便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第三十四話 テウメソスの狐編 ⑦ & 『先生』

 

 

 その後の流れは語る程の事では無い。

 

 会談の二日後、連邦生徒会はSRTの閉鎖で考えられる危険性をやはり把握しておらず、再度の決議が行われ閉鎖は撤回、全ての学園自治区から干渉権限を認められているユキノ達FOX小隊は正式にSRT特殊学園の生徒会として認められ、連邦生徒会の所属では無く独立した学園として設立が決定した。

 

 最初、各学園が自分達の私有地から学園の設立に使う敷地を是非使って欲しいと手を挙げたが、流石にそこは連邦生徒会が待ったを掛け、かなりの予算が割り当てられていた連邦生徒会長の捜索費から捻出され、それまであった訓練施設や物資の貯蔵庫、様々な場所に存在する緊急のセーフハウスはそのまま維持、新しくヴァルキューレ警察学校の近くにSRT特殊学園統括センターが建立する運びとなった。

 

 最大の問題は不知火カヤだ。

 SRT閉鎖の危険性を完全に把握していなかったとはいえ、彼女がビジョンとして描いていたのはSRT閉鎖後の物、間違いなく閉鎖後に起きる混乱は理解していただろう。一見矛盾の様にも思えるが、連邦生徒会長がどのような手段で危険性を把握できなくしたのか分からない以上、今となっては分かる術も無い。

 

 しかし、カヤが計画していた事がキヴォトス全土の機能不全を前提としていた以上、それは罪だ。

 

 防衛室長室の鍵を掛け立て籠もろうとした彼女を捕まえたのはヴァルキューレ警察学校の局長である尾刃カンナだった。今回の一件の責任を取る意味でも非常に張り切っていた彼女はカヤの部屋に突入した。

 

「不知火カヤ、もう終わりにしましょう」

 室内の何処かに隠れているであろうカヤは姿を見せず。

 呆れたように息を吐いたカンナはそれまで纏っていた堅物な雰囲気を捨て去り、彼女の異名でもある『狂犬』としての、職務に当たる際の彼女本来のソレを前面に押し出した。

 

 途端、静かな筈の室内が息苦しい程の重圧を帯び、デスクの下に隠れていたカヤはあまりの圧に恐怖を覚えたが、それでも何とか声を漏らさずに我慢できた。

「それでは……私がもしも、この部屋を出たとしましょう」

 しかし、カンナはカヤを見つけようとするでも無く言葉を並べた。

「ここで私が貴女を見逃したとしても、私は貴女を追い掛ける」

 冷徹に、感情の込められていない言葉は事実を述べているのだと理解させるのに相応しく。

「えぇ、そうしましょうか、その方が楽しそうだ」

 聞く者にとっては絶望的な宣誓でしか無い。

「貴女を捕まえそうになる度に何度でも逃がしてあげましょう――そして、貴女が私は捕まえないと安心しきっているタイミングで、何処までも乱暴に、何処までも希望無く捕まえます」

 

 本当は何処に居るのか分かっていながら、あえてデスクを足で蹴り、まるで言外に『聞いているのか?』と伝える様な乱雑さを以て恐怖を与える。

「覚悟しろ、逃げても逃げても補足され、その牙がいつ喉元に届くのか分からない恐ろしさを味わわせてやる」

 そして、デスクの裏側に回り込み、既に見えているカヤの耳元まで顔を近づけ、告げる。

 

「聞いた事ぐらいあるだろう?『狂犬』の名を」

 

 それでもカヤは声を漏らさなかった。しかし、大人しく両手を挙げてデスクから出た。

「今捕まる事を選びましたか……しかし、最後まで悲鳴を漏らさなかったのは流石防衛……いえ、行きましょうか、不知火カヤ」

 そうして、カンナに連れられて部屋から出たカヤは涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

 

 そして悲鳴を漏らさなかったカヤは賞賛されたが、着ている連邦生徒会の制服の一部が黄色く染みており、別の物を漏らしていたのを伝えるのは酷という物だろう。

 

 こうして矯正局送りが決定したカヤ、ヴァルキューレの面々は矯正局へ送る為に車両を走らせ、カンナは助手席で見た。

 これから収容する筈の矯正局から煙が上がっている姿を。

 

 

 

 時を同じくして、今回のSRT閉鎖撤回の流れを知る各学園の首脳陣は信頼のおける生徒へとある指示を出していた。

『連邦生徒会長の失踪について尋ねて来い』

 シンプルだが重要な任務であり、彼女達はサンクトゥムタワーへと集まっていた。

 

 数々の来訪者を迎えるサンクトゥムタワーだが、その日迎えたのは外からの来訪者だけでは無かった。

 

 

 

 エミヤはD.U.地区の病院の屋上、風通しの良いその場所でシグレと共に居た。

「上手く行って良かったねぇエミヤさん」

「――あぁ、ユキノ達の立場はこれから弛まぬ勉学を必要とする物となったが、彼女達が守りたい物の為だ。続けて行けるだろう」

「そっかそっか」

 非常に軽い調子で返すシグレに、エミヤはやれやれと肩を竦める。

 

「シグレ、ありがとう」

 唐突な感謝に、シグレは困惑した。

 明確に言えば感謝に困惑したのでは無い、思い当たる節はあったのだから。

 しかし、何故バレているのかに困惑した。

「い、いやー、なーんの事か私にはさっぱり」

「誤魔化さずとも良い、あの会談の日、傷だらけでカヨコも気絶し、聞いた話ではハルカがカヨコを、アルはコユキを運んで撤退したとか……それでは、ムツキだけで撤退の中、襲い来るドローンを退けたのか?」

 既に知っている答えにエミヤは口元に笑みを作る。

「答えはNOだ」

 

「いやー、人に感謝されたり恩を作るのって苦手なんだけどなぁ」

 あの日、シグレは月見会の面々に対して「荒事はパスだなぁ、頑張ってねエミヤさん」と告げて良い報告を待っているよと笑みを見せて見送った。

 しかし本当は、エミヤと便利屋68の双方を観察し、どうしても手が必要なタイミングがあれば助けに入ろうと考えていた。

「安心しろ、私を除いて君の助力に気付いている者はいない」

 結果として便利屋68の負傷が激しく。

 その場から撤退すると決めた際にシグレは陰ながら支援した。

「その場に居なかったのに確信を持っているエミヤさんが怖いんですけど」

 ソレは内緒にしておきたかったが、目の前の人物に隠し事が出来そうにも無いと判断したシグレはすぐさま認め、悔しそうに唇を尖らせた。

 

「今からもう二週間前か、ニコが初めて月見会を欠席した日」

 唐突に話が飛んだとシグレは首を傾げたが、思い当たる節があり段々と顔が赤くなる。

「え、エミヤさ~ん?」

「ニコが来ない事を悟った我々が便利屋の事務所に移り、その日の月見会を終わらせて解散した後」

 確実にその話だ!と確信し、シグレは耳を手で覆う。

「君は、ニコを待つために公園に長い事居ただろう?」

「わーーー!なんで知ってるのさ!やーーめーーてーー!私そういうのしてるって知られるの恥ずかしいから!」

「何故だ?実に良い事じゃないか、友達想いで素敵だと思うが」

「そ、そりゃあ……友達だし、もしも公園に後から来てたら寂しいかもって思ってたけど、あの日エミヤさん公園に居なかったじゃん!?」

 

 顔を真っ赤にさせて尻尾を膨らませ、ヤケになりながら叫ぶシグレにエミヤは自分の眼を指さした。

「私の眼はな、四キロ先までの物であればしっかりと見えるんだ」

「は……?」

 その瞬間、シグレは『なんだこの化物』と思ったが、言われてみれば自身の相方が『め、目が合った!望遠鏡越しに!手振ってくれた!』と慌てていたのを思い出し、そういう事かと腑に落ちた。

「はぁ……受け取っておくよ、感謝」

「あぁ、改めてありがとう」

 屋上の柵に寄り掛かったシグレを撫でるエミヤ。

 口元は尖らせながらも尻尾はぶんぶんと振られており、シグレ自身、そう悪い気はしなかった。

 

 そんな二人の時間を割くように、エミヤのスマホが鳴り出した。

 画面に表示された名前は『七神リン』、ソレを見てエミヤは察しが付いた。

 

 ――そうか、来るのか。

 

「もしもし、エミヤだが」

『エミヤさん!?あぁ良かった繋がって……今日というタイミングでのご連絡、既にお察しとは思いますが』

「あぁ、遂に来たのだな」

『はい……それで―――』

 

 その後、リンと電話しているエミヤを見守っていたシグレは段々とエミヤの顔が蒼褪めていく様子にバリバリの嫌な予感がした。

 電話を終えた後、エミヤはシグレに「すまない、行く所が出来た」と告げると、答えも待たずに宙へと躍り出た。

 

 その姿を見送りながら、もう聞こえない距離までエミヤが遠ざかってから、一人ごちる。

「二人きりでの会話って滅多に無かったのになぁ……」

 そして、頭部に残るエミヤの手の温もりを感じながら、彼女は病院の屋上を後にした。

 

 

 

「エミヤ教官!?」

 シャーレに着いたエミヤを迎えたのは火宮チナツ、既に戦闘をこなしたのであろう構えられた銃を認めると、エミヤは「彼は何処に?」と尋ねた。

「先生ですか?先生でしたら確か地下に……」

「助かる!」

 

 走りながら壁に貼られた見取り図を確認し、地下までの道を最短経路で走り抜ける。

 エミヤはリンからの電話を思い出していた。

『実は、連邦生徒会長が所有していたサンクトゥムタワーの管理権限が失われまして――これで連邦生徒会長は名実ともに失踪という扱いになりました』

『いつの間にか現れていた先生の存在が確定した後、幾つかの質問にお答えし、連邦生徒会長からの伝言通り、その場に揃っていた生徒達でサンクトゥムタワーの権限回復の為に三十キロ程離れたS.C.H.A.L.Eに向かう事になったのですが』

『ヘリで現場に到着後、すぐさま先生が走り出してしまい――どうか今すぐ救援に向かって下さい!』

 あの人(・・・)が走り出した……?

『エミヤさんから預けられていた宝石と使い方の書かれた紙は一応お渡ししましたが、あの方もエミヤさんと同じくヘイローがありませんでした』

『もしも銃弾に当たれば――どうか、お急ぎを』

 考えにくい状況に尚更理解が追い付かず、エミヤは考えるよりも行動した方が良いと判断し、全速力でS.C.H.A.L.Eに辿り着いた。

 

 

 

 遂に地下室へ辿り着き、半開きになった扉を蹴り破ったエミヤは思わず叫ぶ。

「無事ですか(ロード)!?」

 しかし、エミヤの眼に飛び込んできたのは全く予想外の存在と光景。

 

「カッ……♡」

 狐面の少女を背後から首を絞めて持ち上げる恩師(・・)の姿。

(ロード)?誰と勘違いしている――弓兵(アーチャー)

 忘れよう筈も無いその男、己を弓兵(アーチャー)と呼ぶ存在。

弓兵(アーチャー)……いや、髪を下ろしていれば直ぐに分かった物を、何故あの戦いでは正体を隠していた?」

 無機質なまでの声のトーン、そして英霊さえも相手取る暗殺拳の使い手。

 

「私にとってはそこまで時は経っていないが、貴様にとっては久しぶりだろう――衛宮士郎」

 かつて相対した敵、魔術師(キャスター)のマスターにして衛宮士郎の恩師。

「先生って……アンタの事だったのか……!?」

 友である一成が兄と慕い、衛宮士郎にとっては確かに恩師であり既知の人物。

 

 

 

「葛木……宗一郎!」

 

 

 

 




※一応なのですが、最初から葛木と決めておりました。
 ウェイバー君を期待していた人は本当に申し訳ありません、条件が一緒なのでミスリードに利用させて頂きました。

 教え導くという点では圧倒的にウェイバー君なのですが、話や設定上、葛木だから来れた部分もありますので、その部分は今後物語で描いていければと思います。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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