便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第三夜 お出迎え

 

 

 早朝、人によってはモーニングルーティーンをこなす時間帯であり、便利屋68に所属する社員達にとっても各々が髪を梳かしたり、植木に水をあげたり、持っている小道具の手入れをする時間だ。

 しかし、その日は違っていた。

 

 便利屋68の借り受けている事務所に存在する食卓たるテーブルに座して、一人は訝し気な視線を送り、一人は何が起きているのか分からずに混乱し、一人は何が起きているのかを期待して目を輝かせていた。

 寝ぼけ眼をこすりながら起きたアルが目にしたのはそんな様子で待機している三人の社員と、キッチンに立ってご飯をお茶碗に盛り付けている偉丈夫の姿だった。

 

「む、アルか、起きて早々に悪いが朝食がもうすぐ出来る。悪いがテーブルについてくれ」

 起きたことを気取られて着席を促されたが、昨日の服装とはうって変わって至って普通の服装(サマーカジュアル)になり、降ろされた髪と黒縁の眼鏡の奥に見える瞳に剣呑さは一切無く。外見からも優しさが滲み出ている好青年に変貌したエミヤの姿に、アルは驚愕と……複雑で言い表す事が出来ないギャップによる衝撃を受けていた。

 

「アルちゃんアルちゃん!誰あの男の人?いつ連れこんだの?」

 席についてみれば、

「社長さ、男を引っ掛けてくるのは確かにアウトローだけど……なんていうか、いいの?」

 矢継ぎ早に、

「あ、アル様アル様、あの、あの、あの方は一体?お知合いですか?」

 質問を投げかけられて、

 

「エミヤは昨日、私が――」

 召喚した。

 などと言えば確かにそうなのだが、頭大丈夫か?と疑われかねない。

 しかし、だからといって連れ込んだといえば彼との関係を恋仲だと言うような物。

「私が――」

 嘘は吐きたくないけれど、そのまま言えば意味不明になってしまう。

 この世界に呼んだのは私だけど、エミヤはじゅにく?って言ってたし、えーと、つまりは私が……。

「――産んだのよ」

 口から出たのは最悪の回答だった。

 

 途端、全員の動作が止まった。

 

 ムツキもカヨコもハルカも瞳孔を開いてアルを凝視しており、ピクリとも動かない。

 理解が追い付かない。

 

 キッチンから聞こえて来ていた音も止み、エミヤすらも振り返って驚愕に顔を染めている。

「(どんな説明でも合わせて振舞おうと思っていたが……ソレは無理だぞ……!?)」

 それでも一早く脳機能を回復させたエミヤは人数分の目玉焼きを器用に抱えてテーブルまで行くと、

「私から話すので、今のは……無しで頼む」

 己の第二の生を守るための戦いへと躍り出た。

 

 閑話休題

 

「一概には信じられないけど……」

 説明を終えたエミヤを待っていたのは疑念の視線。

「でも『そうです』って説明されちゃうとねぇ」

 そして疑似ジャングルジムとしてムツキに登られる運命。

「本当にアル様のお子様では無いのですよね……?」

 加えて社長に対する信頼感が異常に高い社員からの確認だった。

 

 食事も終えて食器を片付けながら、エミヤは手に持った洗剤のボトルをアルの頬に押し付ける。

「ただでさえ理解が追い付かない出来事を処女受胎に持ち込んで人をイエスキリストにでもしたいのか君は」

「あぅ、だ、だって、私も未だちゃんと分かってなくて」

「だからといって『産んだ』は無いだろう。私の年齢が生後一日になる所だったぞ」

「ご、ごめんってば~」

 その様子にすっかり警戒は解けており、エミヤは洗い物をしながら嘆息する。

 

「それにしてもこの街は治安が悪いのだな、早朝に簡単に周辺把握の為に出歩いたら古典的なスケバンに絡まれた」

「スケバンにって……エミヤンそれ大丈夫だったの?エミヤンヘイロー無いじゃん」

 エミヤンとは私の事か?と目線を上に向けると、丁度肩車されているムツキが元気よく頷く。

 傍から見れば懐いている様に見えるが、どの程度までならオーケーなのかラインを測っているのだとカヨコには理解できた。

「そのヘイローがどうというのはスケバンも言っていたが、察するに君たちの宿している力の事だろう?私は私で別に魔術()ならあるのでね」

 

 エミヤにとって銃を持ち出される程度ならば問題は無い、そこに神秘が込められていようとも彼の『眼』を以てすれば避けるのも打ち落とすのも容易な事だ。

 むしろ『守護者』となるまでの道程では現代兵器とやり合う事の方が多かった事もあり、どんな場面にも対応できるように大抵の銃に関しては構造を熟知している。

 

 高速で接近し投影の起点を銃の内部構造を阻害する位置に置いて、鉄片でも木片でも投影してやればそれだけで銃器に関しては無力化出来る。

 むしろ問題は――

「それよりも、この街の……その、少女たちは皆あの様にパワフルなのか?」

 ――想定外の肉弾戦における膂力だ。

 

 畜生の一言を吐き捨てて繰り出されたスケバンからの蹴りを受け止めた時、その体躯からは想像も出来ない衝撃にエミヤは顔を顰める事になった。

 即座に体に強化を走らせたが、プロボクサー顔負けの衝撃に世界の違いを実感した。

 

「そうねぇ、ヘイローが無い人からすればパワフルになると思うけど……」

「エミヤさんの口振りからすると、まさか受け止めたの?」

 口を滑らせたかと思うと共に、カヨコの頭の回転の速さに舌を巻く。

「まぁ、打撃に関してはとある事情で急な対応には慣れているのでな……」

 思い出される五臓六腑に染み渡る苦しみに苦笑しながら、無駄な経験など一つも無いなと握り拳を作る。

 

「あ、あの、それでもエミヤさんにとってはどれも危険ですし……すいませんすいません私程度が出過ぎた発言を――!」

「いや、私を想ってくれての言葉だろう?ありがとうハルカ、気を付けるよ」

 そこまで卑下しなくてもと思ったが、それを口にするよりも感謝を口にした方がこの娘には良さそうだと判断。

 

「ねぇエミヤンってさ、もしかして滅茶苦茶強い?」

 また難しい質問をと思いながらも、視界の端に心配そうな表情を浮かべるアルが映る。

 ここで謙虚に振舞えば、恐らく優しい彼女は命の危険がある世界に私を呼んでしまったと罪悪感を重ねるだろう。

 

 それならば、答えは決まっている。

「あぁ、最強だ」

 

 その日、エミヤは便利屋68に迎えられた。

 ある者は罪悪感から、ある者は同情心から、ある者は興味本位から、ある者は絶対者の決定に賛同して。

 

「ところで朝も過ぎていくが、君たちは学校などには通っていないのか?」

 その質問には誰一人として目を合わせてくれなかった。

 

 

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
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