便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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※クルミとオトギの若干の自己解釈が含まれております。


第三十一夜 テウメソスの狐編 ④

 

 

「なる、ほど」

「確かに理屈は通っているけれど」

「駄目だ全然理解出来んかった、ごめんねエミヤさんクルミもそうだってさ」

「アンタだけよバカ!」

 

 エミヤとニコから事のあらましを聞いたFOX小隊の面々は一名を除いて頷きを返した。

「理解できたなら良かったけど、ユキノちゃん、そろそろちょっと退かない?」

「退かない」

 そんな真面目な話をユキノはエミヤの腕を掴んで聞いていた。

 

 それは当然の事、ユキノの中でエミヤは死んでしまうかもしれない傷を負わせた相手であり、何やら不思議な力で助かったものの、怪我を負わせてしまった罪悪感と、この広いキヴォトスにおける唯一の理解者足る人物を己の手で失い掛けた事がトラウマになっていた。

 

 自身が至る筈だった後悔を、実際の被害が出る前に気付かせてくれたとはいえ、もしもエミヤがそうなったら――そう考えるだけで気が気では無かった。

 

 二人は同じ道の上、信じていた物に裏切られ、後悔し、それを乗り越えた道に立っている。

 

 悪事に手を染めたカヤの指示に従っていたヴァルキューレ警察学校の生徒達も、まさに道の途上にいるが彼女達はまだ己の信じた物に裏切られる段階には至っていない。

 

 だからこそ、今回の一件は止めなくてはいけないのだ。

 ソレがいかに辛い思いであるかを知っている二人だからこそ、その決意は固かった。

 

 とはいえ、年頃の少女に未遂とはいえ人殺しを経験させたのは褒められた物では無く。

「エミヤさん、ちょーっとやり方が強引だったんじゃないですか?」

 故にそう責められれば否定など出来ない。

「いや、私には必要な事だったから問題無い」

 しかし、お陰で道を違えずに済んだユキノからすれば感謝しか無い。

「なんか納得してるのは良いけど、二年生は絶対に文句言うわよ?」

「そうだよなー、事情を話しちゃったし襲撃は行われる物って認識だろうから」

 クルミとオトギが「うーん」と唸る一方で、ユキノは少し悲しそうにしながらも答えを出していた。

 

「襲撃はしない、今回の事は誰か明確な悪が居るという訳でも無い」

 それは後輩の期待を裏切る行為、やると告げた事を取り止める裏切りだ。

「そして、必要だというのならば生徒会は――私達FOX小隊で取り仕切ろう」

「ユキノちゃん!?」「隊長本気!?」「まぁ、そうなるよね」

 オトギだけが納得している中で、ニコとクルミの二人は不満がある様だった。

 

 それはエミヤも同じで、これまで既に多くの物を背負って来た彼女が更に何かを背負う必要があるのか?と、己に問い掛けずにはいられなかった。

「皆、そんな顔をしないでくれ、私は……私は思い付けなかった」

「隊長……」

「本来であれば私が、いや、私達が思い付かなければいけなかった方法だ」

 そんな事は無い、そう伝えたかったニコだったが、思いつけなかったのは自分も同じ、そして、思いついてくれた月見会のメンバーに救いを感じたと同時に、悔しさを抱いたのも同じだった。

 

 だが、

 

「ユキノ、思いつけなくて当然だ」

 エミヤは違った。

「少し厳しい事を言うが、君達はこれまで己の行動の責任を己にあると考えながらも、最終的に請け負っていたのは連邦生徒会長だった」

 それは事実、否定のしようが無い事実だった。

「その状況下で君達が己で責任を取るという選択に至るのは、いや、その発想に至るには――君達はまだ、責任を取る必要のない子どもだったんだ」

 そしてこれも事実、どれだけの作戦を重ねようとも、どれだけの苦難を背負おうとも、彼女達が最終的な責任を負わずに活動していた以上、子どもである以上、仕方の無い事だ。

「まぁ、連邦生徒会長も悪い意味で子どもではあるが……こほん、少なくとも責任の取り方は理解していたのだろうな」

 思い出しても憎たらしい人を揶揄う様な言動に咳払いを挟みながら、そう纏めた。

 

「んー、なんていうかさ」

 反論出来ない中で真っ先に口を開いたのはオトギだった。

「エミヤさん、それでいいって事だよね?」

「あぁ」

 その、単純明快な言葉に思わず笑みを浮かべながらエミヤは応えた。

「だってさ隊長!じゃあ良いじゃん、これまでの話(・・・・・)はさ、私達にとって重要なのはこれから(・・・・)でしょ?昨日までの後悔を話すより、明日からどう生きるかを話そうよ」

 軽い調子で言いながらも、あまりにも核心を突いた言葉だった。

 その通りだ。

 その通りなのだが、

「ぷっ……」

「く、はは、ははは」

「わ、嗤っちゃ悪いよ二人とも」

 ソレを言ったのがオトギであることに、FOX小隊のメンバーは笑いが隠せなかった。

「だってニコ、オトギがこんな事、コイツさっきの話も理解できてないのに……あはははっ」

「いや、ふふ、しかしその通りだ。私達がするべきことは、後悔じゃない――そうだろう?エミヤさん」

 その問いかけに、エミヤは彼女達が小隊としてチームを組んでいる理由を見た気がした。

 あぁ確かに、彼女達にはチームがよく似合う。

「その通りだ」

 とても微笑ましい光景に、思わず口角を上げながら答えたエミヤもまた、清々しい顔をしていた。

 

「へ?なに、なんで皆笑ってんの?面白い事あった?」

 

 

 

「それで、実際問題どうやって私達は他の学園から干渉権限を認めて貰えばいい?」

 本題に返って来た所でユキノが問うたのは方法についてだった。

 その問いに、エミヤは目を逸らしながら答える。

「クロノス――あの学園ならば各学園の生徒会長の連絡先くらいは知っているだろうと踏んだのだが、案の定だった」

「それって、クロノスに協力してもらうって事?」

「へぇ、エミヤさんってクロノスのお偉いさんなんだ?あの学園って自分達の利益になる事はするけど、不利益を被りそうな事は人情とか仁義とか、感情論では動かないと思ってた」

 オトギとクルミの質問にエミヤは答えられない、答えたくない。

 

「ん?」

 このタイミングで疑問の声を上げたオトギに、エミヤは嫌な予感しかしなかった。

「エミヤ……便利屋……あーーーー!クルミ!ほら!アレだよ!アンタが夜中に布団の中でモゾモゾしてた時に聞いてた奴!」

「こっっっっのっっっっ馬鹿っ!誤解招く言い方するんじゃないの!単にスマホ弄ってただけでしょ!?」

「えー、だってあの日クルミ一緒に寝ようって言ったのに断られたし、どうせなんか変なことしてたんでしょ?」

「えっと、二人とも事実かはさておき、エミヤさんの前だからそういう話は、ね?」

 流石のエミヤも思い出して何で見た事あるのかを連想させる位までは覚悟していたが、突然の男子禁制トークの展開により席を外すべきか悩んでいた。

 なお、少し足を動かしただけでエミヤの腕を掴むユキノの耳がへにゃったのを見て動けなくなった。

 小声で「少し足が痺れただけだ」と伝えると、すぐに耳は元気にピン!としたので安心だ。

 

「それで」

 ユキノが話の主導権を握り、

「クルミは布団の中で何をしていたんだ?」

 予想外の爆弾を落とした。

 

「ユキノちゃん!?」

「いや、隊長っ……え、エミヤさんも、本当に誤解で」

「んえ?何か変なことしてたんじゃないのか?」

 三者三様の反応を見せる中で、ユキノは首を傾げて言葉を続ける。

「いや、何か見てたんだろ?スマホで」

 あぁ、そっちねと皆の心が一つになり、クルミは自分の髪を指で遊びながら、一度チラリとエミヤの方を見て頬を染め、大きく息を吐いて答えてくれた。

 

「エミヤさんの動画」

「なんかアダルトビデオみたいなやつ」

「オトギちゃんちょっとこっちこようか」

「エミヤさんの!猫ちゃんと遊んでる動画!エッチなのじゃ無い!」

 涙目ぐぬぬ顔の見本を晒すクルミに「苦労してるなぁ」とエミヤは同情しながら、ニコに笑顔で耳元で何かを言われて一瞬で涙目になったオトギを見て「怖いなぁ」とセカンド同情した。

「そんな物があるのか?」

 ユキノが容赦ない追撃を仕掛け、興味津々な様子にエミヤはクルミから送られる視線に気付き、好きにしてくれと瞼を閉じた。

「えっと、それが確かクロノスが動画サイトに上げてたやつで……もう消されちゃったけど、それでエミヤさんの事は見た事があって、って言ってもさっき本人だって気付いたけど」

「消された……そうか」

 目に見えて落ち込むユキノになんと声を掛ければいいか分からず、エミヤは心を鬼にしてスルーしておくことを決めた。

 

「それで、二年生の説得はどうする?襲撃の予定は確か今日なのだろう?」

 その言葉を、敢えて――クルミに投げた。

 それはまるで『君達はどうする?』と問い掛ける様で、なぜ自分に聞くのかを考えたクルミは数拍を置き、ニコとユキノを見た。

 

 二人とも既に覚悟をしていた。

 強い瞳に、自分が映っていた。

 家族同然のFOX小隊の行動を止める覚悟の下でニコが連れて来たエミヤに感化され、覚悟を決めたユキノ。

 二人は何かを既に決めている。

 言葉は交わさずとも二人だから出来る事を、既に決めている。

 

 もう一度、クルミはエミヤの視線を受け止めた。

 

 その眼が語る。

『君達はどうする?』と、いや、もっと強い意味を感じた。ニコとユキノの覚悟を見た事で、ソレが理解できるようになった。

『君達は、それでいいのか?』と、エミヤはクルミに問うていた。

 

 ――良い訳が無い。

 

「それは私とオトギでやるわ」「え、私も!?」

 そう宣言をした割にクルミの表情は苦しげ、いや、悔し気だ。

「仕方ないでしょ、私とオトギは管理とか権利とかそういう話は無理、同席する事は出来てもニコとユキノに頼る事になるわ」

「うぅ……まぁ、そうだけど、でもあの子達の説得出来るかなぁ?」

「やるしかないの!」

 明るい様子だったオトギだったが、今は少し、いや、かなり不安そうだ。

「だって、何を言えば良いのか私分かんないよ」

「だから――だから私達がやらなきゃダメなのよ」

 その声は、振り絞るようだった。

 

「アンタだって気付いてるんでしょ?ニコもユキノも、昨日と今日だけで目付きが変わって、明らかに覚悟をしてるって」

「うぅ……」

「ここで私達も頑張らなきゃ、二人に置いてかれちゃうのよ!」

 人には成長のタイミングがある。

 それは何かを成し遂げた時や、成し遂げるまでの過程、己の学習が成果を得た時や、積み重ねて来た自分の足跡が意味を持った時など、様々なタイミングが挙げられる。

 

 そして、ニコとユキノは成長した。

 ニコは既に覚悟を決めており、成し遂げる為に必要な成長を既に遂げている。

 ユキノはついさっき、己の至る後悔を知る事で省みる事が出来、その上で必要な事を理解し成し得る為の覚悟をした。

 

 だがクルミは、そしてオトギは、成長に置いて行かれてしまっている。

 

しかし、クルミには分かっていた。

 置いて行かれなんてしない、二人はきっと自分達を連れて(・・・)行ってくれる――いや、背負って行ってくれる。

 きっとニコもユキノも、二人が居てくれるのが大切なんだと優しい言葉を掛けてくれる。

 

『君達は、それでいいのか?』

 良い訳があるか!

 

 FOX小隊は各々が信頼し合う最高の小隊だ。

 だからこそ作戦行動で離れ離れになっても仲間は必ず計画通りに動いていると信じる事が出来るし、姿を見せない事があっても隊の不利益になる事はしていないと絶対の信頼を置くことが出来る。

 

 ニコとユキノは一歩先を行っている。

 私とオトギは付いて行くだけになるの?

 嫌だ。

 並ぶんだ。

 二人に連れて行ってもらうんじゃなくて、二人と一緒に、四人で一緒に進んで行くんだ。

 

「オトギ、アンタが暗い話とか、マイナスな感情とかが苦手なのは知ってるよ」

 そうだ。

 知っている。

 だからこそオトギは嫌なのだとも、自分には向いていない事だと理解した上で渋っているのも知っている。

「だけど、向かないからと目を逸らす事と向き合わない事は同じじゃ無い」

 

 真っすぐに見つめたオトギの眼が、逃げられないと理解したからか涙を湛える。

「だって、私は……みんなが笑ってるのが好きで……だから」

 その言葉に、思わずクルミは舌打ちをした。

 まだ分かっていないオトギに、今もまだ――苦手な事に一人で向き合おうとしているオトギに。

 

 

「アタシがいるでしょ!アンタの隣には!」

 

 

 聞く人が聞けばプロポーズの様な言葉だと理解していながらも、我慢が出来なかった。

 きっと顔は真っ赤になっているし、後から揶揄われる事だって承知の上だ。

 だけど、親友で、家族で、仲間で、同じ小隊の一人が、自分が一人で立ち向かう物だと考えている事に、本当に心の底から腹が立った。

「不安なら手を繋いであげるわよ、心細いなら幾らでも傍に居るし、怖い事があったら一緒に寝てあげるわよ!」

 

 そして話している内に、クルミは涙を流していた。

 言葉にしないとそう思ってもらえない自分が不甲斐なくて、

「アンタもよニコ!覚悟決めましたみたいな顔してるけど、エミヤさんに頼るより先に私達を頼りなさいよ!」

 皆して、皆して本当に、本当に――!

 

「気付いていないとでも思ったの!?一人で流せる涙なんて私達には無いの!アンタが泣いてる時は私にも泣かせなさいよ!だから私が泣いた時は傍に居なさい!」

 感情が溢れ出していた。

 止めなきゃいけないと分かっているのに止められず、ただ言葉を吐き出し続ける。

「アンタら本当に馬鹿!馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」

 涙も止まらない、誰のせいでこんなに叫んでいるんだとエミヤに視線を向けると、

『それでいい』

 凄く優しい笑顔で見守ってくれていて、ふざけんな!と叫びそうになる。

 だけど、アンタがいいって示したんだから、いいんだよね、きっと。

 

「私達は家族でしょ!一人で泣いてんじゃないわよ!この馬鹿―――――!」

 

 言ってやった。

 言い切った。

 凄くすっきりした。

 

 あぁ、言葉にするのって、こんなに難しくて、こんなに簡単な事だったんだ。

 

「クルミ―――!」

 オトギが抱き着いて来た。

 泣いてる。

 ぐっしゃぐしゃな顔で、私の服に鼻水まで付けて泣いてる。

「クルミちゃん―――!」

 ニコも来た。

 あーあ、可愛い顔が台無し、びっしょびしょじゃないの。

 

 まぁ、私もだけどさ。

 

 

 

 そして、エミヤはそっとユキノの背を押した。

「行っておいで」と、普段とは少し違う口調で、だけど普段通りの優しさで送り出した。

「クルミ」

 ユキノは泣いてはいない、だけど、言葉は受け止めてくれたのだと表情で分かった。

 

「ありがとう、クルミ」

 私に抱き着く皆をまるごと抱き締めて、さっきの叫びを受け入れてくれた。

 その眼に見えた一筋の水が涙なのかは分からない。

 

 だけど、SRTの閉鎖決定を聞いてから何処かで少しズレていた私達の心は、今もう一度、一つになれた。

 

 

 

 

 

 ようやく皆冷静になれて、クルミの手を握りながらオトギも「頑張ってみる!」と言ってくれた。

 そして、エミヤがとんでもない事を言い出す。

「兎も角、此処に来る前にクロノスには連絡をしてあり、明日にはオンラインで会議の場をセッティングする様に伝えてある」

「は?明日?」

「私も流石に明日急には難しいだろうと伝えたのだが、逆に明日で無ければクロノスが把握している各会長のスケジュール的に同時に時間を取れるタイミングは三週間先になるそうだ」

 

 加えて、エミヤは辛い事を告げなければいけない。

「そして、私も最初は同席出来るが、途中で退室する事になる」

「……!」

 少し、エミヤの腕に抱き着くユキノの力が増した。

「これはクロノス側の出した条件だ。場をセッティングする以上、公正な場を用意するとの事だ。その上で私が同席しているのは公正な場とは言えないらしくな、良い意味でも悪い意味でも名前の売れている『便利屋のエミヤ』は同席させられないと言われた」

 それは当然と言えば当然、今回の一件の裏にエミヤが居ると分かれば、その活躍を聞き及んだことがある面々や直に関わりのある面子は対応を変える。

 

「まぁ、仕方ないですよエミヤさん、むしろここまでの場をセッティングしてくれただけでもどうやって恩返しすれば良いか分かりません」

 そう言いながらも少しの震えを見せるニコ、

「そうだな、ここまでして貰って更に頼るのは、それこそ依存に近い物になる」

 エミヤの腕を放し歩み寄ったユキノはニコの下へ、震える手を取り、しっかりと繋いで見せた。

 

 何も言葉は出さずに、そのユキノの空いた手をオトギが繋ぐ。

 ニコとユキノが、ユキノとオトギが、オトギとクルミが手を繋ぎ、四人で繋いだ手に震えは無かった。

 

 その姿を見せられれば、不安も消えた。

「――では、明日の事について説明するぞ」

 

 だからこそ、エミヤも腹を括った。

 

 

 

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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