「成程な……」
葛木宗一郎は歩いていた。
歩けども歩けども他の人に出会わない街の中を独り歩いていた。
正確には一人と一台、ないしは一匹と表現するのが正しいか。
「砂漠化が進んでいるとは聞いていたが、何ら特殊な要因は無いようだな」
その手に持っているのはシッテムの箱、今は過去のデータベースを漁る為に用いているが、ソレだけで砂漠化の原因は明白だった。
「まるで歴史の縮図だな」
重要なワードはかつてキヴォトスで最も生徒数を保有していた学園であるという事、そして人気の無くなった街が全てを物語っていた。
「それにしても、人に会わん」
『葛木先生、砂漠化の原因が分かるんですか?』
シッテムの箱から聞こえて来た声に、葛木は話し相手は居たかと少し心穏やかになり答える事にした。
「これでも教師をしていた身だ。ましてや高校教師など環境問題や社会情勢に詳しくなければ不意の生徒からの質問に答えられん、砂漠化の原因……もとい要因は簡単に推測出来る」
アロナが表示されるシッテムの箱を操作し、表示させたデータをアロナに見せながら説明を続ける。
「良いか、歴史上で砂漠化が進行する主な要因は過度な伐採や農耕が挙げられる」
表示させたデータにはアビドスから他の学園自治区に向けて輸出された品目、その数十年前の物になる。
「土地という物を……そうだな、積み木を組むジェンガといったか、あの遊戯で考えてみろ」
その言葉を受けてアロナがタブレット上にジェンガを表示させ、葛木の説明を分かりやすくする。
「まず何も抜いていないアビドスという土地があった。そこには学園が存在し、乾燥した土地ながらも豊かな自然と流れる川があり過ごしやすい環境だった――故に、時が進むにつれ段々と人口が増加していった」
そう言いながら一つの組み木を抜き、上に重ねた。
「どちらが先でも良いのだが、人口の増加は必要な食料品の増加と住居数の増加を意味する。そしてコレ等を成立させるには当然、食料を生産する為の牧畜や農耕が必要となり、住居においては材木が求められる」
再び一つの組み木を抜き、説明と共にもう一つ抜き上に重ねる。
「土地の関係上、農耕が出来る場所が限られており、材木を得る際の伐採後に切り株まで抜いてそこで農耕をするのが土地が限られている場合の常となる。そうなれば、土地がどんどん瘦せ細るのは当然、川流れや水流といった水食も起きやすくなる」
更に三つ抜き上に重ねるが、既にジェンガは段々とバランスが悪くなってきている。
「さて、この状況で厄介なのは土地を度外視して金の動きにだけ注目した時だ。先程説明した内容から分かる通り、金の動きだけで言うのならば多くの人口を有するのだから盛んに映り、金の動きが盛んな場所にはやはり企業が進出する」
更に一つ、
「企業が進出すればそこで働く者がやってきて、場合によってはその家庭の子供が学校へ入学する」
更に一つ、
「そうなれば更に伐採と農耕が必要になり土地が痩せ細る」
更に一つ、
「本来ならばこうした土地の痩せ細りに対して植林や野生動物を連れてきて過ごさせることで土地自体を回復させるのだが、ソレが出来るのは資金的な余裕がある土地だけで、人々の需要に対して供給を行う中、土地の需要に対して供給を行えるのは知識も必要であれば人も要る。そして植林の為の木々を輸入する為の資金も要る」
すでに崩れそうになっているジェンガを見ながら、葛木は何とかもう一つを抜き上に重ねる。
「ここで砂漠化の問題が表面化したとしよう、つまり、土地が痩せ細ったということだ」
慎重に一つを抜き上に重ねるが、もう揺れており少しの振動で崩れてしまいそうだ。
「痩せ細った土地では農耕は出来んし、放牧をしても食べる植物が無ければ家畜も死に絶える。木々のあった場所を活用していたのだから別の場所を開墾しようと考えるだろうが、そうなれば痩せ細る土地が増えるだけ」
グラグラと揺れるジェンガが段々と傾き始め、
「こうしてサイクルが崩壊する。巡っていた金もストップする。元々は需要が非常に高かった農耕や牧畜、伐採に人が雇えなくなるのだから離職者も大量に生まれる」
遂に、ジェンガは崩れてしまった。
「ここで植林に手を出したのか?それは定かでは無いが、対抗策として行ったものが上手く行かなかったことは現状を見るに明らかだ」
土台は積み重なった物のバランスの悪さに崩れてしまった。
「金の巡りが悪くなれば企業は撤退する。それに合わせて人口が減ればより金の巡りは悪くなる。もしも当時のキヴォトス最大規模の生徒保有数だったというのなら、それに応える大きな校舎があった事だろう――だが、人口の減少により維持費と生徒数のつり合いが取れなくなれば、学習環境や習熟環境として相応しくなくなり、これまた当然学園からも生徒の流出が始まる」
一呼吸挟み、
「ましてやそれだけの生徒数、給食や食堂を運営していくうえで必要な食材を何処から得る?その分も輸入するとなればそれこそ馬鹿げた金額になる。そうして段々とバランスが崩れていき、対応する為の資金も無くなり……今に至るという訳だろう」
『それは、キヴォトスの外での知識ですか?』
「あぁ、学園を政府とするならばそのタイミングで自治区をどうにかする為に融資を受けている事だろう……そうなれば一体どれ程の額を……」
考えていても仕方が無いかと結論付け、実際に会ってきてしまおうと歩を進める。
「川も野山も無いとなると、ソラの所で購入した高カロリーのゼリー飲料で食い繋ぐか」
ビルの屋上まで登り遠い地平を眺めてみるも、蜃気楼なのか実物なのかオアシスは見えたが足を運ぶには危険と判断し、夜間には急激に冷え込むことも予想できる状況の為その日の探索はビル内部のホテルで休むことにした。
夜の便利屋事務所、一階のカフェスペースでエミヤを出迎えたのは一人の少女。
「大体ぼく様はちゃんと使用上の危険とかも伝えたのに……」
薬子サヤ、山海経高級中学校・錬丹術研究会所属の二年生だ。
事の経緯はシンプル、以前から怪しげなサプリメントを販売していた薬子サヤを警戒していたハルカだったが、その日彼女がWeb上で展開しているECサイトに新しい商品が追加された。
『スナオナレール 一粒飲めば三時間、貴女はいつもより素直になれる!
注意:珈琲や紅茶などカフェインが多分に含まれる飲料の消化中には飲まないで下さい』
恐らくは何か思う事……もっと大胆になりたい、とか、悩む事無く行動したいなどの事情があり購入したのだろうと見解を述べるサヤは、早い取引の方が良いだろうと気を利かせ、この事務所まで夜にも関わらず品物を持ってきてくれたのだが、受け取ったハルカは余程慌てていたのか珈琲で薬を呑み込み、結果として。
「ふぇ」
エミヤの腕を掴んで離さない精神的幼女に退行してしまった。
退行してからはカフェのキッチンスペースの鍋などを仕舞う収納にすっぽりと収まって出てこようとしなかったが、事情を聴いたエミヤが「おいで」と一言告げた所、おずおずと出てきてエミヤの傍を離れまいと今に至る。
「まぁ、サヤは悪くないだろう……初対面でこのような事を頼むのは心苦しいが、もし良ければ症状を治す為の薬などがあれば用意して貰えると嬉しいのだが」
本当に申し訳ないと加えて謝罪するエミヤにサヤは頬を掻き、
「力になれたらとは思うんだけどねぇ、それにエミヤさんは今解毒薬とは言わなかった。たまーにこういう使い方を間違えたのは自分なのに解毒薬なんて言葉を使ってくる奴もいるけれど、貴方はあくまでも薬として扱ってくれたし、本当に力になれる事があれば喜んでなのだけれど……この症状事態が持って三時間、ぼく様が住処に戻って用意して戻って来るのも同じ位の時間が掛かるから、正直、このまま効果が無くなるまで傍に居てあげるのが一番だ」
「ふむぅ」
ライダージャケットの隙間から何とかエミヤの体とジャケットの間に体を捻じ込もうとしているハルカを二人で眺めながら、どうしたものかと悩む。
とはいえ三時間で済むのならその間ハルカと一緒に居てやれば良いだろうと判断し、流石に二階の皆に伝える訳にもいかず地下の通路を通ってガレージハウスへと移動した。
その途中、精神が退行している所為で歩幅の感覚が身体のソレよりも短いのか、テチテチ歩きで付いてきては時折こけそうになり、その度に助けていた。
「えみゃ」
と呼ぶハルカが非常に可愛らしくて、ついつい頭を撫でたり構ってしまう。
「しゃあ」
なお、サヤは何処か年下の女性に母性を求めそうな名前で呼ばれていた。
「えみゃ、ぎゅっ」
恐らく抱き上げて欲しいのであろうハルカが眉を下げて何処か怖がりながら両手を伸ばしてきたので、
「あぁ、ほら、ぎゅー」
持ち上げて抱き締めてやれば、驚きに目を瞠った後に嬉しさに破顔して全身で抱き着いて来た。
「はぁー、そりゃああの子達も夢中になる訳だ」
そんなやり取りをしているとサヤが納得したように頷いていたので、エミヤは嫌な予感に顔を顰めながらも「どういうことだ?」と尋ねてみる。
「いやぁね、ぼく様の所に時折、栄養豊富な丸薬を頼みに来る梅花園という部活の子達がエミヤさんの音声作品を子ども達に聞かせると簡単に眠りにつくらしくてな、まぁ実際の所は彼女達が一番ハマっているんだけどね」
案の定出て来た単語だったが、もう既にエミヤは受け入れている。
「ふとした疑問なのだが、私の音声作品とやらはそんなに……その、効果があるのか?」
「ん?あ……えーと、それは……使用の上で使えるかどうかという事か?す、すごい事を聞くなエミヤさんは」
「……? まぁ、使用する上で良い物であれば、私の労苦の甲斐もあったといえるからな」
「そ、そうだなぁ、ぼく様も初めて聞いた時は思わずな……あれは、かなり使えると思う……よ?」
顔を真っ赤にしながら答えたサヤにエミヤは首を傾げるが、それならよかったと返したエミヤにサヤは尚の事赤らみを増すのであった。
そして同時に、その身を抱きながら僅かに体を震わせた。
「あれ……な、なんだこの、あれ?なんでぼく様は……エミヤさんに知られて……あれ?」
何やら開いてはいけない扉が開きかけているのには全く気付いていない。
ガレージハウス、当初は車が入るだけであとは整備の道具が散乱していた場所だったが、現在は銃器のカスタムの為の作業机とパーツ、そして防弾装甲の業務用車両、更には何かあった際に逃げ込んでも大丈夫なように食料品と人数分のベッドと座れるだけのソファー、そしていつでも接続して利用できるネットワーク環境と事務所のデータに接続できるPCとムツキの希望でTVゲームが置いてあり、その広さを存分に活かした造りとなっている。
「えみゃー」
体をよじ登ろうとするハルカをソファーの上で受け止め、頭を撫でてやると猫の様に目を細めて気持ち良さにうっとりとしている。
「そこまで懐かれるのは最早人徳だね、日頃からもそうなのかい?」
サヤからの質問に恥じらいながらも「ハルカがここまで甘える事は無いが、他の者は似たり寄ったりだな」と返し、アルとカヨコは誰も居ないタイミングでしか甘えてこないがと胸の内で注釈を入れる。
「クックック……羨ましい限りですね」
「本当にね、そこまで信頼がおける人がいるっていうのは憧れすら……え、誰?」
「……なんていうか、私の周りにはいきなり姿を現すのが特技の人間が多いのか?」
いつの間に現れたのか黒いスーツを着た顔まで黒く罅割れがある御仁に、エミヤとサヤは軽く引きながらもそこまでの警戒は見せない。
「私の事はどうぞ『黒服』とお呼び下さい」
「本当にそんな呼び方で良いのか……?」
エミヤはといえば、その者から僅かに感じる事が出来る神性に疑問を感じながらも敵意は無かったので許容。
サヤは訳が分からない存在は取り敢えず怒らせないし敵対しない方が面倒じゃ無いので許容。
「ほう……?エミヤさん、貴方はどうやら真の意味で私を見ようとしている様ですが、流石に無理ですよ、私は宿している訳でも無ければ、在り方そのものがかけ離れてしまった身、源流を見る事は出来ようとも掴むことは出来ず、ましてや私など習合した身……いえ、今のは危ういですね、忘れて下さい」
その言葉の意味するところは分からなかったが、なんとなく当たりが付いたエミヤは敢えて問う必要も無いかと溜息を吐いた。
「それで、その黒服は何用で?」
「クックックックック……!クハッ!失礼、少女を赤子の様に抱きながら真顔で問われれば、流石に……!」
「ぷっ、あははははは!確かに!キリッとした眉を作ってもそれじゃあ絵面が凄いよエミヤさん!」
拳骨一発、ハリセン一発。
「それで、その黒服は何用で?」
「クゥ……たんこぶとは幾年ぶりか……用事を問われましても、正直な話を申し上げると挨拶に参っただけでして」
「それどこから取り出したのさ……」
黒い顔からぷくーっとたんこぶを膨らませた黒服が宙を見上げ、隠すところも無いのだろう含み無い素直な様子で答えた。
「それならば改めて、私は便利屋68庶務のエミヤだ。よろしく頼む」
「コレはご丁寧に、いつも貴方の音声作品には力添え頂いております」
「……!?」
互いに礼をする成人男性同士に挟まれて、もしくは黒服の発言を受けてサヤが驚愕に顔を歪める中、エミヤは黒服の黒服を注視した。
「おい……黒服」
「……はて、何か気に障る事でも?」
本当に心当たりがない黒服からすれば首を傾げるしか無く。言われも無い因縁を目の前の英雄が付けてくるとは思えず本当に困惑している。
「貴様そのスーツズボン、裏地を貼っていないな?折り目の形が不細工になっているぞ」
言われてエミヤが目を向ける部分を見てみれば、確かに少し折り目が斜めに入っており「あぁ」と納得しながらも、「今……?」と黒服は指摘のタイミングが理解できずに困惑した。
「脱げ、当ててやる」
「クックック……まさか脱がされるとは、薬子サヤさん、よりにもよってステテコの日で申し訳ない」
「…………!!」
「クハハッ!クーックックックック!笑い転げていらっしゃる!それと伊草ハルカ、私のステテコを掴むのは止めなさい、色々と危ないでしょう」
「やー!」
「やーではありません、あぁっ!?本当にやめなさい、今しがた糸の縫合が千切れる音が……!」
「おい黒服、腰回りに滑り止めのシリコンも付けておくぞ」
「これは僥倖、スーツ姿で移動する際は気にしてしまう点でしたからね、出来ればエミヤさん、今すぐに私のステテコのズレ防止に手を貸して頂きたいのだが」
「自分でなんとかしろ、だがもしもズレて粗末な物をハルカやサヤに見せてみろ、縫うぞ」
「……これが恐怖!久方ぶりに感じましたよ!」
少々の後、ハルカは黒服のジャケットを脱がそうとしているタイミングで我に返り、同じタイミングでエミヤの針仕事も完了、終始爆笑していたサヤは汗だくで呼吸もままならず、一人で勝手に死に掛けていた。
「クックック……今度はもっと静かな場所で、いかがですか?」と誘いを掛けた黒服をさっさと帰らせて、サヤに関してはバイクで送る事にした。
一人反省のあまり体育座りをするハルカだったが、その内心はエミヤと多く触れ合えて嬉しさもあった。
こうして一日は終わっていく。
しかしエミヤは知らない、翌日の朝に起きた際、モモトークを開いた際に待っている。
『エミヤさん』『アコがおかしい』『元からだけど来てもらえると助かる』
三つのメッセージを。
帰宅したので投降です
多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?
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やってみろ
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