便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第二十一夜 お漏らし

 すぐに戻りますと出て行った相手が居たとして、五分もせずに扉が開く事があればその相手が戻って来たと考えるのが当然な訳で、

「そんな……サクラコさん……!?」

 その相手がまさか偉丈夫になって戻ってくるとは、流石の『救護騎士団』の団長である蒼森ミネにも予想出来る事では無かった。

 

 脳裏に『奇病』『突然変異』『異常事態』といった単語が流れ、今のサクラコに必要な事を即座に理解する。

 もしもサクラコが病に侵されているのだとしたら――。

「救護ォッ!!!」

 先程まで会議にしようしていたテーブルの脚を掴み室内の天井ギリギリまで跳び上がり、テーブルを普段使用している盾に見立てて上空からチャージを仕掛ける。

 

「は?」

 当然、その対象はサクラコな筈も無く。

 部屋で待っていろと言われたから素直に室内へ移動してきたエミヤであり、目の前の女性がいきなり目付きを鋭い物へ変えたかと思えば明確に攻撃を仕掛けて来たのだから――。

「シッ――!!!」

 ――左の掌でテーブルの面を受け、身体の左側にテーブルを流すと同時に右手でミネの手を掴み捻り上げ、テーブルの脚から手が離れた所で空中でミネを一回転させ、テーブルを投げ捨てて落ちて来たミネの胴を両の腕で抱き留める。

 

 突然の攻撃となれば、この位の少し粗雑な対応は仕方のない物だ。

 

「え」

 その対応をされたミネは自身のチャージが流され、更には硬い胸板に体を預ける事になり、自身の全てを両の腕の中に収められた事に理解が追い付いていなかった。

「随分なご挨拶だが、元気なのは良い事だ」

 見上げれば、精悍な顔立ちの男性が少し困った様子ながらも笑みを浮かべて見下ろしており、力強い双椀が自身を抱いている事に後から気が付いた。

「本日トリニティにお呼ばれした便利屋のエミヤという、よろしく頼む」

 そして続いて、自分が全く見知らぬ男性に対して勘違いで攻撃したことに気が付き、少しのときめきを覚えて紅潮していた頬が凄い勢いで蒼褪めた。

 

 しかし、エミヤもミネも知らない二人の背後で――

「……へぇ」

 ――無意識に己の神秘を解放し、通りすがりのシスターが恐怖で気絶し、レイサは少し漏らし、マリーも恐怖で涙目になりながら「しっかりしなきゃ」と自分に言い聞かせる地獄絵図をカヨコが作り出していた。

 

 

 

「誠に、申し訳ございませんでした!」

 片膝を着いて利き腕である右手を胸に置いて、騎士としてすぐに攻撃も出来ず相手からの行動全てを受け入れる姿勢で謝罪をするミネを前に、エミヤ達は椅子に座りながら「頼むから普通にしてくれ」と苦笑で返した。

 先程のカヨコが見せた圧のせいか僅かに記憶が飛んでいるレイサは何があったのかを聞いてからエミヤに対しての視線に憧れが混ざり、突然の攻撃に対して紳士的に対応して見せた事でマリーもエミヤに対してとてもにこやかだ。

 

「浅慮だったとは思うが、ミネ、君からは何も悪感情は伝わってこない、誤解があった上に君なりに起きている事態に対して対応しようとしたのだろう?見事な責任感じゃないか」

 強く反省している事もあり、優しい言葉を掛けられてミネは少し涙目だ。

「それに、私からしてみれば美しい羽根を持った天使が天から腕の中に飛び込んできたに過ぎないさ」

 赤面するミネ!テーブルの下でエミヤの足に赤い痕が残る程蹴りつけたカヨコ!ワードチョイスに驚いて赤面するマリーとレイサ!カオスな空間を楽しみながらもちょっと不満気なムツキ!

 そこへ扉を開けて帰還を果たすサクラコ!加速するカオス!

 

 何故か背後にシスターを侍らせ、彼女達にケーキを運ばせてやってきた彼女はなんだか微妙な空気の室内に疑問を持ってしまったが為に「戻りました」を言い損ね、サクラコは無言のまま開いていた席に着席し、淡々と運ばれるケーキは皆の前に置かれるのでは無く全てテーブルの中央に運ばれた。

 

 サクラコの帰還に思わず無言になっていた面々だったが、ようやくサクラコが口を開いたことで事態は進展を見せる。

「こちらのケーキはどれも、今回の為に色々な方に評判を尋ねて用意した物でして」

 そう言いながら、サクラコはケーキ一つ一つを示しながら言葉を重ねる。

「例えばコレは『ティーパーティー』の皆様のオススメ、こちらは『救護騎士団』のセリナさんが、コレはそこにおります『シスターフッド』のマリーさんの、こちらは『正義実現委員会』のハスミさんの……ふふ、どれも美味しそうで魅力的だとは思いませんか?」

 その中から四つ、エミヤの対面に座ったサクラコは示したのちにエミヤに向けて掌を差し出した。

どうぞお選び下さい(・・・・・・・・・)、自己紹介はその後で……さぁ、貴方の瞳にはどれが美味しそうに映りますか?」

 

 緊迫した空気が部屋を満たす中で、動くと思われていたエミヤでは無くムツキが真っ先に動いた。

 と、いうよりも、サクラコの傍まで歩いて行き、サクラコの眼をじーっと見つめた。

 その様子を見ていたエミヤは何かを察したのか口元に手をやり、今の状況を整理した後で天を仰ぎ、カヨコは俯いて何やら肩を震わせている。

 

 

「……エミヤンどうしよう、この人、滅茶苦茶頭良いのにおバカだ!」

 

 

 一切の容赦無いムツキの言葉に何人かが吹き出し、ミネに至っては目を瞠ってムツキを見ている。

「お、おバカとは何ですか!私はこれでも全てのテストで平均点以上を取っているんですよ!?」

 その返しでエミヤとカヨコは確信、まさかとは思った事実に一気に力が抜ける思いだった。

 

「え、エミヤさん、ムツキさんはどうされたんですか?」

 非常に不安そうに尋ねて来たレイサに、なんと返したものかと悩んでいるとムツキは非常に楽しそうにレイサに答えを提示、

「レイサちゃん、ワードチョイスとか抜きにしてサクラコちゃんが言った事、ぜーんぶそのままの意味で受け取ってみて」

「え……?」「は……?」

 マリーまで呆然としながら言葉の意味を咀嚼し、少ししてから「えっ!?」と驚きを隠せずに声に出した。

 

「つまり、そこのサクラコ嬢は色々と深読みしがちな言葉選びやタイミングで発言をしているが、その実は一切裏の無い、美味しい物を取りに行って、今聞いた事も一杯ケーキあるけどどれがいい?程度の内容という事だ」

 話の流れが掴めていないのか、サクラコだけは首を傾げてエミヤの言葉に「そのままでは……?」と呟いている。

「ま、まさかそんな、時折無駄に意味深だとは思っておりましたが、何も無かったという事ですか!?」

 ミネ団長の驚きも無理は無く。今回の会議を執り行うと決めた際にも、わざわざ去り際に「楽しみに、しておりますよ」と単純に言うタイミングを逃しただけなのだが非常に意味深な言われた方をした事から訝しんでいた。

 

 そこに『実は何も考えてなくて言葉の意味そのままでした』などと言われれば、深読みしようとしていた方が馬鹿みたいだ。

「意味深……ですか?言葉の裏に含まれた意味を読み取ろうだなんて、出来ると……お思いですか?」

「ほら、例えば今のも出来るとで一端区切ったのは、単純に頭の中で『出来るかなぁ?』って考えてただけで、お思いですか?っていうのもシンプルに問い掛けてるだけなんだよ!凄いよこの人、人に誤解される為に生きてるみたい!」

「そ、それは確かに怖いとか、言った覚えが無い事を周りがやってくれたりと不思議な事がありましたが……」

 とても楽しそうなムツキが騒ぐ一方で、自分達のトップのあられもない姿にマリーは両手で顔を覆ってうずくまっている。レイサは皆のテンションがいきなり高くなっている事に驚いて無意識の内にエミヤの背後に移動している。

 

 そしてようやく自分の認識と周囲の認識に差がある事を認め、ミネも同じ様にサクラコへの見方を変えた所で自己紹介の運びとなった。

「改めて、『シスターフッド』の歌住サクラコと申します」

「私も、『救護騎士団』の団長、蒼森ミネです」

 返す様に三人も自己紹介を返して、大まかな紹介を既にレイサから聞いている事を伝え、特に深い意味も無く用意されたケーキを皆で食べた。

 

 その後は軽く雑談をして、二人の会議をこれ以上邪魔するのも悪いという事で次の場所へ移動する事となり、マリーに案内を受けて教会を見て回った後で四人はその場を後にした。

 

 次に向かうのは『正義実現委員会』にしようかと話している四人だったが、その四人の前に建物の陰から凄まじい速度で近付いてくる何者かが居た。

「ゲヒャァアァアアアア!!!」

 聞こえて来た明らかに理性を溶かした語彙に即座に警戒に入る便利屋の面々、しかしレイサは何故か「あ!」と警戒よりも驚きを前面に押し出しており、エミヤは違和感を感じながらも訪れた真っ黒な少女から三名を守るように立ち塞がった。

 

「アァ……?」

 いつでも飛び込めると体全体で主張する前傾姿勢、チラと足元に視線を移せば履いているのはローファーだが踵が僅かに浮いており、つま先に力を入れてこちらもいつでも動けるように姿勢を作っていた。

 正しく戦い慣れている戦士のソレにエミヤは相手に見えない様に後ろ手に干将を投影し襲撃に備えた。

「……便利屋の、方ですか?」

 そして、その相手から聞こえて来た非常にお淑やかで緊張から上擦った声に、エミヤは目を瞠った。

 

「(どっちだ……?先程のサクラコと同じ様に周りに誤解されやすいタイプか?それとも戦術的にギャップを与えて相手の混乱を敢えて誘っているタイプか!?)」

 既にエミヤのトリニティの認識は『トリニティは対話が難しい生徒が多い』になってしまっており、出来る限り目の前の相手を傷つけない様に会話を進める為にも性格を掴もうと必死だった。

 ソレを踏まえて再び相手に視線を向けると、いつの間にやら姿勢は真っすぐと背筋を伸ばしており、緊張からか顔は紅潮し、両の指を胸の前で合わせてもじもじとしている。

 

 先程のサクラコの本質を見抜いた眼を信じてムツキに視線を投げかけてみると、ムツキは親指を立ててこちらに突き出していた。

「(分からん……!)」

 分からんかった。

 

 しかし、隣のレイサを見れば驚いた様子は無く。視線を投げられたことに対して首を傾げている。そのままジッと見つめていると、段々と恥ずかしそうにし始めてカヨコの後ろに隠れてしまった。そのままカヨコの顔に視線を移すと凄く睨んでいたのですぐに視線を逸らした。

「(分からん……!)」

 分からんかった。

 

 しかし、相手が柔らかな物腰で接してきている事もあり、ここで粗雑な対応を取るのはよろしくないと判断し、エミヤは返答を決めた。

「既に存じておられる様で大変助かる。今回依頼でトリニティ総合学園に来ている便利屋68のエミヤという」

「わ、私は正義実現委員会の委員長、剣先ツルギと申します」

 そのまま簡単な日常会話に移行するエミヤとツルギを見ながら、二人の少し後方でムツキはカヨコに耳打ちをしている。

 

「あの子さ、なーんだかまた既視感というか、武器がショットガンなのもあるかもしれないんだけど」

「うん、どちらかといえば理性的だし、暴走はしないし自虐的でも無いみたいだけど、あの緊張癖……」

 

 移動を始めた二人を追って歩き出しながら、二人は声を合わせて、

「ちょっとハルカ/ハルカちゃんに似てる気がする」

 

 二人の会話を聞いていたレイサは、置いて行かれない様に後を付いて行きながら一人思った。

「(ハルカさんって誰だろう……分かりません!)」

 分からんかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

小話 『別れ際の一幕』

 

「あの、エミヤさん」

 教会から出て次の場所へ向かおうとしたエミヤに、後ろから追い付いて来たであろうミネが声を掛けた。

 余程急いだのか息が少し乱れており、ソレに関連してなのか頬が紅潮している。

 

「どうしたミネ?何か伝え忘れか?」

「いえ、えっと……」

 その様子から、かしこまらなければいけない内容では無いのだろうと判断し「ゆっくりで大丈夫だぞ」と優しく声を掛けると、おずおずとスマートフォンを取り出したミネはモモトークの画面を開き、何かを言い掛けて口を閉じ、一度深呼吸した後にもう一度口を開いた。

 

「わ、私とモモトークのフレンドになって頂けませんか?」

 走ってまで追い付いてきての内容だったので、何か個人的な困り事だろうかと考えていたのもあり、エミヤは内容の可愛さに思わず笑みを漏らしてしまった。

 

「あぁ、それでは私の方でIDを検索させて迎えに行かせてもらおうか」

 そう言いながらスマホを取り出したエミヤに、ミネは自分のIDを伝え、

「そ、それじゃあ、迎えに来て、下さい」

 と、エミヤの言葉を流用して恥ずかしがりながらもお願いした。

 

 口に出しながら、ミネは脳内で少し乙女チックな妄想を膨らませていたのだが、そこまで記載してしまうのは無粋という物だろう。

 

「それでは、もしも何か用があればいつでも」

「あの!」

 別れ際の言葉を投げかけようとしたエミヤに、ミネが言葉を重ねた。

 

「よ、用が無くても、貴方と会話を重ねたいからと連絡するのは、不埒でしょうか?」

 ソレはミネにとって、『救護騎士団』としてでは無く蒼森ミネとして仲良くしたいという勇気を出した言葉であり、流石にここまでストレートであれば鈍感さでオリンピックに出場を狙える男であっても仲良くしたいという意思は伝わった。

 その、あまりにも正直な好意に対してエミヤは面食らい、それでいながらも嬉しさが胸中に溢れた。

「いや、私もミネとは仲良くなりたいと思っている。不埒だというのなら、それでも良いさ、仲良くなりたい気持ちの方が上だ」

 

 こうして、満面の笑みを浮かべるミネとその様子に苦笑するエミヤのモモトークのフレンド登録が終わり、

「わ、私も少し用事が出来たので行ってきます!」

 その流れをミネから聞いたサクラコが部屋を出て行く事になるのだが、ソレはまた別のお話。

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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