便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第十四夜 最終演習 後編

 

 方針を途中から切り替える。

 これはアコの即応性を測ると同時に、突然の襲撃に遭った風紀委員が対応できるかを測る物だ。

 

「赤、青は射撃を継続!緑は赤と青の前に展開し接近に備えろ!緑は広く展開し視野を保ち赤、青の射撃が止んだ際には方向を示せ!」

 

 先ずはイオリ、良くも悪くも一点突破型の指揮を執る癖があったが、この一週間みっちりと鍛えた結果かなり万能型の指揮者に成長した。元々、一点突破の癖があったのも弱所を見つけるのが上手いのに起因していた事もあり、味方の弱所を見つけカバーする様に立ち回れる頼れる存在となってくれた。訓練終わりに夕食に誘われたことがあり馳走になり、洗い物を手伝おうと申し出た際に「おにーちゃんは座ってて」と言われ互いに固まったのは良い記憶だ。

 

 良い動きをする。

 本当に……成長したな。

 人差し指に強化させたフラフープを掛けて回転させることで銃弾を弾きながら、彼女達にも追える速度で動いて段々と接近していく。

 

 エミヤがある程度近づくと、各隊の中から二人程がイオリをチラと見やり、それにイオリはハンドサインで命令を出す。

 命令が敵に伝わらない為のハンドサインもしっかりと使えている。

 

 近づくにつれて段々と一つの部隊がエミヤの背後へと回り込み、包囲網が完成する。

 なおも二つの部隊から銃撃は止まずフラフープの回転を止める事は出来ない、そうしている間にも段々と包囲網が狭く狭く……機を見る様に緊張感が周囲に張り詰めていく。

 

 そこに、それまでと違う銃声が一発差し込まれ――

「ぬっ」

 ――それがイオリの銃からした物だと気付いた時には包囲網を作り上げていた隊員達が武器を持ち換えて一斉に放って来た。

 

 飛来するソレを目視で確認、

「テーザーガンか!」

 効くかは分からないがキヴォトス基準のテーザーガンでは喰らっただけで電圧でペイントボールが割れ兼ねない、そうなれば此処で演習は終了となってしまう。

「悪いが喰らえんなぁ!」

 新聞紙を取り出し大きく広げ強化で固定、回転しながらテーザーガンから放たれた線を全て受け止めてそのまま地面に突き立て、新聞紙を足場にして樹上へと逃走。

 

「チッ……!赤、青ッ!間に合わないか、なら私が――!」

 覗いたスコープの先、視線が合ったエミヤへ向けて放った弾丸。

「悪いな、未だ終わる訳にはいかないのだよ」

 それは、

 

 プピッ。

 

 という可愛い音と共に、ピコピコハンマーによって打ち落とされた。

「なッ――!?」

「ではな!」

 

 呆然とするイオリを残して、エミヤは次の部隊の下へ。

 

 チナツ、後手に回りがちで先手で動くのを苦手としていたが、この一週間で後手に回った瞬間に敗北が確定する訓練と、先手で動いた瞬間に敗北が確定する訓練を繰り返した結果、状況判断能力が飛躍的に向上し相手の武装、人数、位置関係から割り出す最適解と、それに伴うサブプランを瞬時に練れる様になった。あとトラウマになったらしくて六日目のお昼に膝枕しないと許さないと言われたのでしてあげた。

 

 そのチナツの部隊は現在広く展開し、得た情報を逐一アコに連絡する事でE・Dのラインを完全に放棄、エミヤがいるとするならばCだと当たりを付け、アコの指示通りに音を立てながら向かっていた。

 

「ッ! 来ますね……『網』の準備を!」

 そしてチナツが鍛えられたもう一つの点、それは感知だ。

 接敵前に気が付くなんて優しい物では無く。自分の身に何かが起きるという事を事前に感知する。

 危険察知能力と言い換えた方が正しいかもしれない。

 

 チナツの言葉に従い、隊員達が何かを取り出してチナツの前に広げ、ソレを隠すように――傍目から見ればチナツを守るように壁を作り銃を構える。

 

 森の奥から飛び出してきたエミヤは一直線にチナツの下へ、立ち塞がるように前に出て来た隊員のペイントボールをピコピコハンマーで割りながら前進を続け、

「おっと……!これは、ピアノ線か」

 突然目の前に張られていたピアノ線の網に停止を余儀なくされたが、上空に跳躍しピアノ線を飛び越えチナツに向けてフラフープを投擲する。

「こんな物で……!」

 チナツは避けられたが、その結果背後に居た隊員がフラフープの直撃を喰らい、そのままフラフープは回転して地面を転がり何人かの隊員を撥ね、樹に行き当たると根から幹、幹から枝へと尚も転がり続け、枝先からポンッ!と射出され、再びエミヤの手元に戻った。

 

「なんですかソレ!?」

「(まだ少し周辺の把握は甘いが、接近に気付いて即座に罠を張ったか……チナツも成長したものだ)」

 

 ここでエミヤはC-2方向、つまりは黒と白の独立分隊とヒナが居るであろう方面への逃走を選択。

「あっ……!アコちゃんに報告!」「はい!」

 即座にチナツは隊員に報告を命じ、同時に部隊に集合を呼び掛ける。

 

『――了解、聞こえますかヒナ委員長、そちらにエミヤ教官が向かいました』

『イオリとチナツは?』

『C-2地点にて完全に包囲する為に集結予定です』

『分かったわ――アコ、私はどうすればいい?』

『はい、恐らく途中からエミヤ教官は行動の方針を変えてらっしゃいます。途中までは逃亡犯、今は……各部隊に接敵している事から、私達の成長を確認してくれているのかと』

『成程ね』

『なので、委員長――存分に』

 

 今日に至るまでに学んだ事を発揮して下さい。

 

『ふふ、了解』

 

 アコ、彼女には書類仕事もあったので多くを教えてはあげられなかったが、補佐官を一人就けた事で仕事の効率が上がり、全体のオペレーターとしても補佐官が逐一変わるデータの入力、それを基にアコが考える形式に変更した事で思考の単一化が可能となりアコの能力自体も向上した。六日目の夜にようやく「何故アコは胸の側面が空いた服を着ているんだ?」と聞けたが「? なんのことですか?」と返され私にはもうアコの服に関しては私が見えている物が正しいのか分からなくなってしまった。

 

 今回の分隊の考案はアコが行ったものだ。

 その中でも黒と白の独立分隊は、精鋭を集めてある。

 銃弾に神秘を付与出来るのは当然、彼女達はイオリと同じ訓練内容をこなした逸材だ。

 

 故に、黒と白の分隊は独立と銘打ってこそいるが、ヒナと共に戦闘活動を行う分隊としても機能する。

 言い換えよう。

 

 それはあくまでも有効打を与えられるかを度外視に、移動と目的理解の二点に限るがヒナの戦闘について行けるのだ。

 脚部に神秘を集中し、視線を動かし続け、考える事と周辺把握をしながらヒナのサポートをするのは至難の業でありながら、彼女達は僅か一週間の努力でそこに至った。

 

「エミヤ教官、全力で行かせてもらうわ」

 

 その血の滲む努力を見て来たからこそ、ヒナも同様に全力での戦闘を厭わずに行うに至った。

 

 樹上から降り立ったエミヤはピコピコハンマーを構え、ヒナに相対した。

 

 ヒナに関しては単独行動が目立つ以外に大きな欠点は無かったが、仲間と行動を共にした際に仲間を思うあまり威力を抑えてしまう癖があった。だが不思議な事に、以前まではヒナが神秘を強めた際に圧で息苦しさを覚えていたという風紀委員達が、初日の出来事があってからそこまで息苦しさを覚えなくなり、各々が発する神秘も強まっていたというのだ。この事からヒナは存分に戦う事が出来るようになり、更に周囲との連携を強化した事で彼女自身の能力を本来以上に引き出すに至った。

 

 だが、流石の彼女にとってもこの一週間のトレーニングはハードだったらしく。五日目の演習終わりに眠たそうにしながら食堂で夕食を食べていたので、こぼしては危ないと途中から私が食事の補助をした所、鳥の雛の様に口を開けて運ばれるのを待ち、帰り際にも何故か私の後を付いてきたので仕方なく部屋まで案内し、そのまま寝ようとしていたので室内のシャワーへ誘導、シャワー後も濡れ鼠のまま衣服を纏わずに眠ろうとしていたので腹を括り身なりを整えてやり、ベッドへ誘導、部屋から出ようとすると泣かれてしまったので、仕方なくその日はヒナの部屋に泊まり寝かしつけた。

 

 そんな思い出を回想し、今のヒナを真っすぐと見る。

 

「あぁ、来るとい――」

 言い終わる前に一発の銃声。

 それはヒナでは無く周辺の茂みに隠れている黒の隊員の物だった。

 その銃弾を弾いた所に今度は二発の銃声、次に三発、四発、五発と段々と増えていく。

 

 気が付けば銃弾の雨に変わり、エミヤの手にはフラフープも握られ忙しなく動いている。

 その雨の中を、

「――フッ!!」

 黒い流星が切り裂く。

 

 羽根を利用した直線的な蹴り、普通に考えれば射線に入り危険に思えるが雨は止まず。射線はヒナを避けながらもエミヤへとしっかりと届いている。

「やるなぁ!」

 フラフープを腕に移し、空けた手で蹴りを受け止める。

 その威力は確実に増しており、ヒナの神秘自体が以前よりも解放されている事が窺えた。

 

「それ、邪魔」

 エミヤの拘束を振り解くために体を捻ると同時、羽根を薙いでフラフープを両断。

「そんな切れ味だったのか」

 襲い来る銃弾の雨を避ける為に後方へとバク転、追い掛けてくる銃撃の中にいつの間にか銃を構えたヒナの弾丸も混ざり始める。

 他の銃弾よりも速く威力も乗っている上に、よりエミヤの行動を予測した場所へと撃ち込まれる。

 

 段々と逃げ道を塞いでいき、

「教官、そのふざけた玩具(・・・・・・)はもういいから」

 遂にはピコピコハンマーも手から弾かれた。

「ふっ……どうやら流石に悪ふざけが過ぎたか」

 それは、明確にエミヤの想定した強さをヒナと隊員達が超えて来た証だった。

 

「頃合いか……」

 エミヤの呟きの直後、別々の方面の茂みからイオリとチナツが姿を見せた。

 

「さぁ、エミヤ教官」「これで包囲完了」

「どこにも逃げ場は無いわ」

 いつぞやに似た状況、だが今回は既に彼女達は『風紀委員』であり、誰もが覚悟を持って立っている。

 

 ならば、あとエミヤが彼女達にしてあげられる事は。

 想定すら超えて来た彼女達にエミヤがしてあげられる事は――。

 

 

 

 その時、その場に居た全ての人間が一瞬でエミヤから距離を取った。

 森の全てが鳴動し、動物が逃げ出し、鳥は森から離れようと羽ばたいていく。

 

 ある意味、この世界に来てからエミヤにとっても初めての事だった。

 

「今から、君達に最後の教えを授ける」

 

 誰も、何も話せなくなっていた。

 一個人が此処までの圧を、明確にソレだと分かる物を人に対してぶつける事が出来るのか?と、誰もが恐怖した。

 ヒナでさえも、思わず自分の体を抱いて隠れてしまいたいと思った。

 これまでに感じて来たソレとは明らかにレベルが違う。

 どれだけの方法で、どれだけの人数を、どれだけの回数――。

 

 息をするのさえ苦しくなり、自然と呼吸が浅くなる。

 それほどにまで濃密な、エミヤから放たれる純粋なる

 

 殺意

 

 向けられただけで気絶してしまいそうになる程に、気が狂ってしまいそうな程に、エミヤの殺意は恐ろしい物だった。

 

「干将・莫邪」

 そして投影するのは、ある種特別な強化を施した夫婦剣。

 それを、投影しては投擲し、投影しては投擲しを繰り返し、森の中にばら撒く。

 

 

「良いか、全てをぶつけろ」

 

 

 そして、誰もがしっかりと見つめていた筈の視線の先で、エミヤの体が一瞬にして消えた。

 動きの予備動作も無く。

 膝抜きをした上での高速移動。

 

 パァン!という破裂音、音の方向に目を向ければ、一人の風紀委員が尻餅を着いて体の一部に塗料が付着していた。

 だが、そこにエミヤの姿は既に無い。

 

 そして、再びの破裂音。

 段々と、段々と破裂音が周囲で鳴り始める。

 

 その度に視線を向け、銃口を向け、エミヤの姿を探すがまるで見つけられない。

 

「総員集合!どれだけ速くとも固まれば自然と出現位置は限られる!」

 イオリの掛け声で集まるが、それでもなお集まった筈の集団から破裂音。

 その止まない破裂音に対して、違和感を覚えたのはチナツだった。

 

 これだけの人数の間を縫う様に移動したのならば、足跡の一つでも残っていなければおかしい。

 更に、あの巨体が移動しているのであれば通り道には風が吹く筈なのにそれも無い。

「みんな、静かに」

 つまり答えは、本人が移動している訳じゃ無い。

 

 静まり返った森の中に、甲高い音が聞こえた。

 文字にするならばヒュンヒュンと、まるで何かが飛ぶ様な音。

「恐らくは投擲により攻撃されています――ですが、着弾後にそこに無い事と音からしてブーメランの様な手元に返る武器での攻撃と推測されます」

 分析は正しく干将・莫邪の性質を利用した投擲による攻撃が正解。

 大量に森に分散された干将・莫邪はこの攻撃の為の物であり、投げる強さや角度を調整する事で同じ位置からでも複数の対象へ攻撃が可能となっている。

 

 知らずにソレを見破ったのは流石はチナツと称賛の嵐を送りたいエミヤだったが、防ぐ方法が見つからないのであれば見破ったとて意味は無い。

 

「皆、そこらにある木の枝を地面に突き立てろ!出来るだけ多くだ!」

 だがソレもイオリの指示で対抗策が見つかる。

 何本も突き立てられた枝、答え合わせとばかりにエミヤが再度投擲をすると、乾いた破砕音が突き立てた枝から鳴り狙われていた隊員はギリギリで回避する事が出来た。

 

「良い判断だ」

 樹の影から姿を見せたエミヤに対し、誰も命じずとも一斉に射撃が行われる。

「それでは此処からは、直接――行くぞ」

 それらを容易く弾き、再び濃密な殺意を放ちエミヤは弾丸の様にチナツに迫る。

 

 チナツからすればまばたきをしただけ、それだけで十メートルは遠方に居たエミヤが目の前に迫っていた。

 やられる――!そう思ったのも束の間、漆黒の羽根が二人の間に差し込まれ、次いでエミヤに対して銃撃が行われる。

 

 だが今度はただ弾くだけでは無く弾く方向までコントロールする事で、エミヤは何人かの風紀委員を撤退に追い込んだ。

 無策で撃てば仲間が傷付く恐怖にトリガーが重くなる一方で、それでも(・・・・)撃つ事が出来たのはイオリとヒナだった。

 

 接近しながら撃つヒナと、そのヒナの呼吸に合わせて間隙無い様に弾丸を差し込むイオリ。

 それに呼応する様に白と黒の分隊が動き出し、射撃に加わり始める。

「総員!逃げ道を防ぎますよ!」

 ヒナの速度には付いて行けずとも、行動の制限の為に移動するチナツと他の分隊。

 だが、段々と段々と、エミヤによって風紀委員が減らされていく。

 

 焦りを覚えながらもそれまでで一番の動きを見せるヒナは、集中力を段々と増して、エミヤの動きを捉え始めていた。

 だが、足りない。

 連携をしても、攻撃力が上がっても、エミヤには届かない。

 

 だからこそ、ヒナは思い至った。

 

 最高に馬鹿な発想に。

 

 

 

 一瞬の離脱と通信、それによりヒナと入れ替わりイオリとチナツがエミヤに迫る。

 イオリの上段回し蹴りを上体を逸らして避けながらチナツの銃撃を弾き、背後からの赤・青の分隊による射撃を身を屈めて避け、そのまま水面蹴りでチナツの姿勢を崩し――遂にチナツのペイントボールが割られた。

 

 避けられた脚をそのまま振り下ろしエミヤの脳天を狙うが片手で防がれ、逆に脚を掴まれそうになるが、そのまま防がれた手を土台に上に跳躍、イオリが居なくなったことで四方から銃弾の雨が降り注ぐ。

「はぁぁあぁぁぁああ!!!」

 四方から、そして真上のイオリから放たれた全ての銃弾を着弾順に弾く事で凌ぎ切り、上から落ちてくるイオリの蹴りを避けてすれ違い様にペイントボールを割る。

 その隙にリロードを済ませた風紀委員達が再び銃を構え、

「―――なに!?」

 エミヤの周囲の空間に向けて四方から銃弾が浴びせられた。

 

 視界が悪い中でエミヤの背に悪寒が走る。

 予感に従い視線を向けた先には、見えずとも感じ取れる程の強い神秘。

 目に見える程に渦巻いた紫と黒のコントラスト。

 

 ――来る。

 

 強化していないとはいえ、元から優れているエミヤの『眼』。

 その『眼』を以てしても捉え切れない速度で、ヒナはエミヤの横を過ぎ去った。

「速ッ――!?」

 過ぎ去ったかと思えば背中から衝撃、そして次は腹部に、次は肩に、ヒナが現れては消え打撃を入れていく。

 

 何処を狙っているのか分からない程にランダムな攻撃、エミヤが敵意に対して集中しても全く読めない。

 

 使うまいと考えていたが思わず『眼』に強化を走らせ、何が起きているのかを確認したエミヤは唖然となった。

 自分の周辺に張られる銃弾のカーテン、その銃弾を足場にして(・・・・・・・・)、ヒナはエミヤへと四方八方を跳ねて攻撃を加えていた。

「物理法則的に無理だろう!!!!!」

 思わず叫ぶが出来ているのだから無理では無い。

 

 ヒナの思い至った作戦、それは――『銃弾より速く動けばエミヤでも攻撃を避けられない』だった。

 素手での攻撃は避けられるが銃弾は弾かれる……ならば!という何とも強引な発想から生まれた作戦は、ヒナが持ち得る天性のセンスと神秘から可能となる論理を超えた物。

 なにせヒナですらエミヤに攻撃を当てるのが精一杯で、何処に攻撃をするかまではコントロールがしきれていない。

 

 だが、ランダムだからこそエミヤに悟られにくく段々と攻撃が積み重ねられていき。

 

「くっ……!これは流石に……」

 その攻撃にはヒナが持ち得る神秘を全て動員する必要があった。

 その時間を稼ぐ為にチナツとイオリが前に出た。

 そしてこの攻撃を成立させる為に風紀委員全員が協力してくれた。

 

 あまりにも現実的では無い作戦を即座に承認したアコはヒナに対する信頼から、

 そしてヒナから伝えられた事を実現する為の方法を伝達。

 

 ヒナに攻撃が当たってしまうかもしれない、なんて心配は一切せずに。

 仲間達が協力してくれないかもしれないなんて心配も、一切せずに。

 風紀委員全体が一丸となって、この状況を作り出した。

 

「届け……!」

 自分が何処を攻撃しているのか分からずとも、

「届け……!!」

 必ずこの作戦が功を成すと信じてヒナは攻撃を続け、

「届けぇえぇええええええ!!!」

 

 そして遂に――。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方 ゲヘナ学園校門前

 

「……こんなに集まらなくても良かったんじゃないか?」

 黒いリュックを背負い、すっかり便利屋コスチュームに戻ったエミヤは自分の見送りの為に校門前に集まってくれた生徒達を見て驚いていた。

「はぁ……エミヤ教官は私達の訓練以外でも色々な生徒と関わっておられましたから」

 呆れた様なチナツの言葉に周辺からも賛同の声が上がる。

 

「それに、中には私から叱責を受けた生徒もいるようだが……反省はしたのかね?」

 集まった生徒たちの中には乱暴行為で怒られた者もいれば、温泉の何たるかを叩き込まれた温泉開発部もいた。

「し、師匠~!また会えるよね?」

「誰が師匠だ誰が、会えるから私の服で鼻水をかむな!?」

 誰もが別れを惜しんでおり、その中には万魔殿の面々も姿を見せていた。

 

「君達は契約終了という事で先程も話したのに、何故……」

「キキキッ!イブキがどうしてもというのでな、イロハは何やら珍しい事をしているが……」

 名前を呼ばれたイブキはエミヤの背中にコアラ状態で全身で「離れないもん!」と主張しており、イロハは目が合う度にあっかんべーや馬鹿にしたような表情をしてくる。

 

「あとフウカ、その、君は学園を去る訳じゃ無いのだから見送る側に居なくていいのか?」

「?」

「いやそんな、心底不思議な事言ってるなこの人みたいな顔をされてもだな」

 フウカはフウカで当然の様にエミヤの横に立ち、にこやかな表情で皆を眺めている。

 

「風紀委員の皆もよくこの一週間の訓練を耐え切った。君達であれば間違いなくより良い風紀を保てるだろう」

 泣きながらも見送ってくれる彼女達を眺めていると、皆を代表してかヒナが一歩前に進み出た。

「本当にありがとうエミヤ……さん、お陰で私達はより強固な絆と、より強くなれたわ」

 求められた握手に応じながら、エミヤは充実した一週間を振り返り少しだけ目頭が熱くなった。

「私も、便利屋68の皆を離れての仕事はこの街に来て初めてだったが、上手く出来たのは間違いなく君達だったからだ――私こそ、ありがとう」

 交わした握手を放す時、ヒナの指先が惜しむ様に少しだけエミヤの手を追ってしまったが、すぐに拳を握り込んで気持ちを押し殺す。

 

「イブキ、フウカ、二人とももう会えないという訳では無いのだから……」

 イブキを背中から降ろし、フウカの背も押してゲヘナ学園側へと向かわせる。

「うぅぅ……おにーちゃんまた会える?また遊んでくれる?」

「勿論だとも、また遊ぼうな」

「むぅ」

「フウカも頬を膨らませるな、ほら、便利屋支部の部屋の合鍵を渡しておこう。もし良ければ私が居ない時には好きに使ってくれ」

「……分かりました」

 

 (皆と)離れがたいのは私とて同じさ、とフウカに耳打ちして、エミヤは背を向ける。

「それでは、一週間世話になったな!」

 背から聞こえる別れを惜しむ声や、旅立ちを見送る声を聴きながら振り返らずにエミヤは進む。

 

 また来ると誓い、新たな明日へと歩みを進める。

 

 

 

 

 

 しばらく歩いてから携帯に入った着信。

『失礼します。こちら便利屋68庶務担当のエミヤさんの携帯でお間違いないでしょうか?』

「はい、その通りですがそちらは?」

『えぇ、私はヴァルキューレ警察学校の所長を務めている尾刃カンナという者です……実は、現在我々の留置所にて便利屋68の面々を拘留しておりまして、引き取りに来ていただけると助かるのですが』

 

 聞こえてきた言葉にエミヤは頭を抱えたくなりながらも、一週間ぶりに会う彼女達が変わっていない事に謎の安堵を覚えつつ、それでも我慢できずに言葉を漏らす。

 

「……なんでさ」

 

 まだまだエミヤの忙しさは変わらないようだ。

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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