便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第五夜 なんでもない、そんな日常

 

 

「エミヤ、ちょっと」

「あぁ、付き合おう」

 ある時は射撃の訓練に、

 

「エミヤン!これ!」

「分かった分かった、えぇい登るな!」

 ある時は爆発物の実験に、

 

「エミヤさん、あの」

「あぁ、先日の筋肉痛はもういいのか?よし、やるとするか」

 ある時は護身術を教え、

 

「エミヤさん、聞いた?」

「……そうだな、あまり触れてこなかったジャンルだが思いのほかリピートしたな」

 ある時は共有された趣味の感想と新たな布教を受けながら、

 

 エミヤは段々と便利屋68の中で受け入れられたという段階から、仲間と呼べるステップに進みつつあった。

 中でもムツキは顕著で、事務所内にエミヤが居れば基本的に接触している程に懐いていた。

 そんなムツキが面白くなさそうな表情を浮かべるタイミングがある。

 それは……、

 

「カヨコ」

「ん、分かった」

 

 用件など伝えていないのに、カヨコとエミヤが二人揃って事務所から出て行く。

 実際の所、二人は夕方の安売りの時間に合わせて食材の買い出しに行っただけなのだが行われたやり取りは正に阿吽の呼吸。

 全てを言わずとも通じ合っている様な、何処か深い関係にムツキは自分でも不思議な感情を抱いていた。

 

「ねぇーアルちゃーん!なーんかエミヤンとカヨコちゃんって、その……」

 続きを口に出そうとして、これまた不思議と悔しくなって濁してしまう。

「そうねぇ、なーんだか大人~な関係よね」

「そ、そうなんですか!?エミヤさんとカヨコさんが……!?」

 アルも何処かつまらなそうに、ハルカは何故か顔を赤らめて反応を返す。

 

「エミヤを召喚したのは私なのに、なんだかカヨコとの方が信頼関係が結ばれている気がするのよねぇ」

 別にエミヤが誰の物って訳じゃ無いけど……と口を尖らせながら頬杖を突く。

「信頼関係……でしたら、えっと、ダメ?なんですか?」

 いまいち話を理解できていないハルカは置いておくとして、つまりは恋愛関係とかそういった類の話では無く。なんだか一人だけエミヤと仲が深いのって、なんか、なんかじゃない!?というのがアルの思考。

「そうだよね!二人で過ごす約束だってしたのに、エミヤンって本当に馬鹿!」

 一方で、自分でも理解できていないけれど私とももっと仲良くなってよ!時間作ってよ!一緒に居てよ!というのがムツキの思考。

 

「で、でも買い物に行っているだけですよね?」

「まぁ」「そうだけど」

 ハルカの問いに対する答えはYESなのだが、二人からしてみれば不思議な危惧を感じていた。

 

 片や、

『君の夢を叶えに行くだけだ!』

 などと歯の浮く台詞を投げかけられ、その夢を見事に叶えられ、

 

片や、

『無事で良かった』

 窮地を助けられて朗らかに笑い掛けられ、二人で朝日を見る約束までした。

 

 決して恋愛感情では無く。

 ただ思うのは『もっと彼を知りたい』という興味本位。

 もっとも、その興味本位が何に置き換わるのかは将来次第だ。

 

 それはハルカも例外では無く。

 空いた時間に護身術を教えてくれて、自身の存在理由のアルを守る術を授けてくれるエミヤは感謝の尽きない相手であり、どうすれば恩返しができるだろう?何か好きな物はあるのかな?位には意識していた。

 

 アルもムツキも口には出さないまでも、

「(早く帰ってこないかなぁ(かしら))」

 思いは同じものだった。

 

 そんな風に美少女たちから意識を向けられるエミヤは今、

「今日はどうする?」

「んー、魚」

 夕飯の献立をカヨコと相談していた。

 

「カレイはどうだ?」

「鯖かな」

 鯖か……と空を見上げる。

 歩くペースはカヨコがベース。

 二人の距離は近すぎず遠すぎず。

 

 曲がり角を過ぎても気が付けばエミヤは必ず車道側を歩いていて、カヨコも意識せずにソレを受け入れていた。

「大根おろしはマストだな」

「だね」

 キヴォトスの鯖は脂の乗りが良いのもあって、正直エミヤは年齢もあって中々に来るものがあったが、年頃の少女である便利屋68の面々を思えば美味しい物を食べさせてあげたいという気持ちが強かった。

 

「あっ!テメーらこの前のぶぇっ!?」

 さすがはゲヘナの地方というべきか、歩いていればそこらから因縁をつける生徒が湧いてくるものの、

「煮物はどうだ?今夜作って明日の朝も食べれるが」

「あっ!おいおいエミヤさんよぉ?なんだよデート中かぎょっ!?」

「そうだね、明日は依頼入ってるし朝の支度は手早く済ませたいし、良いかも」

 エミヤは手頃な石を弾くことで、カヨコはハンドガンを抜き放つことで、互いに騒音を意識せずに歩きながら処理してスーパーへと向かう。

 

「そういえば前に聞かせてもらったバンド、古い物だったがリサイクルショップでレコードが売られていたぞ」

 交わす会話はなんてことのない日常的な物。

「え、本当?今度案内してよ、他にもあるかも」

 だが、その間に行われる撃退の様子は正に阿吽の呼吸。

 互いが同じ敵を狙う事は無く。

 互いの死角を互いでカバーし合いながら、一切の危なげなく歩を止めない。

 

 二人の背後に視線を移せば死屍累々、物言わぬ出刃亀軍団の末路。

 別段、深く考えに浸っている訳でも無く。

 ただ互いに意識を向け合っているだけ、だからこそ会話は成立し、ソレを邪魔する輩を排除する。

 

 エミヤにとってソレは、日常の一幕になりつつあった。

 

 一方で、カヨコは内心、これまた不思議な心境をしていた。

 最初こそ警戒をしていたけれど、エミヤと話す中で警戒する方が馬鹿を見ると早い段階で気が付き、それなら仲良くしようとシフトチェンジしたのだが、

「エミヤさんって料理上手いよね、仕事だったの?」

「いや……どちらかといえば日常だったというか、必要に駆られていたというのが妥当な答えか?」

「ふっ、なんで疑問形なのさ」

「答えが上手く見つからなくてな、趣味と呼ぶには義務感もあったし……」

 仲良くしてみればなんと過ごしやすい隣か、カヨコにとってエミヤは親しい友人となりつつあった。

 

「そういうカヨコも料理が上手いと思うが」

「私のはそれこそ義務感だよ、社長もムツキも料理が出来ないって訳じゃ無いけど……その」

 それこそ二人の関係性は、

「ほう、お姉さんとして……か?」

「そ、そこまでは言わないけど、年上風とか吹かせたくないし」

 揶揄う事があっても許し合える。

「良いと思うがな、実際年上だろう?なんなら教えてやればいい」

「あー……教えるのは、その、レストランでドリンクバーを頼んだ時の二人を想像してみて貰えれば」

「……成程、堅実かと思ったら冒険し始めるタイプと、最初から冒険して人を冒険に巻き込むタイプだな」

 互いのイメージを共有できる。

 

「ハルカは教え甲斐はあるんだけど、間違える事を怖がっちゃって」

「あぁ、時間が掛かりそうだし遠慮してしまうのか」

「そういうこと」

 互いの日常の中に、自然と互いが入り込める。

 

 そんな関係性。

 そんな、特別じゃないけれど特別な関係性。

 

 スーパーに辿り着けば扉はエミヤが率先して開け、カートを押すのもエミヤだ。

 コレはどうする?アレはどうする?

 そうした会話を繰り広げながらお菓子コーナーでムツキの好きなお菓子を購入して、飲料品のコーナーでアルが好きな茶葉を購入、外に用意された家庭菜園のコーナーで肥料を購入して、皆には内緒でと二人で好きなアイスを選んでレジへと向かう。

 

 帰り道、スーパーの袋から取り出したアイスを食べる。

 肘やら頬に二つ目の口が付いている訳では無いので自然と無言の時間が生まれる。

「ん」「んん」

 口にアイスを含みながら、片方が遠くへ視線を向けたまま「ほら」とばかりに顎でしゃくる。

 大きな夕焼けが二人を包み込まんばかりに揺らめいていた。

「カヨコ、ほら」

「ん、あーん」

 何気なくエミヤが差し出したアイスを、それこそ何気なくカヨコは口に含み、

「お返し」

「頂こう」

 エミヤもまた。カヨコが差し出したアイスを口に含む。

 

「……昆布味?」

「正解、大ハズレ」

 カヨコの購入したアイスの味を当てて見せたり、

「綺麗だな」

「ん」

 いきなり夕焼けに視線を移して感想を言ったり、

「さ、帰ろう」

「そうしましょ」

 そんな会話をしながら、帰路に就くのだ。

 

 きっとそれは、明日も、明後日も。

 

 エミヤにとって、そうしてゆったりと過ごせる相手はとても大切で、自分が過ごしている今の時間が日常なのだと実感できることが嬉しかった。

「カヨコ」

「ん?なに?」

 だから、ソレを言葉にしようかと考えたが、

 

「……いや」

 不思議と、言葉にはしなかった。

「なんでもないよ」

 

 言葉にしなかった訳は分からないが、

「エミヤさん」

「む?なにかな?」

 分からないけれど、

 

「私も、なんでもないよ」

 口元に笑みを浮かべて、夕風に髪を煽られたのを抑えながらカヨコは言った。

 

 なんでもない と、そう言った。

 

「そうか」

 そう、なんでもない日常。

 毎日繰り返されて当然の、なんでもない日常だ。

 

「どういたしまして」

 だからこそ、たまには揶揄っても良いだろう。

「……あのさぁ」

 そうすることで少し頬を赤らめるカヨコが見れるのなら、尚の事。

 

「帰るんでしょ?」

「あぁ、帰ろう」

 

 言葉にせずとも、態度に出さずとも伝わる感謝というのは、くすぐったくも良い物だ。

 

 





 おまけ もしも深層心理までカヨコの心の声が聞こえていたら

 いやぁこの人絶対にモテるよなぁ、なんで色々とさりげなく出来るんだろう?まーた曲がり角を過ぎた所で自然と車道側を歩くし、そういう所で女性として扱われると勘違いしそうになるから本当に辞めて欲しいんだけど、背後から気配がするけど……そうだよね貴方なら当然の様に対処してくれるよね、おかしくない?なんなのこの安心感、エミヤさんってまだ便利屋に加入してから一か月も経ってない筈なのにどれだけ私の事を理解してる訳?というよりも、それだけ理解しているって事は私の事をそれだけ見ていないと無理なわけだから、そう考えるとここ一か月で変な事をしていないか無性に恥ずかしくなってきたけどって、嘘、私が前に教えたバンドのレコードなんて見つけたの?覚えててくれただけでも嬉しいのに、ましてやレコードなんてレコードコーナーを探さないと見つけられないじゃん、エミヤさんは私物でレコードプレーヤーを持っている訳でもないのに、そこを探す理由なんて私の為以外に無いじゃん、この人どれだけイケメンムーブするつもりなんだろう?いやいや料理に関しては貴方の方が上手いでしょ?ちょっと揶揄うの辞めてよ、なんか恥ずかしくなっちゃうじゃん、会話の端々で私が伝えたい事を察してくるの普通に嬉しいからやめてくれないかな?あー、またスーパー入る時にレディファースト、カートも自然とエミヤさんが転がすんだ。いやいや便利屋の皆の事を考えて商品も購入するの?仲間の事をここまで思ってくれているの笑みが零れちゃうからやめてよ、あー、ちょっと私が選んだアイスの別の味をわざわざ選ぶのは後で食べ比べをしようって誘ってきてるのと同じじゃん?待って待ってレジを通った後に袋に詰めてくれるのありがたいけど、その配分だとエミヤさんの持つ荷物の方が大分重たくなるけどいいの?全く顔に出してないけど当然みたいに男前な事するのは心臓に悪いからやめてよ、わー、すっごい夕焼けキレイ、あ、やっぱりアイスの食べさせ合いはするんだ。この人なーんにも意識してないんだろうな……いや唐突に綺麗とか口に出すの怖いって、ソレ私以外の子にやったら絶対に勘違いされるよ、本当に危ないなぁこの人、笑顔で帰ろうって……一緒に暮らしてるから当然だけど、なんか、新婚みたいじゃん。

 本編でもここまで考えていたかは別の話ということで。

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

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