キヴォトス D.U.地区 便利屋事務所
最近新しくオープンしたこの事務所には多くのお客様が来店する。
彼等は様々な仕事に身をやつしておりながら、日々の癒しを求めてこの場所へと足を運ぶ。
建物の周囲には花壇が設けられており、そこでは普段であれば目も留めぬ植物が植えられている。
レンガ造りの外装は温かみを感じさせ、扉を開ければカランと鈴の音が来店を告げる。
来店者の眼にまず飛び込んでくるのは少し古めのフローリングだろう。
オープンして間もないが歴史を感じさせる木の床はかつてその場所で別の者が営んでいた商売の名残を感じさせると共に、古くあれども前任者の想いを引き継いだ便利屋68の優しさを感じさせる。
「用事は?」
そう尋ねて来たのは便利屋68において課長を務める鬼方カヨコだ。
「依頼を」
入店して以来、周囲をしきりに確認する彼は「それ以外に何かあるのかな?」と尋ねる。
しかし回答は貰えず。案内されるがままに幾つかある座席を超えた先、扉を開いた個室へと案内された。
案内される中で座席に座った老夫婦が舌鼓を打っていたオムライスが半熟な上に差し込んだスプーンを持ち上げた際、トロリとチーズが軌跡を描いていたのを見て思わず喉を鳴らしたが、今は依頼をしに来たのだと己に言い聞かせて個室に用意された長椅子へと腰掛けた。
室内を見渡せば壁にはただならぬ雰囲気を醸し出す毛皮や何かの鱗、刀剣や銃器が飾られており支配人の趣味の幅広さと見識の広さを依頼人に伝えてくる。
しばらく待っていると扉がノックされ、立って出迎えようと起立して迎える。
開いた扉の先から現れたのは肩にファー付きのコートを羽織った女性、その溢れ出るカリスマから依頼人はすぐさま「(彼女が社長の……陸八魔アル!)」彼女が何者なのかに思い至った。
「お待たせしてごめんなさい、少し別の案件で車を走らせていたの」
「あぁ、それはそれは、お忙しい所でしたのにお戻りいただきありがとうございます……そちらの依頼はもう済んだので?」
「えぇ、相手を川に沈めてしっかりと」
平然と答える様子に、いかに彼女達が日頃から過酷な任務をこなしているのかが伝わってきて、彼女達に任せようという判断が間違いでは無かった事を確信する。
対面の座席に座り、ゆっくりと脚を組んだ彼女は一度目を閉じて口を開いた。
「さぁ、今回の依頼は何かしら?」
「エミヤさん、本当に手伝わなくて大丈夫?」
「あぁ、それよりも先程の依頼者にコレを持って行ってくれ」
扉の向こう側、エプロン姿のエミヤがカヨコに手渡したのは紅茶とクッキー、どちらもエミヤが淹れて焼いた物であり、味は絶品、思わず受け取ったカヨコが一つつまみ食いをしたいと思う程だ。
「それより、二階から降りてくるときにえらくよろけていたがアルは大丈夫か?」
「……まぁ、依頼人の前では大丈夫だと思うけど、二階でコユキとレースゲームして脚が痺れたみたいだから、それで」
「本当自由だなぁ……」
新しく購入した事務所、その二階は居住スペースになっているが、事務所として使用する予定だった一階には購入時に残っていたカフェを営むのに必要な設備が一通り揃っており、
「例えば依頼人が三人程来店した際に、ただ待っているのでは無く珈琲や紅茶を楽しめたら素敵ではないか?」
と提案したのが決め手、普段からエミヤの料理が上手である事や、彼が珈琲も紅茶もソレどころかカクテルでさえも本格的な淹れ方が出来る事を知っていた便利屋の面々は大いに賛成した。
その結果、エミヤによる機械の修理、エミヤによる椅子の修繕、エミヤによる足りない家具の用意、エミヤによる仕入れる食材や食器、調理器具の手配、エミヤによる事務所スペースとなる空間の増設、エミヤによる外装の補修、ハルカによる花壇の設置を以て、
『便利屋68カフェ』が此処にオープンした。
とはいえ週四のオープンであり、ムツキ、コユキ、ハルカ、アルは従業員として働くことを全力で拒否、人数分のウェイトレス衣装を作っていたエミヤは悲しみに暮れた。
テーブル数は三つにカウンター席が七個とそこまで大きくない店内だが、流石にエミヤとカヨコだけでは回し切れるものでは無いという判断からエミヤの人脈を使いアルバイトを募集しようとした所、
「エミヤさん、三番テーブルのお客様お会計です」
可愛らしい猫耳をした清澄アキラという少女が偶然店先を通り掛かり、店内を興味深そうに眺めていたので声を掛けた所、是非カフェで働きたいと言ってくれたのでその場で採用。
「あぁ、了解した」
非常に丁寧な接客と物腰柔らかな言葉遣いからエミヤも安心して仕事を任せていた。
反して、カヨコは何となく気が付いていた。
どこぞの朴念仁は気付く素振りも無いが、アキラがエミヤに名前を呼ばれた際に嬉しそうに耳を動かしている事、そしてエミヤの傍を通りがかる際に度々その尻尾がエミヤの腰に巻かれそうになるのを恥ずかしそうに我慢している事。
「(絶対に何かある)」
別段、強引な手段に出る訳でも無ければ過度な接触がある訳でも無く本当に純粋に慕っているのだと分かる。
だからこそ、カヨコは警戒していた。
これまでカヨコが警戒していたのはエミヤのモモトークに頻繁に連絡を入れる青と赤と蒼と桃色、そして先日の一件の後、いきなり近所に引っ越して来た狐耳四人組の黒、そこに加えて月見会に所属するメンバー、最後に給食部のオシャレ角正妻気取りだ。
しかしこの面々、どいつもこいつも一癖も二癖もあり時にはエミヤが疲れた様子を見せる中で、アキラは違う。ソレがまだ見せていないだけなのか、それとも本当に厄介な部分が無いのかは定かでは無いが、今の所、非常にまともなのだ。
精々が時折値踏みする様な視線をエミヤに向けるだけ、本当にそれだけ、しかしカヨコにはソレが『男』としての値踏みなのか、下で働くに足る『店長』を見る目なのかは分からない。
初対面でカフェの前を偶然通り掛かって採用して貰った……なんてご都合主義な展開、何故エミヤが受け入れているのかカヨコには分からなかったが、もしもエミヤが警戒していないのだとしたら自分が警戒しなくてはいけないと考えていた。
そして、当のエミヤは「(人生何処で気に入られるか分からないもんなぁ)」と自分の人生観から全く問題視していなかった。
むしろエミヤには別の事が気に掛かっていた。
蒼森ミネ、彼女からの連絡が途絶えた事だ。
トリニティにおける知人に連絡をしても知らないか心配しないで下さいと返って来るのみ、情報の一つでもあれば動き出せるが、何も無いのでは動くにも動けなかった。
もしや……という思いはあったが、起きている何かが
レジの会計をしながら、エミヤはつい先日キヴォトスに来たばかりの恩師が困っていないか、どう過ごしているのか、ソレも気になる点だった。
その葛木宗一郎は現在、シャーレの当番というシステムと悪戦苦闘していた。
「……好きな生徒を当番として指名出来る」
渡された紙面に掛かれた文章から読み上げた一文に、葛木は頭を悩ませていた。
「(キャバクラか……?)」
生徒にも生活があり、その中でライフサイクルがある筈と考えた時、葛木はこの制度を吞み込む事が出来なかった。確かにキヴォトス全土から寄せられる生徒の悩みを我が身一つで解決する事は不可能だ。
しかし、だからといって生徒に頼るのが平然とルール化されているのはどういう事だ……?
ましてや好きな生徒をという文言から、気に入った生徒をと読み取れてしまう事にも困惑していた。
「(エミヤに頼るか?いや、奴にも生活がある筈だ……だが日に日に溜まっていく業務量は無視出来ない、連邦捜査本部という名称こそあるが、学園外部での部活動として部員になって貰い、その上で当番を担当してもらうのが一番問題無いだろう)」
だが、悲しい事に葛木に頼れる人脈は居らず、どうしたものかと頭を悩ませる。
A.R.O.N.Aが言うには気にしない方が良いとの事だったが、気にしない事が出来る方がおかしいと感じていた。
「アンケート、だな」
葛木は急ぎアンケートを作成、内容はシンプルにシャーレの業務内容を簡潔にまとめた物と、それに対する協力のYES or NO。
作成の為にPCを叩いていると、葛木のいる事務室に当たる部屋の扉が勢いよく開かれ、見覚えのある生徒が一人入って来た。
「お前は……早瀬か」
「早瀬か、じゃありませんよ!業務が開始して数日経つのに、一向に連絡が来ないから心配で来てしまったじゃないですか!」
「……連絡義務も無ければ個人の衝動で起こした行動だろうに、何故私は今責められているんだ?」
「それは……!仰る通りですけど……」
自分の怒りが不当な物だと理解したユウカは落ち着きを取り戻し、その上で葛木の使用しているデスクの上に大量の書類が残っているのを見て「やっぱり……」とため息を吐いた。
「仕事が大変であれば権限を用いて誰かを呼べば良かったじゃないですか、そりゃあ先生は未だキヴォトスに来てから日が浅いので、既に顔見知りの相手というのも少なく頼み辛い事も分かりますが……それこそ、わ、私であればすこしは頼みやすいんじゃありませんか?」
一見すればそっぽを向きながらもチラチラと葛木に視線を送り、早く頼んでくださいオーラを全開にしていた。
高校教師としての生活を送る中で自らの望みを言えずに似たような視線を送る生徒を見て来た葛木からすれば、それを読み取るのは容易な物。
此処で注意しなければいけない事は『素直に言えば良い物を』などの言葉を含まない事だ。
「そうだな、それでは早瀬、もしもお前が良ければシャーレの最初の部員になって貰えないだろか?」
「し、仕方ないですね!先生がそこまで言うのであれば、そんなに私に手伝って欲しいというのであれば!不肖早瀬ユウカ、葛木先生のお力になりましょう!」
鼻息荒く、かつ承った際には鼻歌交じりに「ふふん、けっいさんどおり~♪」と空いたデスクに座るユウカを見て葛木はいっそ騙されないか心配を覚えた。
「それでは私は領収書の整理と……こちらは嘆願書や請願書ですか、成程、最終的には連邦生徒会に提出する書類……こちらも該当する部署ごとに分けておきますね」
書類を見るなり内容を把握しするべき事も自分で理解したユウカに、葛木は「(もしやかなり才女なのでは……?)」と頼んで良かった事を理解した。
そうして二人で作業をしていると、ユウカが突然「んん?」と声を出した。
葛木自身も業務に当たりながらユウカが何に反応したのかと目線を向けると、丁度こちらを見て来ていたユウカと目線がかち合った。
「葛木先生、何か……その、業務や私生活で必要ない物を購入された覚えはありますか?」
そう問われ、そして問い、二人の時間は停止した。
ユウカからすれば、まさかこの見た目からして堅物な先生が領収書に記載されている内容の物を買うとは思えず。
葛木からしてみれば、購入するのに明確な理由はあったが『先生』として『生徒』に知られるのは少し恥じらいを覚える部分があった。
「……早瀬」
とはいえ、なんと説明した物かと悩む。
「はい」
「……
場が静まる。
ユウカは今の言葉の意味を理解しようと脳をフル回転させていた。
チラと領収書に記載された商品名を見ると、超合金、DX、超稼働と記載があった。
再び先生に視線を向けるとその場に居らず、一体何処に?と見回すと、窓辺に移動しその手に何かを持っていた。
「……格好良くないだろうか?」
見る限り、白を基調としたロボットだ。
「警察……いや、保安部隊をモチーフとしたロボットでな」
聞いていない事まで語り出し、なんとか魅力を伝えようとする葛木は一見すると普段と変わらず淡々と説明しているのだが、明らかに早口であり何処か必死な様子が感じられた。
「(……かわいい)」
ユウカは外見からは想像もつかない買い物をしている葛木に少しのときめきを感じた。
「(うぅ、でもダメダメ、業務に関係ない物なんだから)」
「生来より十年の記憶が無い事もあるのかその空白の期間を埋めたいが為に恐らく私はこうした物に魅力を感じてしまうのであり、決してプラモデルやハンドメイドで作り上げる物に興味がある訳では無く。かつて共に過ごした者が熱意を燃やしていた物がどんなものなのかを知りたいと思ったからというのもあるが、見て欲しいこの必要最低限の武装と動きやすい関節の造り……」
明らかに必死な葛木を見ていると叱責する気持ちも消えてしまい、早口でちゃんと聞き取れない言葉の中にとんでもない情報が幾つか含まれていたがユウカは「(先生かわいいなぁ)」で頭がいっぱいだったので聞いていなかった。
「もう、分かりました……その、業務上でストレスの発散も必要な事だと思いますし、交際費で落としておきます」
「早瀬……!」
シャーレの部員になった時以上に感謝をされている気がして微妙な心境のユウカだったが、それよりも葛木に言いたい事が一つあった。
「そーれーと、いい加減早瀬じゃなくて、その、ユウカって呼んでくれませんか?」
長い髪を指で遊びながら、ユウカは続ける。
「なんだか先生の苗字呼びって凄く他人行儀な感じがして、寂しいです」
「……そうか、ではユウカ、改めて感謝する」
エミヤと葛木、キヴォトスにおける日常を過ごしながらも少しずつ変化が生じている二人。
一人は喫茶店を経営し始め、一人は連邦捜査本部に赴任しそれぞれの日々を生きる。
だが、
「にははは!ムツキさんそのアイテムは私が貰ったァーーー!」
「んにゃー!?コユキちゃんダメー!」
「にはは……はは」
迎える変化もあれば、自ら変化を望む者もいる。
その変化が果たして良い物か悪い物かは、今は定かでは無い。
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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いいよ
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だめだよ
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やってみろ
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