「わざわざ足を運んで頂き、ありがとうございます」
最初にエミヤが覚えた感想は、『異質』だった。
ソレは恐らくは誰でも感じ取れる違和感では無く。
曲がりなりにも、その概念に触れた事があるエミヤだからこそ気付いた違和感。
「私が連邦生徒会長の――――です。あれ?あぁ、もうなんですね」
目の前に居るのは一人の筈なのに、その口から発声されている筈なのに、今しがた彼女が名前を発声出来なかった様に、不思議な違和感がずっと纏わりついてくる。
「こんにちは、エミヤさん」
何故この少女から、
「既にご存知かと思うが、便利屋68で庶務を務めているエミヤだ。以前から招待を受けていたのに応じるのが遅くなり大変すまない」
「いえいえ、こちらこそキヴォトスの生徒がアナタ方の領域に踏み入ってしまって、申し訳ございませんでした」
絶句。
言葉を失うのも、無理は無いだろう。
さも当然の様に返された言葉に、どれ程の情報量が含まれていたのかエミヤは理解が追い付かなかった。
「……? あ、そうですよね!どうして私が魔術の事を知っているのか、そりゃあ疑問に思われますよね」
そして、次いで魔術という単語すら出てきた事にエミヤは口の中が一瞬で乾いた。
「これからお話する事にも関連してくるので、先にお伝えしちゃいますね」
スラスラと出てくる言葉のどれもが、スラスラと出てきていい物では無い。
だが、それを気にした様子も無く彼女は話を続ける。
「私の……そうですね、能力とでも言えば理解しやすいですかね?私自身、コレが私の能力なのか与えられた物なのかは定かでは無いので」
それでもエミヤはフリーズしかけた頭をなんとか再起動させ、繰り広げられる連邦生徒会長劇場に付いて行こうと意識を切り替えた。
「私の能力は『並行世界への干渉』と『未来観測』です」
切り替えた所に第二魔法レベルの能力の暴露が飛んできたので、再びエミヤの脳はショートしそうになった。
「なので別の世界では魔術が広く親しまれたキヴォトスもあるので、アナタ達、英霊の事は知っていました」
「今回お呼び立てしたのは、基底世界であるこのキヴォトスに貴方が現れるという類稀なる奇跡が起きた事、それに対する感謝と、これからに対するお願いの為です」
「……よし、もう何でも来いだ」
「ふふ、私の話の速度に頭が付いてこれる時点でもう一つ感謝を重ねたいところですよ、大体の場合、私は別の世界で見聞きした事柄なのですぐに対処を指示するんですが、私からすれば結果が見えていて経過を指示する事でも、他の方々からすれば何処に繋がるか分からない経過を言われた通りにこなす事になるので、そのせいで理解されない事が多々ありまして……あら、愚痴みたいになっちゃいました」
それはさぞかし生き辛いだろうなと思いながらも、何故齟齬が生じるのか理解しているのに結論から入る所為だろうなとエミヤは連邦生徒会長の周囲の人々に軽く同情した。
「先ず――この先の未来で私は消えます」
ちょっと待ってくれと言い掛けたがなんとか堪える。
「理由は簡単で、私が居る事で『未来が確定』してしまい、その未来では樹形図の幹が折れてしまっているんです」
余計に待ってくれと言いたくなったが、未来を観測出来るからこそ、未来が確定してしまうという事だなと何とか理解。
だが続く言葉で樹形図、つまりは未来への線が途切れていると言われ再び困惑。
「ではどうすれば良いのか、悩んだ私達は私を利用する事にしました」
そう言いながら、一つのタブレットを取り出した。
「エミヤさん、例えば私がAの世界でインターネット上にブログを作成した場合、並行世界であるBにおいてそのブログを閲覧する事は出来ると思いますか?」
頭の中で想像してみて、不可能という結論に至り首を振って回答。
「その通りです。これは世界という枠組みの中で活動した以上、干渉できるのがその世界に対してのみである事を証明しています――ですが、もっとマクロな『世界群』という視点でブログを作ったら、どうなると思いますか?」
初めてされる類の質問に腕を組みながら、
「つまり、靴の中に消臭剤を入れてもその靴にしか効果は無いが、靴箱に消臭剤を置けば入っている靴全体に消臭剤の効果が行き渡る……という認識で合っているか?」
「なんか、凄い大人の男性~な例えですね、合ってますけど」
合ってるなら良いじゃないかと思いながらも、
「それなら『世界群』をミクロにした世界それぞれで、ブログは閲覧が可能だろう」
「はい、その通りです!」
一呼吸おいて、
「そして私が『世界群』に向けて作り出したのが、私を集約するプログラムです」
「君を……集約?」
「はい、簡単に説明すると……私という存在を電子に落とし込み、世界の数だけの私を並列で接続する事で同時並行処理の速度を極限まで突き詰め、予測した未来を確定させる為の補助AIとなる事で、途絶えた樹形図の先へ辿り着くためのプログラムです」
「……デカい障害を取り除くための水を流そうにも君一人分の水では足りないから、並行世界の君も水にして力技でどうにかしようとしている。という認識で合っているか?」
「おぉー、凄いですね、大正解です」
拍手で賞賛されるが、今説明された事と比べればこの程度の理解はなんてことは無い。
だがそれよりも、
「なんとなく理解は出来たが、集約という表現からして並行世界における君もすべて一つになる訳だろう?それでは……君が基底世界と称したこの世界に君が集約されたとして、並行世界はどうなる?」
「やっぱり気付いちゃいますよね……ご察しの通り、私がメインAIとしてこの世界に、並行世界ではサブのAIが置かれます……ですが、樹形図が、未来への線が一本でもあの先へ辿り着くことが出来れば、そこから再び無限の可能性が広がります」
「その一本が基底世界になる事は……」
「それが頼みたい事です。エミヤさん」
真っすぐと、射抜くような視線が向けられる。
「どの並行世界においても、貴方という存在は居ませんでした――
「可能性……か」
「はい、この先に起こる事の一つたりとて私は貴方に説明する事は出来ません、そして、このプログラム……シッテムの箱でさえも貴方の為に用意した物では無く。この先に訪れるもう一人の可能性となる人に残す物です」
「シッテムの箱とは、成程、この先の途絶えた樹形図はさながら海、可能性たるモーゼに残すのだな」
「エミヤさんには、その未来を助けて欲しいんです――私が知る未来には存在しない、だけど間違いなく光と成り得る貴方に、道標と成り得る貴方に、これだけは直接お願いしておきたかったのです」
出会ってから三十分と経たずに話す内容では無い、それは間違いない。
だが、彼女が最初に自己紹介をしようとした時を振り返り、エミヤは察した。
「本当に、来るのが遅くなって申し訳ない」
「あー、えっと、ソレはちょっと怒ってますよ?お陰で名前もちゃんと伝えられませんでしたし」
「アレは……既に君が世界から消え始めているからなのか?」
「その通りです。私に代わる観測者……教え、導いてくれる『先生』が現れるのが近いからこそ、段々と私がプログラムへ集約されている証拠です」
ふむ、と一呼吸。
「その『先生』というのは、何処かの学園の生徒がなる物なのか?」
「いいえ、エミヤさんの召喚に用いられた疑似聖杯が役割に応じた神秘を宿した様に、このキヴォトスの生徒達は既に神秘を宿しており、『生徒』の枠組みから『先生』になる事は出来ません」
「――つまり、『先生』はキヴォトス外の人間という事か?それも、神秘を宿していない、ヘイローを所有していない者か」
「その通りです。『先生』という立ち位置に重要なのは神秘を宿さない事でもありますので……個人では無く世界に対して働きかけて変革を望めるのは、キヴォトス内で『役割』を当て嵌められない、神秘を宿さない人なんです――エミヤさん、貴方と同じく」
「成程、な――」
聞かされた内容の全てが、思わず慌ててしまう内容だった。
理解する事さえも難しく、慌てる暇すら無かったというのが本音だが、エミヤは遅れながらも頭の中で話を纏める。
本来であれば、訳が分からんと一蹴してしまいたくなる内容だ。
ここまでの話のどれも、連邦生徒会長である彼女の願望が多分に含まれた話であり、
『世界を救えるかもしれない可能性が見つかったから、勝手にその可能性に賭けるので、後は残された皆さんで上手くやって下さい』
それすらもこの世界の誰かに言い残すのでは無く。
なんとふざけた話だろう。
だが、それが彼女の見つけた世界を救う手立てであり、これほどにまで膨大な内容を一人で抱えてここまで走って来たというのであれば、周囲の人と思考の速度が合わずにただ一人で丘を登り続けて来たというのであれば……。
誰に理解されるでも無く。
ただ救いたい世界の為にその身を犠牲にして、その果てに見つけた答えが、己を世界から遠ざける事だったというのであれば――。
その答えに至った時、一体どれ程の絶望が彼女を襲ったのだろうか?
ただ願うのでは無くその葛藤も話せばよいでは無いかと、エミヤは思わず連邦生徒会長を見る。
きっと彼女はここに至るまでに、キヴォトスを守る為に周囲からの理解よりも実を取ったのだ。
その生き様は、私には劇薬だ。
あぁ、重なってしまった。
もう断れない。
その気高さに触れてしまえば、いつか見た夢の背中を思い出してしまえば、私は――。
「最善を尽くそう――だが、一つだけ条件がある」
「うぇ、え、エミヤさん、私時間が無いので叶えてあげられる事なんて……」
「簡単だ。いつかその樹形図の先で、今度はしっかりと自己紹介をしてくれ」
「ふぇ……?」
「君の名前をまだ聞いていないんだ。私の報酬は――ソレでどうかな?」
彼女にとって、この話自体が信じて貰えるものだとは思っていなかった。
魔術という概念を知り、第二魔法を知る彼ですら、この話を聞いて「はいそうですか」となるには関係性の構築が済んでおらず。いきなり突飛な事を話し出した頭の痛い奴と思われても仕方が無い、そう思っていた。
だが、目の前の男は、エミヤは言ってのけた。
さも当然の様に、樹形図の先の話を――彼女ですら見る事が出来ない、暗闇の先の光を。
思わず溢れそうになる涙を必死に堪え、なんでそんなに簡単に信じる事が出来たのか、いっそ馬鹿馬鹿しくて笑いも漏れてしまう。
嗚呼、笑えた。
真っ暗だと思っていた未来に、光が差した。
この人に、どれ程の感謝を私は重ねれば良いのだろうか?
それでも今は、感謝よりも。
「もう、ナンパの予約ですか?」
「なっ!?そ、そうなるのかね!?」
今は、訪れる一先ずの別れに向けて、いっぱい笑っておこう。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
-
いいよ
-
だめだよ
-
やってみろ
-
エロ書け