「リン先輩、幾ら多数決で決議が取れたとはいえ……SRTの閉鎖は……」
サンクトゥムタワーの一室、アユムとリンが二人、書類を整理しながら会話をしている。
「――賛成派の意見も分かります。確かにSRTは費用も掛かりますし、暴走した際のリスクを考えれば財務室長の言う様に閉鎖が妥当でしょう。ましてや、捜索に費用を割かなければいけないとなれば尚の事です」
連邦生徒会長の不在、事前に居なくなる事を聞かされていたリンからすれば、それが『見つけて欲しい』からこそ伝えられたのか、『いずれ帰る』から伝えられた事なのか分からない以上、待ちながら捜すという手を取らざるを得ない。
広大なキヴォトスを捜索する事は非常に困難であり、必然的に移動用の乗り物やその動力の確保が必要となり、更にはソレらを運転する人員、発見時に即時の対応が取れる人材を動かす必要もあり余裕は無い。
「ましてや、私や貴方の様に反対派である事は権力を欲している様にも見える。だからカヤさんは途中で賛成派に移られたのかと、私も反対派であり、尚且つ連邦生徒会長代理を拝命する予定なのですから立場を固める為にSRTの武力を欲していると捉えられても仕方がない」
既にリンが連邦生徒会長代理を務める事は決まっており、その分だけ仕事量も増えている。
「ですが、それでは各自治区の治安が……」
それはリンも承知していた。
SRTの不在による犯罪率の上昇、ただでさえ連邦生徒会長が居なくなったことが知り渡れば犯罪率は上がるだろう。その上、抑止力となる程に武力を所持しているSRTが出張ってこないと知れれば……これまでSRTが対応してきた組織犯罪や強力な武装を所有する相手の対処が各自治区では対処が不可能となる。
「――SRTが使用していた最新鋭の装備を各学園の治安維持組織に譲渡するしかありませんね」
ならば、各自治区で対処可能にするしか無い。
「私は……SRTという武力を連邦生徒会が所有している事で保たれて来たバランスが崩れる事が、どうしても怖いです」
アユムの心配はとても理解できた。
しかしリスクを考えるアオイの発言も理解出来る。
「せめて、この問題に気付いている方がいらっしゃれば良いのですが」
そして、その懸念はリンには無かった。
「いますよ、間違いなく一名」
「え?」
「その方が動いて下さるかは分からないけれど――不思議ね」
先程まで少し曇っていた表情には何処か光明を見出した明るさが戻っており、
「何故か期待してしまうのよ、あの人には」
誰かに希望を抱き、託さんとしていた。
その頃、その誰かは――。
「ふぅん……」
「ほぉ~?」
「む……」
「いや~、あはは」
FOX小隊に囲まれていた。
「それで、ウチのニコを朝帰りさせた上に同伴したアンタ……一体どういう事なのか説明して貰ってもいいかしら?」
あの後、結局朝まで会議をしていたエミヤ達はその後の方針を決めた後、というよりも今日から早速動き出す訳だが、それならFOX小隊が襲撃に踏み切る前に自分達の知り得た情報からの推測と採るべき行動を話しに行こうと決まり、
『私はもしもの為にヴァルキューレの方に向かいます。今日もあのバカが来る予定なので、もしかしたらまた愚痴がてらに無い胸の如くペラペラと聞いてもいない内情を話し出すかもしれませんので』
『私もノドカに一応説明してしばらくは自由に動ける様にしてくるからさ、エミヤさんお願いね』
余程ストレスが溜まっているのか辛辣なカンナと友達思いなシグレに託され、エミヤが担当する事になった。
とはいえ、FOX小隊からすれば朝になったら居なくなっていた仲間が男を連れて帰って来た訳で、当然の様に銃を突き付けてエミヤを取り囲んだ次第である。
正直、エミヤとしてはSRTの二年生や一年生に責任を負わせない為に人柱になろうとした三年生、FOX小隊には好感を抱いていたのもあり、あまりキツイ言葉を掛けたくは無いと考えていたのだが……。
「(良い練度だ……銃の構え方一つでも、発砲のその時まで片手は添えるだけにして近距離に近付いた際の近接戦闘にもすぐ移れる余裕を持っている)」
思いの外しっかりと訓練された戦士である彼女達を見て尚更好感を持った。
「私はエミヤ、日頃彼女とは夜を共にする事もある間柄だ」
「夜を」「共に」「だと――!?」
「え、え、え、え、え、エミヤさん!?言葉!ニュアンス!今私達、その……朝帰りだと思われてるんですからね!?」
良いリアクションするなぁ、と思っていたら自分の発言が意図した物と違う意味で伝わっていた事に気が付き、言い直す事にした。
「失礼した。彼女とは……食べたり食べさせたりする仲だ」
「夜に」「食べたり」「食べさせたり――!?」
「エ~ミ~ヤ~さ~ん!!」
誰も夜にとは言っていないから完全に冤罪なのだがぺちぺちされたので謝罪。
「改めて自己紹介をするが、私は便利屋68庶務のエミヤだ。ニコとは月見会という会合で共に食事をする仲だ」
それに応えてそれぞれ、黒髪で冷静な瞳で見据えるクールな印象を抱かせるユキノ、強気で勝気なのか眉を上げてこちらを睨む金髪の少女クルミ、この状況が面白いのか笑いを堪えて真面目な顔をしようとしている
「それで、食事をした後に朝帰りになるのはどんな理由なのよ!」
声を上げるクルミにまぁまぁとニコが宥めようとしているが、歯を剥き出して威嚇しているクルミは落ち着く様子は無い。
クルミとオトギは既に銃を下げているが、ユキノだけはいつでも抜ける様に腰に差し込んだM1911A1に手を添えている。
――愛されているんだな、ニコは。
嬉しくもなり、同時に悲しくもなる。
これだけの信頼を得ながらも、仲間には打ち明けられなかった。
いや、仲間だからこそ、彼女達が進もうとしている道が他人の想いも背負う物だからこそ、個人の意見を吐き出す事が出来なかったのだろう。
「何、簡単な理由だ――君達の襲撃」
乾いた音が響いた。
距離はあった。
動きをシミュレートして実行に移しただけだった。
だからこそ、当たると思った。
「その計画を行わなくても良い選択があるとすれば、どうする?」
しかし、一瞬の内にユキノが拳銃を抜いたその手首を掴み、狙いを外されていれば、当たる訳が無い。
「ぐ……便利屋、目的は何だ」
敵意に満ちた瞳、しかし同時に覚悟を背負った瞳でもあった。
そして、何かを諦めた――よく知る『眼』だ。
だが、足りないと感じた。
その『眼』を知っているからこそ、
「目的など、大層な言葉を使う物は無い」
今のまま進めば、どうなるかをエミヤは知っていた。
手を放し距離を取ったユキノを見て、その『眼』をさせたナニカへと怒りが溜まる。
その歳の少女がしていい眼では無い。
一体これまで、何を経験した?
チラとオトギ、クルミ、ニコを見てみるが彼女達にその傾向は無い。
つまり、ユキノだけが何かを――?
己の信じた物に絶望し、在り方を『道具』や『武器』と定める様な何かを経験したのか?
「だが、友を助けたいと思った」
それでいて尚、彼女はこの小隊の隊長を務めているというのか?
年の頃はまだ十八かそこらだろう。
「そして今、同じ位」
その十八年で信じた物に裏切られ、己の在り方を『道具』として、更に仲間の命を背負っているなど。
「君を助けたい」
見過ごせる筈が無い。
「助ける……だと?」
そこで初めて、冷静だった彼女からは想像も付かない程の感情が放たれた。
「私の事など何も知らず、出会ったばかりで憶測で判断した『私』を見て……」
それは怒り、しかしエミヤは受け止めた。
その怒りを理解できたから、守護者として『機能』していたエミヤには、理解が出来てしまったから。
「何が、助けるだ!!!」
次に来る物を、避ける事など出来なかった。
乾いた音が響き、次いで金属が床を跳ねる音が聞こえた。
そして、ビチャリと液体が床に垂れる音も。
「は……?」
その怒りに支配されていたからこそ、ユキノは見落としていた。
そこには偏見もあった。
素手で向かってくる人間が、あんな動きの出来る人間が、今の一発を避けられない筈は無いと。
だから見落とした。
目の前の男にヘイローが無い事を、己が今、本来は守るべき市民に銃を向けていたことを。
「わた……しは……」
その事実が、彼女の自我を壊しに掛かる。
「わた、わたし……」
罪の無い一般市民を、己の目的の為に殺した。
「は……」
怒りのままに、守る為に持つ筈の銃を抜き放ち、射殺した。
「は、はは……」
口元が、歪む。
自身の口から漏れ出た笑い声が理解できなかった。
何を笑う?
いや、嗤ったのか?
分かっている。
自嘲だ。
「オエェッ!!」
胃の中身が逆流した。
今、私は何を吐き出した?
分かっている。
自分の中にあった、揺るぎない正義だ。
「ユキノ……」「隊長……」「ユキノちゃん!?」
何が――正義だ。
何が――揺るがないだ。
これが、SRTの正義か?
今の私の姿が、正義か?
いつだ。
いつの間に限界を迎えていた?
いや、
己を『正義』を実行する『道具』と定めた日。
あの日から、カウントダウンは始まっていたんだ。
たまたま、それが今日だっただけ。
いつか未来で行う筈だった事を、今日この場で行ったに過ぎない。
そして、それに私が耐えられ無かったに過ぎない。
膝から崩れ落ちて、床に頭を叩きつける。
自罰のつもりは無かった。
ただ、姿勢を維持する事さえ苦しかった。
誰かが男性の下へ駆け寄る足音が聞こえた。
ユキノの下にも誰かが駆け寄った。
しかし、ユキノにそれを確認する心はもう――
ギシリと、音がした。
項垂れるユキノの眼前で、聞き覚えの無い奇妙な音が。
「私が君を助けたいと思ったのは、どうしようもなく、分かってしまうからだ」
平然と言葉を述べる存在は、先程自分が腹部を撃った相手だった。
「その『眼』を、私はよく知っている」
その男の腹部、撃ち抜いた筈の傷が――何か、奇妙な音を発している。
「そして、今君が胸に抱いた後悔すら……私も、経験した」
思わず耳を傾けていた男の言葉は、どれも嘘を感じない誠の言葉だった。
「だからこそ、私は君を救いたいのだ」
その言葉は、実感が籠っていた。
ただの言葉なのに、苦しさも悲しみも込められていた。
ユキノは一瞬で理解した。
目の前の男が、自分たち以上に『正義』を掲げた者であることを。
覚悟を決める前だったこともあるだろう。
ただ一発の銃弾でユキノの心が折れてしまったのは、『殺し』は経験していなかったからだ。
だが、目の前の男性は、エミヤは違う。
一瞬、ほんの一瞬、ユキノの瞳には荒野が映った。
その中で血に染まった身体で、荒野の真ん中に立つエミヤを幻視した。
『正義』の下に『殺し』すら行ったのだと、理解した。
私達の数倍、数十倍、いや、それ以上の数を彼は『正義』の為に殺してきたのだろう。
その上で、こうして此処に居るのだ。
そして、教えてくれた。
今回の襲撃の果てに待つ物を、今の一瞬で。
己が得るであろう後悔を、己が至るであろう喪失を。
「君のその『眼』は、ただ苦しさを抱えただけでは持ち得ない」
いつの間にか奇妙な音は止んでいて、エミヤは座り込んでしまったユキノの前に地に膝を突いて目線を同じくした。
「だからこそ、何があったのかも、何に裏切られたのかも、何を忘れているのかも――私は聞かん」
エミヤの『眼』は同じ経験をしてきた者とは思えない程に優しさに満ちており、それでいてユキノを見ながらにして何処か遠くを、そして鏡を見るように親愛を感じさせた。
「いつか私も君に聞かせよう、私の過去を」
そんな事はしなくていいとユキノは思った。
エミヤが、彼がもしも自分と同じ経験を、もしくはそれ以上の経験をして来ているのであれば、それを話す事は苦痛の筈だ。
「困ったな……私と君は似ているらしい、何処までも考えが読めてしまう」
大きな手が頭に触れ、体温が伝わってくる。
「大丈夫、既に理解しているとは思うが、私は乗り越えられたんだ」
その温かさに安心が胸の中に広がり、ソレを全身で感じたいと思ってしまう。
「君の道の先に私が居る――だから、不安に思う事は無い」
自然と涙を流していた。
「それに、私は頑丈なんだ。今ので死んだりしないさ」
ただ感謝があった。
教えてくれた後悔と喪失に、背負い続けて来た咎の理解に、生きていてくれた事に。
「だからどうか、聞いてくれ――君達を救う方法を」
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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