便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

47 / 75
第四十.九夜 DHD

 

 

 

 その日、伊落マリーは偶然にも古書館に用事があり、そして偶然にも古書館の主人たる驚いた際に不思議な奇声を上げる保護推奨生物が不在で、更に偶然にも近くで起きていた正義実現委員会の活動の振動により一冊の本が本棚から落ちていた。

 

 古関ウイに古代語の教典などがあれば読んでみたいと頼んでみるつもりだったマリーは、本当に偶然、何の因果かその本を手に取ってしまった。

 

 間違っても危険な本などでは無く。

 間違っても触れただけでは何の影響も無い。

 その本はある意味で特別な本、短冊の様に書物の空いたページに願いを書き込む事で想いを後世に残す素敵な本だ。

 

 表紙を開いて最初のページに記載された『あなたの願いは?』という文言と、その後に続くページに自由に綴られた多くの人々の願いを目にして、マリーは様々な人の想いに触れる事が出来てついつい読み進めていった。

 

 そして文字の無いページに辿り着き、自身も願いを綴ってみようかと懐からペンを取り出し、口元にペンを当てて何を書こうかと少し考える。

 

「(ちょっとだけ、わがまま書いちゃおうかな)」

 

 普段ならば絶対に書かないが今日だけ、先日エミヤと電話をした際に「うちの社長はアウトローを自称しているが、反面、心根が優しくあまり向いていないんだ」と教えられ、マリーは「あうとろおですか」と不思議な響きに興味を抱いていた。

 

『ちょっとだけアウトローさんになりたいな』

 

 そう記されたページに、今のマリーが持つアウトローのイメージでもあるサングラスとタバコを書いてみて、タバコは悪すぎるかもと思いバッテンを上から書いておいた。

 

 そして、その瞬間。

 募りに募って来た願い達、叶えば良いなという淡い想い、『文字を記す』という行為により何百年もの間、書物に蓄えられ託されてきた神秘か奇跡を起こす。

 

 突然光り始めた書物はマリーを包み込み、ある変化を彼女にもたらした。

 

 鋭くなった目元、顰めっ面になり傍から見ても機嫌が悪そうな様子。

 ズカズカと大股を開いた歩き方で急ぎ自宅へ帰ったマリーは、何着も持っているシスターフッドのシスター服から、今使っている物をどうこうするのは勿体無いのでサイズ的に着れなくなってしまい無用の長物と成り果てた服を取り出し、ハサミを入れた。

 

 ワンピースに大きくスリットを入れ、激しく動けば下着が見えてしまう危険性を持たせ、胸元にも……と手を動かしたが恥ずかしくなり中断、ベールを外し、いつもならば腕を通しているケープも羽織る事でアウトロー感を演出。

 

 最後にトドメとばかりにアイライナーで目元周りを黒に塗り、破壊僧と呼ぶにもドグサレシスターと呼ぶにもちょっと甘い、だけど正式な形からは外れた不良シスターが誕生した。

 

「お、おらぁ」

 

 少しだけ強気になっているからこそ、鏡の前で悪を演じてみる。

 

「えへへ……」

 

 主観で悪な感じがしたのでご満悦だ。

 

 これならば他の人から見ても悪い人に映るだろうとマリーは秘密兵器も懐に控えて外出を敢行、このマリー、よりにもよって『ちょっとだけアウトロー』な上にアウトローの参考として選んだのが何処ぞの社長な所為で倫理観はまともなのに行動力だけはある始末。

 

 それでいて悪振ろうとしているシスターという愛らしさの権化が生まれてしまったのだ。

 

 その手にデザートイーグルを持ちケープを靡かせて歩く姿は堂に入っており、マリーを知る者は己の目を疑い、マリーを知らぬ者はその威風堂々たる風格に目を瞠る。

 

「ちょ、ちょ、ちょっとアンタ!」

 唐突に呼び止められ、振り向くと、小柄な正義実現委員会の生徒がそこに居た。

「なんのよう?」

 と睨みを利かせながら返すも、声のトーンはいつもと同じなのでその正義実現委員会の生徒も「(え、めっちゃ清楚)」と驚きを隠せない。

 

 言葉に詰まった相手を見て怖がっていると勘違いしたマリーは、柔らかな笑みを湛えてその生徒の頭を撫でてやり「頑張りな」と応援の言葉を掛けて何事もなかったかの様に歩きその場を去った。

 

「え、え?け、結局不良なのか……清楚なのか……」

 混乱の中で伝えられた応援に尚のこと混乱を重ねながらも、去り際に流し目と口元の笑みに魅せられ、残った感想は、

「アリかも……」

 新たな性癖の扉が開かれようとしていた。

 

 そのまま歩きながら友人の元を目指し、何度か呼び止められては同じ様に性癖を捻じ曲げながら歩いていたマリーはようやく宇沢レイサが今日パトロールしているという地域に辿り着いた。

 

 そこでは既に戦闘が始まっており、友人のレイサが先輩のスズミと一緒にどーせ何らかのヘルメット団であろう連中に鉛玉を喰らわせていた。

 

「もぉぉぉお!マリーが来るって言ってたのに!」

「レイサ、動きが雑になれば敵の思う壺」

 2人が戦う傍には倒れたトラックがあり、ヘルメット団がソレを狙っていただろう事が見て取れる。

「(あのトラックは確か、給食を運んで来てくれている……)」

「うおおおお!甘味ぃぃーーー!」

 狙いは給食のデザート、なんとわかりやすいヘルメット団だろうか。

 

 普段のマリーであれば援護に徹する。

 戦いの場に躍り出る事はせず、祈りで以て助けるのがマリーのスタイルだ。

 

 だが、今日のマリーは違った。

 

 ふわりと跳び上がり、一軒の住宅の屋根に乗ると、そのまま靴の音を屋根に響かせて戦場へと向かう。

 

 そして、歌うのだ。

 

「〜♫」

 

 飛び交う銃弾の中に綺麗な声が、歌声が響く。

 場違い、なれどここはトリニティ総合学園、そこに通う生徒であれば誰もが歌う事が出来、誰もが意識を奪われる。

 

 思わず交戦を止めたレイサとスズミに、ヘルメット団も思わず銃撃を止め、その歌声に耳を傾ける。

 

 青い空に何処までも響く声に、心が洗われる思い。

 声の元を探せば屋根の上を歩く1人の少女、シスター服を着崩した少女が目に留まる。

 

「ま……りー……?」

 

 思わず声を漏らしたレイサに目をやり、軽い会釈で挨拶をしてヘルメット団の側面まで屋根伝いに歩いていく。

 

「な、なんだよ、シスター様が何のようだ!」

 

 その中から1人、自分を取り戻した団員が声を荒げてマリーに銃を向けた。

 結果、ピタリと歌は止み、マリーは天を仰いで祈りを捧げた。

 

「嗚呼、あなた方は……銃を手に取る」

 

 劇中における独白を思わせる演技臭い振る舞いに、ヘルメット団の者達が苛立ちを募らせる。

 

「それ程にまでデザートが欲しいのならば、言ってくだされば良いではありませんか、銃を手に取らず手と手を取り合う、そんな道を模索すれば良かったではありませんか」

 

 理想論を並べる偽善者に思わずトリガーに指が掛かるが、撃てば言葉を並べられない粗暴者と認める様なもの、ヘルメット団は言葉で返そうとして、

 

「ほら、ご覧なさい」

 

 マリーが片手に持ち、更に懐から取り出した物を見て、息を呑んだ。

 

「貴女方にお似合いのデザートですよ」

 

 デザートイーグル二丁持ちの気狂いが牙を剥く。

 

 

 

 一丁が火を吹き、その反動で後ろに身体が揺れながらもう一丁を撃ち、あえて反動をそのまま受ける事で後方へと転がり敵からの銃撃を避ける。

 

 三角屋根の向こう側、ヘルメット団から見えない位置に消えたマリーの姿を探していると、

「探す必要はございませんよ」

 正面に姿を現してゆったりと歩いて来た。

 

 流石にもう躊躇っていられないと弾丸をマリーに浴びせようとするが、動いているのかいないのか、いや、動いているのだろうマリーには当たらず、本当に最小限の動きでマリーは銃弾を躱していた。

 

 走り出したマリーは大きく開いたスリットが可能としたスライディングで銃撃を避けながらヘルメット団の内に入り込み、ギリギリで狙いを付けた者も居たがソイツだけを狙って二丁拳銃が火を吹き銃を破壊される。

 

 近距離だろうが当たれば勝ち!とマリーにライフルを向けるが、腕を振り上げる事でライフルの銃口を空に向けられ、空いた胴に一撃。

 倒れ行く仲間を見て声を上げた背後のヘルメット団員に振り向きざま、髪が視界を邪魔する中でも正確に撃ち抜き、敢えてわずかに跳び上がりソレをチャンスと見て狙いを付けた者の脳天にデザートイーグルを叩き込み、銃撃の反動で後ろに仰け反り逆さまの視界の中、背後から狙いを付けていた者も撃ち抜く。

 

 そのまま後転し水面蹴りの要領で周囲のヘルメット団を転ばせて突如視界が開いたその後ろの団員5名を射撃、先頭集団をあらかた倒したので一度後方へ引き、残るヘルメット団員7名に笑みを向ける。

 

「まだ、デザートが欲しいですか?」

 

 それならば、と言葉を紡がずとも分かる構えを敵に見せ、容赦しない姿勢に敵はたじろぎ……

 

「や、やってられるかぁぁあ!」

 1人が逃げ出せば後は広がる波の様に、段々と戦線を離脱し始めるヘルメット団員達にマリーは笑顔で、

 

「答えはイエスかノーですよ」

 

 後頭部に向けてデザートイーグルを撃ち込み、全ての団員が無事に気絶した。

 あまりにも好戦的なマリーの様子に困惑しながらも、助けてくれたお礼を言わなくてはと近寄ったレイサに振り向きざま、

 

「無事だった?」

 

 と問い掛けるマリーに、不覚にもときめきを感じたレイサは自分がよく分からなくなってしまう。

 

 その後もマリーはレイサとスズミと一緒にパトロールを行い、何度も同じ様な銃撃戦を敵と繰り広げまさしくキヴォトスのアウトロー然りな活躍をしたのであった。

 

……………………後日。

 

 マリーのちょびっとアウトロー化も解け、当時のことを思い出して恥ずかしさからあぅあぅするあぅあぅ拡散スピーカーとなったマリーがトリニティで目撃され。

 

 ヘルメット団が腹いせにネットにアップロードしたアウトローマリーの様子にキヴォトス中から反響が集まり、一躍DHD(Double Handed DesertEagle)のマリーとして有名になるのは、また別の話。




出先で本編が投稿出来ないので、小話を一つ。

欲望に正直にかっこいいマリーも描いてみたかったので!

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
  • エロ書け
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。