくするのはコレを聞いている君自身の立候補かもしれんがな』と呼び掛けただけだ。

 美化活動に関しては三人ほど学園内を清掃している生徒が居たので「頑張っているな」と声を掛け、とても良い行いだと思ったのでゴミ出しに来たタイミングで食堂のデザート券をあげて、これを定番化するのはどうかと万魔殿に持ち込んだところ制度化する事になり、結果として美化活動に参加する生徒が増えたらしい。

 

「それで、エミヤさんを取り込めたら次回の選挙も当選確実という事で、マコト先輩から指示を出されたんですけどね、エミヤさん政治とか興味ないでしょ?」

「全く無いな、それに、私を取り込む必要は無いだろう?」

「へ?」

「私をこの学園に招いたのは誰だ?」

「あー、それもそうですね、そっか、その功績だけで十分ですね」

「そういう事だ、私の成した全ての功績の前に『マコト議長の招いた』を付ければ解決だろう」

 

 実際そこまで上手く収まるかは微妙な部分ではあるが、少なくとも事実でありマコトの手柄とするのは間違っていない。

 

「だが、未だに良く分かっていないのだが……」

「マコト先輩が貴方を信頼してゲヘナ学園に呼んだ理由ですか?」

「あぁ、正直あの洋食屋で会ったのは偶然だろう?であれば、あの場だけで判断するというのは危険な筈だ」

 

 そうですねぇと腕を組み瞳を閉じて悩む素振りを見せるイロハ。

 エミヤからしてみれば、あの一瞬で何処まで計算したのかが気になる所だった。

 

「多分、大して何にも考えてないですよ」

「は?」

「いえ、本当に、どうせ『凄い奴らしいな』『呼んでみるかキキキッ』くらいの思考です」

「……ま、待て、それは本当……なのだとしたら、何故マコトは議長という席に居続けられているんだ?」

「ん-、それが本当だから、じゃないですかね?」

 

 一見思慮深く見えて、シンプルな事しか考えていないから、ゲヘナ学園の最高責任者として相応しい。イロハの総評はこの通りだ。

 こればかりはエミヤも成程と頷くほか無かった。

 結果的に物事が好転しているのであれば、後から評価は付いてくる。

 もしも物事が悪い方向に進んだとしても、ゲヘナ学園で物事が悪い方向に進むのは普通の事、大して評価に影響も出ない。

 

 つまり、基本的に何をしても上手く行った物事だけが大きく政治的な影響を受ける。

 

「改めて考えると凄い所だな、此処は」

「ふふ、そうでしょう……興味が湧いたのでしたら、どうです?私に篭絡されてみます?」

 

 するりと首に手を回し胸板に顔を当てるイロハだったが、相手が悪い。

 イロハの背に手を添え、帽子を外して傍に置く。

 まさか抱き締め返されると思っていなかったイロハは「おや」と思わず口に出てしまい、エミヤの表情を伺おうと視線を向けようとした所を先んじて顎に指を添えられて目線を合わせられた。

 先手を取られて悔しい反面、予想外の行動を取られて内心で焦る中、エミヤの大きな掌が頬に添えられた事で更なる緊張が走る。

 

 真っすぐと前を見つめれば射抜くような視線が自分を捉えている。

 相手の眼の中に自分が見える。

 胸の中がドキドキして、思わず眼に涙が溜まる。

 

「どうした?篭絡……してみせるのだろう?」

 

 そんな言葉を掛けられて、頬に添えた手を目元に移動され、視界を隠された。

 段々と呼吸が近づいてくるのが分かる。

「(あれ、このままだと、私、エミヤさんにキスされちゃうのかな?)」

 自然と意識してしまう。

 篭絡といった手前、そのくらいの事はするつもりだった。

 だけど、まさか向こうから来るなんて思ってもみなかった。

「(だけど、エミヤさんなら……優しいし……甘やかしてくれそうだし……家事してくれそうだし……)」

 

「(まぁ、いい、かな……)」

 

 

 

 むにっ。

 

 

 

 と柔らかな頬っぺたが形を変え、イロハは気付かぬうちに閉じていた瞼を開けた。

「……へみやはん」

「くっ」

 頭を振って手を振り解き、仕切り直し。

 

「エミヤさん……?」

「どうしたイロハ?今、何かあったかね?」

 それは……!と口に出し掛けたところで、

「それとも、何かあったのかしっかりと覚えておいた方が良いかな?」

 そう言われてしまえば、忘れろと言いたいが言えば覚えているのが前提となる為に言えない。

 

「なんでもありませんっ!!!」

 

 棗イロハには珍しく声を荒げ、ぷりぷりと怒りながら部屋を出て行くのであった。

 

 いつか刺されてもおかしくない男の朝は、直後に刺されてもおかしくない朝だった。

 

 




FGOのエミヤってオカンなんですけど、別作品だとたまに凄い悪ノリ好きな所ありますよね……。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
  • エロ書け
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