便利屋エミヤ   作:晴れときどき曇り

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第四十三夜 お邪魔します

 

葛木はアビドス高等学校の自治区に点在するホテルの一つに泊まり、その日の出来事を振り返っていた。

 

 シロコの案内で辿り着いたアビドス高等学校、そこで出会った五人の生徒。

 

「先生は指揮をして下さるのかと思ってましたが……」

 オペレーターを務める奥空アヤネ、

「流石はあなた様……現場指揮なので私達も疑い無く動きやすかったですわ」

 戦闘が始まるや参戦してきた狐坂ワカモ、

「だからって危なくな~い?おじさんひやひやしたよ~」

 部屋の奥で寝たフリをしていた小鳥遊ホシノ、

「本当よ!まぁ、陽動とかは凄く助かったし、必要な場面で必要な行動をしていたっていうのは分かるけど……」

 戦闘の際に一番葛木の安否を気に掛けていた黒見セリカ、

「とはいえ、本当に頼りになる方なのだと分かりましたね」

 そして、値踏みする様な視線を常に送ってきていた十六夜ノノミ。

 

 カタカタヘルメット団なる矮小な組織の攻撃を迎え撃った彼女達の戦闘技能は、兵士としては三流だが個々の戦闘能力は一級品だった。

 中でも小鳥遊ホシノ、彼女だけは異常な程の眼の良さとタイミングを計る……いや、タイミングを穿つセンスがずば抜けていた。

 

 しかし、戦いに対して恐れがあると感じた。

 戦いそのものというよりも、戦いの最中にまるで仲間を恐れている様に注意を配っていた。

「(まぁ、黒見の戦い方は少し不安を覚えたのは確かだな)」

 敵の銃弾がセリカの足元で跳ねた時、彼女は突如として「こなくそー!」と叫んで素早くリロードを済ませると銃を連射、驚く程の早業で敵を打ち倒していたが、その間カバーを忘れたかのように身を晒し続けており不安を覚えた。

 

 支援物資は渡す事が出来たが、このまま彼女達を放置する事は『先生』としては駄目だと感じた。

 彼女達が抱える問題を把握する――それだけでも出来なければシャーレに戻る事は出来ない。

「衛宮には悪いが、少し講義は休みの期間を設けさせてもらおう」

 最近覚えたモモトークを操作し、葛木はエミヤにアビドスにおける一連の出来事、そして謝罪文を送った。

 

 

 

 その張本人、エミヤは立て籠もっていた。

「なーんーでー!一緒に入るのー!」

「駄目だと言ったら駄目だ!おいマコト!お前も止めんか!」

「うるさいっ!イブキが一緒にお風呂に入りたいというのだから仕方ないだろうが!諦めて裸体を晒せ!」

 風呂に。

 

 ゲヘナ学園自治区内にエミヤ専用で設置された銭湯が存在するのは鬼怒川カスミの誠意であり、エミヤは一度カスミを弁舌で負かして、尚且つその上で横暴に工事を進めようとしたカスミを武力でも負かした事で恐れの対象として見られているのだが、反面、弁舌で負けた事に対してカスミは自分と真正面から舌で戦ったエミヤを尊敬もしている。

 空埼ヒナを前にしたカスミが問答無用の暴力に怯える幼女だとすれば、エミヤを前にしたカスミはどうやっても避ける事が出来ないトラックを前にした猫だ。

 即座に怯えるか理解してから怯えるかの違いではあるが、怯える理由が無ければ怯えなくて済むエミヤは理不尽では無い分カスミとしても有難い相手だ。

 

 その銭湯は決して大きく作られている訳では無く。

 洗い場と浴槽が成人男性四名程が入っても問題無い、普通の銭湯からすれば小さくも一人で利用する分には大きい程度のサイズで部室棟の脇に造られた。

 そして体を洗い終わりいざ入浴しようとしたエミヤだったが、勢いよく開け放たれた入口の扉にタオルを巻いたイブキとマコトが居た為、現在に至る。

 

「チィッ……こうなれば立て籠もり事件だな!よぉし!」

 何を考えたのかマコトは携帯を取り出すと電話を掛け始め、

「おい風紀委員長、ヒナ!風呂場で立て籠もり事件だ!貴様も知るエミヤが男性用の浴室に立て籠もりおった!一緒に風呂に入りたいから手を……なっ!?貴様言うに事欠いて変態だと!?貴様も一緒に入りたくは無いのか!?エミヤの裸……す、既に……だと!?このマコト様が出遅れたというのか!?あっ、貴様鼻で笑って……切られた」

「マコト、お前……色々と凄いな」

 扉一枚隔てた先に男性と一緒にお風呂に入りたい事を治安部隊に報告する変態が居る恐怖にエミヤは震え、

「マコト先輩……お兄ちゃん私とお風呂入ってくれないの……?」

 同時に罪悪感を刺激するイブキの涙声に胸に苦しさを覚えた。

 

「くっ……イブキ、すまん……私に力が無いから、男湯の扉を開ける力があれば……!」

「落ち着けマコト、せめて願いを叶えてやる力にしろ」

「だが待っていろイブキ!実はここに来る前に助っ人を呼んでおいたのだ!」

「ほんとぉ!?」

 会話の中でバーン!と勢いよくスライドドアが開く音がして、何者かが向こう側に一名追加されたらしい。

 

「待たせたわねマコトちゃん!私が来たからにはもう安心よ!」

「来たかサツキ!さぁ!やってやれ!」

 どうやらサツキと呼ばれる人物が加勢しに来たらしいが、扉に力が加わる訳でも無く未だにイブキの非力な力しか感じない。

「私の科学の前にエミヤさん、貴方は屈する事になるわ!」

 科学と聞こえ、これはまずいかもしれないと冷や汗を掻く。

 何が来るのかと身構えていると、扉の向こうから何やら声が聞こえて来た。

「よぉーく見つめなさい」

 何をだ……?

「貴方は段々扉が開けたくな~る。貴方は扉を開けたくて仕方なくな~る」

 ……何をされているのだ?

 

 心の底から困惑するエミヤを置いて、サツキは何かに気が付いたのか声を上げた。

「マコトちゃん!これエミヤさんから見えないから効かないわ!」

「……なにぃっ!?」

「ぷっ」

 思わず笑ってしまったエミヤ、その吹き出した声が聞こえたのか扉に掛かる力が先程までの何倍もの物に変わった。

「ふぎぎぎぎぎぎ!扉がぁ!開けたくぅ!なぁぁぁる!」

「こっっっの赤ふんどし履いていそうな男性ランキングNo.1が舐め腐りおってぇ!」

「反応に困るランキングのトップに私を置くなぁ!」

 女性といえど神秘を持つ相手三人との力比べは中々に部が悪く。

 このままでは時間の問題だと考えたエミヤは「待てよ……?」と思い付く。

 

 別にイブキだけなら良いんじゃないか?

 変なの(マコトとサツキ)さえ居なければ普通に一緒にお風呂に入るだけだし、変な事もしてこないだろう。

「マコト、よく聞け……!」

「なんだぁ!?」

「イブキだけなら風呂場に入れてやらん事も無いぞ……!」

「イブキを手籠めにしたいだとぉ……!?貴様ァ!!!」

「おいサツキといったか今の会話どう思う!」

「ふぎぎぎぎぎぎ!私もイブキちゃんを抱き締めたぁぁああい!」

「駄目だアホしかおらん」

 どうした物かと考えた時、エミヤが思い浮かんだのは自分が居なくとも開かない様にすれば良いという結論。

 つまり、何かで扉が開かない様にすれば良い。

 

「そうか――!投影(トレース)開始(オン)!」

 

 

 

 エミヤは浴槽に浸かりながら、今も尚扉を開けようとしている三人に申し訳ないなぁと思いながらも視線を送る。ガタガタと揺れる扉と、それを支える呪いの朱槍。

「アイツもたまには役に立つなぁ」

 こんな事の為に投影していると知れば間違いなくブチ切れるが、今はこの上なく役に立っている。

 そう、役に立っていると感じているのだから、ブチ切れることは無いかもしれない。

 よくよく見れば朱槍の方も震えている様に見えるが、きっと気のせいだろう。

「あの槍、あんな使い方して大丈夫なんですか?」

「まぁ、人の役に立って文句を言う男では無いから、大丈夫だ」

「そうですか……ふぅ」

 多分何処かで会っても「そりゃ剛毅なこった!」とカラッと笑い飛ばしてくれるだろう。

 

「……ん?」

「どうしました?」

 自然と会話をしていたが、何故か気が付けば隣にフウカが居た。

 エミヤと同じく湯船に肩まで浸かり、しっかりと温泉を楽しんでいる。

 チラと室内を見渡すと、天井付近の窓が一カ所開いており、その真下に普段フウカが着ている衣服が脱ぎ捨てられていた事からも、そこから入って来たのだろうと推理。

「いや……ん?待てよ?」

 湯船から勢いよく立ち上がったエミヤは、素肌のフウカの腰に手を差し込むとそのまま持ち上げて洗い場へと運んだ。

「にゃ!?なっ!?な、え!?エミヤさん!?な、何!?あの!?エミヤさんせめてタオルを!」

 ここまでの奇行がまるで無かったかのような生娘が如き反応を見せるフウカだが、エミヤは気付いてしまったのだ。

「フウカ……!体を洗わずに浴槽に浸かるのは、罪だ!」

 そのまま座らされ、フウカが頭にのせていたタオルを手渡して浴槽に戻るエミヤ。

 フウカは突然何をされるのか分からずに感じたドキドキと、裸の状態で思いっきり見られてしまった事、相手のも見た事で顔が熱くて仕方が無かった。

 

「え、エミヤさん、せめてタオルを……」

 エミヤのタオルは未だに頭の上にある。

「「「どりゃああああああ!」」」

 そこへ、みんなでスライドさせるのではなくタックルを選択した万魔殿トリオが扉を破って入って来た。

 洗い場のタイルに倒れ込み、痛みに苦悶の声を上げながらも三人は顔を上げ、扉を閉めておくことすら出来なかった棒切れがカランと音を立てて倒れ、

「お兄ちゃん筋肉すごーーーい!」「なんっ……あ、あれは……病気か!?」「うわでっか」

 

「ははっ」

 

 お風呂のマナーに対して取った自分の衝動的な行動が招いた今の現状に、エミヤは乾いた笑いしか漏れなかった。

 

 

 

「エミヤさんやーい、湯加減はどうだね?私が計算した通りならそりゃあもう大満足の筈」

 そこへ、お湯は濁っているし今頃は浸かっているだろうから楽しんでくれているだろうと『褒められるかもしれないな!』の期待からスキップでカスミがやって来て、

「ぴゃあああああああああ!?」

 エミヤのエミヤを見て泣き崩れ、その場で動かなくなってしまった。

 

「……はは」

 

 もうどうにでもなれといった気分で、エミヤはゆっくりと哀愁漂う背中を魅せながら湯船に沈むのだった。

 

 

多分大筋合ってると思うんだけどミレニアムの第3章書いてもいい?

  • いいよ
  • だめだよ
  • やってみろ
  • エロ書け
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