便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第二十五夜 第一次エミヤ事変

 

「――キキキッ!遂に手に入れたぞ!コレさえあれば多くの生徒達を更に私の支持者に出来る筈だ!」

 

 絶対にロクでも無い、そう分かっていながらもこちらをチラチラと見て来ては「んん~?気にならんか~?」とキーホルダー付きのUSBを見せてくるマコトに、イロハは深くふかーく溜息を吐いて「何を手に入れたんですか?」と尋ねた。

 

 パソコンの前に移動したマコトはUSBを差し込み、経緯について説明を始めた。

「最初は奴らの事務所に仕掛けようと考えたのだ。その方がより多人数の弱みを握れるからな」

「はぁ?」

「しかし、流石と言うべきか鬼方カヨコと浅黄ムツキがすーぐに気付きおって、仕掛けた物を回収されてしまう」

「はぁ」

「そこで、特定の個人にターゲットを絞り、部室棟にあつらえた奴らの支部に仕掛けたのだ」

「もう聞かなかったことにしていいですか?」

 

「そして奴が泊った翌日、回収班に向かわせた所しっかりと仕掛けた物は残っており、遂にデータを手に入れたのだ!」

 腕を組んでとても満足そうに笑うマコトを前に、イロハはなんとなく察しが付いた上に本当にロクでも無い物が出てくる確信を得たので目を逸らしたかった。

 

「見るが良いイロハ!コレが無防備な便利屋エミヤの姿だ!」

 そして開かれたファイルには隠しカメラによって撮影されたエミヤの私生活の映像が在った。

「……バレてないと思えないんですけど」

「キキキッ!何を隠そう今回はミレニアムサイエンススクールの技術者集団に依頼をしてなぁ、猫に着けられる超小型にして無音での撮影、更には機械本体の独立型にする事でネットワークへの接続は無し!電波の様な気付かれる可能性がある物を全て除外した上で更に!違和感を覚えて触れようとした際には機械に内蔵されたAIが独自の判断で僅かに伸ばされた手から逃げる様に設定を加え、我々も回収に半日を費やしたとんでもない代物だ!」

「わーすごいですねぇ、それで技術開発費用なんて普段見掛けない経費がとんでもない金額使われていたんですねぇ」

 逆に、そこまでしなければこれまで何度もエミヤに気付かれていた事が本来は恐ろしい事なのだが、それ以上に何度もトライした分だけ失われた金銭の額の方が恐ろしい物になっていた。

 

「さぁイロハ!クロノスに連絡だ!エミヤを脅す為にも飛行船ビジョンの広告を使うぞ!」

「もう好きにして下さい、私は知らなかったことにするんで」

「キキキキキッ!大々的に打ち出す文言はそうだな――便利屋エミヤ、あられもない私生活映像撮られる!これで決まりだァ!」

「マコト先輩、損壊費用とかはマコト先輩の給料から引いておくんで、後は頑張ってくださいね」

 

 そんな大々的に宣伝したら何が起こるか分かりきっているだろうにと呆れながら、イロハは巻き込まれない様に今日、明日は学園を休むことに決めた。

 

「あぁ、一応データのコピーは貰っていきますね、私も研究したいので」

「首を洗って待っているが良いエミヤよ!キキキキキキキッ!!!」

 

 

 

『万魔殿の努力遂に実る!便利屋68庶務エミヤのあられもないプライベート映像公開!消して欲しければ言う事を聞け!一部映像公開!』

 

「む?なんだ迷い込んだか?首輪も付いているし、誰かの飼い猫だろうか……ははっ、なんだ人懐っこいな、ほら、抱き上げてやろう」

「ふっ、私ににらめっこ勝負か?良いだろう……っと、なんだなんだ、甘えん坊だな」

「む……?依頼者が急病か……確かこの生徒は寮暮らしだったな、良し」

「おっと、今は料理中だから構ってやれんぞ?だーめーだ……人間の言葉では伝わらんのだろうか?」

「にゃんにゃにゃ、にゃ……わ、私は何をしているんだ、ほら、こっちの部屋には入らないでそっちに居なさい」

「お粥を届けてくるから少し留守番していてくれるか?ふふっ、なんだ寂しいのか?ちゃんと待てが出来たら後でご褒美をやるから、良い子にしていなさい」

「おや、本当に良い子に待っていたのか、ほら、おいで、可愛がってやろう」

「折角だ、夕飯も用意してやるとして、まだ時間があるしひと眠りするとしようか――よっと、ん?胸元に登ってきて、一緒に寝るか?」

「あぁ、おやすみ」

 

『緊急通知、先の映像の販売を求める電話がクロノスに相次いでおりますが、販売はおこなっておりません、ご理解をお願い致します』

 

 

 

 その日、キヴォトスの動画投稿サイト『MYTHOLOGY』にクロノス公式チャンネルからアップロードされた動画は異常なまでのアクセスを達成し、サーバーが落ちる事態にまで発展した。その事件が再びキヴォトス中に駆け巡った頃、ようやく渦中の人物であるエミヤは発生している問題に気が付き、現在は――。

 

「エミヤーン、あーそーぼ!」

「あぁ」

「エミヤさん、大丈夫?」

「ははっ、大丈夫だ……」

「もう大丈夫ですって、見つけたら私もハッキング掛けて動画消してますし、ついでに投稿した人の口座からお金抜いてるんで再犯する様なおバカさんも出てきませんから」

「ありがとうな、コユキ」

 

 ――結構無理をしていた。

 

 事態に気が付いた経緯もいけなかったと言わざるを得ず。

『ぷぷっ、え、エミヤさん、もうネットニュースってご覧に、あはははははは!あーはっはっはっは!』

『何事ですか会長!?』

『リンちゃん!だって!エミヤさん!猫ちゃんに!にゃんにゃーって!あーはっはっはっは!』

 爆笑する連邦生徒会長から電話で知らされるという経緯。

 

 別の依頼で一日中拘束されていた事もあり、電話を受けたついでにとモモトークを開こうとしてアプリの右上に表示される通知件数が『999+』となっており、知り合った者達から漏れなく心配と既知であるかの確認が来ていた。

 

 流石に怒り心頭を通り越して感情の整理が付かなくなったエミヤは即座にコユキに連絡、その時にはコユキが既にネット上で公開されている動画に関しては全て削除しており、動画をアップロードした人物のハードディスクから利用しているクラウドサーバーに至るまでを徹底的に破壊。

 

 危険性を察知したクロノスから連絡で物理的なデータは受け取っていない事を知らされ、主犯が万魔殿のマコトであることを教えられ、今回ばかりは許す事も出来なかった為、万魔殿の議長室とゲヘナ学園の寮におけるマコトの私室を爆破。

 

「何ィ!?最後のデータがこのUSBに保存されている事に何故気付いたァ!?」

 と墓穴を掘ったマコトの前でUSBも破壊、ついでに足枷を付けた状態で温泉開発部に引き渡し一カ月の強制労働を約束させた。

 尚、コレでどうやって支持者を増やすつもりだったのか尋ねられたところ、

「……!?」

 何故か驚いた表情を見せていたのでハリセンで一発思いっきりぶっ叩いた。

 

 エミヤの本気の殺気に加えて怒気を目の前でぶつけられながら、ドナドナをされる際には「覚えていろエミヤ―!」と叫んでいた辺り、いっそのことカンナに話して矯正局にぶち込んでもらおうか本気で悩んだ程だった。

 

 こうして一先ずの解決を迎えた事件だったが、解決から三日、会う人会う人に同情・好奇・色欲・興味・興奮の目線を向けられ、エミヤは外出するのが嫌になり布団に包まりイジけてしまっていた。

 

『あぁいうの他の人に見せないで下さいよ、エミヤさんのバカ』とフウカ、

『エミヤさん、その、今回は本当にウチのトップが申し訳ない事をしたわ』『少し猫が羨ましかったわ』『今のは誤送信よ、忘れて』ヒナからも来ていて、

『おにーちゃん私も撫でて!一緒に寝よう?』イブキは無邪気、

『エミヤさん大丈夫ですか?羞恥にまみれてますか?やーい』イロハは何処か嬉しそうで、

『エミヤさんのバカ』イオリからは短文が、

『フウカさんに教えて頂きました、覚えておられますでしょうか?食事を振舞って頂いた者ですわ、もしもよろしければもう一度お会いに』『食事に』『すいません、文章に悩んでしまい』『恥ずかしいですわ』と銀の髪をした少女のアイコンからも来ており、

 

『猫がお好きな様ですね、私も最近、よくいう事を聞いてくれる猫を見つけました』となんだか意味深なサクラコ、

『とてもお優しいエミヤさんの素敵な所がいっぱい映っていて、恥じずとも良い物かと思いますよ』とマリー、

『私も』『私と』『(猫招きのポーズをした写真)』『なんでもないんです』『忘れて下さい』と暴走するミネ、

『私も猫が好きです』とツルギ、

『猫ちゃんになったら撫でてくれますか?』『にゃん』『恥ずかしかったので忘れて下さい』とレイサ、

『エミヤさん、心を強く持って下さいね、ペロロ様のぬいぐるみを送っておきましたので一安心です』とヒフミ、

『すっごいなんだかエッチだったけどエミヤさんの優しさ伝わって来たよ!』と正直なミカ、

『(送信したメッセージは取り消されました)』と何を送ったのか分からないハナコ。

 

『エミヤさん』『また飲みましょう』とカンナからも、

『次の月見会の時は私が料理作っていきますからお楽しみに!』とニコから、

『大胆だねぇ、色男~♪』とシグレからも、

 

 軽く挙げただけでもこれだけのモモトークが来ており、目を通したエミヤは時折は癒されていたが全体的に心に刺さる物を感じていた。

 

「え、エミヤさん、一緒に水やりを……」

 慰めでもなんでもないハルカからのお誘いに動くエミヤだったが、料理やお風呂や掃除などのエミヤが進んでやっていた事以外では基本的にソファーに座って溜息を吐いたりしながらも、便利屋の面々が居る事に気が付くと顔に笑みを張り付けて動き出す。

 

 誰が見ても無理をしているのが明らかだった。

 

「心は硝子……」

 時折鳴き声の様に漏れる言葉に心配を隠せない便利屋の面々だったが、

 

「もう……!エミヤ、行くわよ!」

 それを打開したのはアル。

 強引にエミヤの手を引いて車に乗せたアルは、何処へ行くとも言わずに車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 走る車は夜の道を往く。

 ゲヘナの郊外、そこから更に遠く。

 周囲には街灯すら無くなり、どれだけ車を走らせたのか荒野の様な景色の中を一台の車がヘッドライトの明かりを頼りに夜を切り裂く。

 

「思えば、二人っきりになるのは久しぶりね」

 オープンカー故に風を切る音が大きい中、アルは独り言の様に言葉を紡ぐ。

「エミヤを私が召喚して、気が付けばもう二カ月は経っているのよね」

 それは、普段のアルよりも声音も優しく。

 便利屋の皆と一緒に居る時の素の姿とは別の、しかし素である事には変わらない。

 

「どうかしら、キヴォトスは?」

「忙しい毎日で休まる暇も無い」

「うぐ……それはエミヤ個人に対しての依頼が多いからよ、そ、そうじゃなくて」

 

 ――そうじゃない?

 エミヤはてっきり、此処での生活に慣れてきたのかを聞かれたのかと思っていたが、アルの様子から察するに聞きたい事は別にある様だった。

 

 そして、思い至る。

 

 まさか、ずっと気にしていたのか?

『ねぇエミヤンってさ、もしかして滅茶苦茶強い?』

 最初にムツキからその質問をされた時、その時と同じ表情をアルは浮かべていた。

 

 あの時は命の危険に関しての心配だったが、元を辿れば召喚してしまった事に対する罪悪感からの表情だった。

 

 そう――だからこそ今回も、先の騒動に巻き込まれたのが『自分が召喚してしまったから』だと、罪悪感に苛まれているのだとしたら、

 

 それは、アルの所為じゃない。

 むしろ、アルのお陰なのだ。

 

 守護者としてのエミヤは、無理をして笑うという事すらしていなかった。

 心を殺して、人を殺して、己を殺していた。

 

 それが今は、この生では――生きていると胸を張って言える。

 

 そうでなければ、無理をする事など無い。

 忙しさを感じる程に多様な出来事が起きる中で、召喚されなければ等と思う筈も無い。

 

 いつの間にかその様な心配は無くなり、ただ第二の生を謳歌していたエミヤ。

 それに対してアルは――ずっと。

 

 嗚呼。

 彼女は何処までも、強い。

 コユキの一件もそうだが、彼女が持つカリスマは彼女の価値観から来る物だろう。

 真っすぐで、優しくて、折れない価値観だ。

 

 あの晩から、エミヤがやってきてすぐに仲間と相談しようとした時から、気が付いていた筈だ。

 

 そして、此処に来てようやく。

 本当にようやくエミヤは気付くことが出来た。

 

 この世界に来て最初の晩、その時点で自身が救われていた事に。

 

 ――どう生きるか。

 

 ソレを意識出来た時点で、エミヤは明確に第二の生を歩み始めていた。

 その意識をくれたのは間違い無く。

 

「アル」

「な、何かしら?それと此処ってどこかしら?適当に走らせながら何を話そうか考えていたら気が付いたらこんな所に――」

 

「私は此処に、キヴォトスに来て――君に召喚されて、良かったと思っているよ」

 

 車が走る。

 星々の明かりを受けながら夜道を駆ける。

 

 一人は嬉しそうな表情を隠しきれずに、もう一人はその嬉しそうな表情に自分まで嬉しくなって。

 

「エミヤ、私ね」

「あぁ」

「昔はもっと大人しかったの、眼鏡を掛けて髪ももっと短くて、きっと今の私からは想像も出来ないくらい」

 

 互いに視線は前を向いている。

 二人とも、その車が走る道が何処に続くのかは知らない。

 

「当時の私なら、今の私の生活を見た時に『不安』を感じたと思うわ、安定していなくて、危険と隣り合わせで、強い自分を演じて、夢を追って馬鹿みたいに騒いで」

「そんな時期があったのか」

「えぇ、その時の私は変わりたいと思っているだけ、手を引かれるままに付いて行く様な毎日だったわ」

 

 星の明かりは目印などにはならず、彼女達が走らせる車のヘッドライトが一番の明るさだ。

 

「でもね、今の生活の方が楽しいの」

 夜の闇の中を、彼女達は切り裂いて走り続ける。

 

「怖くても、お金が無くても、とっても危険でも――どうしてかしらね、『不安』なんて欠片も無いの」

「ほう、それはどうしてだ?」

「だって、貴方が居るじゃない」

 

 当然の様に言ってのける他力本願(信頼)、分かっていた筈なのに分からされる感覚。

 

 ――望まれている。

 

 そこに居る事を、共に居る事を、ただ一片の曇りも無く望まれている。

 

「貴方が居て、ムツキが居て、カヨコが居て、ハルカが居て、コユキが居る」

 二人とも、この車の行く先など分からない。

「それだけで私は、何処までだって進んで行けるわ」

 しかし、速度は緩まらない。

 

「決して四人で便利屋をやっていた時に『不安』を感じていた訳じゃないけどね」

 行く宛など分からなくとも、速度を緩める理由にはならない。

 

「私も、貴方が来てくれて良かったと思っているわ」

 そこに、不安など無いのだから。

 

 気が付けば先程までは気になっていた映像の事も気にならなくなり、ただ心は澄み切っていた。

 

 夜風が心地良い。

 

 アルが走らせる車に乗り、二人で交わす言葉がとても大切に感じられた。

 

「そうか」

「えぇ」

 

それで良かった。

 それが良かった。

 

「ありがとうな、アル」

「こちらこそ」

 

 

 

 

 

「ねぇエミヤ」

「なんだ?」

「ひ、人を慰めるのって今みたいな感じで良いのかしら?」

「……は?」

「い、いや違うのよ、正直車を走らせていれば何か思いつくと思ったのだけれど大して思いつかなくて」

「待て待てアルそもそも今は何処に向かっているんだ?」

「知らないわよ此処どこ!?キヴォトスってこんな岩ばっかりの場所あったの!?」

「君がいきなり手を引くものだから私はスマホなど持ってきてもいないぞ!?」

「どうするのよ私達どうやって帰るのよ!?」

 

 不安など無い筈なんだけどなぁ。

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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