便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第十七夜 嘔吐

 

「んぎゃーーー!エミヤさん受け止めてぇーーー!」

 

 黒崎コユキの便利屋68での日々は概ね順調である。

 そもそもで精神性がアウトロー、エミヤの言葉を借りるのであれば環境が作り上げたぶっ壊れた倫理観の為、便利屋の仕事には非常に早く順応した。

 

 とはいえ彼女がそのぶっ壊れた倫理観を発揮するのは主に電子機器を前にした時であり、便利屋の様にアナログな職場において彼女は――。

「おっと!コユキ、ブツは?」

「にははは!もっちろんここに!」

 ――最高に生き生きしていた。

 今もなおもうもうと煙を上げるビルの中層からダイブしたコユキの手には金色の象の像が抱かれており、エミヤの胸の中に飛び込んだ事でなんとか危機を脱したばかりだというのにコユキは非常に楽しそうだ。

 

『え、エミヤ!?コユキがビルから飛び降りたけど回収出来た!?』

 焦った様子のアルの声がインカムから届き、爆発したビルの反対側を見てみるとスナイパーとして陣取っていたポジションから身を乗り出してこちらを心配そうに確認するアルの姿が見て取れた。

『あぁ、大丈夫だ!ハルカ、ムツキ?』

『こっちも手筈通り!ビルの入口はガッチガチに封鎖しちゃったよー!』

『う、裏手も出入り出来ない状態です!しししし心配だからもう一度確認を……!』

『お疲れ様、ハルカ、ハルカの仕事なら大丈夫だ――私が保証しよう』

 アルへの返答とビルを出てコユキを追ってくる追手への対処、それらがしっかりと為されている事を確認し、エミヤはコユキを抱えたままアルの居るビルの外壁を登り始める。

 

『みんなお疲れ、ハルカ、ムツキ、三人の順番で回収で良いんだよね』

 インカムからエンジン音とカヨコの声が聞こえてきて、エミヤは思わず「流石だな」とインカムを通さずに褒めの言葉を口にする。

『ね、ねぇエミヤ、本当に私も一緒になの……?その、流石に銃の重さもあるし……』

「はぇ?エミヤさん、このアル社長の無線って?」

 この後の流れを理解しているエミヤとアル、対してブツの奪取までを指示されていたコユキ。

「なに、ちょっとした実験さ」

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!これで我が家の家宝である祭神の像が戻って来ました!」

「いえ、私達は依頼をこなしただけよ、それよりもまた何か入用の時は是非便利屋68をよろしくね」

「はいっ!報酬は本来の物よりも少し多めに振り込んでおきました!本当にありがとうございました!」

 

 アルは格好よくコートをはためかせながら依頼人とのやり取りを終え、マンションの一室を出て非常階段まで移動したところで、

「おぇぇええぇええぇえーーーーーー!!!!」

 勢い良く嘔吐した。

 

「ぷ……あ、あはは!あ、アルちゃんお疲れ様、あはははははは!」

「ムツキさん酷いですよぉーーー!あ駄目だアル社長吐いてるの見たら私もろろろろろろろろろ!!!」

 誰も何もしていないのに自動で嘔吐が連鎖した。

 

「はぁ、取り敢えずエミヤさん、アレはエミヤさんだけの時以外、禁止ね」

「うむ……移動としては使えるが、三半規管がダメになるとは……」

「あ、あはは、私も見てて結構キましたから、仕方ないかと……」

 

 このような惨状を作り出したのはエミヤが考案した合流方法、干将・莫邪追尾システムだ。

 今回はカヨコに『引き寄せる力』を強化した莫邪を持っていてもらい、後からエミヤが『引き寄せられる力』を強化した干将を改造(オーバーエッジ)した状態で投影し、ブン投げた後にアルとコユキを小脇に抱えて刀身に乗り、カヨコの下まで移動するという物だ。

 

 結果、引っ張られた干将は引力に従い回転をしながらカヨコの下まで辿り着き、結果として高速回転に揉まれたアルとコユキは口から大瀑布を披露する運びとなった。

 それでも依頼人の前では根性で凛とした姿を保ったアルは流石と言わざるを得まい。

 

「アレ凄い見た目だしねぇ、真顔のエミヤンが大回転しながら剣に乗って近付いてくるの……本当、あはははははは!面白過ぎるって!」

「ぷ……まぁ、遠くからどんどん真顔の人が回転しながら近付いてくるのは、凄い絵面だったかな」

「無しよ無し!あんなの二度とごめんよ!思い出しただけでおろろろろろろろろろ!!!!」

「わぁあぁーーー!?アル社長掛かってる!私掛かってるから!うえぇーーーん!おろろろろろろろ!」

 

 怒ったり吐いたり悲しんだり忙しそうだなぁと何処か他人事の様に見つめながら、エミヤはコユキが馴染んでくれた事を嬉しく思った。

 

 

 

 コユキを助ける為にミレニアムに襲撃を掛けた日、元々カヨコは大反対していたらしい。

 それも当然、ミレニアムといえば科学技術の最先端であり、それに対応する術を持たない便利屋68では何処かで限界が来ると考えていたのだ。

 

 だがアルはコユキからの依頼のメールを見て、助ける事を決めたらしい。

 それはコユキの打ち込んだ文章、

 

『凄く危険なお願いだろうなぁっていうのは分かっているんですけど、同じミレニアムの生徒は私を助けてはくれないので、勿論アナタ方でも難しい依頼だっていうのは分かっているので、もしも無理そうなら断っちゃってくださいね』

 

 そんな、諦観の込められた文がアルは許せなかったという。

 アルが要求した報酬は非常にシンプルな物、

『私達が助けに来ることを信じなさい』

 報酬と呼ぶにはあまりにも意味不明、だが、便利屋の面々は誰も文句を言わなかった。

 

「危険だから?アナタ方でも難しい?無理そう?」

 そして彼女達は見事にセミナーの反省部屋まで辿り着いた。

「そんなマイナスの期待、全部裏切って無理やりにでも手を引いてやるわ」

 到底不可能と思われた作戦をやり遂げて、黒崎コユキただ一人を助け出した。

 

「部外者がミレニアムの問題に口出しするってんなら、一度痛い目に遭ってもらわなきゃなァ!?」

 コールサイン00と呼ばれる圧倒的な暴を前にしようとも、

「はぁ……面倒臭い、面倒臭いけど――やるしかないよね」

 最小限の動きで以て大振りでパワフルな一撃をいなして躱して時間を稼ぎ、

「にははは、流石にもう無理ですよ」

「ふーん、無理だと思うんだ?じゃあさ、ここから事態がひっくり返ったら、それって最高に楽しいよね!」

 絶望的な状況でも決して諦めず。

「あの人が見つけてくれた私の『良さ』を、強さに――!」

 僅かでも隙があればそこから活路を見出し、

「なんだってそこまで、別の学校のロクに知りもしねぇ奴に加担出来る?」

 敵からの疑問に対しても、

 

「それは私達が、アウトローだからよ!」

 

 己の在り方を堂々と宣言した。

 

 結果として捕まりはしたが、最後には何故か上手くいった訳で……コユキは新しく得た日常を謳歌しており、楽しそうに日々を過ごすコユキを時折アルが嬉しそうに見つめている。

 

 

 

「にははは!あーっ!楽しっ!」

 

 

 

 

 

 そんな日々を送る中で、エミヤはかねてよりお願いされていたとある案件にようやく手を付ける事にした。

「止まって下さい、失礼しますね?男性の大人の方なんて他にいらっしゃらないと思うので、間違いは無いと思うのですが……貴方が便利屋68庶務、エミヤさんでお間違いないですか?」

 こちらからの返答を待っているのか、それとも聞き逃さない様に自然と動いているのか、大きな耳を小刻みに動かしながらの問い掛けに、エミヤは思わず『触ってみたい』と思ったが我慢。

「あぁ、此処が連邦生徒会の管理するサンクトゥムタワーで相違ないか?」

「おぉー!ようやくお越し頂けたのですね!いやぁ~、うちの上司……あ、私はSRT学園に所属している者なんですけど、一番上が連邦生徒会長で、その次に防衛室長って役職が挟まるんですが、その防衛室長の不知火カヤって人が最近はエミヤさんの写真に向けて手を合わせ始めてたので、これ以上おかしくなる前に来て頂けて良かったです」

 待たせていたという自覚はあったエミヤだったが、まさかそこまで切羽詰まっているのは予想外だった為、非常に申し訳ない気持ちになりながら案内を受ける。

 

「一応呼ばれているのは連邦生徒会長からだったと思うが、防衛室長にも顔を出しておいた方が良いだろうか?」

 そこまで聞かされては通すべき筋が生まれるという物、謝罪の意味も含めて一度対面しておくべきだろうと思ったが、

「あー、エミヤさんってそういう人なんですね、うんうん、じゃあ今回の呼び出しに遅れたのも明確な理由がありそうですねぇ」

 何故か目の前のピンク髪をした狐少女は何かに納得をして何度も頷き、

「それなら絶対に今の方向性であの人の前に顔を出しちゃダメです」

 何故か止められた。

 

「それはまた、どうしてだ?」

 エミヤはなんとなく目の前の少女が深慮の末にその答えを出したのだと察した。

 そして、彼女はエミヤが負い目を感じた上で防衛室長に会おうとしている事にも気付いている……そう捉えた。

「うーん、エミヤさんってゴッドファーザーって映画見たことあります?あー、正確にはその序盤のやり取りって分かりますかね?」

「あぁ、分かるが……えぇ」

「うはー、分かり易くドン引きですね、でもその通り、『いつか私が困っていたら』っていう明確な貸しを作られると思いますよ、そんでもってエミヤさんってソレを裏切らない、裏切れないタイプの人ですよね?」

 ゴッドファーザーの最序盤、結婚式にまでやってきて復讐に手を貸して欲しいと頼んできた葬儀屋の男に対して、作中における組織のボスが求めた対価……ソレは『いつか私が手を貸して欲しいと言った時、力になって欲しい』という物だった。

 ソレをこのキヴォトスでやる者が居る事に驚きながら、エミヤは「いやしかし、実際に申し訳ない事をしたわけだしなぁ……」と悩む。

 

「あははっ!ここまで話しても悩んじゃうってお人好しですねぇエミヤさん」

 本当に愉快そうに笑う少女に「こちらは悩んでいるのだが」と頬を掻きながら、しかし忠告を無下にするのも失礼かと頷き。

「それでは、私が来た事を言付けて貰う事は出来るかな?」

「ん!全然いいですよ、そうだそうだ。私はニコ、SRT……正式名称Special Response Team 特殊学園の三年生、よろしくお願いしますね、エミヤさん」

「あぁ、君はなんというか……これまでキヴォトスで出会った生徒達の中で、ある意味一番凄いな」

 

 エミヤはニコと名乗った少女の不思議な魅力に驚きを隠せないでいた。

「お、おぉ?ど、どういう評価?喜んでいいやつ?」

「うむ、間違いなく聡明なのだがソレを感じさせない、更に相手から信頼を得るのが非常に上手い……意図しているのならグリーンベレー、外の世界の特殊部隊に入れる程の交渉術だと思うぞ」

「ん、んん、な、なんだか照れるから褒めるのは無ーし!ほら、早く入って下さい!待ってますよ――」

 

 ――連邦生徒会長が。

 

 

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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