便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第二十九夜 テウメソスの狐編 ②

 

 涙を流しながらも全てを説明し、その上で助ける事を誓った月見会のメンバー達は今後の行動を整理するべく現状の問題点をニコに尋ねた。

 

「もう襲撃は実行されちゃう――それで連邦生徒会に被害が出れば、私達の危険性は証明される」

 そうなれば、情状酌量の余地があろうともSRTの閉鎖は決定的となる。

 

 数拍置いた後に、思考が結び付いたのかカンナは「あぁ」と小さく声を漏らした。

「成程、ウチの統括管理者の喜びそうな事だ」

「統括管理者?」

「えぇ、エミヤさんも知っている筈ですよ――不知火カヤ、彼女は三日ほど前からですかね、何処かの会社と手を組んだ様でして……それ以来私達に出動停止命令を下したり、地上げ屋紛いの事をさせているんですよ」

 その言葉の後で「元々はSRTの閉鎖に反対だった様ですが、掌返しも良い所です」と、中々に内情を知り得ている様子。

「現在のヴァルキューレは中々芳しい成果を上げられずにいますので、資金面で融通して欲しければ……と話を振られましてね、正直に言って、私も局長として所属している生徒達を守る必要があり、話に乗りました」

「うっわ~、やり方が陰湿、性格も悪そう」

「相手の弱みに漬け込むのは周到とも言えるが、毒を撒き散らしているのと同じだな」

 エミヤが眉根を寄せ、さっそく任せる相手を間違えたのではないかと何処かのプログラム化した少女に尋ねたい気持ちを抱く中、一つの疑問が生まれた。

 

「だが、その会社とやらが仮に悪事をしているとして、カヤにSRTが閉鎖されたからといって得する事など……」

 と、考えてみた所で、先程思い描いた人物の持つ特権が浮かび上がる。

「そうか、キヴォトスの全ての自治区での活動が可能となる干渉権限、そこには勿論ヴァルキューレが担当するD.U地区も含まれる訳か」

気付いて貰えて嬉しそうなカンナの笑みに、なんだか上手く誘導された気もして少し恥ずかしいエミヤの話をニコが引き継ぎ、

「連邦生徒会長の不在が確定し、なおかつその上でSRTを存続させるとなれば……」

 カンナが内情を踏まえての考察を挟み、

「えぇ、治安維持の役割を担う防衛室長か調停室長、それか主席行政官が責任者の後釜となるのが道理……とはいえ、誰も連邦生徒会長程の裁量権を捌き切れる人材では無いでしょう。だからこそ閉鎖を賛成する意見が強く今回に至ったと」

 シグレはその上で今の話題を纏める。

「つまり、SRT特殊学園が存続する事で誰かに譲渡される全自治区に対する干渉権限、コレがあるとヴァルキューレの出動を抑えたとしても介入される危険があるって事で……えぇと?それを最初はカヤって人が欲しがったけど、悪い会社から持ち掛けられた取引の為に逆の立場に着いたって事?」

 そしてそこから考えられる事を更にカンナが考察する。

「誰に引き継がれるか定かでは無い以上、閉鎖の反対者はそのSRTという武力を欲し、干渉権限を欲している様に周囲の目を誘導する事も可能、何よりも彼女が得意そうなことです。必然的に賛成しなければ懐疑的な目を向けられるように仕向けて賛成票を集めたのでしょうね」

 更に、と一拍置き、

「それにSRTはヴァルキューレに編入という話なので、最終的には当初の目論見通り……、全自治区への干渉権は得られなかったけれど武力は手に入れられるからと考えて、編入の流れを作って話の主導権を握る為にも賛成派に移ったとも考えられますね」

 

 ふむ……と一度話を区切ったエミヤは喉の渇きもあったので皆に欲しい飲み物が無いか尋ね、約一名の明らかなアルコール飲料の希望を除き、希望通りの物を手渡して再度着席。

「言っておいてなんですが、ウーロン茶なんてよくありましたね、家庭で置いている所はたまにありますが……」

「まぁ、色々とこの一階も用意を進めていてな……それよりも本題に戻るぞ」

 

 自分用に用意した珈琲を飲み、そっちも飲んでみたいというシグレにカップを渡してカヤの狙いについて話を続ける。

「出世欲……なのか?SRTを手中に収めれば次期連邦生徒会長になれる……とか、そういう考えで?」

「まぁ日頃から仕事の愚痴はよく吐いていますが、そこまで単純思考では無いでしょう。それだとSRTが無理で、それでも強い武力や経済力を欲しがって悪事に手を染めた短絡的な思考のバカになってしまいます」

 

 全員の頭の回転が早い事もあり、纏められた情報だけでも既にきな臭さが強くなってきた。

 

「そういえば、ニコがSRTはサンクトゥムタワーの内部情報を手に入れたと言っていたな?」

「……そっか、今SRTの危険性を証明して閉鎖に追い込むことで得をする人物って」

「その不知火カヤって人で間違いないだろうね~」

 

 そう言いながら懐から取り出したスキットルから何かをカップに注ぎ美味しそうにエミヤから貰った珈琲を飲むシグレから目を逸らし、見えて来た実態に上司の思いもよらぬ愚かな行為にカンナは溜息を吐いた。

 

「たった数日でどれだけ動いているんですかね……成程、それでこの前あの提案してきた訳ですね」

「ということは、カンナの方にも今話した以外にアクションが?」

 シグレからカップを奪い、取り戻そうとするシグレの耳を引っ張るエミヤの問いに頷きを返し、

「えぇ、ヴァルキューレ警察学校に外部の協力者を招くのはどうか……と不知火カヤから、大方、今回の襲撃でヴァルキューレとSRTで戦わせて、能力の低さが露呈したヴァルキューレに強行的にその外部の協力者、恐らくは先程から申している会社の部隊か指揮官かを割り込ませる算段でしょう」

「その上SRTの危険性も証明できるって訳ね、考えとしては、会社を身内に引き込む事でヴァルキューレの出動記録を作れば、より悪事を働きやすく出来る……って事かな?」

 ニコの推測に、引っ張られて痛む耳を抑えながらシグレが率直に感じた事を指し込んだ。

「ん~?でもソレってその不知火カヤからすればどんどん弱味を作ってるだけじゃない?その会社さんは人もお金も社会的権力も持っている訳だよね?じゃあ用済みになったらその不知火カヤって人、ポイッじゃない?」

 話せば話す程に会社が考え得る計画と狙いが見えてくる一方で、その先に不知火カヤが目指す物が見えてこなかった。

 

 静まった室内に、ニコが緑茶を啜る音が響く。

 少し恥ずかしそうだ。

 それに耐えられ無くなり、自分の中で思いついた強引な答えを提示する。

 

「キヴォトスの治安そのものを悪くしたい……とか?」

「いや、それは無い。防衛室長である以上、治安の悪化による責任は彼女にも降り掛かる」

「でもSRTはこれまで必要だから存在していた訳で、無くなれば各自治区で対応しきれない事件が増えるだけじゃない?」

「……ヴァルキューレで成果を出したら、その会社が次に狙うのって」

「成程、犯罪率が上昇した各自治区にも自分達を売り込めるという訳か」

「猶更不知火カヤの狙いが読めなくなりましたね……会社に貢献したい、なんて願いでは無いでしょうし」

 

 皆で唸って考えてみるが、イマイチ分からない。

 

「一連の出来事を一切行政委員会にバレずに行って、SRTの隊員を組み込んだヴァルキューレで仕事もこなして連邦生徒会での地位を上げたい……とか?」

 ニコが思い付きを口にしてみるが、その可能性について考えてみる程に自分の所属している組織をバカにしている様にしか思えず。

「それは無いだろう……経過とはいえ得をする人間が誰なのかを考えれば連邦生徒会の政治的な内情に詳しくない我々でも思い付くんだ」

「だよねぇ、私達の建てた前提が合っていたら、ただでさえ各所の機能を麻痺させ兼ねない計画な訳だし……その状態で上に行ったら自分で招いた混乱の責任を自分で取る事になる訳だもん」

 シグレも無い無いと首を振り、「それこそ会社にそこまでの能力が無かったり市民から反発を喰らえば責任は会社を招いた自分に来るわけだし」と付け足す。

 

「一先ず、予想の段階ではあるが既に出ている情報から考えられる計画を纏めてみよう」

 

 一連の繋がりを整理してみる。

 

「つまり、

 

 ①連邦生徒会長の不在により全自治区に干渉権限を許可されて活動できる過剰戦力のSRT特殊学園の責任所在や命令権限が誰にも無くなり、

 ②最初は反対派だった不知火カヤがとある会社と手を組んで賛成派に転向、その時期からヴァルキューレの出動を制限したり、悪事に手を染め始めて、

 ③SRTの命令権限が誰かに引き継がれれば、ヴァルキューレの出動を抑えても悪事の現場を抑えられる危険性がある。

 ④それ故、その武力への命令権、並びに全自治区への干渉権限という超法規的な権力の危険性を説くことでSRTを閉鎖の方向に話を進め、

 ⑤その上でSRTに情報を流す事で襲撃を行わせ、ヴァルキューレをぶつける事で『SRTの危険性の証明』『ヴァルキューレの惰弱性の証明』を行い、とある会社から戦力を雇い入れる事でヴァルキューレを動きやすくして、

 ⑥SRTが無くなった事で生じる全自治区の犯罪率の上昇に対して、D.U地区で成果を出したとある会社の戦力をそこにも紹介する事で、とある会社が悪事を出来る範囲を広げると共にお金も稼げる。

 

 こんな所か……だが、防衛室長の不知火カヤは途中でお払い箱だろうな、やはりバレないとは思えん」

 

「下手すれば調停室長も責任問題だねぇ」

「最悪な計画です……ヴァルキューレ全体に悪の根が広がる前に全体像の予想が付いて本当に良かった」

「つまりこの計画の根本は、SRTが閉鎖する事が前提?」

 

 少しの怒りを隠しながらも疑問形で尋ねたニコが飲み終わった緑茶の湯呑をテーブルに置き、急須で新しく淹れ直そうとする中、ふむ、と腕組をして考えるエミヤ。

 

「学園という形式である以上、SRTにも生徒会の様な物は存在するのか?」

「えっと、無い……ですね」

「確かにSRTの内部に生徒会は無いですね……あぁ、そういう事ですか」

「へ?カンナさんとエミヤさんだけ分かってるじゃん、説明してよ~」

 シグレの訴えに応じ、エミヤは例を出して説明をする。

 

「例えばゲヘナ、例えばトリニティ、どちらも万魔殿とティーパーティーが生徒会として存在し、最終的な責任の所在を取る人物が定められているだろう?」

「ウチでいうチェリノ会長みたいな物だよね、うんうん」

 ナギサからしてみれば、髭を付けた少女と、騙されやすい上に今は温泉開発部で作業に従事している人物を並べて挙げられるのは苦笑を浮かべるかもしれない。

 

「今回のSRTの問題はその責任を取る人物であった連邦生徒会長が居なくなった事であり、彼女がこれまでその権限を用いて全自治区に対する干渉権を使い、任務の斡旋を行って来た訳だ」

「そうですね……だからこそ不在から閉鎖に繋がった訳ですし」

 シグレとニコは説明を聞きながら理解を深める。

 カンナは局長であり、自分がそのトップという立場だからこそ理解できたのだろう。

 

「つまり、ブラックマーケットを除く全ての自治区から干渉命令を出す事が許可された人物が居れば、形式上とは言え連邦生徒会長と同じ決定権を持つことになる訳だ」

「んん?でもソレだけだとSRTへの命令権が無いからダメじゃない?」

「つまり、その決定権を得た人物がSRT内部の人間であれば……?そして学園内部の責任問題を一手に引き受ける生徒会長というポジションであれば……?」

「……そっか、あくまでも現段階でSRTは閉鎖が決まりましたって告知が成されているだけで、ヴァルキューレへの編入が行われていない現在であれば、ウチ……あ~、レッドウィンター連邦学園では度々革命が起きて会長が変わるんだけど、その事からも分かるように生徒会長や最高責任者を決める権限はあくまでも学園にあるから、最高責任者が居なくなったのなら何も連邦生徒会から決めるんじゃなくてSRTから決めても良い筈なんだ」

「革命?」

「うん」

「……そ、そうか」

 当然のように出て来た単語にエミヤが首を傾げるが、シグレはそれ以上説明をするつもりは無いらしく視線を向けても首を傾げるだけだった。

 

 だが、その前提が通ったとしても心配な点はあった。

 

「仮にもこれまでは連邦生徒会長が責任者をしていた手前、SRTから排出して認められるでしょうか?」

 ニコの指摘にエミヤは笑みを浮かべ、

「だからこそ、全ての自治区からの干渉権限が必要なんだ」

「そうか、連邦生徒会の構成員が各学園から集められている以上、各学園のトップが認めた事となればそれは『連邦』を構成する学園の総意、連邦生徒会の許可と同等、もしくはソレ以上の効力がある筈……もしもソレを認めなければ各学園の行政を担当する生徒会の総意、連邦生徒会は構成する学園の意見を無視したとして、連邦という体制自体が揺らぐ事になる」

 

「つまり、私達がするべきことは、

 

 ①SRTの生徒の中から生徒会を設立して生徒会長を立てる。

 ②キヴォトスの全学園の生徒会からSRTの自治区内における干渉権限の許可、その指令権をSRTの生徒会長が有する事を認めてもらう。

 ③その上で連邦生徒会に訴えかけてSRT特殊学園の存続を認めさせる。

 

 以上だな」

 

 ここまでの話をまとめたエミヤに、シグレはちょっといいかなと声を掛けた。

 

「カヤって人の悪事は公表しなくていいの?」

「……その、だな」

 言い淀んだエミヤの言葉を引き継いでカンナが自嘲気味に吐き捨てる。

「大丈夫ですよエミヤさん、私はもう局長であろうとは思っていません」

「あ……そっか、カヤさんの悪事の中にはヴァルキューレ警察学校を利用した犯罪の見逃しもあるから」

「えぇ、とはいえ、疑問を抱く者はおりましたが私で情報は完結、受けた指示の通りに動いた下に罪は無く。責任を問われるのは私だけです」

 『何故』出動しないのかは伝えず。

 『ただ』その出動要請は請け負わなくていいと伝える事で、全てを被って来たのだ。

 

「こんなでも部下は可愛い物で、資金を得ながら何かあった時に守ってやれる方法はこれしか思いつきませんでした」

 その笑みは自身の無力に対する自嘲が含まれておりながらも、何処か清々しさを感じさせる物だった。

 そこには納得があり、選んだ道の上にある泥を全て被ってでも守りたい物を守り通す覚悟があった。

「罪には罰を、全てしっかりと――ですよ」

 それならば、今更何も言う事は出来ない。

 

「それじゃあ、会社とカヤさんの悪事も公表する方針で」

 希望的観測が多分に入った目標ではあるが、考え得る対抗策がこれしか思い付かなかったシロウ達としては縋るほかない。

「しかし、エミヤさん」

 そこにカンナの待ったが掛かる。

「全ての学園の生徒会長と連絡を取る事など、そこまでの情報網をお持ちなのですか?」

「そっか……そこも問題になって来るよね」

 

 しかしエミヤは応えて見せた。

「大丈夫だ――私には恩を返してもらわねばいけない相手がいるのでな」

 死んだ眼で。

 

 




いつもお読みいただきありがとうございます。
小難しい話になっているので改めてまとめます。

カヤ「SRTあれば連邦生徒会長と同じ特権持てますね!閉鎖はんたーい!閉鎖はんたーい!」

とある会社「わしら金出すから犯罪見逃して、あとSRT無くさないと介入されちゃう」

カヤ「やったー!ヴァルキューレもお金ないですよね、言う事聞けばお金あげますよ?SRT閉鎖さんせーい!閉鎖さんせーい!ついでにSRTは最近成績が芳しくないヴァルキューレの補充要員として寄越せー!」

リン「SRT閉鎖したら全ての自治区における大きな犯罪に対応できなくなりますよ」

カヤ「でけぇ乳がなんか喋ってるけどアレ自分がSRTの武力を欲して連邦生徒会長と同じ権力を求めてるだけですよ皆さん!危険思想!そこまでの責任取れないでしょうに!はーやだやだ!」

リン「SRTの必要性を説きます」

カヤ「とか言ってくるんですよカンナさん、全く権力求める人はよく分かりませんねぇ、そうそう、例の会社が戦力回してくれるらしいからどうですか?え?人員は足りてる?ふーん」

カヤ「そこのSRTの学生さん、これサンクトゥムタワーの見取り図なんですけど、いりません?いいですよタダで、閉鎖が多数決で優勢って伝えられたんでしょ?今回の事に納得できていない行政委員も結構いるんですよ!SRTの武力を示して必要性を分からせましょう?」

カヤ「よっしゃあコレでヴァルキューレとSRTで潰し合ってどっちも計画通りに進むぞー!そうなれば会社の戦力を招けるし、SRTは閉鎖で戦力をヴァルキューレに吸収できるし、私の動かせる駒の力が強くなる!わーい!」

こんな感じです。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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