「結論から言いますと、SRT特殊学園の閉鎖には全面的に反対ですが、ユキノ様、貴女に干渉権限とSRTへの指令権を認めるという点に関しては――認められません」
トリニティ総合学園ティーパーティー現ホスト、桐藤ナギサが出した解答はソレだった。
モニター越しに集まった首脳陣と呼んでも差支えの無い面々は、これまでのFOX小隊の活躍を一部ではあるが知っている。知っているが故に、彼女達は運用される側であり、運用する側では無いという見方が多い。
SRT特殊学園はその専門性と機密性から生徒数も少なく。全校生徒を合わせても三十人もいない、その中に実働部隊、諜報部隊、輸送班、オペレーターが存在し運用される。
「ですがそれはこれまでの貴女方の経験からの反対です。もしもソレに勝る何かがあるというのであれば是非お話し頂きたいのですが、ございますか?」
故に組織の長として相応しいかを問われれば否となってしまう。
そこで問うたのは経験に勝るナニカ、組織の長として認める事が出来るに足るモノ。
ただ否定するのでは無く問いかける形にしたのはせめてものナギサの優しさだった。
「そうですね――それでは、想いを」
ユキノの選択は、あまりにも曖昧な物だった。
しかし、その場に集った首脳陣の誰一人、その言葉に口を挟まなかった。
知ってか知らずか、ソレは非常に重要な物。
誰しもが守りたい物や貫きたい意志があり会長や議長の場に座っている。
今、見定める時。
「流石に――ッ!」
宙、足場のない状況でありながら、エミヤは跳ね回る。
限定的かつ部分的な障壁の展開などという高等魔術では無い、ただ倒したドローンが堕ちる前、浮力を失う前に足場にしているだけだ。
「――多いッ!」
大・中・小の様々なドローンは明らかに想定していた量を超えており、これほどまでに大々的にクロノススクールに攻め入ろうと動いてくるのは流石に予想外。
更にはまるで試すが如く動きを変えて前衛と後衛に分かれて攻撃を仕掛けてくるドローン達、ただ妨害する為に数を用意されたのでは無く用途に応じて使い分けられる戦力が投入されている事は明白だった。
「すっご……私要らなかったんじゃ?」
そう言いながらもジャベリンを的確にエミヤが接敵する前に大型ドローンへと当てて無力化していく。
「まぁ、最高の画が撮れているから私からすれば得しか無いから」
独占取材に加えて戦闘に使用すると想定された場所をエミヤから聞いていたシオンは、事前に周囲に街中の監視カメラに見せかけた報道部の定点カメラを仕込んでいたので、エミヤが見せる超絶技巧の戦闘を全て映像として収めていた。
「とはいえ、幾ら何でも数が増えてき過ぎている気が――」
「なんだあの化物は」
クロノススクールすぐ近くのビル、とある会社が所有する建物の十二階からエミヤを見下ろす者が居た。
「お伝えしていた通りですよ」
その見下ろす者の背後から近付いて来る革靴の音、二人は並び立ちガラスの向こうで乱舞するエミヤの戦闘に一人は恐怖に似た感情を、もう一人は狂喜に似た感情を覚えていた。
「『宿すのではなくそのもの』という話か?貴様の計算とやらでも至れぬ、『役割ある神秘』や『遺産』よりも価値がある究極の個とは、あの戦いぶりを見れば納得だが」
「いいえ、ソレ以上――あるいはマエストロが見れば怒りと賛美を送るでしょうね」
「……やはり私では理解できない、いや、理解しなくても良い話か」
「クックック……そうですね、到底『理解』や『計算』出来る物ではありませんよ、私ですら幾つもの仮定を重ねたうえで行き着いた論に自分で納得出来ていないのですから」
肩を震わせる黒いスーツの男が「それよりも良いのですか?」と機械の面に軍帽を被った男に問いかける。
「何がだ?」
「いえ、送られてくる映像とこの場所から見える情報でドローンに指示を出していると思うのですが」
勿体ぶった言葉に機械の男は苛立つが言葉を待つ。
「――どうやら、実戦形式での指揮はあまり経験が無いらしいですね」
「何を言うかと思えば、鎮圧や奇襲はそこらの生徒を相手に何度もしている」
再び肩を震わせて笑い出したスーツの男に「何が言いたい?」と答えを求め、
「いえ、それでは当然ですね、初めての経験となるでしょう――」
視界の先、踊るように攻撃を避けながらいつの間にか持っていた短刀で遠くのドローンを一度に三体破壊したエミヤが映る。
「戦争を知る者との戦いは」
「とある人に言われました。各学園から干渉権限を貰い、自分達がSRT特殊学園の生徒会となる案、コレを思いつけなかったのは仕方が無いと」
モニターの向こうから送られる視線に、ユキノは己が試されている事を理解していた。
試されて尚、ユキノが選んだのは強い己を演じる事では無く。
ありのままの自分を曝け出す事だった。
「ソレは私が子どもだから仕方が無いのだと、どうする事で責任が発生し、どのような立場にある事で責任を持つことになるのかを理解していなければ、仕方が無いのだと」
耳を傾ける面々の中、誰もが誰が伝えたのかを察していた。
まともな会話をした事が無いキサキやニヤでさえも、先程の十分にも満たない場でそういう事を言う人だろうと予想が出来た。
「本当に……悔しかった」
場の静けさとは別、白けたのでは無く言葉を待つ優しさがそこにはあった。
「認めざるを得なかった。私は子どもだったのだと、言われた事をこなし、与えられた目標を達成し喜びを覚える子どもだったのだと」
握り締める手にニコがそっと指を添えた。
言葉を掛ける訳では無いが、それだけで充分だった。
「だけど、私は、私達は子どもではいられないとその時に教えられた」
何処か俯きがちな眼が、確と前を向く。
「優しくも厳しい言葉だった。そしてソレには意味があった。このままでは、私達では守りたい物を守り通す事が出来ないぞと教えられた」
そこには覚悟が篭っていた。
見えない光を探して彷徨う子どもでは無い、見えない光を求めて進む大人の眼があった。
「ならば私は大人になろう。託された想いに応えよう。任された責任に報いよう」
モニター越しには見えない角度で、ユキノの背に二つの掌が押し当てられていた。
小さくも暖かく頼りになる
「守りたい愛する学園の為じゃない、私が大切にしたいのは――
「学園を守りたいと、愛していると感じてくれる皆の為、皆を守りたい、愛したいと願う私自身の為に、私は責任を背負わず向き合おう。責任から目を逸らして背負うよりも苦しい道を選ぼう」
その言葉を告げると同時、感じる事が出来る者にだけ分かる『神秘』の量と質が跳ね上がった。
それはモニター越しにさえ有効、『神秘』を感じずとも覚悟が伝わる宣誓。
「私が求める干渉権限、コレは貴女方が凶悪な犯罪から守られる為の物じゃ無い、私達の存在と学園の価値に意義を与える物、私達が貴女方を守らせてもらう為に必要な物だ」
そして、続けられる。
「私が求める指令権、コレは愛する仲間や後輩を死地に追いやる責と向き合う為の物、決して他者に任せてよい物では無かった――そう、それが連邦生徒会長であっても」
その固い拳をデスクに叩き付け、告げる。
「コレが想いだ!自分都合に塗れた汚い想いだ!だが、だがこの想いだけは――誰にも上塗りできない確固たる物だ!」
既に破壊したドローンは優に百を超え、明らかな過剰戦力を投入して来ている事は明確だった。
エミヤの下に辿り着いたのがそれだけの数という事は、既に前線は――便利屋68は限界を迎えているという事だ。
囲まんとする無数のドローンを足場に、宙へと跳び上がり自らの一方向に敵を集める。
「はぁぁあぁあッ!」
その視界に映った前方を埋め尽くさんばかりのドローン隊に向けて、
「
己の内より外へ、周囲の空間が揺らぎ数多の剣が姿を見せる。
それは解析からの投影では無い、己の固有結界内に保有する剣を外へ出すだけの作業。
「――
しかし、その上で更に、己が投影した
「――
その上で投影するのはガワだけ、質量のみを模倣し投影する。
それを――繰り返す。
さすれば撃ち出される剣は幾重にも増え続け、
「
迫り来る敵を全て打ち倒す。
されど、エミヤを以てしてもあまりにも多い敵、あまりにも先の見えぬ戦い。
魔力に問題は無くとも、このままでは撃ち漏らしが出てしまい兼ねない。
『エミヤさんごめん!流石にもう弾切れ!』
インカムから聞こえて来た心からの謝罪に満ちたシノンの声を聴きながら、投影した黒弓を用いて矢を放ち、遠方から迫るドローンを三機まとめて貫き破壊する。
『エミヤ!私達ももう限界だわ――コユキをおぶって撤退するわよ!』
インカムから聞こえて来た葛藤の中の苦渋の決断を選択したアルの声を聴きながら、数を増して迫りくるドローンの群れに向けて、見た事は無いが受肉時に知り得た
『にははは、エミヤさん……私、頑張れましたよ、えへへ、誰かの為に体を張るのって、こんなに頑張れて……力不足って、こんなに悔しい物なんですね』
インカムから聞こえて来た涙声で後悔を口にするコユキの声に歯噛みしながら、
『え、エミヤさん、力不足で――ごめんなさい』
インカムから聞こえて来た未熟を嘆くハルカの声を聴きながら、何度目となるのか物陰に隠れ、補足してきたドローンを破壊し接地した事で大地を揺らす
『エミヤンごめん、無茶しちゃった。怒らないでね?』
インカムから聞こえて来た痛みに声を震わせながら気丈に振舞うムツキの声に後で説教だなと思いながら、目星を付けた地点に向けて駆け出す。
『――――』
敵の攻撃により気絶し言葉も聞こえないカヨコの声無き声に、最大級の感謝を胸にビルの側面を駆け上がり、一息に屋上まで駆け跳び上がり空へと躍り出る。
『どうか、守り抜いて』
エミヤの想いや思想を知り、その目的を知る少女達の切なる願いを耳に、屋上から落下しながら追いかけて来たドローンを破壊――
――そして、駆け上がり今は落下中ビルの十二階、弓矢を引き絞り整えられた体勢で、ただ一瞬、十二階の室内をガラス越しに通過する一瞬で。
「皆、感謝する」
放つ。
その一矢は的確に機械の頭部を貫き、数秒後には宙に浮かんでいたドローン達が一斉に落下した。
「――キキキキッ!ユキノとやらよ、その想いの丈……大いに結構!守りたいという想いは行動原理として充分に強い物であり」
言葉を紡ぐマコトは、野性味を帯びた笑みから一転、誰かを想う優し気な笑みへと変わる。
「長く、強く、消えない物だ」
それも一瞬、すぐさまいつもの笑顔に戻り、最後の問いをユキノに投げた。
「だが、責任――向き合うと決めたその責任から貴様は目を逸らさずに、目を瞑らずに居られるか?いや、出来たとしよう――だが、責任に対する判断を誤らずに居られるか?」
ユキノは思わず笑みを浮かべた。
先程から感じる熱に、その答えはあるのだから。
ユキノの後ろでは無く横へ、ただ一歩、されども一歩、同じ覚悟を背負ってFOX小隊が揃い踏む。
「その為の、生徒会です」
ニコが告げたその答えが、全てだった。
「妾から聞きたい事はもう無いの、既に
「最後に質問をされたゲヘナの議長さん、貴女はどうでしたか?今の答え」
問いに答えるマコトは嬉しそうに、何処か別の何かを見ながら答えた。
「ウチにも最近ようやく
こうしてこの日、SRT特殊学園 統括部隊 大隊長 七度ユキノが誕生し、同時に各学園より彼女へと干渉権限を認める発表がクロノスを通じてキヴォトス全土へ公開された。
残すは連邦生徒会に認めさせるのみ、大団円まで、あと一歩。
「クックック……私の言った意味、ご理解頂けたでしょう?」
とあるビルの十二階、物陰から姿を見せた黒いスーツの男は破壊された機械面の男の頭部を持ち上げ、その内部から小さなメモリを取り出し、答えは返ってこないと知りながらも尋ねる。
「便利屋68庶務エミヤ……彼は
翳した手の先の空間が揺らぎ、揺らいだ空間へと歩を進ませながら、ビルの下部で佇むエミヤへと視線を送る。
「彼の動きを奇妙とは思いませんでしたか?時折物陰に隠れる事に……彼の持つあの技術であれば
ソレは戦場を知る者であれば気付けていた事、無人ドローンなどと何処かに指揮官が居なければ動かせない物。
もしも指揮官が遠方に居るのであれば、エミヤが物陰に隠れた時に発見するまでは時間が掛かる。
それを敵は隠れた位置へわざわざドローンを飛ばして来た。
つまり、戦場が見える場所に指揮官が居る事を自ら明かしている様な物だった。
そして敗因はそれだけでは無い。
今回の戦い、とある会社側から見れば会談を邪魔する行為にエミヤが防衛として出てくることは明白だった。
聞き及んでいる個人の武としてはかなりの物であり、黒いスーツの男からの助言もあり機械面の男は自身が保有する空軍ユニット、つまりは無人ドローンの全てを注ぎ込んだ。
歩哨ユニットを今回持ち出さなかったのは単純な理由、今回の会談を邪魔する事が出来た時、その先に待つ展望を見据えた時、再補填するのに掛かるコストが圧倒的に無人ドローンの方が安いからだ。
だが、一体誰が責められようか?
機械面の男は自身の保有する無人ドローン全てを差し向けて尚、エミヤには及ばなかった。
最適解は全軍の投入、そんな決断をする事は不可能だ。
「戦術の知恵を持ち合わせぬ生徒達との戦いでは得られぬ経験でしょうな」
その点は同情しますよと告げ、メモリをポケットに仕舞い込む。
「――『構造の理解者』『複製の極致』『己の物語を力に変える者』『強キ者』とは、なんとも興味深い」
怪しげな笑みの下、男は揺らぎの中へと消えていく。
「そして、『お耳の恋人』でもありましたか、クハッ、ククッ、クックックック!」
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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エロ書け