クロノススクール 報道部 会議室
紅いシャツに黒のネクタイ、そして黒に紅のストライプが入ったスーツジャケットとパンツを履き、普段とは違う硬質な革靴を履き、エミヤは立ち上がった。
目の前に広がる幾つものモニターの中に何人かの見知った顔を見つけ、無自覚にしていた緊張が僅かに解れる。一つのモニターで喋り出そうとしたピンクの髪の少女が口にロールケーキをぶち込まれて黙らされ、そのまま別室に運ばれていく様子を見て思わず笑い出しそうになる。
――しかし、私が伝えるのはこの会談の場で、SRTに権利を与えるに足る理由と、連邦生徒会に権利を与えない理由だ。
だからこそ、始まりの言葉は少し過激にいこう。
「この場を設けさせて頂いたエミヤだ。お集まり頂き感謝する、責任を持ちながら――
さぁ、悪いが突かせて貰うぞ。
SRT学園閉鎖という決定を降した連邦生徒会の、呆れる程の未熟な点を。
「失礼するわ、ミレニアムサイエンススクールのセミナー会長、調月リオです」
暗い室内に用意されたモニターの中の一つが大きくなったことから、発言者のモニターは拡大表示されるのだろう。
「今の言葉の意味を説明して貰わなければ、この話は進められないと思うのだけれど?」
怒っている――という訳では無く。シンプルに意味を理解する為に問うているのだろう。
聡明な女性である事が一目で分かる。
そして、優しさもあるのだろう。
ここで『失礼な言葉』や自分の抱いた感想を含めない辺り、純粋に発言権だけをエミヤに渡している。
やろうと思えば今の発言一つでエミヤに対する第一印象を悪い物へと操作する事も出来た中で、そうしなかった。
「失礼した。だが私は今回の議題、SRT特殊学園の閉鎖決定について非常に遺憾でな、てっきり君達もそうかと思ったので言葉にしたのだが」
「山海経高級中学校の玄龍門が門主、竜華キサキじゃが……連邦生徒会が多数決の上で決めた事じゃろう?遺憾を示そうにも何に対して示すのじゃ?」
やはり……と、エミヤは疑問が確信に変わった。
おかしいという事実にこれだけ頭の良い人間が集まって、気が付けない事に。
悔しい事にソレが何故なのかは分からないが、連邦生徒会はやはり
いや、
恐らくは、コレも言葉にする事で違和感を思い出す様にしているのだろう。
将来的に訪れる『先生』が信頼を得る為に用意された仕組みかもしれんが、大事なのは今だ。
「では聞くが――SRTの閉鎖に伴い発生する自治区内の保安部隊では解決出来ない事件に対する対応、SRT解体後にヴァルキューレに所属する予定のSRT特殊学園のメンバーを各学園の保安部隊に招致可能か否か、発生する解決不能な事態で起きた損害はSRT特殊学園の閉鎖に起因する物である為にあっても良い筈の連邦生徒会からの補填、二ヶ月後と定められた期間内に保安部隊の増員や強化が出来ない場合の犯罪への対応策――」
咳払いを挟み、
「まとめるが、SRT閉鎖による弊害を負うのは各学園の自治区であるにも関わらず、連邦生徒会内部での決定で進められる今回の閉鎖、正当だと思うのならば名乗り出て欲しい」
この場におけるエミヤの仕事は、これだけ。
モニター越しに伝わる騒めきが教えてくれる。
やはり、何も連邦生徒会から話が届いていない。
「はいは~い、うへぇごめんね、アビドス高等学校の対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノだけど、あぁ正当性の主張じゃないから安心してね、確かSRT特殊学園って自治区を超えて事件を解決してくれるんだよね?」
のほほんとした声からの問いにエミヤは明確に答える。
「その通りだ――例えるならば武装面、人数面、技術面において当該自治区を取り仕切る学園保有の保安部隊では対応が難しい場合に出動するのがSRTであり、複数の自治区に跨り犯罪行為をする者など捜査や逮捕の際に早期の解決が望まれるにも関わらず学園間の摩擦や相互関係から動きにくい場合にも出動する事がある」
うわぁ~と苦し気な声の後に、
「じゃあウチなんて全校生徒五名だよ?そんな凶悪犯罪者がやって来た時にSRTが無かったら自分達で解決しろって話になる訳だよね?無理無理~、そんな資金の余裕も人材もウチじゃ無理だよ~」
アビドスの現状を知る者であれば、誰もが今回の決定がおかしい物であると分かる事を言ってくれた。
「百鬼夜行連合学院の陰陽部、部長の天地ニヤです、いやぁ、言われるまで何で気付かなかったんやろか……?ウチも今ちょろっと保安や自治ってなるとややこしい事になってて、連邦生徒会はどうして各自治区に尋ねたりしなかったんでしょう?」
当然の疑問だろう。
「一応の推論は付けている……その推論に確信を得る為にも、今の話をさせて頂いた」
そして答えを持っていない事が申し訳なくて仕方ない。
「会長に代わって失礼いたしますが、レッドウィンター事務局秘書室長の佐城トモエと申します。今回のSRTの閉鎖において、我々には百害あって一利無しという事で、お間違いは無いでしょうか?」
「……正直、なんとか利があるのかと探したのだが、各学園の自治区内で行動されるのを嫌がる理由でも無ければ、一切の利は無く害のみかと」
そう。
今回の決定で得をする学園が無いのにも関わらず、むしろ害を与えるにも関わらず。
何故連邦生徒会での決定を当然の様に各学園の生徒会に当たる組織が「はいそうですか」と受け入れたのか、エミヤはソレがずっと引っ掛かっていた。
なので、もしやと思いこの場で明らかにしたい狙いもあり発言したが、正直、コレだけで流れは変わる。
「コレに私が気付けたのが、ヘイローを所持していないからなのか、私の出自がキヴォトス外だからなのかは分からない、だが、コレを伝えなければいけないと思い、この発言だけさせて頂いた」
一斉に静まり返る室内で、モニター越しに人々の眼の色が変わった。
エミヤという個人の価値がこの一瞬でどれだけ跳ね上がったのか、ソレをエミヤは理解していた。
望ましくはここまでの注目を集めたくは無かったが、既に括った腹だ。
ここまでの流れの全てが想定の範囲内だった。
「――誤解しないように伝えておきたいが、恐らくこの違和感を持つのは連邦生徒会に所属している者達も同じだ。既にどの学園も自前の諜報機関で掴んでいる情報だとは思うが、連邦生徒会長の不在が長引き、失踪という扱いになるからといってこれだけ多岐に渡り活躍できるSRTを何の対策もせずに閉鎖するのは
「へぇ……」「ほう……」「ふふっ」
何名か好意的な反応を見せてくれたのを確認し、エミヤは立ち上がり、
「それでは此処からが本題、SRTを存続させる上で必要となる各学園への干渉権限について――此処から先、私の発言が効力を持ってしまうのは先程のやり取りで承知している。故に、私という存在を度外視で、彼女達の発言と責任から判断して欲しい」
「……成程ね」「あら~」「いい男やねぇ」
段々と恥ずかしくなってきた。
「それでは、時間を割いて頂いての途中退室、大変申し訳なく思うが……失礼する」
あとは任せるしか出来ない、その事に歯痒さを覚えながらも通り過ぎた後にユキノとニコ、そしてクルミとオトギと音がしないようにハイタッチを交わして部屋を後にする。
扉を閉めた後ですぐさま耳元のインカムの電源を入れ、スマホを操作して周波数を合わせ連絡を取る。
「それで、どうだそっちの方は?」
その言葉に応答したのは、
『エミヤ!?手が空いたなら早く来て頂戴!?もう山の様に来てるわよ!コユキなんてさっき落ちて来た無人ドローンが頭に当たって半泣きなんだから!』
『うえぇーん!エミヤさーん!アイツら神風特攻して来るんですけどー!しかも何故か私ばっかり狙って!なんでぇーーー!?』
『エミヤさん!私二十八機も落としました!』
『エミヤーン!あいつ等結構色んなルート使ってるからもしかしたらすり抜けてる奴いるかもー!』
『エミヤさん、社長はあぁ言ってるけどこっちは何とかなりそう、コユキも……あっ、いや、お腹に特攻喰らってるけど良い感じに敵が集まってるから大丈夫だよ』
頼れる仲間達だった。
「はぁ……相変わらず流石だな、私の仲間は」
元々、今回の会談が邪魔されるのは想定済みだった。
何せキヴォトスに存在する全ての学園の代表者がオンラインとはいえ何処かに回線を繋げて会談するのだ。
それこそ今回カヤに悪事をそそのかしたとある会社であれば、間違いなく嗅ぎ付けるだろうとは思っていた。
元はと言えば今日の朝、朝早くに今着ているスーツに着替え、待ち受ける会談に出掛ける為に気合を入れていた所、家を出ようとした所で便利屋の面々に待ち伏せされていた。
「な、なぜ……!?」
と思ったが、愚問。
「エミヤンさぁ、どれだけ一緒に過ごしてると思ってるの?あれだけ唸って昨日も一昨日も何か考えてたら、そりゃあ私達は気付くって」
「ハルカが掲示板を、コユキが各学園の内部データを漁ってみたら、クロノスの内部データベースの機密ファイルの中に今日の朝から何か会談があるって、そこの開催者の名前がエミヤさんだった」
「け、掲示板の方では全く情報が出ていなかったので、一般の生徒には知る事が出来ない重要な会議なのかと」
「でーすーがっ!日頃から私みたいに複数の学園の面白情報を探している様なところがあれば今回のってバレちゃいますよね~?」
「という事はエミヤのあの表情は、何処かに今回の会談がバレる事を想定して、その上で臨もうとしてる覚悟の顔だって思ったのよ」
次々と出てくる回答にエミヤは困惑せずには居られなかった。
「待て待て、それで私が会談に挑むのが分かり、何かにバレて覚悟が必要な出来事があるとしよう……何故ここで待っていた?」
その質問に、便利屋の面々が一斉に、ハルカまでもが溜息を吐いた。
「あのねぇエミヤ、
「……へ?」
「鈍いわねぇ、今更エミヤを助けるのに私達に理由が必要だと思ってんの?」
「鈍感」「エミヤさんってたまに馬鹿ですよね」「エミヤンらしいけど」「ほんと、馬鹿」
散々な言われようだった。
「どうせまた格好良い事でもしようとしてるんでしょ?じゃあ良いわ、
エミヤは呆然とし、その後に笑い出した。
涙が出ていたのはきっと笑いすぎたせい、仲間というのを強く意識して思わず涙が出たわけでは決してない。
「全く……私の仲間達は私でも行動が読めないと来た」
「当り前じゃないの!アウトローに常識なんて通用しないもの!」
こうして参戦した便利屋68の面々にクロノスに続く道を守ってもらっているのだが、その甲斐もあって先程の説明中にドローンがここまで到達する事は無かった。
それでもムツキが言ったように、事前に想定していた経路以外を使って到達する機体も出てくるだろう。
ならば此処からは、
建物から出ると入口で待っていた少女が「ふふふん」と機嫌よさげにエミヤへと歩み寄り、
「約束ですよ?コレ手伝う代わりに独占取材ですからね?」
その手に持ったFGM-148ジャベリン、固有カスタム名称ゴシック&トピックを掲げて意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「……待てシノン、街中でソレを使うつもりか?」
「へ?はい」
当然のように頷くシノンに、エミヤはもうどうにでもなれと思いながら弓を投影。
「せめて、一機もこちらに寄せ付けない働きを期待するよ」
「さあさあ珍しくぶっ放しますよ!街が壊れたらアイツらのせい!新しいスクープの出来上がりですよ!」
内心で頼む相手間違えたかなぁと思いながらも、段々と遠くから迫るドローンを見つめて気持ちを切り替える。
「悪いがこの建物では今未来を作っている途中でな、此処は通す訳にはいかん!」
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け