連邦生徒会長はエミヤに対して本当の事を話した。
後は最後にもう一度、『先生』を迎えるその寸前で『未来の観測』を実行するだけ。
連邦生徒会長は嘘は吐いていない、だが、全てを伝えた訳でも無い。
樹形図の先へ、海の先へ、暗闇の先へ辿り着けない理由。
自身の選択の誤りと、存在する事で生じる義務。
例え知っていようとも、その役職に割り振られた役割が行動させる。
『先生』の様に『生徒』に対して動くのでは無く。
連邦生徒会長は『キヴォトス』という学園都市の為に動かなければいけない。
眠り姫を永遠の眠りに、虚しき罪人には極刑を、怪談は一人の少女の悲劇へと帰結してしまう。
『先生』の決断を妨げる事が出来る連邦生徒会長、『先生』の行動を制限する事が出来る連邦生徒会長。
ソレを避ける為には、己が可能な事をサポートに限定する必要がある。
もしも時を遡れたら、連邦生徒会長では無い自分になれるのに――。
過去の自分が『未来を観測』する能力にもっと早く気が付いていれば……そう思わずには居られなかった。
『未来予知』や『未来の予見』とは違う。
『未来を観測』する能力。
未来のその場に立ち、観測する能力。
知るだけでも見るだけでも無く経験する能力。
ソレは非常に危険で、もしも未来で死が待っていればその場で死ぬ。
その危険を理解した上で、己の愚かさを『先生』に伝える為にも最後の能力行使が必須なのだ。
「エミヤさん……」
お願いは出来た。
未来への希望も抱いた。
「どうか、よろしくお願いします」
後は、祈るだけ。
「エミヤン、私はその女の人を信じるのは駄目だと思う」
連邦生徒会長との会合から一日、便利屋68の事務所にてエミヤはムツキを胡坐の真ん中に置いて共にゲームを楽しんでいた。
「まぁ、ちょっとイカれてるというか、目的の為なら過程は厭わないタイプに見えるね」
カーペットに座るエミヤの後ろ、ソファーの肘置きを有効活用してリラックスしているカヨコも同意見の様で……。
「でもでも、この人ってこの世界で生きて行くのに必要なガイドブックを作成したいって……目的は結構立派でしたよ?」
カヨコの反対側の肘置きにクッションを抱きながらリラックスしているコユキは目的の部分に注目しており、
「で、ですが先程この方がエミヤさんにお願いしたのって、大怪我してきて欲しいって……い、いくらなんでもヤバい人だと思います」
ソファーの真ん中でこじんまりと体育座りをしているハルカは依頼の危険性から反対意見の様だ。
「……いや、それでも彼女が作ろうとしている物は大勢の役に立つ物だし、ここは信じてみないか?」
そしてエミヤはコントローラーを持ちながら、信じる道を選んだ。
「ふふ、それでこそエミヤよ!私達で放射能汚染された世界の生き方を示そうじゃないの!」
珈琲を淹れながらノリノリで賛同するアルだったが、彼女達はまだ知らない、この選択が遠慮を知らぬ作中トップクラスのクレイジーに幾つもの無理難題に付き合わされることになる選択だという事を……。
そんな風に、エミヤは便利屋の面々と平穏な日常を過ごしていた。
いつもがいつもゲームをしている訳では無いが、依頼も何も無い時であっても便利屋の面々と一緒に過ごす事は全く苦にはならず。むしろ日常の落ち着ける一幕としてエミヤは癒されている。
時折、個人的なお誘いを受けて特定の誰かと買い物に出かけたり、映画を見に行ったり、良さげな植物が自生していないか散歩をしたりと過ごし方は日によって違うが、その中でも皆で過ごす時間は特別なのに特別じゃない、当り前じゃない筈の当り前となっている。
「エミヤン、口」
「ん?あー」
「はい、チョコレート」
まるで家族や兄妹の様に意思疎通に関してもすべて言わずとも伝わるレベル。
「あ、社長」
「えぇ、カヨコの分だけで良いかしら?」
「あ、私もお願いしまーす」
珈琲一つとってもアルが淹れている最中だから、名前を呼べばそれだけで伝わる。
頼む側も何も気兼ねせず。頼まれたアルも何も気にしていない。
「……蟹?」
「蟹ですかね?」
「蟹、久しぶりに食べたいですね」
「ハルカ、コレを見てその感想は……その……」
何かと遠慮がちなハルカであっても、こうして皆で過ごす空間ではリラックスしている。
「エミヤン、口」
「すまんな、あー」
「にしし、私の指でした♡」
「ムツキ」
「うわーん!カヨコちゃん怖―い!エミヤンバリアー!」
「さりげなく私の服で指を拭うな!?」
いつものやり取りに少しのスパイスを加えたり、時には願望のままに抱き着いてみたり、
「ん?どうしたコユキ」
「んぇ?あ、気付いたら移動してました」
「眠いのか?もたれていいぞ」
本人も気が付かない内にエミヤの横に移動して、許されるままにもたれかかってみたり、
「エミヤー、クッキー」
「私はクッキーじゃありません、クッキーなら小皿の入っている棚の引き出しだ」
「うふふ、珈琲にはやっぱりエミヤのクッキーよね♪」
飲み物の準備を終えたアルも、自然とエミヤの横の空いたスペースに座って一緒にエミヤのゲームプレイの鑑賞に参加する。
「……頭ねじ切って玩具にするって凄い発想ね」
「アル?アレはアウトローというよりもゲス野郎だから誤解しない様に」
「さ、流石に真似しようかなーとか思ってないわよ!」
ゲームや創作物に感化されやすいアルは注意を受けやすく。
「んん……」
「くかー」
「おっと、気が付けば眠り姫が二人だ……カヨコ」
「ん、毛布」
「流石だな」
ムツキはエミヤの胡坐の上で丸くなり、コユキはエミヤにもたれかかって口を開き涎を垂らしながら眠りについた。
これまたいつもの事なので、カヨコも名前を呼ばれればすぐに毛布を差し出してくれる。
そんな風に寝ているコユキをソファーの上に移動させ、空いたスペースに座り込んで少し緊張しながら、それでも小声で「えいっ」と呟いて新たにハルカがエミヤにもたれかかった。
「えぇ!?こ、この人町一つを地雷原にしてスナイパーを……!?凄い戦法ね」
「やめろアル、ハルカがメモしてる」
「ハルカ!?だ、駄目よ!一体幾ら掛かるか分かった物じゃ無いわ!」
「そういう問題じゃないと思うけど……」
価値観的な部分での問題が浮き彫りになったりもするが、大体の場合はカヨコが正しい価値観を持っているとエミヤは認識しており、キヴォトスの常識を学ぶ機会にもなる。
「えぇ!?わ、私がプレイするの!?」
「そろそろ夕飯だろう?ほらムツキ、料理作るから」
「んん~……や!」
「や!じゃなくて、あぁもう抱き着くな」
「や~!」
「……もう少しだけだぞ」
「んひ~♪」
ちょっとした我儘なんかも挟んだりして、
「え、エミヤー!?あ、アリが!アリが!」
「良い火力だな、炒飯作るのに一匹欲しいかもしれん」
「ぜっっっっったいに嫌ッ!」
プレイするのには慣れていないアルが悪戦苦闘するのも皆で楽しんで、
「ドッグミート……?」
「凄い名前だな、いや、私も名付けに自信がある訳では無いが」
「……エミヤさん、将来子どもが出来たらどんな名前つけたい?」
「ほぁ!?起きたらカヨコさんが凄い大胆な事聞いてる!?」
勇気を出して少しだけ踏み込んでみる光景もその中にはあったり、
「すまんがムツキを起こしてくれ、夕飯が出来た」
「わぁーい!いっただっきまーす!」
「待ちなさいコユキ、皆でいただきますしてからよ!」
「ふぁぁああ!ち、チーズハンバーグですか!?チーズハンバーグですよね!?」
「ハルカのテンションの上がり方が凄いんだけど……」
「ん~~~!よく寝た~!」
皆でしっかりといただきますをしてから夕飯を食べて、
「それじゃあ一番風呂頂くぞ」
「あ、私も入りますー!」
「コユキ、ステイ」
「犬扱い!?」
順番にお風呂に入ったら、
「エミヤさーん」
「コユキもか?ほらムツキ、もう乾いたからそこを退きなさい」
「やだやだー!もっと手櫛通してよー!」
「エミヤさーん!」
「えぇい!二人して引っ付くな!?」
「私お風呂入るわねー」
しっかりと髪を乾かして、
「ん……ふぁ……え、エミヤ……上手すぎっ……!」
「アルは携行する武器も重いから凝ってるなぁ」
「んん……そう、かしらっ?あっ、そこもっと……」
「アルちゃん社長おっぱいデカいから余計に凝るんじゃないですか?」
「ふーん」「へぇー」「あぅぅ」
「え、な、なんだ!?なんで蹴る!?私は何も言っていないだろう!?」
一日の疲れを解したら、
「さぁ、電気を消すぞ」
「エミヤンはー?今日も一緒に寝ないのー?」
「リビングのソファで寝るから大丈夫だ」
「別に誰も気にしないのに」
「一度一緒に寝たら私の上の寝巻が脱がされて胸を枕にされていた覚えがあるが、私がきにするとは思わなかったか?」
「すやすや」
「流石アル様、寝付きが早いです」
「ほら、それじゃあ皆」
「おやすみ」
幸せな気持ちに包まれながら、夢の中へ――。
「さて、出掛けるか」
――便利屋の面々を見送ったら、エミヤは外出だ。
日によって出掛ける先は違うが、今日は金曜日。
金曜日の外出先は、
「おや、今日は一番遅かったですね」
「前回は料理の当番だったから言い訳出来ましたけど、今日は出来ないですよ~」
「そう虐める物じゃない、お疲れ様エミヤさん」
ニコ、シグレ、カンナの三人と毎週金曜日に開催している『月見会』の日だ。
「すまんな、だが今日も一応料理は持って来たぞ、ほら、もつ煮込み」
「お、ありがたく~♪それにしたってホットウーロン茶が出来るタイミングで丁度来るなんて、狙ってますねぇ」
「あぁニコ、そういえば作ってきて貰えただろうか?その、わさびいなり」
「カンナ局長ハマりましたよねぇ、勿論ありますよ」
元々はカンナに誘われてお疲れ様会をしていたのだが、ある日偶然ニコに見つかりそこに参加、そして別の日に「いや~、ノドカが熱心に見てるから何かと思ったら美味しそうな事してるんだもん」とシグレも参加、気が付けば毎週の金曜日のお楽しみとして定着していた。
「なーんかよくは知りませんけど、ニコさんもカンナさんも忙しい身なんですよね?」
「いや、私はカンナ局長よりは全然、ソレを言ったらシグレさんも結構遠くから通ってるんですよね?」
「んー、遠いけどウチの学園だと落ち着いてのんびり過ごすって難しいからねぇ、こういう環境って結構貴重だったりするんですよ」
「気持ちは分かるな、私も忙しい身だからこそ、この『月見会』にはかなり癒されている」
「もしかしてこの中で一番暇なのって私か……?」
キヴォトスでの生活に馴染んできたことを実感できる夜の時間。
そんな穏やかな時間の裏で、今夜は誰かが転校生として何処かの学園に籍を移してから一カ月が経過した日だったりと、事態は着々と進んでいる。
連邦生徒会長の失踪まで、あと二週間――。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け