便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第三十九夜 造る

 

「衛宮か」

 葛木宗一郎が先生としてシャーレに赴任してから一週間が経過し、エミヤは様子見がてらにシャーレの仕事も少し手伝うかと軽い気持ちで顔を出した。

 扉が開き、エミヤを認識した葛木は出迎えの言葉でも無く名前を呼んだ。

「あぁ、その……」

 しかしエミヤは挨拶をするでもなく。葛木の置かれた状況を見て一歩後ろに下がった。

「出直した方が良いか……?」

 誰が予想しただろうか、事務作業を行う室内で上半身裸で片腕立て伏せをしている恩師の姿など。

 

「いや、出直す必要は無い……書類仕事ばかりで体が鈍ってな」

「はい先生タオル」

「悪いな合歓垣、それで衛宮は何か用か?」

「そうだな、昔の恩師が上裸で関係性一週間未満の年下からタオルを受け取っている事について詳しく聞きたいのだが」

 関係性二カ月で一緒にお風呂に入った男は自分の事を棚に上げて質問をする。

 

「そうか、私も昔の教え子がベッドの上でニュースレポーターを寝かし付け、あまつさえその際の映像を商品として販売していた事について聞きたかった所だ」

 しかし持ち得る弾丸は葛木の方が圧倒的に多く、ノアから紹介された動画とASMRを視聴、元とはいえ教え子の作品という事もあり購入し嗜んだ事もありエミヤに対して聞きたい事が多くあった。

「あれ、そうじゃんエミヤさんだ、ウチの局長をたぶらかしたってアレ本当ですか?」

 更には追撃を行う随伴歩兵まで葛木には居り、万全の体勢で以てエミヤを迎え撃つ。

 

「君はヴァルキューレか、カンナは今は局長では無い筈では?」

「いいえ~、引継ぎとか終わってないですし、そもそも局長のポジションを誰もやりたがらないですし、誰も彼もカンナ局長以外の人の下で働くってイメージが出来なくて、このままだとずるずると最後まで肩書は無いまま局長を務める事になりそうですよ」

「後任の問題とはいえ、難儀だな」

 軽く合歓垣フブキというヴァルキューレの公安所属の生徒と自己紹介を済ませ、自然な流れで葛木との撃ち合いを回避できた事に胸を撫で下ろしつつも、エミヤは何となくフブキと親密になるとまずい(・・・)気がして、会話は最小限に抑えた。

 

 本当になんとなく。

 親密になった場合喫茶店に入り浸りになる予感がエミヤの脳裏を過ぎったのだ。

 

 ……それにしても何故ヴァルキューレの者が此処に?

 とは思ったが、葛木が居るし問題は無いだろうと目を逸らす事にした。

 

「そうだ葛木、リンから渡されているとは思うのだが宝石は受け取ったか?」

「…………あぁ、七神の事か、受け取ったが紛らわしいぞ衛宮」

「私の所為ではあるまい、それよりもその宝石をちょっと渡してくれ」

 葛木がキヴォトスに来た初めての日、エミヤは事前にリンにお願いして宝石を渡してくれるように手筈を整えていた。

 そして使用方法も伝えていたのだが、それはあくまでも相手がどこぞの夢見るロン毛を想定しての事、葛木には全く理解できない説明となってしまっていた。

「なんだ、当面の資金を確保する為かと思ったが違ったか」

 引き出しを開けてまるで仕舞っていたキャンディを取り出す軽さで手渡して来た葛木に価値観のぶっ壊れを感じながらも、持ってきていた紙を机に置き簡単な呪文を詠唱する。

「『祖は太源、素は五大、宿りし物を我が眼に示せ』」

 それこそ凛に見られれば『感覚で分かるでしょ?』と馬鹿にされるのだが、物質に宿った正確な魔力量を測る為の魔術だ。

 宝石に事前にエミヤが込めた魔力は一切減衰しておらず、刻んだ魔術式も起動の痕は見られなかった。

 

「葛木、この宝石にはお前も知る『強化』の魔術式が刻んである。簡単に言ってしまえば、合言葉(ワード)を述べる事で魔術師では無い者でも簡易的な魔術が使用可能になる逸品だ」

 逆に言えば魔術師からすれば何でそんな事をする必要がある?と問われる様な代物だが、魔術のまの字も学んでいない葛木にとってはありがたい物だ。

 そして、エミヤはそのまま再度何かの呪文を呟くと葛木に宝石を手渡した。

 合わせて大きなアメジストの原石を取り出し、何か別の作業を始める。

「いいか、合言葉(ワード)は『コルキス』にしておいた。使用時は『強化』したい部分を強く意識すれば良い、最初は慣れないかもしれないから練習しておいてくれ」

 

 仕組みは簡単、某星見台の人類最後のマスターが使用する魔術礼装の劣化版だ。

 あちらは身に着けた者の魔力を自動で消費して礼装起動(プラグ・セット)の掛け声で組み込まれた魔術を使用出来る。

 こちらは宝石自体に魔術も魔力も組み込んであり、使用者は合言葉(ワード)を口にする事で魔術を使用出来る。

 

「分かった……だが、それは?その大きなアメジストを持って出歩くのは流石に気が引けるが」

「こいつは魔力の充填用だ。私がいつでも此処に来れる訳では無いからな、使用できなくなった宝石をこのアメジストに近付ければ魔力を充填できる」

「助かる」

 

 説明を終えて、宝石を手に持った葛木は「コルキス」と口にし、試す事にしたようだ。

「む……?あぁ、成程コレ(・・)か」

 その感覚にエミヤからの説明ではイマイチ何か分かっていなかった葛木も、覚えのある感覚に理解した。

コレ(・・)か……」

 

 手を開き、閉じ、その手に赤い光が灯る。

「ふっ……すまんな衛宮、手以外にはまだ少し出来そうもない」

 その言葉の真意が、誰かとの思い出だからなのか、それとも慣れていないからなのか。

 それを聞く程、エミヤも野暮では無かった。

 

「だが」

 強化をした所で、そのような赤い光は本来出ない、葛木が覚えている形で再現されたのか、別の要因があるのかは分からない。

 だが、強化を解除した際に赤い光が葛木の周囲をぐるりと回り、まるで肩を撫でる様に戯れた後、宙へと溶けて行った。

 

「助かる」

 その光を何処か、懐かし気な瞳で眺めている葛木を見れば、エミヤも自然と笑みが漏れた。

 

 

 

「所で衛宮、お前アビドスという学校を知っているか?」

 問われ、思い出すのは先の会談で感想を漏らしていたピンク髪の少女。

「あぁ、知り得ているのは人数や金銭の問題から自分達だけでは自治が難しいという事くらいだ」

 語っていた事から知り得たのみ、それ以外は別段知らないのはキヴォトス全体をどうこうする立場で無い以上、仕方が無いだろう。

「そこから物資が足りぬと連絡があってな、丁度最近クラフトチェンバーなる物資生成装置の使い方を覚えた所だ」

「クラフトチェンバー?」

「あぁ、連邦生徒会長(あやつ)が遺した……というよりは元よりシャーレの建物にあったのか、何やら時間の経過と共に……そうだな、(リソース)の様な物が溜まり物資を創造出来る」

「とんだオーパーツだな」

「だがソレのお陰で長い間使われていない事もありアビドスを助ける事が出来そうだ……このシッテムの箱と接続されていてな、こいつから操作してシッテムの箱の周囲の好きな場所に物資を生成できる」

 

 それだけを伝えたいという訳では無い事は葛木の口ぶりからも窺う事が出来た。

 多様な戦闘方法を模索するエミヤと葛木だからこそ至った考え、火薬の生成からの爆破や移動時の遮蔽物の創造が出来れば……とはいえ、シッテムの箱の周囲という限定条件がある以上、そこまで使い勝手は良くないだろう。

「それではアビドスへ向かうのか?以前地図で見たが中々距離がある筈だが」

「……それが、助けを求めている『生徒』を助けぬ理由にはなるまい?」

 その言葉に、エミヤは葛木という人間がやはり『先生』なのだと理解させられた。

 

「存外、面倒見が良いな」

「当然だ、それが教師という物だ」

「私は随分と手荒い教育を受けた覚えもあるが?」

「殺し合いの場に参じた者に教師として教えを説くなど覚悟を踏みにじる侮辱だろう……それともそうして欲しかったか?」

 葛木に揶揄われるとは思ってもみなかったエミヤは虚を突かれ、以前とは違う事を実感し少し関係性の変化と共に少しの嬉しさを覚えた。

 

「戯言を、ふっ、何か助力が必要ならばいつでも言え、今であれば――肩を並べる事も出来よう」

 退室の為に歩きながら告げた言葉に、

「――心強い」

 静かに返された言葉には確信が含まれていた。

 

 

 

「ふふ、やはり……審美眼はともかく保存方法、そして芸術品に好まれるという点は私以上ですね」

 仮面を付けた白い少女が便利屋事務所の建物、その屋上にて身を屈めながら手元のタブレットを見る。

「これほどの芸術品の数々、中には贋作もありますが飾るには相応しき物をしっかりと飾り、保管すべき損耗がある物はしっかりと保管を……」

 タブレットを口元に持っていき、口づけを。

 

「収集者は社長様……そして、保管や管理は店長が……♡」

 頬に手を当て恍惚とした表情を浮かべる。

「いらしたのですね、誠に芸術を理解する方が!」

 

 エミヤの知らぬ場で評価が高まる中、遠く、バイクに跨ったエミヤが見えた。

「しかし、我が身の業を知ればあの方も……」

 悲しそうに眼を伏せながらも、彼女は己の業を止めようとはしない。

 それが、世界に必要な事だと信じて。

 

 

 

 未だ工事が行われているSRT特殊学園統括センターにやってきたエミヤは顔見知りが居ない物かと探し、そこにオトギが居る事に気が付いた。

「オトギ」

 声を掛けると運んでいた荷を降ろし、まるで飼い主に駆け寄る子犬の様に耳をパタパタと動かしながら近寄って来た。

「エミヤさんだー!どうしたの何しに来たの?」

 見上げられ、その可愛らしさに思わず頬が緩みエミヤはオトギの頭を撫でてやる。

 

「少し様子を見にな、他の者は居ないのか?」

 気持ち良さそうに目を細めるオトギに問いかけると「いつも一緒に居ると思ってくれてるんだ」と嬉しそうにして、指差す先を見てみれば図面を手に工事担当者と話しているニコが居た。

「皆ね、やっと自分達で自分達の居場所を作れるって凄く気合入ってるんだ」

 そう言われれば、自身の頑張りも報われエミヤも穏やかな気持ちになる。

「クルミとユキノは?」

「えっとね、クルミはヴァルキューレの調理室を借りて皆のご飯を作ってて、隊長はサンクトゥムで生徒会長としての勉強に出てるよ」

「皆、頑張っているんだな」

「うん!」

 

 手を下げてニコの方へ向かおうとしたが、オトギがエミヤの手を掴み再び自分の頭に置いた。

「?」

 思わずオトギを見ると、ニコニコと非常に良い笑顔をしながら何かを待っている。

 これは……そういうことか?と頭を撫でると嬉しそうにしている。

「一緒に行くか」

「うんっ!」

 

 そのまま手を繋いでニコの下へ、

「ニコ」

 担当者との会話が終わった頃合いを見て声を掛け、こちらを向いたニコは先程のオトギと同じように耳をパタパタとさせた。

「エミヤさ……ん」

 しかし、何かを見たのかその笑顔が一瞬で真顔に変わった。

 

「オトギ?」

「なぁに?」

 その時、エミヤは思い出した。

 とある少女()相棒(セイバー)の何処か食い違いながらも周辺を焦がす様なやり取りを。

 

「手」

「手?」

 オトギが自分の手を見て、「手!」とニコに繋いでいない方の掌を向けて見せた。

 

「……はぁ、自分が嫌になりそう」

 その様子に毒気が抜かれたのか、ニコは溜息を吐くと唐突にエミヤに抱き着いた。

「ふぅー、ちょっとだけお久しぶりですエミヤさん」

 まるで何もおかしな事が起きていないかのように会話を進めるニコに困惑しながらも、別段、嫌という訳でも無いのでそのまま受け入れる。

 

「ささ、ゆっくりできる場所もあるのでこちらへ」

 案内され仮設の事務所の中へ、その後はゆったりと過ごすに終わった。

 

 だが、この日エミヤが工事現場を訪れた事を後から知ったユキノは血涙を流し、体育座りからコロンと床に転がり、そのままぐるぐる回りながら泣くという新たな悲しみ方を習得したそうな。

 




次回の投稿は2/2になります。
でも投稿できそうなら2/1の夜間に投稿するかもしれません。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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