便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第四十二夜 会いに行く理由

 

 

 

「クックック……エミヤさん、これからゲヘナへ訪問ですか」

 早朝の便利屋事務所前、出待ちをしていた黒服に捕まったエミヤは「なんでいるんだ……」と思いながらもそうだと答え、何か用か?と相手の出方を窺った。

「いえ、私の用事など些末な事、次に機会がございましたら是非」

「結局何の用なんだ?」

「どうしても口を割らせたい様ですね、いいでしょう――私が何故、足を運んだか、それは昨日の訪問にも繋がります」

 いやに溜める黒服に睨みを利かせ、言葉を待つ。

「こう見えて私、機械や兵器を作成する事には長けているのですよ」

「ほう、随分ときな臭さが増す話だな」

「クックック……そこで、エミヤさんにお願いがございまして」

「悪いが兵器などを購入して欲しいという頼みであれば断るぞ」

 その返しに黒服はまたもや笑いを漏らし、いや、何処か自嘲気味に笑いを漏らし、次の言葉をエミヤに向けた。

「電話、このスマートフォンにおける遠方と電波を用いた音波を声として相手方に出力する人類の叡智」

 

 

「その使い方を教えて頂きたい」

 

 

「嘘だろ」

「クックック……私も冗談が言えれば良かったのですが、家庭用の電話ならば使い方も分かるのですがね」

 エミヤはふと、ナギサに通話を掛けた際に何故か彼女が電話に出るのに時間が掛かり、出てくれた際に背後でミカが大爆笑しながら「ナギちゃん……!電話を持って横に歩いて……ッ!スライドって、自分がスライドするんじゃなくてッ……!あははっ!あーはっはっはっは!」と苦しそうにしていたのを思い出した。電話口から「甘き円筒の沈黙(ロールケーキマグナム)!」と聞こえて来てミカは黙らされていた。

 

「では何故、私が直接出向いたとお考えで?」

 あまりにも堂々と言ってのける黒服に掛ける言葉は無く。

 ただ一つ悲しい誤解があるとすれば、

「あのな、今はモモトークが主流だ」

「……時代とは、何故こうも残酷に置き去りになる者を作り出すのか」

 

 なんとなく黒服に同情しながら、モモトークのアプリのインストール方法を教え、フレンド登録を済ませてエミヤはゲヘナへ向かった。

 

 

 

「ん、えっと、本当に大丈夫?」

「何も問題は無い」

『ひぇぇ』

 場所は移りアビドス学園自治区、あまりの広さと突然襲った磁気嵐の影響で方位が分からなくなった葛木は、住宅街の電柱に登りその上から目的地であるアビドス高等学校を探していたのだが、そこに通り掛かった砂狼シロコという少女に「案内する」と言われ自転車に並走していた。

 

「でも、走りにくいと思う」

「砂地を走る方法など幾らでもある」

「大人の男性って、凄い」

『あぁ、変な誤解が広まってる』

 暗殺術において歩法は基礎中の基礎、古くは中国、宗教が盛んな時代のヨーロッパ、日本の忍も忘れてはいけない、そしてどの時代にも気取られぬ方法と速く走る方法が語り継がれている。

 

「それで、砂狼はアビドスの二年生で良いのか?」

「ん、二年生、同じ二年生が一人と、一年生が二人、三年生が一人の全部で五人」

「少数精鋭という訳か」

「ふふ、そう。少数精鋭」

 淡白な会話に聞こえるかもしれないが、シロコの機嫌は良くなっており、二人の間で独特な空気が流れている事が見て取れる。

 

「昔はもっと居たって、でも数十年前から砂嵐の頻度が上がってオアシスが無くなって、こうなったって」

「……そうか」

 相槌を打ちながらも葛木は思案していた。

「(おかしい、今のではまるで砂嵐に対する恐れで人口が減った様に聞こえる――加えて、オアシスが無くなる事が影響している?)」

 葛木の予想していたアビドスの衰退、それは人口の増大と砂漠化の進行による物だった。

 いや、砂漠化の進行は間違いなく予想した通りだろう。

 

「(だが……砂嵐でオアシスが無くなった?水源を砂粒が呑み込んだという事か?この平地で雪解け水で出来るオアシスがあるとは思えん、だとすれば地下の層から来る湧き水だろう――それを、砂嵐が失わせたというのか?)」

 だとすれば、それは常識で考えられない範疇の出来事。

 この世界において『神秘』と呼ばれる類の超常が『自然現象』に働きかけたと考えるべきだろう。

 

 そうなればアヌビスやセトといった神性が……とすっかり考察思考が染み付いた葛木は頭を振り、思考の中で衛宮との会話を思い出す。

 

 

 

『恐らくだが、このキヴォトスという土地の生徒達は我々の世界で言う神話や伝承、古くは記された物語に近い神秘を宿している……ゲヘナといえば古代イスラエル、トリニティといえば三位一体、アビドスといえばオシリスの復活、お前が真に生徒達を導きたいと願うのならば多少は神話も勉強しておけ』

「……衛宮よ、それは我々の元の世界の神話をという意味か?」

『あっ……あー、そうか、仕方ない、毎晩寝る前の一時間電話で軽く講義するから時間を空けておけ』

「畏まった。それと、イアソンやアルゴー号の話であれば既に熟知しているから大丈夫だ」

『愛』

「うるさい」

 

 それからエジプト神話も学んだが、葛木がエミヤから注意された一番最初の事は――厄介、という事だった。

『いいか、もしもアビドスの生徒達がエジプト神話に類する神秘を持つ、ないしは宿しているのだとしたら、単一の神性を宿していると考えるのは早計だ』

 正直、葛木はこの時点で「厄介な……」と口に出していた。

『エジプト神話において人間の身体には霊魂(バー)生命力(カー)が宿るとされていた』

 要は車のエンジンとガソリンの様な物かと強引に理解。

『それでだな、よく言われることがファラオはホルスの(バーウ)を持つ霊魂(バー)である』

 理解不能。

『神は己の力を人間に与える事で己の仕事を手伝わせたり加護を与えていたんだ』

 理解。

『この時にキヴォトスにおいて面倒なのが他の生徒達は元から神秘を宿している。エジプトの信仰に落とし込めば、元より霊魂(バー)又は生命力(カー)に神秘を宿しているんだろうな、そうなれば、アビドスの生徒も元々の神秘を宿していると考えられる。更にその上でアビドスの生徒は何某かの(バーウ)を宿している可能性もあるという事だ』

 葛木は神話が嫌いになりそうだ。

『更に更に、エジプト神話における本当の死とは二度目の死を意味する……が、まぁ一度目の講義はこの位で良いだろう。さぁ、次にエジプト神話における神性を教えるぞ』

 勘弁してほしかった。

 

 

 

「これまで頑張って来たのだな」

 結果、葛木がシロコに返せたのはそんなありきたりな言葉だった。

「ん」

 それで彼女には、充分だったのかもしれない。

 

 

 

「……訳が分からない!」

 行政官執務室において、アコは一枚の紙をくしゃくしゃに丸めて壁に向かって何度も投げていた。

「『あらゆる学園の自治権を超越し問題を解決する組織』って……コレ明らかにヤバい組織ですよ!?自治権の超越という事は問題への対応に関してシャーレの介入を学園側は拒むことが出来ないという事になります……もしもその問題が機密に該当する物だった場合、シャーレは機密を知る者でさえ学園側の意向を無視して捕える事が出来るという事に他なりません」

 

 悩みの原因、それは連邦生徒会から発表されたS.C.H.A.L.Eの活動と赴任する『葛木』という先生だ。

 そして発表された超法規的組織という意味不明なワード。

「自治権を超越するという事は定められた規制を破っても良い……どころか、問題解決の為なら誰かを殺しても、誰かを攫っても、誰かをペットにしても、誰かに犬のリードを付けて夜間に散歩させても罪に問われないなんて……とんでもない組織です!」

 

 その危険性は考え得るだけでも莫大な物だ。人間の善性を疑っている訳では無い、だが、善であり続ける事が出来る人間など居ないとも思っている。

 人が人である以上、欲求からは逃れられない。

 もしも何かの事情でシャーレが暴走し始めたら、その時に誰が責任を取るのだろう。

 

 アコはソレを考えるだけで怖くて仕方が無かった。

 仲間達に危害が及び、ソレが社会的に罪に問われず誰からも叱責されることが無いシャーレという存在が。

 

 当然と言えば当然、自分達の社会にいきなり『問題解決という正義の為ならば何をしても罪に問われない存在』が出現した時、警戒せずに居られるのは余程のお人好しか現実を見据えない馬鹿だ。

 それでもアコ以外の者が騒ぎ立てようとしていないのは『様子見』のスタンスを取っているから。

 

 未知の、あるいは無知の恐怖に対しての向き合い方として『知ろうとする』『見守る』『受け入れる』『排斥する』『警戒する』と複数の選択肢がある中で、アコが選んだのが『警戒する』だっただけ、『排斥する』では無いだけずっとマシといえるだろう。

 

「とはいえ……『葛木』という先生がどの様な人なのか、それが全てを左右しますね」

 爪を噛みながらWeb上に存在するデータを確認するけれど、シャーレの先生が赴任してからおよそ一週間、まるで活動の記録が存在せずちらほらとモモトークで相談を持ち掛けた生徒が居る程度。

「これは、やはり自分で動かなければ……?」

 

 

 

 コレがアコがおかしくなったとイオリがエミヤに相談した内容。

 

「そういう訳でアコちゃんと話をして落ち着くように相談してあげてくれない?」

 風紀委員の建物までやって来たエミヤを出迎えたイオリは事の次第を説明しながら片目でエミヤを見ていた。

「その、私もそうしたいのだが、彼女達はどうしたのだ?」

 そのエミヤの周りには隊員達が集まって「アタマナデテ」と列を作っていた。

 

「あー……なんでも兄ちゃんが色んな場所で活躍して、誇らしい反面で教官して貰っている時に甘えたかった子達が暴走してるみたいで」

 頭を撫でてハグをして、たまに頬っぺたにキスされてとエミヤは取り合えず列の皆に満足してもらい、その後でアコが仕事をしている行政官執務室に向かおうと思ったのだが、

「……私も」

 腰にイオリの尻尾が巻き付いており、グイグイと引っ張られて建物の陰まで連れてこられた。

 エミヤからすればイオリが自身にとても懐いてくれているのは知っているので、何もこんな所に連れてこなくとも頭を撫でたりすることは全然問題無かったのだが、本人が恥ずかしいらしい。

 

「兄ちゃん……♡」

 ハグをしながらエミヤの首元に何度も口付けて、尻尾でエミヤの太腿を擦り上げる。

「寂しかったぁ」

 イオリとは連絡こそ重ねていたが実際に会う事は頻繁には出来ていなかったので、その反動が来てしまったのだろうとエミヤは甘やかす事にした。

 

「ふんふんふーん、かっくれんぼー♪かっくれん……あ!お兄ちゃん!」

 そこにイブキがやってきて、

「私もお兄ちゃんにチューするー!」

「キッキッキ……!どうしたイブキそんな物陰、に……」

 イブキがエミヤに跳び付いて受け止めた所でマコトが来て、

「うわああああエミヤが湧いたああああああ!?」

 何やら虫の様な扱いを受け、

「エミヤさんが来てるんですの!?」

 いきなり壁をぶち抜いて現れた銀髪の美少女がマコトを壁の下敷きにして、

「なんでハルナがエミヤさんにそんな反応してるのよ!?ってなんでキスしようとしてるのイブキ!?」

 そのハルナに担がれたフウカが縛られていた縄を力で引きちぎりイブキを回収しようとして、

「おぉー?なんだなんだ盛り上がっているみたいだがウチの部員……え、エミヤだああぁぁああ!?」

 騒ぎを聞きつけたカスミがエミヤを見て混乱に陥り、

「……うわぁ」

 その様子をイブキを追って来ていたイロハが見て、ドン引きしていた。

 

 結局その日はアコの所に向かう事は出来ず。

 部室棟の便利屋仮設事務所に泊まる事になった。

 

 




黒服って原作でも毎度会いに来てくれるよね……アイツ電話の使い方知らねぇんじゃねぇかな……。

尚下記、それぞれの認識

エミヤ→黒服
なんか黒い奴、神性持ってるけど欠片というか果てに削れた物というか、だが芯はあるし『悪』では無さそう。スマホの使い方分からないし多分爺さんより爺さん

黒服→エミヤ
興味深い観察対象ですね、役割を担う事も出来るのに己のままで居る不思議な御仁、倫理に反する事は嫌いそうなのでいつか敵対するかもしれないけれど、『崇高』に近しい存在なので敵対したく無い

黒服→葛木
要観察対象、キヴォトスを理解しようと頑張っている様子からも、彼とならば互いに高め合う関係が築けるのではと思う反面、よりによってアビドスに行ってしまい最悪のファーストコンタクトを迎えるかもしれないと思い事前にエミヤと接触しておいた

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
  • エロ書け
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