便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第二十夜 トリニティ総合学園

 

 トリニティ総合学園。

 

 それはキヴォトスにおける高貴なる園、お嬢様達の花園にして歴史と伝統の宝庫。

 自由と混沌が売りであるゲヘナと対を成す学園であり、ミレニアムと併せて先に名を挙げたこの三つの学園がキヴォトスにおける三大学園と呼ばれている。

 

「昔は色々な学校が乱立している地域だったんだけど、『第一回公会議』において手を取り合って生まれたのがこのトリニティ総合学園って訳」

「成程、少し前に風紀委員会の教官を務めていた際に小耳に挟んだが、トリニティとゲヘナは学園としても生徒間でも仲が悪いというのは本当か?」

「そうなんだよねぇ、色々と理由はあるみたいだし、すっごーい昔に二つの学園間でも大きな争いがあったらしいんだけど、今の私達からすればどうでもいい話だよ」

 

 カヨコ、エミヤ、ムツキの三人はそのトリニティ学園の自治区を歩きながら会話を広げていた。

「実際、こうして服装を変えちゃえば私がゲヘナの生徒って事にも気付けないのが大半、帽子で角を隠して、羽根を畳んだだけで誤魔化せる」

「私なんて服装を変えただけだしね、それにしたって私もカヨコちゃんも意外と白も似合うね、なーんか堅苦しい感じがして脱ぎたいけど」

「……私は何も変えていないというよりも、変えようが変えまいが私の場合は目立つからな」

 依頼で訪れたトリニティ総合学園、不用意な対立を避ける為にも簡単な変装をしている。

 

 向かう先が向かう先なだけにハルカは「私が行ったら、その、殺されちゃうと思います」と拒否、コユキも「えぇー、私あの学園嫌いなんですよ、なーにが伝統や歴史ですか、年を重ねて舌打ちの技術と影口の露骨さでも磨いてきたんですかね」と全否定。

 

 角の位置の問題からアルは変装が出来ない事もあり、今回はお留守番になっている。

 一応コユキの服や日用品を今日は買いに行くと言っていたが、エミヤは一応出てくる際にヴァルキューレに電話を掛け「もしもウチの面子が世話になる事があればよろしく頼む」と伝えておいた。

 

「それで、今回の依頼の内容を確認しておきたいんだけど」

 カヨコからの言葉を受けて、タブレットを取り出して該当のメールを開く。

「依頼……というのも変な話なのだが、街中を散策するのに加えて、『シスターフッド』『救護騎士団』『正義実現委員会』『ティーパーティー』を尋ねるのが依頼だ」

「話は通してあるって事だけど、へーんな依頼だよね」

「そういうな、恐らくは何か考えがあっての事だろう」

 タブレットを仕舞いながらムツキの頭を撫でると、反対側でカヨコが少しだけムッとしたが、当然エミヤは気付いていない。

 

「なにせ、連邦生徒会長直々の依頼だからな」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「もしもーし、聞こえてますか?」

 穏やかな昼下がり、カヨコと買い物に出掛けて、帰りに街中で怪しげなアクセサリーを購入して自慢してきたマコトに騙されている事を教えた午後。

 溜息を吐きながら悪徳商人の下へ向かうと言ったイロハを見送ったエミヤは、カヨコの提案で髪にメッシュを入れようか悩んでいた所でモモトークの通話機能を使用して掛かって来た電話に出ていた。

「聞こえているが、せめて事前に連絡して良いか聞いたりしてくれないか?」

 表示された相手を見てカヨコが驚きながら「多分、出た方が良い」と言うので出てみれば、つい先日にとんでもない事柄を伝えて来た連邦生徒会長その人からの電話にエミヤは「マジか」と思わず漏らしてしまった。

 

「それはごめんなさい、でもエミヤさんなら出てくれるかなぁと思ったので」

 不思議な信頼を理由も無く向けられるのはむず痒く。エミヤは返す言葉に困ってしまう。

「それで、何の用だ?寂しくなって掛けて来た訳では無いのだろう?」

 人の往来を避けて小道に入り、カヨコにジェスチャーで「すまないな」と詫びを入れ電話を続ける。

「本当は連絡するつもりも無かったんですけれど、何処かの誰かがゲヘナの女の子とばかり遊んでいるので、繋がりを強引に作ってあげようかと思いまして」

 棘の刺し方に悪意を覚えながらも、一応善意だよな……と話を受け取る事にした。

 

「狙いがイマイチ掴めないが、具体的にはどういった事だ?」

 電話の向こうで「ふっふっふ~」と勿体ぶった声が聞こえてきて思わず苛立ちを覚えるが、相手の今後を考えると多少の楽しさを今に覚える事くらいはむしろ歓迎すべきことだろう。

「便利屋68への依頼として、トリニティ総合学園に行ってもらいます!」

 そんな突拍子も無い依頼が飛んでくるとは、思ってもみなかった訳なのだが……。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「なんでも信頼の出来る生徒を一人、トリニティ側でも用意したと言っていたが」

「連邦生徒会長と面識がある時点で信頼ってよりも警戒の対象なんだけど……」

「まぁまぁ、少なくとも私達に対して敵意とかを持っている人じゃないだろうし、仲良く出来たら嬉しいじゃん?」

 ムツキの前向きな発言に頷きながら、待ち合わせ場所であるカフェに辿り着いた。

 

「なんでも、私の外見を伝えてあるので向こうから気付いてくれるとの事だが」

 辺りを見回してみるが、声を掛けてくる様子の生徒は居らず。

「まだ来ていないだけだろうか?」

 

「いえ!もうここに居ますよエミヤさん!」

 とんでもなく馬鹿でかい声量で成された自己紹介に思わず耳を掌で覆いそうになるが、なんとか耐えて振り返ると腰に手を当てて自信満々な表情をした少女が一人、エミヤ達の前に立っていた。

「突然の連絡に驚きながらも頼られては断れないのが正義の味方!任務とあれば気合も上々!宇沢レイサ!此処に参上です!」

 ビシィッ!と決めポーズをした少女に、エミヤは思わず目を瞠ってしまい。

 その視線をそのままカヨコとムツキに向ける。

「……いや、えっと」

「凄い子が来たね~」

 二人も付いて行けていない様で半ば放心している。

 

 場の空気がおかしな事に気が付いたのか、宇沢レイサと自己紹介をした彼女は少し気まずそうにし始める。

「あ、あの……宇沢レイサ、参上です……」

 思ったよりもメンタルが弱いのかもしれないと気付き、エミヤは即座に気持ちを切り替える。

「待っていたぞレイサ、見事な参上だ」

 その言葉が嬉しかったのか、今の一連の流れを受け入れて貰えたのが嬉しかったのか、見るからに喜色を顔に浮かべたレイサはエミヤの手を取って握手をした。

「はいっ!よろしくお願いしますね!」

 

「ふーん」「面白い子が、来たね」

 

 二人の様子が何だか怖かった。

 

 

 

「それでは、以前から交流があった訳では無く先日いきなり連絡が来たのか?」

「はい!いきなり知らない番号から電話が掛かってきてビックリしました!」

 どうせ並行世界での経験から信頼できる相手としてレイサを頼ったのだろうとエミヤは予想を付け、その前提が無いレイサからすれば突然の連絡で驚いただろうに、それでも引き受けてくれることが分かっていたな……と、見えぬ相手に睨みを利かせる。

「でも、こういうのを任されるって事は、レイサはトリニティに詳しいって事?」

「あ、そっか、一見すると元気が取り柄みたいに見えるけど、実は凄い交友関係だったり?」

 

 その質問が地雷だったのか、先程まで太陽の様な笑顔だったレイサの表情に陰が生まれ、

「えっと、交友関係はむしろ……親しい友人って呼べる人もあまり居なくて……」

 段々と声のトーンも下がっていき、どんどん落ち込んだ様子になってしまう。

「むしろ私が知っているのなんて地理くらいで、今回のご依頼も何で私なんかが白羽の矢を立てられたのか分からないし……」

 笑顔ながらも「やっちまった」と顔に書いてあるムツキとカヨコは言葉を探していたが、エミヤはそんなレイサの様子に不思議な納得を覚えていた。

 

「だからじゃないか?」

「はい……?」

「聞くに、トリニティは様々な派閥があって、そうした所と特別親密な人間は今回の案内で尖った紹介をしてしまうだろう?だからこそ、そうした(しがらみ)の無いレイサは今回の依頼にピッタリの人材だったんだ」

「確かに」「エミヤンナイスゥ」

 二人も納得、聞いていたレイサも思いもよらなかった部分で自分に価値がある事が分かりエミヤの話を聞きながら両手を見つめて頷いていた。

「私だから……ですか」

「あぁ、そういう意味では私達からしても変な勧誘に合わない点からも、是非レイサにお願いしたいと思っているが、どうかな?」

 

 内心でカヨコは理由に納得の反面で先程からエミヤがレイサに対して魅せている笑みが気に入らない部分もあり、ムツキはムツキで落ち込ませてしまったレイサの気持ちを取り直してくれたエミヤに感謝しながらも、絶対この子エミヤンに懐くじゃんと僅かに頬を膨らませていた。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ!そこまで頼られては不肖エミヤさんの案内人宇沢レイサに断る選択肢はございません!むしろ……」

「ん?」

「むしろ、私だからって言ってくれて、ありがとうございます」

 少し俯き加減で元気をなくした訳でも無く。何処か恥ずかし気にお礼を言うレイサをエミヤは素直な良い子だと好意的に感じた。

 

「そ、それでは気を取り直して、このトリニティ総合学園の案内をさせて頂きますので、よろしくお願い致します!」

 

 

 

「既にここまで歩いてきてお気づきになられたかもしれませんが、基本的にトリニティ総合学園の敷地内は石畳や舗装された道になっています!」

 歩きながら三人の周りをくるくると行ったり来たり、注目して欲しい物があれば分かり易く指を差し、階段があればしっかりと「足元に気を付けて下さいね!」と配慮を忘れない。

「逆に言えば、近隣であってもトリニティ総合学園の自治区内では無い場所だと舗装されていないので、何処までがトリニティの自治区内なのか分かり易くなっています!」

 そして、彼女自身が日頃から自警団として活動している事もあり、詳しい部分はしっかりと詳しい様だ。

 

「比較的に問題行為を働く生徒は他の学園よりも少ないとは聞き及んでいますが、それでもやっぱり、問題を起こす子やスケバンになって悪さをする子は居ます」

 少しだけ落ち込みながら「全部に対応できないのが歯痒いです」と両の指を絡ませて自身の未熟に悔しさを感じている様子だ。

「その、トリニティでの悪事は場合によっては企業の令嬢が絡んでいたり、商業地区の方では巨大企業のビルがいっぱい建っていて、企業スパイだったり多額の金銭が動いていたり、犯罪件数よりも重犯罪の確率ではトリニティの方が他の自治区よりも高い……それも、事実です」

 それでも一度決めたからだろう。トリニティという地域の良い点も悪い点もしっかりと伝えようとしてくれている姿に三人は「彼女で良かった」という思いを強くしていた。

 

 もしもこれが間違った地域愛を持つ者であれば、良い点ばかりを紹介してきただろう。

 だが彼女は、自分の知るトリニティをしっかりと教えてくれようとしている。

「あの、だけど、ソレを知っているからこそ私みたいな自警団が居て、総合学園には正義実現委員会が居て、トリニティに住んでいる人の中には確かに問題と向き合おうとしている生徒もいますので!」

「レイサちゃん、だいじょーぶっ!私達は犯罪の多いゲヘナの生徒だよ?そんな事で他の地域を嫌いになったりしないよ」

「そうだね、それに今レイサも言ってたけど、向き合おうとする生徒がいるなら住んでいる人がただ泣きながら怯える訳じゃ無いんでしょ?」

 ならばレイサの言葉を疑う道理は無かった。

 レイサが居るというのならば居る。

 そう信じさせてくれる程に宇沢レイサは真っすぐな性格をしていた。

 

「な、なんだかこんなに真っすぐに私を見つめられる事ってあまり無いので、恥ずかしくなっちゃいますね、えへへへへ」

 頬を紅潮させてもじもじと、だけど嬉しいからなのかソワソワと、レイサの中で自己肯定感がどんどん上がっていく。

 

 その後もレイサに連れられて様々な場所を見て回った。

 段々と、本当に段々とだが、明るくも何処か固さを感じる様子のレイサが柔らかな雰囲気になっていった。

 親しみを感じてくれているのだろうとエミヤは嬉しさを覚えながらも、段々とエミヤとレイサの距離が近付いているのが伝わってきて、無邪気なレイサを警戒する自分が嫌いになりそうなカヨコがそこに居た。

 

 そしていよいよ学園内に案内は移り、

「最初は『シスターフッド』か……その、聞いておきたいのだがトリニティには悦楽や愉悦に価値を見出したシスターや、カレーに対して並々ならぬ情熱を注ぐシスターは居ない、よな?」

「居ないと思いますけど、それってシスターなんですか……?」

 レイサの疑念に「一応、シスターの筈なのだが……」と自身の過去に出会って来たシスターの異質さに戦々恐々としながら歩を進める。

 

「えっと、このトリニティ総合学園の中でも長い歴史を持つ組織で、生徒会にあたる『ティーパーティー』とは違った形でトリニティにおける勢力として数えられるのが『シスターフッド』です」

 ソレを聞きながらエミヤが想像したのはカノッサの屈辱などの時代における宗教勢力だった。国の趨勢にすら関与し、正当性や王族の教育にまで関わって来たという。そこまでいかなくとも『シスターフッド』もただの善良な信徒の集団では無いのだろう。

 

「あら、レイサさん?ふふ、どうされたんですか今日は?」

 シスターフッドの管理する荘厳な教会前、一人だけ背の関係もあり性別の関係もあり尋常じゃ無く目立っていたエミヤを周囲から好奇の目で見る者は多かったが、一人のシスターが声を掛けて来た。

「あ、い、伊落さん、えっと、連邦生徒会長からの依頼で、トリニティ外部の方にトリニティ総合学園のご案内をしていて」

「そういえばサクラコ様が今日は『大事なお客様』が参られると仰ってました。何のことかなぁと思っていましたが、貴方達の事だったようですね」

 綺麗な橙色の髪にベールを被り、ベール超しにも分かる大きな耳が時折ピコピコと動いている。

 澄んだ青い瞳は思わず見つめていたくなる程に心を惹きつけ、柔らかに浮かべられる笑みは彼女の清廉さを示す様に欠片程の悪意も邪気も感じさせない。

 

 一目で分かる程に彼女はシスターだった。

 

「あ、失礼致しました。自己紹介が未だでしたね、私はトリニティ総合学園、シスターフッド所属の伊落マリーと申します」

 腰を折って成された挨拶にエミヤは最早ここまで理想像に近いシスターが存在するのかと感動を覚えていた。

「……私は鬼方カヨコ、こっちが浅黄ムツキ」「よろしくねマリーちゃん!」

 一歩前に出て挨拶を返したカヨコのお陰で、自分が無言で突っ立っているだけだったことに気が付き、少し恥じらいながらもエミヤも礼を返す。

「こちらこそ挨拶が遅れてすまない、私はエミヤ、急な来訪に関わらず丁寧な挨拶痛み入る」

 エミヤの紳士的な対応にマリーは非常に嬉しそうに両手を合わせて笑みを浮かべ、教会の扉を開けると中から差し込むステンドグラス超しの美しい光を背後に、四人を中へと招いてくれた。

 

「ふふ、正直な話、とても体格の大きな方でしたので少し怖かったのですが、ご挨拶や立ち居振る舞いからもエミヤ様の心根が伝わってきまして、シスターでありながら大変恥ずかしい思いです」

 ゆったりとした足取りで先を行くマリーの言葉に、それを正直に言葉にして自分の心の弱さと向き合えるのは流石シスターだなと思いながら、周囲から向けられる好奇の眼に怯えるレイサが目に入り、思わず頭を撫でて耳元で「大丈夫だ、不安なら手を繋ぐか?」と声を掛けると、レイサは驚きからなのかその場で僅かに跳び上がり、おずおずとエミヤの服の袖をつまんで少し後方を付いてくる。

「そちらの方々はゲヘナからいらっしゃったのですよね?遠方からわざわざご足労頂きありがとうございます」

 そして、カヨコとムツキもトリニティ生徒という事もあり警戒していたが、マリーの感じさせる優しさに段々と不要な警戒だと気が付き佇まいを落ち着けていった。

 

「今日は『救護騎士団』のミネ団長がお越しになられていて、緊急時の『シスターフッド』から『救護騎士団』への人員の貸与について話し合っているので、よければご一緒にお顔合わせの力添えをさせて下さい」

「『救護騎士団』か、レイサ、もし良ければ教えて貰っても?」

「は、はい――『救護騎士団』はトリニティにおける最も古い組織として有名です。積み上げて来た歴史の中で多くの人を救け、『救護の必要な場所に救護を』という信念の下に現在はミネ団長をトップに活動しています。また同時に、ミネ団長御自身がヨハネ分派というトリニティにおける派閥のトップでもある為、『救護騎士団』という組織に所属していない人間であっても動員する事が可能、それでいて『ティーパーティー』に所属するどの分派とも折り合いは良くて、『シスターフッド』と共に『ティーパーティー』に並ぶ勢力として数えられています」

 懐から取り出したメモをチラチラと見ながら教えてくれた情報から、エミヤは少しの頭痛を覚えながらもカヨコに目配せ、恐らくは同じことを感じたのだろうカヨコも軽く頷いて返してくれた。

 

「(何処かの組織を説明する度に、やはり勢力としての強さに焦点が当たる……なんというか、きな臭い場所だなトリニティは)」

 ゲヘナにも万魔殿と風紀委員会という二大組織はあったが、曲がりなりにも協力はしていたし、風紀委員が潰れる様な危険があれば(イロハ辺りが)万魔殿としても協力するだろう。だが、トリニティはまるで戦国時代に迷い込んだのかと錯覚を覚える政治的な勢力図だ。

 『救護騎士団』が危機に陥れば極力『救護騎士団』内で揉め事の解決に尽力する。もしも助力を頼もうものなら勢力という言葉を使っている以上、貸し借りが生まれる政治的なやり取りが必要になるだろう。

 

「……やはり、他の学園の方からするとトリニティはややこしく感じますか?」

 何処か不安そうに、胸元で手を遊ばせながらマリーが尋ねて来た。

「まぁ、ややこしいってよりも私としては面倒臭いになっちゃうかなぁ、ややこしいって思える程に理解しちゃおうと思わないや」

「そうだね、要は普通の生徒と同じ、いるでしょトリニティにも?政治に関わりたくないってその辺の事情に関与しない子、そういう子が怠惰って訳じゃ無いけど、ややこしく感じるまで理解したマリーは偉いと思うよ、自分の住んでる場所で起きてる問題から目を逸らしてない」

「それにレイサもな、調べれば調べる程、知れば知る程に自分達の生活圏の闇に触れる様な内容だ。それを他者に説明できるまで学んでいるのは君達の美徳だろう」

 

 ゲヘナではまず起こり得ない本格的な政治闘争はカヨコとムツキからしてみれば理解する努力すらしたくない内容であり、曲がりなりにも色々な人助けをしてきたエミヤは理解できてしまう。

 生活しているレイサとマリーからすれば知っておくべき内容かもしれないが、事実としてトリニティ総合学園の生徒でも勢力に所属せずに日々を過ごす生徒はいる。それどころか、『救護騎士団』や『シスターフッド』の歴史に対しては何も興味を持たない生徒もいる。

 

「私は……未熟な身ではありますがシスターですので、どのような生徒の悩みにも寄り添う事が出来る様に、知識だけは備えおかなければと思ったまでです」

「わ、私は元々は詳しくなかったけど、今回の事で勉強して……本当はこういう難しいの好きじゃないんですが、トリニティを知ってもらうなら好きな所も嫌いな所も私が知らなければ伝えられないので……」

 褒められた二人もただ知っている訳では無く。理由があって知っている。

 美徳と褒められたことが恥ずかしくて二人して少し遠慮気味だが、その返答からも努力が必要な内容であったことが窺えた。

 

「あら、話し声が聞こえると思えばマリー、帰っていたのですね」

 そんな会話を広げていたら差し込まれた声にマリーは背筋を伸ばして声の方へと向き直る。

「さ、サクラコ様、今は会談の最中では?」

 サクラコと呼ばれた生徒はベールの下に伸びる美しい髪を掻きながら「ふふふ」と含み笑いを浮かべ、

「ミネ団長との間で話は弾んでおりますよ、ですが時間的にも――そろそろ、『時』ではと思いましたので」

 

 流石にその言葉にはエミヤも反応せずにはいられなかった。

 まるで先の展開を予測したかの様な発言に連邦生徒会長が持っていた能力を思い出す。

 

「そちらの御仁がエミヤ様ですね――やっとお会いする事が出来ました」

「ほう、まるで以前から私を知っていた様な口振りだな」

「ふふふ、ご想像にお任せしますわ」

 

 中々に癖の強い人物、成程『シスターフッド』のトップというのも理解出来る。

「それでは室内でお待ち下さい、私は少しだけ『準備』がありますので」

「準備?」

「えぇ、折角いらして下さったのですから、一つ……美味しい物(・・・・・)でもご用意しようかと」

 その言葉の真意を探ろうと見つめるが、一切表情を変えずに見つめ返すサクラコにエミヤは強かさを感じ評価を高めた。

 

「では、自己紹介は後程で、楽しみに待たせて頂くとしよう」

「えぇ、それでは後程」

 

 不思議な緊張感を孕んだまま、エミヤは用意された一室へと足を踏み入れる。

「お口に合うと、よろしいですが」

 小さく呟かれた言葉にカヨコが思わず振り返るが、既に背を向けて何処かへと去るサクラコの姿しか捉える事は出来なかった。

 

「……ムツキ」

「うん、なんだかちょっと」

 

 その姿を見送り、二人は小声で言葉を交わす。

 

「「アルちゃん/社長を思い出すんだよね……」」

 

 その勘は、外れてはいない事を二人はまだ知らない。

 




※実際

「ミネ団長との間で話は弾んでおりますよ、ですが時間的にも――そろそろ、『時』ではと思いましたので」(三時のおやつ)
「そちらの御仁がエミヤ様ですね――やっとお会いする事が出来ました」(今日来るって聞いてた人だ)
「ふふふ、ご想像にお任せしますわ」(楽しみにしてたなんて言えないし)
「それでは室内でお待ち下さい、私は少しだけ『準備』がありますので」(お菓子準備してこなきゃ)
「えぇ、折角いらして下さったのですから、一つ……美味しい物(・・・・・)でもご用意しようかと」(この為に取り寄せたお菓子がありますからね)
「お口に合うと、よろしいですが」(お口に合うと良いなぁ)

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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