作者はバスケットボールで痛みを再現して執筆しております。
カヨコとの入浴、その戦場で一つの戦果を挙げたエミヤは後は浴槽に浸かるだけだと考えていた。
だが、現実は違った。
橋頭保を確保したと思った矢先に待っていた機関銃、ノルマンディーさえ彷彿とさせる残酷なる第二の刃。
体を洗う。
「ん……はぁっ……んっ……」
無心。
思い出すのは弓道場。
指を放して矢を放つのでは無く心を放ち的に当てる。
それと同じだ。
タオルを持つ手を動かして肌を擦る。
外部からの刺激で体が揺らされて声が漏れているだけで、それ以上の意味は無い。
故に、このように手を動かせば。
「んっ……」
声が漏れる。
全ては自明の理、既に知り得た情報だ。
ならば動揺する事は無く。
ただ機械的にこなしていくだけ。
そうだ。
背中は既にしっかりと泡立ちもあり洗えたと断言出来る。
なれば次は腕、腕を洗うだけ。
何も、考えるな。
柔らかな二の腕を手に取り、
「えっ、ちょっとタオル」
洗う為に上に持ち上げる。
「あっ」
そして脇に泡立ったタオルを触れさせ、
「んんっ」
しっかりと泡立ちを確認しながら洗う。
ハラリと足元にやってきた白い布、思わず自分の手を見てタオルを持っている事を確認したエミヤは考えてしまった。
「(白い布だ)」
その瞬間に無心は解け、白い布がタオルであり、先程までカヨコが今洗っている方の手に持っていた事を理解した瞬間、エミヤはつい、本当につい、エレベーターが音を上げて止まった際に電光表示板に示される階層を確認するのと同じくらい『つい』、今、カヨコの手にタオルが無いという事は――と、視線を向けてしまった。
刹那。
人の無意識の行動下において、意識的な行動を割り込むことは非常に難しい。
熱いと感じるヤカンに触れ、思わず手を退けてしまう際に触れ続ける事を選ぶのが非常なる覚悟が必要なのと同じ、『つい』で向けてしまった視線を逸らす事は出来ない。
だからこそ――エミヤは目を閉じた。
己の罪から逃れる為にまずは
故に、気付けなかった。
腕から脇へタオルを滑らせながら起きた一連の出来事、タオルを拾おうと僅かに体を逸らしたカヨコと、そのままタオルを上から下へ、腕から脇へ滑らせたエミヤ、眼が開いていれば避けられた事態。
「あんっ」
風呂場に木霊した声に、エミヤは、カヨコは固まった。
エミヤからしてみれば腕から滑り脇の窪みへと向かうはずだったタオルが、何か二の腕よりも、いや、同等ほどの柔らかさに触れており、カヨコは己の身体を突然走った刺激と漏れ出た声に恥ずかしさから思考が停止していた。
刹那の攻防。
謎の感触に目を瞑ったまま手を勢い良く己の方へと引き戻し、再び落ち着いてから洗いを再開しようとしたエミヤ。
自身の胸部に触れたタオル、今は挙げた腕を下げ、エミヤの手を己の手で掴み制止する事で洗う事を一度停止させようとしたカヨコ。
引き戻す腕を掴めば、身体がそちらへと流れるのは必然。
カヨコは引っ張られる形でエミヤへと倒れ込み、エミヤは突然襲い来る柔らかな衝撃に思わず目を開けた。
室内、蒸れる風呂場の床に二人の男女が全裸で重なり合っている光景。
エミヤの胸の中に納まったカヨコと、腕を掴まれているとはいえまるで引き寄せたかのようになったエミヤ。
互いの視線が合わさり、カヨコはこれまで見た事も無い程に目を大きく開いて真ん丸なお目目になっており、口元も半開きで事態を未だに理解できていない。
しかし、エミヤはそれどころでは無い。
濁して表現をするのであれば、『カヨコのひざおとし、きゅうしょにあたった。こうかはばつぐんだ』。
意識が飛びそうな痛みの中で、エミヤはカヨコが退いてくれることを節に祈った。
ここで一度、考えて欲しい。
上体は崩れ、膝とつま先のみが床に接している状態、手を床に着こうとすれば更に密着する事になる中で、人はどのように上体を起こすのか。
そう。
膝に体重を掛けるのである。
なんとか上体を起こしたカヨコは立ち上がり、そして自身がタオルを落としてしまい、今のエミヤの視界から肢体を隠す物が何もない事に気が付き――。
「――あ」
――勢い良く膝からしゃがみ込んだ。
芯へと響くその痛みはかつて味わったどんな攻撃よりも一瞬に痛みが凝縮されており、己の意識が段々と遠のいていくのを感じた。
その意識の向こうで、誰かが笑っていた。
意識を手放せば、あの優し気な笑みの下にいけるのだろうか?
思わず、手を伸ばした。
今ならば
あの優し気な、紫の髪に、黒に細い赤のストライプの服で笑みを浮かべる――。
「はぁあぁああああああ!!!」
気合を口に、エミヤは記憶の彼方から手を伸ばしてきたナニカに捕まる前に意識をハッキリとさせた。
そして目に飛び込んできたのは、己が伸ばした手が確かに掴んだカヨコの胸部。
その柔らかさは正に
エミヤは知っていた。
この展開の果てに待つのは平手か拳か
そして柔らかさを認識したという事は、触れた以上に感触を確かめたという事になる。
己の罪を聞き届ける為、エミヤは耳を澄ませた。
さぁ、どんな罵倒でも来い、そう身構えた。
「――ふぁ」
だからこそ、聞こえて来た驚きを孕んだ声に、エミヤは可愛さを覚えた。
普段のクールなカヨコからは想像出来ない、少し高くて『つい』出てしまった無意識の声。
――二人の思考が高速回転する。
――この場を収める術を探して、幾通りもあるパターンから最善をシミュレートする。
思わず思考に合わせて手にも力が入り、
「んっ」
「あ」
エミヤ、揉む。
最早エミヤが主導権を握る方法は無い、数多いシミュレートが一瞬で砕け散り、先に最適解に辿り着いたのは。
「エミヤさんの手、あったかいね」
カヨコだった。
「いっつもこの手で、皆の事守ってくれてたんだ」
それはまさかの行動、自身の胸に触れたエミヤの手を更に上から包み込み、慈愛の笑みを浮かべる。
「ありがとう、エミヤさん」
答えは得た。
後はゆっくりと腕を戻し、カヨコは風呂椅子に座り、ただ体を洗う工程に戻るだけだ。
だからこそ必要な事だと考え、カヨコは膝をずらした。
何かを意図している訳では無いと分かるように、自然と。
そして、
膝をどかした途端に天を突いたナニカに。
まるで鍛冶、幾度もの
カヨコという少女が想像する以上に、それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく ぶ厚く 重く そして綺麗すぎた。
外国の文化を体現したその剣は根本に飾り布を持たず、それは正に、鉄塊だった。
「え、え、え、えエミヤさんもし良ければ私がお体をお流しするので本当に不快でなければ――」
奉仕精神で入場したハルカはソレを眼にし、カヨコも同じくソレを眼にした。
「「――きゅう」」
流石に限界を迎えたハルカ&カヨコが意識を失った事で、今回のお風呂場チャレンジはこれにて終幕。
「あんまり覚えてない」
と語るカヨコだが、顔を赤くしてそっぽを向いた辺り、定かでは無い。
そして迫るのだ。
次の刺客が。
小さな電子音を鳴らしたモモトークが、フウカからの一つのメッセージを表示する。
『エミヤさん、カヨコさんとお風呂に入る話をトリニティのカフェでしていたって、本当ですか?』
エミヤは知らない、例の一件で有名になったエミヤを話題に幾つもの掲示板がネット上に乱立している事を。
エミヤは知らない、『【Mr.ASMR】便利屋のエミヤの動向を報告するスレ Part.28【in トリニティ】』の存在を。
いつもお読みいただきありがとうございます!
こちら含め○○.五夜の話は本編と同時空だけどギャグ寄りと考えて頂ければ幸いです。
本編で女の子落としてんだから股間に膝落とされるのくらい許してエミヤ。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け