「……なんだこのマイクは?」
『お気になさらず、目の前に人がいる様で良くないですか?』
クロノススクールの一室、先日と同じスーツ姿のエミヤはどこぞの王朝で使用されていたのか聞きたくなる華美な椅子に座り、目の前にダミーヘッドマイクを置かれ先日の約束を果たす為に独占取材に応じていた。
「まぁいいが、その、この子は……?」
『ペルシャ猫です。今日のエミヤさんの格好は裏社会に居てもおかしくないので、似合う子を用意しました』
「そうか、ふっ、甘えん坊だな、そんなに人の服に毛を付けるのなら耳をくにくにしてやろう」
『うぼっふ――そ、それでは、インタビューを開始します』
インタビューに当たるシノンは視聴者に近い形で音を録る為にもイヤホンを耳に挿しており、会談の日にはどちらかといえば粗雑な扱いをされていたのでエミヤの声に魅力をあまり感じていなかったが、唐突に繰り出された意地悪な笑みを浮かべながらの甘々ボイスに一瞬で心臓が高鳴り奇怪な声が出てしまった。
『本日のインタビューは独占取材を公表してから応募を受け付けた『エミヤさんに聞きたい事』と、我々の方で用意した質問から様々な事をお聞きしたいと思います』
「かしこまった」
『それでは一つ目の質問から、メールの文章をそのままお読みしますね』
エミヤさん、お便り失礼致します。私はトリニティにてシスターをしている者です。最近は懺悔をしに来て下さった方からお褒めに預かる事もあり、神に仕える身でありながらこの様な事を考えるのは未熟ですが、迷える子羊の方から褒められて嬉しく思い耳がパタパタする日々です。
今回エミヤさんにお聞きしたいのはこの恥ずかしい癖についてです。
私は嬉しい事があると耳がパタパタしてしまうのですが、シスターの身でありながら自身を律する事が出来ていない気がして未熟を恥じるばかりです。どうにかして耳がパタパタするのを抑える事が出来ないでしょうか?
『との事ですが、エミヤさんは耳がパタパタした事ってありますか?』
「私の耳がパタパタしていた所で気色が悪いだけだろう……」
『やっぱり無いですよね、という事で彼女の気分を味わえる様にこちらを用意しました』
そう言ってシノンが取り出したのは狐耳のカチューシャ、カチューシャなのだが頭部と接する箇所に幾つもの電子部品が見えており、恐らくは脳波で動くタイプだろうと予想できた。
「……今回だけだぞ」
白い狐耳を付けたところ、付けるまではピンと張っていた耳が付けた途端にペタンと折り畳まれた。
『あー、エミヤさんもしかして今恥ずかしがってます?』
「何を言って……あぁ、そういう事か、えぇい見るな見るな!ほら、質問に答えるぞ」
咳払い一つ、気持ちを落ち着けて耳も元に戻った。
「まず己を律するという点だが、シスターであれば無理に己を律する必要は無いのではないか?質問者の君はシスターであって人類の模範では無い、であれば、シスターとして考える事は崇める神が仕える者に何を望むかだ。果たして神が己に仕える者に感情の抑制を望むだろうか?教義として存在するのであれば君達にとっては守るべき物となるだろうが、もしもそうで無ければ人に望むのは繫栄だろう。見守る存在が健やかに過ごす事だろう。そう考えた時、嬉しさを表に出す素直な子を戒めるだろうか?むしろ好ましく思うのでは無いか?」
一度に多く語った事からシノンがポカンとしている中、エミヤは最後に自分の意見も含める事にした。
「私個人としては……その、以前君と同じシスターで獣耳を持つ子が居たのだが、非常に可愛らしく映ったな、うむ、愛らしくも敬虔な信徒であり、思わず好きにしてしまいたいと考えてしまった」
『その子をですか?』
「耳の方に決まっているだろう!?」
『ふふ、解答ありがとうございました。エミヤさんって神父さんとかも向いているんじゃないですか?』
「は?????」
軽い気持ちで聞いたらエミヤがマジ切れ一歩手前みたいな顔になったのでシノンは話を逸らす事にした。
『つ、次の質問です。質問者の希望から音声データでしたので文章化した物をお読みしますね』
クックック、素晴らしい活躍の数々に貴方への興味が尽きない者です。毎夜、貴方を思うと私の知的好奇心が刺激されべッドの中で疼いてしまう程です。そんな貴方に質問です。
このキヴォトスにて様々な者と関り、繋がりを得たかと存じますが、はてさて貴方はどの様な女性がタイプなのでしょうか?もし良ければ教えて頂けると大変捗りますのでよろしくお願い致します。
『との事でした。これは私も気になる所ですね、さてエミヤさん!答えは?』
「何故そんな誰も気にしない事を気にしているんだ……」
呆れながらも自分の中で答えを探し、言語化した後に口に出す。
「そう……だな、その人との未来を想像できるかが重要だと思うな、何があろうともその人との未来を諦めない覚悟……とまでは言わないが、その人との未来へ向けて努力する事が出来るかどうかは大事だ」
『ん~、それは素敵な答えなんですが、もっと外見とか性格とか』
まぁそうだよなと思いながら頬を掻き、
「美味しくご飯を食べる子だろうか……あぁ、食事の時は素直な様子が現れる。その場であっても笑顔で私が作った料理を美味しそうに食べてくれれば、きっといつまでも愛し合えるだろう」
『ひゃっ……え、エミヤさん、そんな甘い表情も出来るんですね……うわー、これは破壊力やばいや』
手を団扇代わりに顔をあおぐシノンをどうしたんだ?と首を傾げてみるエミヤに余計に恥じらいを増すシノンだったが、独占取材の機会を得たのだからしっかりせねばと気持ちを取り直す。
『そ、それでは次の質問です』
エミヤさんの好きな動物は?
「これは君達クロノスからの質問という事か?」
『はい、基本的な質問も含めておかなければと思いまして』
「成程な、そうか好きな動物か……むしろ大半の動物は好きなのだが、強いてあげるならば獅子だろうか?」
『獅子……ですか?』
「ん?何か意外か?好きな理由なども話せば『なんとなく』になってしまうから難しいのだが……」
『いえ、ふふふっ、なんだか幼さが垣間見える好みだったので、何ででしょうね、嬉しくなっちゃって』
なんだそれはと苦笑するエミヤにシノンも笑って返し、なんだか空気が緩んだ所で質問は次へ移行した。
『それでは次の質問なのですが、答えにくければ濁してしまっても構いません』
「む?分かった」
『それでは音声データをそのまま流しますね』
エミヤさんへ、前にエッチな事を教えて貰った者です。
あの時は私の誤解を正して頂きありがとうございました。
またエミヤさんに色々と教えて頂きたいのですが、依頼した方が良いですか?
それとも直接教えて貰いに行ってもいいですか?
よろしくお願いします。
「あー……この声は、成程、理解した」
すぐさまコハルからの物だと理解したエミヤは、エッチな事というのが耳は孕まない事だと連想し、他に勘違いがあってはいけないものなと納得した。
『えっと、ちょーっと質問にお答え頂く前に聞きたいんですが、このエッチな事を教えて貰ったって……』
「ん?(耳が孕むという言葉の意味を)教えたが……どうした?」
『へっ!?えっ!?あっ……えっ!?』
平然と答えるエミヤと赤面するシノン、思わずシノンは背後を向き今回の取材のプロデューサーに視線を向けるが、プロデューサーは鼻を押さえながら親指を立てていた。
「そうだな、軽く教えて貰いたい時は直接来ると良い、じっくりと教えて貰いたければ依頼にして貰えると助かるな」
『じ、じっくり……え、エミヤさんって大胆なんですね』
「……?」
全く理解していないエミヤと誤解が生じている事に気付いていないシノン、誤解は解けないまま質問は進行する。
『え、えっと、ひゃー!えっと、それじゃあ次の質問です』
こんにちはエミヤさん、私は周辺の人と比べると普通過ぎる一般の生徒です。ちょっとだけモモフレンズというコンテンツが好きなのが私の個性かな?と思っています。近頃凄く有名なエミヤさんですが、きっとエミヤさんにも普通の日常はあると思います。
エミヤさんが便利屋の皆さんと過ごされている日常はどのようなご様子でしょうか?もし良ければお教え下さい、よろしくお願いします。
『こういう質問良いですねぇ、どうですかエミヤさん?』
「そうだな、便利屋の皆との日常であれば……朝は皆よりも少し早く起きて朝食を準備して、三人が珈琲派で二人が紅茶派なのでそれぞれの好みに合わせた物を淹れて、完全な休日であれば便利屋で使う車両の整備や仲間達とゲームをしたりだな」
『……エミヤさん、一応お聞きするんですが便利屋の皆さんとの距離感は?』
「距離感?なんとも答えにくいが……あぁ、写真ならあるぞ」
そう言いながら取り出したスマホをシノンに渡し、シノンは映像に映らない様に気を付けながら画面を見る。
『えっ……!?エミヤさん膝枕とか、こっちのピンクの子はこんな薄着で……髪を乾かして貰ってるんですか?』
「ははっ、どうだ?仲良いだろう?」
その瞬間のエミヤの表情は、何処までも無邪気でまるで子供の様で、仲間との睦まじさを自慢出来て嬉しいというエミヤが今日初めて見せる勝気ながらも暖かい笑みを浮かべていた。
『わっ……!え、エミヤさん今の笑顔ダメです!なんですか今の!?』
「ん?な、なにがだ?」
『うわぁ……この人ヤッバ、え、ちょっとエミヤさん!?こ、これ、エミヤさんがソファーで寝てて、そこに女の子がお布団みたいに、これもうパパですよ!?』
「あぁ、そんな写真もあったな、不思議だよなぁ……旅をしている時はいつでも動ける様にって寝ていたのに、今の生活じゃそんな事を気にしなくて良くて、そんな風に寝られるようになったんだよな」
どこまでも柔らかな笑みを浮かべるエミヤに、シノンは段々とエミヤをどういう目線で見れば良いのか混乱し始めていた。
興味深い取材対象だった筈なのに、気が付けば取材という体裁を忘れてもっとこの人の事を知りたいと思う様になっていた。
『こ、こほん、エミヤさんの日常の様子は分かりましたので、そろそろ一度企画を挟ませて頂きたく思います』
「企画?それと、そろそろ
『あ、それはどうぞ、ではエミヤさん…………え、あ、そ、そっか、えっと、エミヤさん』
いきなり動きが緩慢になったシノンに首を傾げたエミヤは続きを促す為に数度頷く。
『わ、私を相手に、幼い子供をどんな風に寝かしつけるか、実演をして頂きたいのですが……』
「……えぇ?」
『ち、違うんです!今回の募集にあった質問の中に梅花園という所の生徒から子供の寝かしつけ方ってどの様になさっておりますかという物がございまして間違っても私の趣味や興味とかでは無いのでぇ!』
「成程、そういった理由か……まぁ、参考になるか分からんし、普段はコユキにやっているのと同じ様なものになるだろうが、良いだろう」
そう言ってくれたエミヤを別室に案内しながら、シノンは自分の耳にマイクを挿入、さらに超薄型コンタクト型カメラを装着しシノンも別室へと移った。
「……そう、だな、それでは今回は『子どもの』とある事だし、今から私はシノンのパパとして振舞おう」
『ほ、ほぉあ!?え、えっと、じゃあ、私はパパの娘に、なります』
最早ガチガチなシノンは緊張しながら室内を歩きエミヤの下まで辿り着く。
既にエミヤはクイーンサイズのベッドに肘を立てて横になっており、明らかにシノンの為に空けられたスペースがある。その部分をぽふぽふと叩き、シノンへと手を伸ばしてエミヤが一言。
「ほら、おいで」
己の心臓が張り裂けんばかりに高鳴っているのを自覚しながら近付いて行ったシノンは、頭の中で『私は娘、私は娘』と自分に言い聞かせていた。
『わ、わぁーい、パパぁ』
エミヤの手に己の手を乗せたシノンはベッドの上に簡単に招かれ、空いたスペースに柔らかく寝かせられた。
「ほら、今日も疲れただろう?いっぱい遊んだからな」
思わずエミヤの方を向けずに反対側に体ごと向いていたシノンは、突然視界を覆った陰に驚いたが、その後で体が引き寄せられ、背中に感じる暖かさと頭部に置かれた手の温もりから自分がバックハグの様な姿勢になっている事を自覚した。
鼻腔をくすぐるエミヤの香が『男』を意識させ、相手を『パパ』だと思おうと苦心しているのを嘲笑うかの様に思考を侵食される。
「ほら、力を抜くんだ、もう眠る時間だぞ」
そして、身体ごと反対側を向いていた事で耳は天井へ向いており、今は抱き寄せられた事でエミヤの口元が非常に近くに、それこそ何も喋らずに呼吸をしている時の音でさえも温度と共に感じられた。
「もしもシて欲しい事があれば何でもいいぞ、目元に手を置こうか?」
エミヤからすれば度々コユキが目元が疲れたと言うので行っている行為なのだが、シノンからすればお願いを考えるにも先程のインタビューの中で含めてしまったアダルティな質問のせいで意識をしてしまう。
既にエミヤは目の前にいる存在をコユキだと思い込むことに成功しており、いつもコユキにしている通りの行動を取っていた。
「どうしたもじもじして、そんなに脚を動かしていたら寝れないぞ」
そう言いながら、シノンの脚と脚の間に自分の脚を差し込み、片足の動きを封じる。
「ほら、ちゃんと寝んねしないと明日に響くぞ」
ただでさえ身体接触面が多く耳元で喋られて官能的な気分を刺激されていた所に脚まで差し込まれ、更には動きを封じられるという行為を受けてシノンは色々と危なかった。
『ぱ、ぱぱぁ』
何とか声に出せたのは普段とは違う甘えに満ちた声、シノン自身、自分の口からそんな声が出た事に驚いたが、『パパ』と呼べたことで安心感もあり、今は『娘』で良いんだと開き直る事も出来た。
『ぱぱ、ぱぱ、頭撫でて』
「ははっ、勿論良いぞ――ほら、よーしよし」
包む様に抱き締めた腕でそのまま頭を撫で、耳元で何度も「ちからぬーき、ぬき」と囁く。
コユキであれば「にははは、あったかぁい」と非常に気持ちよさそうに目を細めて体の向きを反転し胸元に頭をグリグリしてくるのだが、シノンはそのままの体勢で目を細めている。
「ほら、素直になっていいんだぞ、思うままに力を抜いて」
その言葉からはエミヤがいつも言葉に含めている威厳の様な物も抜けており、ただただ甘く耳に直接響いて来る低さを持っていた。
思考力は失わない様にと考えていたシノンだったが、命令形では無いにも関わらずその言葉には逆らう事が出来ず。まるでソレが自分の意思かの様に力が抜けていく。
「眠たくなってくると、気持ちいいだろう?ほら、どんどん気持ち良くなっていいんだ」
その言葉に一度大きくシノンの体が跳ねたが、エミヤは眠りに落ちそうなときに起きると発生するビクゥ!だと思い、そのまま頭を撫で言葉も囁き続ける。
「意識が遠くなってきて、どんどん眠くなってくる」
そして、シノンの呼吸が安定し、一定のリズムで行われ始めたのを確認したエミヤは最後の一言。
「おやすみ」
『大変失礼いたしました……れ、レポーターでありながら爆睡してしまうなんて』
二時間後、目を覚ましたシノンは赤面しエミヤへ謝罪した。
笑って許してくれたエミヤだったが、眠っている間にエミヤが動こうとすると腕をぎゅっと抱き締めて拘束していたのでエミヤも諦めて二時間シノンを寝かしつけていた。
『きょ、今日はこれで解散となりますので、もし良ければ後日独占取材をネットにアップロードしますのでお楽しみにしていて下さい』
「まぁ、今回は私も覚悟のうえで臨むとするよ」
こうしてエミヤの独占取材は終わった。
そして、云うまでも無い事だがとんでもない反響があり、眠っている間も語り掛けたり眠りが深くなるように声を届かせていたエミヤの尽力もあり、晴れて正式にエミヤのASMRが販売されるに至った。
クロノス三割便利屋七割の契約だったが、双方ともにとんでもない金額が振り込まれる事となり、クロノスはエミヤに脚を向けて寝れなくなるのだった。
そして、
「おや、シノンじゃないか、今日はこの辺りで取材か?」
「あ、エミヤさん!そうなんですよ、今日はD.U.地区で活動が始まったというS.C.H.A.L.Eの取材に来たんです!」
「……そうか、あまり取材に向いた人では無いと思うが、頑張れ」
「はいっ!それじゃあまたね、ぱぱ!」
「……ん?」
去っていくシノンも無意識に、しばらくの間油断をするとエミヤをぱぱと呼ぶ癖が抜けないシノンであった。
次回、UA35万記念、独占取材反応編!
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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