シャワーを済ませた所で腰にタオルを巻き、エミヤはなぜこんな事になったのかを振り返っていた。
本来であれば湯船に浸かる所だが、今回のエミヤはソレを許されていない。
「……私の方は終わったぞ」
一声、浴場の扉の向こうへ声を掛け、エミヤは風呂椅子を用意して誰かの為の準備をする。
「それじゃあ、入る……よ?」
そして、扉を開けて入って来たのはカヨコ、便利屋の仲間にしてつい先日エミヤが『なんでもする』と約束をしてしまった相手だ。
てっきりタオルを巻いてくると思っていたからこそ、胸元でタオルを掴み体の前部分だけを隠す彼女に困惑が隠せなかった。
「あ、あぁ、お湯で温めておいた、椅子に座ってくれ」
夜、寝る時や起きてすぐの時には見ている筈のカヨコが髪を降ろした姿、だが今は何故かその姿が非常に色っぽく映った。
「……あんまり見ないでよ、その、恥ずかしいから」
「わ、悪い」
まだ湯を掛けられていもいないのに肩関節が少し赤みを帯びている事や、似たように耳元が真っ赤になっている事に気が付き、それが言葉通りに恥ずかしさから来ているのだと否応なく理解してしまい、普段冷静なカヨコがそのように恥じらっている事にエミヤは自分まで恥ずかしさを覚えていた。
どうしてこんな事に――。
事の起こりまで遡るのであれば三時間前、トリニティ総合学園の生徒から依頼を受けたエミヤはカヨコと協力してブラックマーケットで何やら淫靡な本を入手して届けに行った。
カフェで待っていたのは満面の笑みを浮かべる浦和ハナコであり、エミヤはその時初めてハナコの制服姿を見る事になった。
「へぇ、ハナコは制服姿だと白の色合いもあって髪色とのコントラストで可愛さが増すな」
「あ、あら♡その、嬉しいですが、そういった言葉は出来れば個人的にお会いした時などにお願いしたいです♡」
「
何やらわざとらしくテーブルの上にバン!と音を立てて置かれた本を確認し、ハナコは頷くと共にカヨコを真っ直ぐと見据えた。
「えぇ、間違いございませんが、もし宜しければ
「ふぅん、別に問題無いけど、私も注文した珈琲がまだ熱くてさ、吞み終わるまでは一緒でも良いかな?」
「勿論です、ですが――既に湯気も立っていないご様子ですが、随分と冷ますのですね」
「うん、猫舌だから」
「あら、そうでしたか♡」
二人の背後に龍虎が霞んで見えるエミヤは口を挟むことが出来ず。静かにティーカップを口元に運び、紅茶の味を楽しんだ。
少しして、ハナコが新しく頼んだ珈琲とお菓子が届いた。
「そういえばエミヤさん、私が注文したこちらのお菓子、そちらの紅茶にとても合う物でして――ほら、あーん」
「ん、すまないな」
食べさせる為に伸ばした指を口に含まない様にお菓子だけを歯で受け取ろうとしたエミヤだったが、目測が誤りハナコの指を少し口に含んでしまった。
それはテーブルの上に置いたティーカップから立ち上る湯気の手前にお菓子を配置する事で、身を乗り出したエミヤから位置が分かりにくい事を利用したハナコの策だった。
「わ、悪い、指を……」
「ふふ♡」
そしてエミヤの唇が触れた指を、ハナコはゆっくりと自分の口元まで運ぶと舌を少しだけ出して艶めかしく舌の上に指を乗せ、舌を絡ませるように指先を舐め取った。
「んっ……ちゅっ……そちらの紅茶はこの様な味なのですね♡ふふ、やはりそちらのお菓子に合いますね♡」
少し細められた眼には何処か熱が篭っており、目の前でそのような振舞を見せられたエミヤはほんの少しだけ見惚れてしまった。
そして、カヨコへと目をやりハナコは少しだけ口の端を上げて見せた。
何処かでゴングの音が聞こえた気がした。
「…………えい」
二人の様子を眉を吊り上げながら見ていたカヨコは何かを決心すると、椅子を動かした後に体を勢いよく倒してエミヤの膝へとダイブ、
「ん?どうしたカヨコ?そういうのは事務所だけにしておけ?」
「いいじゃん、
エミヤとしては甘えん坊だなぁ程度の認識だが、ソレを聞かされたハナコは少しの嫉妬を覚えながらも同時に光明を見出した。
「ふふ♡
「ハナコも味わってみると良い、妹がたくさん居るというのも困りものだぞぉっ!?なんで
やられた……そう思いながらエミヤの太ももを抓り、カヨコは内心でハナコの返しを認めながら次の手を探す。
兄妹でもやらない様なこと、自分がお願いできる範囲で確実に先手を取れる何か――。
「エミヤ、さん」
少しの緊張を孕みながら、カヨコはエミヤに対して決意を眼に宿し言葉を続ける。
「前に、何でも言う事を聞くから――って、言ったよね」
ハナコの眼が細められ、知らない事実と目の前のエミヤであればその言葉を違えないであろう確信に「この流れでその権利を使うのは暴走に近い……まずい」と冷や汗が垂れる。
「帰ったら、私とお風呂、入ってよ」
流石のハナコでも踏み込み過ぎでは?と思う提案に、エミヤは「(紅茶飲んでるだけなのに何が起きているんだ……!?)」と頭がおかしくなりそうだった。
そして話は冒頭へ。
風呂椅子に座ったカヨコは恥じらいながら胸元のタオルを離そうとはせず。
空いた片手でエミヤにシャワーヘッドを渡した。
それがカヨコの取れる行動の限界だった。
――故に、失念していた。
エミヤはカヨコの背後に居り、カヨコは正面に鏡と水量や温度を調節する機構を迎えている。
つまり、シャワーヘッドを渡しただけではシャワーからお湯は出ず。必然的にエミヤは水量の調節ノブを下に下げる為に手を伸ばすが、当然カヨコを前にした状態では届かず。
しかし前に回ればタオルで隠しているとはいえ自身の下腹部がタオルの隙間から見えてしまう危険性もある。
ならば――。
カヨコの肩に手を置き、己の胸板が背に触れるが、なんとか前に回らずノブを下げる事に成功。
無論、シンプルにカヨコに声を掛けて下げて貰えば良いだけだったのだが、この英雄何故かこのタイミングでソレに気付かずボディタッチを敢行。
必然、カヨコは唐突に触れた熱い掌に胸を高鳴らせ、その後にこれまた厚い胸板が背に当てられた事で抱き締められるのかと胸元のタオルを強く握りしめたが、降り注いだのは熱い抱擁では無くお湯なのだから恥ずかしさでこれまた顔が熱くなる。いつかは癌にも効きそうだ。
そしてエミヤはエミヤで理性を試されていた。
お湯に濡れたカヨコの髪はそれまでよりも肢体に張り付き、今の出来事で軽くカヨコが振り向いたことで恥ずかしさから涙すら眼に浮かべた頬を紅潮させた顔を向けられ、風呂場で互いに一糸纏わぬ状態で唐突に涙目で紅潮した顔を向けられれば何事かとなるのは人の常。
しかし冷静さを失う訳にはいかぬと己の心象風景を思い出し、果てない荒野に佇む己を想像する。
「(そういえばムツキは荒野というよりは少しだけ膨らみがあるんだよなぁ)」
この英雄、此処に来て煩悩に心象風景を侵食される。
思い出せば中々に女性経験も豊富な人生、何が剣の丘だ女体の丘で腰を打つの間違いじゃ無いのかと言われれば流石にそこまででは無いと反論したい人生。
今こそ己の起源を思い出す時、
「I am the bone of my sword――」
「!?」
唐突に英語を口にしたエミヤにカヨコは混乱するが、エミヤは逆に一節でも口にした事で冷静さを取り戻した。
そこからは順調。
なにせこの男、時には執事の真似事までしていたり、紛争地域に出掛けては救える命があれば救い、それが子どもであれば少しの間面倒を見たりもしていた。
故に、髪を洗うのもお手の物。
しっかりと根本を揉む様に、それでいて髪の先端まで手櫛で以てシャンプーを行き渡らせる。
頭部への指圧を行いながら、気分は職人の状態でカヨコに対して最上級のヘッドマッサージを行う。
粛々と、それでいて確かに気持ちの良いエミヤの洗髪が進む中で、髪が長いからこそどうしても避けられない点で問題は起きた。
耳に掛かった髪を掬い上げて洗おうとしたその時、
「ひゃんっ」
風呂場に響く甘い声。
常なるカヨコの声よりも高く。
それは悦による嬌声、不意打ちによる誘発、風呂場に響いた
互いの動きが止まる中、謝罪を口にしようとしたエミヤにカヨコの先制攻撃が走る。
「……バカ」
振り向きすらしない、しかし口元が見える程度に角度を傾けた状態での『バカ』。
成程表情が見えなくとも伝わる羞恥の感情のなんと可愛らしい事か、エミヤは思わず口に出そうになった可愛いを抑え込む為に古のお笑い芸人よろしく己の胸に右手を打ち付けた。
「!?」
唐突に風呂場に響いた打撃音にカヨコが驚愕する中、何事も無かったかのように洗髪を再開するエミヤ。
優しく丁寧にシャワーで以て泡を流し終え、ようやく緊張の時間は過ぎたと息を深く吐いたエミヤに、予想だにしない言葉が飛び込んできた。
「それじゃあ……次は身体、洗って」
険しい山の頂に辿り着いたかと思えばまだまだ中腹、エミヤの苦難はまだまだ続く!
具体的には二十五万UA記念へ続く!
いつもお読みいただきありがとうございます!
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け